第3話「こども」

子供が欲しい、僕はその結論にたどり着いた。

辺りにいる緑達は僕が作り出した子供のようなものだけど違う、僕は僕が本当の意味で産んだ子供が欲しい。


そんな訳で。

僕は緑達が子供を作る様子を観察し始めた。

「ぅ」

全く分からない。

本当に全く分からない。

とりあえず何か一部が膨らんでそれが弾けたり取れたりして「種」になってそれが時間を得て緑になる、という事しか分からなかった。


僕、子供作ると弾けるのかな?

それと光を使った時と別の子供の作り方だったという事がわかった。

僕の光だと緑達が絡み合うように動いたり何かいい感じに子供がそこに産まれたりしている。

でも肝心の何かいい感じがわからない。

「ぅあぃぃ!」

何かいい感じってなんだ!

自分で言っといてあれだけど!

「ぅあ?」

待てよ?もし自分に対して力を使えばその「何かいい感じ」で子供が出来るのではないか?







と、まあそんな訳で僕は夜(最近また頭に浮かんだ)の日課であるしっぽいじりでスパイスとして光を自分に当てるを追加した。

するといつもよりも体の火照りが止まらなくなり朝だろうとなんだろうともう夢中になって僕はいじり始め、気づく。

疼いているのは何もしっぽだけでは無い、と。

今まで何の意味があるのかよくわからなかった股間の穴。

僕は無意識に指をそこに運びそれから


最早光とか子供とかが頭から抜け落ちる位の感覚を僕は味わった。

僕はその感覚を味わい、意識を手放してしまった。

そんな色々もあり、こうして僕は遂に何の変化も無かった体に変化を起こした。

僕のお腹が少し大きく膨れているのだ!

少しバランスが悪くなったが問題はない。

とはいえ体の火照りと疼きが無くなったのはかなり大きな変化で少し残念ではあるが。

多分このお腹がどんどん大きくなって今までみた緑のようにお腹が破けて

「うぇ?」

そういえば今まで見た緑達は半分ぐらいが弾けたら枯れて死んでいたような。



ともかく僕は相変わらず世界を放浪している。

時折ズキン、と「痛み」が走る。

痛みは以前一部の緑の尖っているものに触れて感じ知ったがそれとはまた違う、内側からのまた新しい種類の痛みだった。


しばらく経ち、痛みは次第に強くなっていき、遂にその時は来た。

僕のお腹も弾けるのか、と思っていたらどうやら違うらしく予想外にもあの穴から僕の初めてとも言える、「子供」が産まれた。

子供は2人、2人とも耳もしっぽも僕とは違ったが緑達もそうだったしそんなものなのだろうか?

1人は僕とは違い尖った銀色の耳、耳と同じ銀色の毛の量が多く大きなしっぽ、もう1人は同じく尖った金色の耳に金色のしっぽ。

子供達は大きな声を上げて泣き始め、僕はどうすればいいのか分からずあたふたと慌てた。


「ぅゃ」

「みゃ」

「ヴぁあ!?」

子供ができてしばらくして僕は前とは違うかなり忙しい生活を送っていた。

とりあえず僕は2人の事を区別を付けるためにキンとギンという名前を付けた。

キンとギンを産んだあと僕の胸から何かが出るようになり2人は僕のこの液体を求め吸うように飲んでいる。

多分これが2人にとっての水なんだと思い僕はこれを与える事にした。

そんな感じで与えれば2人はすくすくと育って行ったのだが、困った事に2人はかなり元気でやんちゃだったようだった。

触ってはいけない緑に触ってケガはするしドロドロで滑ってまたケガはするしで僕は常にハラハラとしながら2人の世話をしていた。


「ギン!ギン!」

「ぅあー?」

2人は今キャッキャと遊んでいる。

というよりキンがギンで遊んでいる感じだが。

それとこの口から出る音は名前を呼んだり危険や痛みを知らせるのに使えたようでかなり役にたっていた。

しばらく考えれば「声」と言うらしいという事が浮かんだ。

こうやって頭に浮かぶこの単語達を口に出す練習をして上手く出せるようになった、筈。

その単語達のおかげもあり僕は話す、という事が出来るようになり2人に根気よく教えている。

とはいえ僕もまだ上手く声を伝えれるわけではないけれど。


2人が産まれてから眠る事が増えた。

というより2人がよく眠り、そして一緒に寝たがるから眠るようになった、というのが正しいけど。

でもそんなある時、僕は普段は2人よりも起きるのが早かったのにその時は2人よりも起きるのが遅かった。

それがいけなかった。



「ん、んにゅ」

久々によく眠ったな、最近キンとギンがよく動くようになって忙しかったからかな。

珍しくよく眠ったようで辺りは夜明け前だった。

薄暗い光の中、2人を探す。

さて、2人の寝顔でも、あれ?

