第3話

 翌日、俺は練習に顔を出した。空は晴天。暑い陽射しが芝生を照らしている。

「もう良いのか。」

「ありがとうございました。もう大丈夫です。」

 監督との挨拶を済ませてチームに合流した。

 練習は思っていた以上に過酷であった。3日も休んだのだ。体力を取り戻すのには一週間はかかる。

 俺は何とか食らい付いていく。走り込みからロンド、シュート練習に入り紅白戦へと移っていった。

「葵はBチームな。」

 監督からそう告げられてビブスを着る。さて、本番だ。俺がピッチに入ると夏の風が吹き抜けた。


 何も変わらない。パススピードは追いきれず当たれば弾き飛ばされる。苦虫を噛みながらも必死に食らいつくが、足は前に出なくなっていく。

 「葵、戻りが遅いぞ!やる気あるのか!」

 チームメイトから怒号が飛ぶ。

 「あああーー!!くそがーー!!」

 俺は叫ぶ。ピッチを闇雲に駆けることしかできない自分がもどかしい。

 パスがきた。プロのプレスはトラップをする間も与えてはくれない。ダイレクトで近くの味方にボールを預ける。

『走れ!』

 ふと、詞の手紙が頭に浮かんだ。俺はただゴールを目指し走り出した。

 ボールは俺の頭上を越えてサイドへと飛んで行く。上がって来ていたサイドバックの前方にボールは落ちた。

 俺はゴールに向かって走る。フェイクも何もない。ただ一直線に走った。俺の走りに合わせてアーリークロスが上げられた。

 勝負は一瞬。敵のディフェンダーは振り切っているがボールに追い付けるかどうかは微妙な距離だ。

 ゴールキーパーが前に出てきていた。俺は足を伸ばす。僅かに足に触れたボールはゴールキーパーの横を抜けてゴールへと吸い込まれていった。


「ナイスシュー!」

「よく走った!」

 チームメイトからもみくちゃにされるも実感がわかない。ただ、『走れ』と書かれた詞の手紙だけが頭に残っていた。

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