第3話 火の邪気

「……というわけなんです。調査してもらえませんか?」

「西田先生の言う通り確かにおかしい。分かりました。調査します」

 昼休みに資料室でそんなやり取りをむくろはしていた。この依頼というのは化学実験室のガスバーナーの様子がおかしい、と化学の西田教員が気付いたことに端を発する。

 西田は授業準備中にガスバーナーを点検していたのだが火が点いたり点かなかったりを全てのガスバーナーが繰り返し、挙げ句には火炎放射のように火が立ち上ることもあったという。無論、専門業者に頼んでの点検も行ったがそれでは何の異常もみられなかった為に骸への依頼となったのだ。


 夜、化学実験室にて骸は黒板にチョークで陣を描いていた。そして何やらブツブツと唱える。

 瞬間、設置された複数のガスバーナーから立ち上る赤い炎。そしてその炎は異形へと姿を変えた。

「お客が来たな」

 骸は眉一つ動かさず手に持つ鎖を異形へと投げつけた。それに絡められ異形は動きを封じられる。

「深淵より来たる漆黒の使徒よ、今ここに力宿らん」

 リストバンドを外し、腕が黒に包まれて、烏の骸が浮かぶ。

「火遊びは看過出来んな。『骸烏・参式』」

 烏の骸があしらわれた黒のベールが火の異形を包み、そのまま手品でもするかのように異形を消してしまった。


「一服しよう」

 帰り道、骸はボックスから煙草を取り出す。が……

「む……オイル切れか」

 不運にもライターのオイルが切れ、火を点けられない。


「……奴に火でももらえばよかったか」


 骸は足早にコンビニへと歩を進めた。

 街灯が明滅する。

 

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