ふと、2人の姿が無く、息の音すら無いことに気づいた。

さっと、体から熱が無くなる感覚を感じた。

直ぐに辺りを見渡しても2人は見当たらなかった。

僕は直ぐに走り出した。

辺りを見て周り、2人がよく行く場所に行き2人がいるか探す。

それでも2人は見つからなかった。

この静かな世界で、音は僕と辺りの緑、そしてキンとギンだけ。

なのに辺りから聞こえるのは緑の擦れる音と僕が発する2人を探す声だけ。

「キン!ギン!」

もし、2人が見つからなかったら?

もし2人がケガをして動けないままだったら?


頭に「不安」が溢れ出す。

冷静さがどんどん無くなりただ焦りに支配されていた、そんな時だった。

目の前に、ソレが現れた。


僕の体の何倍もある巨体。

僕の体を見すえる大きく、しかも何個もある黒い目。

そして地面に突き刺さり、直感で僕の体も簡単に引き裂けるであろう事が容易にわかる複数ある脚らしき物。

ソレの目は僕の事をどう思い見ていたのかは分からない。

でも分かることはあった。

奴は、「敵」だ。

そう直感した時、奴の脚が僕へと襲いかかる。

僕は急いでその脚をかわす、しかし別の脚が再び僕を切り裂こうと襲いかかる。

ギリギリ僕はそれをかわす、だがその脚は僕の頬をかすめる。

たらり、と頬から血が流れ出し地面を濡らす。

その時、僕の頭に浮かんだものがあった。

それは「恐怖」でも、「不安」でも、ましてや「諦め」でも無かった。

それは「怒り」だった。

もしコイツが僕の大切な、大切で愛おしい我が子を襲っていたら?

もしコイツが、万が一あの子達を殺していたとしたら?


その良くない考えが浮かび、僕は

ソイツの上に乗っていた。


その場に起こったのは血の雨だった。

その血は僕の血では無く、奴の血だった。

「ギィイイイ!!」

五月蝿い怒号が辺りに響き渡り、僕の体は血に濡れるが僕は止まらなかった。

僕は、右腕を振るう。

何でやってるのかは、よくわからなかった。

奴が僕に対してやってきたから何となく同じ事をしただけなのかも知れない。

それでも、ソレは効果的だった。

僕の腕は簡単に奴の体を貫きそして奴の体の中の何か固いものを探り当ててはそれを簡単に引っこ抜く。

奴は苦痛に悶え僕を振り落とし、そして苦痛に歪む目を僕に向け僕に脚を向け、振り落とす。

それに当たれば僕はひとたまりもない事は簡単に理解出来た。

全力で地面を転がりソレをかわし、急いで起き上がる。

そしてまた自分へと向かってきた脚を両手で掴む。

やはりとても「切れ味」がいいのだろう、僕の両手は深く切れたようでダラダラと血が腕をつたい、ズキズキと鋭い痛みが体に危険をしらす。

でも、僕はそれに構わず奴の脚を掴み、

脚を引っ張り無理やり引きちぎった。

奴は数瞬、何が起こったのか理解出来ていなかったようだが、ようやく理解したようで鳴き叫ぶ。

声にもならないような鳴き声ではあったがしかし、今ではその鳴き声に「恐怖」が交じっているのがわかった。

「いたい?」

「ギ、ギィィ」

でも僕はそんなのを気にせず今引きちぎったばかりの奴の脚を振るう。

それはやはり僕だけではなく奴の他の脚も容易く切り裂いた。

「ギ」

次はまた別の脚を斬ろうとしたが狙いが定まらず奴の目が切り裂かれた。

とりあえず、当たればいいと思い振るう。

斬る、斬る、斬る。

そして脚をもがれ全身を切り裂かれ、息も絶え絶えとなった奴と奴の脚を持つ僕がそこにいた。

僕は

足でそいつを踏みつぶした。


気づけば奴だった物が辺りに散らばっている。

異臭がし、なんだろうと考えれば血の匂いだと気づいた。


頭にはいつも通り「言葉」が浮かんでいる。

今浮かんだもの、先程の「戦い」で浮かんだものまで。

ただ今回は知ってはいけないことのような気がした。

何せ今知った言葉は今の状況にふさわしい

「血なまぐさい」言葉だったからだ。

「言葉」を知ることはその言葉の「意味」もまた知ることだ。

だからこそ

2人に知って欲しくは無い言葉という事も僕は理解していた。

そんな事を考えていると直ぐに僕は気づいた。

「ぅ?」

「ギィィ」

「ジャァァァァ!」

今ソレを考えてまとめてる暇は無いと。

夜明けの頼りない明かりはどんどん強く明るくなる、しかし強くなるにつれ、奴らがかなりの数いる、という事も無情に教えてくれた。

僕は引きちぎった細く鋭い脚を持ち、奴らに向ける。

「じゃま、しないで」

僕は2人を、キンとギンを探さなきゃいけないから、だから

襲いかかってきたウチの1匹の脚を脚で受け止め強く、もう1回言い放つ。

「じゃま、するな!」

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