第2話「いろづくせかい」
気が付けば辺りはかなり変わっていた。
どれ程眠ったのか分からないけど、それでもかなり眠ったのかもしれない。
確認する方法が無いから分からないけど。
それはともかく、起きて辺りを見渡してすぐに僕は気づいた。
僕を中心に緑が辺りを埋めつくしていた。
特に僕が眠っていた場所は他の緑よりも心無しかふかふかのようで地面だけだった頃よりも寝心地が良かった。
寝心地を確かめるためにゴロゴロと緑の上を動けば空に目がいき、何かを見つけた。
それは白くてふわふわしている、まるで僕のお尻についてるあれのような物だった。
「ぅあ」
お尻のこれを意識するとあの感覚を思い出した。
そして意識がソレにむかい
「ぅ?」
ソレに緑が触れてさわさわと触れられていることにようやく気づく。
刺激されてしまい(もしかしたら体が久々過ぎて求めていたのかもしれないが)体がすっかり熱くなって来た。
それと頭に白いこれは「しっぽ」と言うらしい、という事が浮かんだ。
とはいえあの刺激を求めた僕は意に介せずその現況であるしっぽをいじり出した。
あれからしばらく経ってから僕の興味は僕の周りにある緑へと向かった。
僕は緑をちょん、と触る。
前触れた時と同じようにユラユラと揺れる、がしかし前とは違う様子もまた見せ始めた。
心無しか触れた時緑が伸びているように感じるのだ。
じーっと目に力を入れよく見てみるとどうやら僕にも何か原因があるらしかった。
触れている僕の指から何かキラキラ光る物がでていた。
その光は宙にまうとしばらく経ってから近くにある緑の中に入っていった。
「ぅあー?」
なんだか不思議で綺麗な何か。
試しにもう片方の手をかざすと今度は指よりも多いキラキラが溢れ出た。
「ぅあ!?」
するとなんとその対象となった緑はなんと目に見える速さで大きくなって来たのだ。
今度は抑え目にしようと意識すればキラキラの量は減った。
なら次は部分的にやったらどうなるのか?と思い指先から少しのキラキラを緑の先っぽにあててみる。
「ぅぉー!」
するとその部分が大きくなって不格好に大きな緑が垂れ下がった。
これはしっぽをいじってる場合じゃない!
いじりはするけども。
そうして僕はこのキラキラの使い方を調べたり、キラキラを使った様々な事を夢中になって試し始めた。
しばらく色々とやっているとある事に気づいた。
このキラキラでもやれる事には制限があるし、何かを伸ばすと別の何かが出来なくなるということ。
それに気づいてから僕は伸ばした方向性に分けて緑を分けた。
まあそれでも諦め切れずに伸びるのがとまった緑にキラキラを与え続けたわけだけど。
でも意味はあったんだ。
夜になってからもキラキラを広く辺りの緑に与えていると、緑が絡まりあった。
キラキラに照らされた緑達は深く、優しく絡まりあっていた。
そして光が空から照らされる時間になると小さな緑がそこにあった。
絡まりあっていた緑達の間に小さくちょこんとそこに出来た。
その緑は小さくてもしっかりと、そこに居た。
もしかして、僕が起きた時に凄く増えていたのは、まさか。
他の小さな緑も同様にそこらに出来ていたのだがよく見てみると少し違和感があった。
その小さな緑達は皆少しだけ他の緑とは微妙に違いを持っていたのだ。
それから調べると何となくだけど僕は原因に気づいた。
どうやら絡み合った緑の特徴を引き継ぐようで、例えば硬い緑どうしだと更に硬い緑ができるし柔らかい緑どうしだと凄い柔らかい緑ができた。
「くふふ!」
つまり!
もっともっと絡まり合わせればもっとちゃんとした変化がだせる!
