山で女の子に出会ったのだが、めっちゃ警戒されてる!?

のんびりお兄さん

山で女の子に出会った

微かに丸みをおびた地平線が望める高台で、地平線から太陽が覗きはじめた時間に1人叫ぶ。


「彼女が欲しいーーーーーーー!!!」


叫んだからといって、彼女が降ってくる訳ではないが、何かしら大声で叫ぶと気持ちがとても良く、

気がつけば、毎朝、高台に登り、叫ぶようになっていた。


この高台から少し離れている村まで僕の声が届いているようで村人に


「今日もお前のおかげで水汲みに遅れないですんだわ」

「アキ、毎朝、誰に向かって叫んでいるの?」

「ニワトリ要らずだな」


と、たくさん言われるようになった。

そのおかげか、僕を知らない村人はいない。


———


高台から家に戻ったら、まずは川に水汲みにいく。


自分用さえあればいいので、少し小さめのバケツを手にとり、昨日のうちから準備しておいた乾いた木とあと釣竿も一緒に持って、500メートルほど離れた山の入り口に向かう。


山の入り口には木があまりなく、腰の高さぐらいまでの草があたり一面を覆っているが、川に水汲みに村人がよくここを通るので、道幅が広い獣道が出来ている。


「今日は時間があるし、上流に行ってみようかな」


広い獣道は川の下流に続いているので、今日は川の上流にまで続く、膝の高さほどの岩が散在している場所まで、草をかき分けながら進む。


岩場の近くまでくると、思っていたより、傾斜があったようで、自然と目線が上がる。


『なかなか‥‥きつそうだ。』


「よし、行くか」と自分に気合を入れ、岩に足が取られないように慎重に登り進める。


山の中腹あたりまで来ると、岩場から土と砂利が混ざった地面となり、麓に比べると木が多くなっていた。草も蔓性のものが多く見られ、それらは木に巻き付き、一種の芸術のように見えた。


そこからまた少し歩くと、自分の身の丈よりも2回りは大きいであろう岩が姿を見せた。

岩の表面にツルが走っているが、とてもじゃないが、つたって登るのは難しそうだ。


「よし、使うか」

岩の向こうにいくために

自分が高く跳ぶイメージをする。

すると、風が軽く吹き始め、足元が緑色に淡く光る。


「ほっ」と軽い掛け声とともに足元の地面が少しめくれ、体に重力が働いていないかのように、高く跳び上がり、3メートル以上ある岩に軽々と跳び乗った。


「良かった、うまく行った!今日も調子がいい」と足取り軽く、山頂を目指し足を進めた。


—————


山頂に近づくにつれ、少しずつ霧が濃くなってきている。

歩く分には問題はないが、走るのは少し不安に感じた。


周りに気をつけながら、ゆっくりと歩いていると、水が流れる音が聞こえ始めた。

『やっと着いたかな』と重たくなった足を進めると、川にたどり着くことができた。


川底がはっきりと見え、流れていないと水がないと錯覚してしまうと思うほど、透き通っていた。


ここまで何も飲まずにきたため、喉が渇いて仕方ない。


「お、冷たい。」


両手を水に入れると、とても冷たく気持ちよかった。『これは絶対に美味しい』と口元に水を運び、一気に飲み干した。


「美味しい!」


と叫び、何度も水を口に運び、飲み干す。


喉の渇きが癒され、膝の高さ程度の岩に腰を下ろし休んでいると、いつの間にやら日も高くなり、霧がだんだんと晴れて来ていた。


完全に霧が晴れ、周りを見渡すと、川の近くは砂利が多く見られ、植物はあまり生えていないが、少し離れると腰の高さほどの草が密集して生えていた。


「本当、綺麗な場所だな」


そこで気が休まったのか、グーと腹がなる。


よし、魚を釣ろう!と竹で出来ている釣り竿を取り出し、村で取ってきたミミズを針につける。


ミミズを刺した針を水深の深いところに投げ入れ、持ち手を岩で挟み、地面に固定する。


『魚が釣れるまでに準備を進めないと』


川の周辺から手の大きさ程度の石を集め、円を描くように2段ほど積み、家から持ってきた木を円の内側に敷き詰め、いつでも魚を焼ける準備を整えた。


準備を終え、釣竿を見ると先が左右に大きくしなっていた。


「お!かかってる!」


急いで、釣竿を持ち、体全体に力を入れて引き上げるがなかなか持ち上がらない。格闘すること5分。やっとのこさ、釣り上げることが出来た。


「よし!大物だ」


大きさが50センチもあり、横幅も分厚い。


『これは食べるのが楽しみだ。』


魚を針から外し、腹を切って内臓を取り除き、木の棒を口から尾に向かって刺し貫いて、石の円の内側に立てる。


持ってきた木に別の木を垂直に立てた後、勢いよく回転させ、摩擦熱をだした。

熱がが冷める前に、敷き詰めた木に熱が移り、火がおきた状態を強くイメージする。


一瞬、赤色に淡くひかり、パチッパチッという音と共に煙がたち、火がついた。


『次から火打ち石を忘れずに持ってこよう。』

木を擦り合わせる作業は空腹の体には堪える作業だった。


——————


少しすると、魚の焼けたいい匂いがしてきた。

表面は少しコゲて、めくれている。その中の身は触るとホロホロと崩れ落ちそうなぐらい、柔らかそうだ。

これは食べ頃かな。と火の近くから焼き魚を取る準備をする。


手の表面に水の膜があるイメージをすると、一瞬、青色の光が淡く発光し、自分の手が歪んだように見えたので、「よし。」と呟き、火を気にせず、魚を刺している棒の部分を掴んだ。


その時、

ガサッガサッ

と突然、後ろの草薮が鳴った。


それと同時に草薮から距離を取る。


少しの時間が経ち

出てきたのは、ボロボロの布を巻いた、眼光が鋭い赤い髪の猫耳が特徴的な小さな女の子だった。


『なんでこんなところに獣人の女の子が?』という疑問が出てきたが、獣人の身体能力は人間と比較できないほど高いため、警戒を解けない。


女の子の動向を探っていると女の子の目線が自分の手の方へ向いていることに気づいた。


「これが欲しいのか?」


と、食べ頃の焼き魚を自分の胸の高さまで上げると、少女の目線も上がる。


返事はしなかったが、目は口ほどにものを言うということか、目線は一切、焼き魚から外れなかった。




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