第5話 「あれから」

あの後僕達は彼女と別れた。

彼女が言うには僕らの事を食べたくなる前に離れたい、らしい。

確かに僕は彼女と戦っていない、だからこそ彼女に勝てる確信は無い。

無いからこそ、あやふやな自信に任せて子供達を危険な目に合わせたくは無く、僕も承諾した。

子供達にできるだけ危険な目にあって欲しくはない。

昨日は性欲が抑えれなかったから無理やり連れてきたがアレは例外だ。


「ソノ、ムリしてここにいるとワタシのカラダがもちそうにないデスし」

「そうだね、まだいてもいいんじゃない?」

「ひぇっ」

「むー?」「ぬー?」

「なんでもないよー」

まだ子供達には知らせてはいけないと思うんだ。

「でも、たまにきていいよ?ぼくもたまにしないと、ね?」

「ひゃ、ひゃい!タマに!キマス!」

よし。


そんなやり取りがあり彼女は旅立った。

でも色々問題ができたな。

辺りをうろついてるあの蜘蛛。

あれらをどうにかしなければ子供達を安心して遊ばせてあげれない。


子供達の為に、頑張るか。


「んしょ、んしょ」「んー!んー?」

ぐちゃぐちゃと辺りに音が響き渡る。

その音は子供達が蜘蛛の死体から使える骨や内蔵を探し出している音だ。

キンは骨、銀は丈夫で細い内蔵を探している。

そして僕は残った死体を斬り裂いては彼女が食べそうな肉を切り取っていた。

「ソノ、すみません」

とお腹から音を出している彼女は言う。

あれから色々考えて僕は蜘蛛達を斬るのに脚が使えるなら別の部分も使えるのではと思い試しに斬り裂いては色々と試した。

試していく中で使えそうに無いものは彼女に渡して食べてもらい彼女が空腹にならないようにした。

その対価として1夜体を借りている訳だが。

「ヒョエッ」

「むー、なに?」

「ナ、ナンデモ!」

全く、と考えているとふと彼女、は呼びにくいなぁと思いつく。

「ねえ、なまえ、つけない?」

「ナマエデスか?」

今思えば僕らには名前が無い。

もし僕ら以外の誰かに出会えば不便な事は間違い無いだろう。


「ナマエ、ナマエ、うーん」

「くもさん!」「くもくも」

「くもさんくもくもでいいよ」

「マッテくだサイ!いやホントに!」

子供達が付けてくれた名前だぞ、素直に付ければいいのに。

「アナタはナマエドウスルンですか?」

「ままはままー!」「まー」

「ぼく?もちろんままだよ」

「ダメだこのヒト!」

何がおかしいのか。

「ナラこうしまショウ!お互いナマエをキメル!ワタシがアナタのナマエをキメテ、アナタがわのナマエをキメルンデス!」

「むー、わかった、そこまでいうならそうする」



「キマリマシタカ?せーノ!」

「イヴ!」

「ありしあ」

こえして僕の名前はイヴとなり、彼女の名前はアリシアとなった。

ちなみにお互い名前の理由は単純に思いついたからだ。


名前が決まった後アリシアとは勿論夜やった。

ただ少し予想外の事が起きていた。


「なに?このねばねば」

「フフフ、コレはイトってイウンデス!」

「いと?」

その「糸」というのはかなり丈夫で更にネバネバしている、そんな何かだった。

どうやらアリシアのお尻?のほうからでるらしく最近出るようになったとの事。

「スゴいジョウブナンデス!ツカッテくだサイ!」

「ふーん」


試しに引っ張ったら引きちぎれてアリシアは泣いた。試しに糸で手足を縛ってもらったが力を入れれば普通に引きちぎれたからあんまり使えないと思う。


ただこの糸を密かに回収してあれこれ弄った困った子がいた。

ギンだ。


「ままー」

「わっ!?」

「へへー、木のうえからのおどかしせーこー」

ギンは普段はぼーっとしてるようで実は行動が早く、何時もイタズラとかを考えてるお茶目さんでもある。

蜘蛛達の素材を使用して道具を作っているのもギンだ。

それと、「木」や「枝」、そしてそれ等の細かい言葉に「道具」という言葉は大体がギンが頭に浮かんだ言葉だ。

流石僕の子。

そんなギンはいつの間にか回収していたアリシアの糸を木の枝に巻いてぶら下がったらしい。

案外この糸は少しは丈夫なのかもしれない。

「新しい発明は作らなきゃいみがないの、わたしたちがいみをあたえるの」


正直あんまりわかんなかったから頷いておいた。

そして何か新しい物を次から次へと作ろうとするギンとは対照的に元からある物を更に良くしようとしているのがキンだった。

キンはとてもがんばり屋さんでとにかく試す!という事が好きな子で僕の持っている脚を持ちやすくしたりより鋭くしようとしたりと「改良」という事をしているらしい。