僕はウキウキでまたキラキラを使い始めた。
それとこれらを繰り返すウチに産み出したものが緑を親、産まれたのが子供と何となくまたそれらの名を僕は知っていた。
気が付けば辺りは凄いことになっていた。
空が隠れるほど大きくなった緑もあれば今まで見た事ない色を持つ緑?まで、そして茶色くて硬い何かの上部分が緑で覆われている大きな物まで。
もうこの子供達の中には「緑」とは呼べないものまで存在していた。
緑と僕の力で産み出された愛おしい、僕の自慢の子供達だった。
でも僕のこのキラキラの力でもどうしようも無い事があった。
しばらくすれば緑達はどんどんしおれていくのだ。
そして最後には「死んでいく」。
なぜだか僕は死を、それを知っていた。
そして残酷なその運命は僕ではどうする事は出来ないと、また強く理解していたのだ。
例えどれ程キラキラを、力を使えど時間稼ぎにしかならない。
最初は興味と好奇心で創り続けた僕だけど、それでもやはり悲しい物は悲しくて、また「失う」恐さを僕は再認識した。
「ぁあ、あぅぅ」
自然と涙が目からこぼれ落ち、音は漏れ出す。
これが、「悲しみ」というものである事が分かったが、こんな物を僕は知りたくなかった。
ふと、ぽたぽたと周りに水が落ちていることに気が付いた。
その水は何も僕の目からだけでは無かった。水は空から、確かに空から落ちてきたのだ。
僕は空を見上げる、すると空に浮かんでいた白が、今や灰色に染まった白が僕らの上にあったのだ。
その白から水が落ちているようだった。
そして、水が緑達に落ちると不思議な事が起きた。
緑達が、子供達心無しか萎れを無くした。
それだけじゃない、もう伸びないはずの緑が心無しか伸び、枝分かれし、「成長」していく。
多分僕とは縁がないはずのその言葉。
今まで自分の体に感じなかった、感じないからこそ知ることができなかったその言葉を僕は初めて、「子供達」を通じて知った。
多分これが彼らの姿、「生きる」って事なんだろうなぁと、僕は気づいた。
産まれて、成長して、枯れて死んでいく。
この世界を包んでいく、当たり前となるそれが「生きる」というそれを僕は知った。
それを知ったから、知ったからこそ
僕はこれから産まれる「子供」を守らなければいけない、と思った。
多分僕は子供達とは違う、死なない存在だ。
でもそんな僕は多分偶然ではない、彼等を生みだした原因のその力を持っている。
「ぅ」
指先から流れる微かな、でも確かな光。
変化させる力は未熟な、進化の可能性を持つものにしか使えない「進化」の為の光、そして緑を、皆を増やすための「子作り」の為の光。
僕は、これらを使ってこの世界で何かをしなければいけない、その為にこの世界にいる。
そんな気がする。
そんな使命がなくとも僕は今はそれをするしかないわけだけど。
あれから僕は世界を放浪する事にした。
最初に僕が見たあの緑、それを見つけたら力を与えて、子供を作らせる。
水がなくて萎れていたら涙を与えた。
空からの水よりも僕の涙は量は少なくても効果は僕の涙の方が強いみたいだった。
放浪してからどれくらいたったか分からなくなるほど僕は何度も繰り返していた。
時折しっぽをいじくり、立ち上がり、歩き、与えて時折眠る。
眠りに着く度周りは大きく変わっている。
でも地面にたまにできる水溜まりに映る「僕」は最初に見た時から何も変わっていなかった。
いつからか僕の力の、「進化」の光は使わなくなった。
前よりも空からの水を見かけるし、僕が作った覚えのない緑達が産まれている。
それに「子作り」の為の光がなくとも緑達は自分達で増えているようだった。
結局僕は緑が少なくなっている所に行き力を使ったりする位しかこの力を使わなかった。
時に頑丈な緑の上から世界を眺めた。
時に雨が集まった大きな水たまりで水浴びをした。
時に走りやすい所を見つけて思いっきり走った。
それでも
寂しいという感情を僕は確かに抱え始めていた。
前よりも確かに色づいて、素敵な世界で僕は何かを求め始めた。
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