「実験改良試作!ぜーんぶひつようなことなんだまま!」

と言うのがキンの言っている事だが生憎僕は嬉しそうに作った物の事を話すキンの話を半分位しか理解出来なかった。


そんな発明?を繰り返している二人の親である僕はと言うと「花」や「木の実」という言葉が浮かんでとりあえずそれらを集めて適当に色々試していた。

アリシアに習い食べてみたり、潰してみたり。

潰したものを混ぜたりほっといたら「干からびた」物があったのでそれも試したりと僕が作り出した「植物」に関する実験を行っていた。

正直全部緑で統一してたから気づかなかったけどギンの「木」のおかげで花みたいな言葉に気づけた、偉い。

そんなふうにできた物は「薬」と言うらしい。


色々繰り返していると面白い事になったりケガに効いたりする物を見つけたりと無駄にはなってはいない。

少なくとも夜のアレでアリシアが何時もの5倍凄くなる「調合法」を見つけただけでも価値はあった。


時々減ってるけどアリシアが多分独りで慰める時に使ったんだと思う。


さて、そんなふうに進展してる僕達。

それでもまだ油断はできない。

辺りの蜘蛛達もどんどん力をつけているらしくて最近蜘蛛達からあの糸が取れるようになっていた。

僕はともかく、子供達が心配だった。

最近何故か更に成長して僕の身長を追い越した2人だけどそれでも速さも力もやっぱりまだ未熟なようで2人揃ってようやく相手になる、というレベルだ。

何に襲われても良いように僕が全力で2人を鍛えているけどそれにも勿論限度はある。

まだ蜘蛛五体で苦戦する2人だ。

油断はできない。



「やー」「やー!」

少し開けた場所でキンとギンが模擬戦をしている。

2人ともちゃんと武器はうっかり殺さないようにしてある武器を使っている。

あの蜘蛛達も死ぬんだ、僕らも死ぬかもしれない。

そしていざと言う時のために辺りの蜘蛛を殺し尽くし薬も沢山用意した。

これで何があっても安心できる。


さて、模擬戦だけどキンは僕の使っている脚を少し使いやすく、そして長くした物。

名付けて「槍」らしい。

大きく当てやすくて丈夫な分細かい動きが苦手、しかし努力家のキンらしく槍だけでは無い、槍を利用した肉弾攻撃もかなりの物である。

反面ギンは何と糸だ。

蜘蛛の皮にアリシアの糸を括りつけてその糸の先に鋭い刃を付けている、何とも変わった武器だ。

刃が小さいからと侮るなかれ、刃は重りでもありアリシアの糸にまで切れ味を付けてあるのでそこそこの木ですらも斬り落としてしまう危険な代物である。

1回使ったけど後ろのアリシアの腕が吹っ飛んだから使うのを辞めたけどかなり扱いは難しい。

それを易々と使えるギンはとても凄い。

ただ蹴りや拳にキン程の重みが無い分遠距離からチクチクと逃げながら攻撃する事になるだろう。


2人はじっ、とお互い真剣に見つめ合い、そして2人同時に動きだした。


攻撃は糸よりも槍の突きの方が速い。

しかしギンはその突きをタンッと地面を蹴りかわす、しかし空中へと上がった相手を逃がす程ヤワに育てては僕もいない。

素早く槍を戻し、再び突く!

だがその突きはギンの左手の糸に絡め取られていた。

ギンが少し腕を振ればその糸は真っ直ぐと張り詰め、まるで棒のように固くなる。

そして絡みついた状態で硬くなったその糸に押され棒は軌道を変え地面を突き刺す。

しかしその反動すらもキンは利用した。

その場で力強く飛び、弧を描くようにしてぐるりと回転。

そしてその回転の勢いを利用しギンに蹴りを叩き込む。

だがその蹴りの先にはギンの右手の糸が集まり、ギンを守るような形で固まっていた。


実は子供達にも、僕の光と同じような特殊な力がある。

ギンは、物の硬さを変える力。

触れている物の硬さを変えることができるというまさに糸を扱うギンにあった力だ。

それに対し、キンは


フッ、とギンの目の前から消えギンの後ろへと回り込み、拳を叩き込んだ。

だが分かっていたかのようにその拳は巻取られていた槍により防がれる。


自身と自身の持ち物の移動だ。

短い距離しか動けないらしいがそれでも十分過ぎる力。

というか2人とも凄すぎないか?

流石僕の子供達だ!



この後も特訓や模擬戦は続いた。

多分この先もこうやって続くんだろうな、この日常が。


願わくば、この先もずっと続きますように。

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