異世界タビットの子作り記

邪神ちゃん

第1話「はろーにゅーわーるど」

曖昧な記憶の中で1番古い物は赤く紅く染まっていく白い場所だった。


本当に何も無くて、ただ白く、しかし紅く染まっている、そんな場所。


あるのは自分の体と自分から流れる血のようで、でも確かに血ではない何かだけだった。


意識は白く、でも黒くもなりながらただぼんやりと、ふわふわ浮かぶような感覚を味わっていた。


それは多分「死ぬ」という物じゃ無いと今でも思う。


むしろ、その逆だと考えている。


多分、それは




始まりだったんだと、僕は思う。





気が付いたら風を感じていた。

起きた、とか目が覚めたとか、不思議なことにそんな感覚は無くて、まるで世界が一瞬で出来たみたいだった。


足元を見れば茶色い何かがあって、それが何か分からなくてしばらく、いや長い間それをいじり続けていた。

ふと、これが「地面」という物だと感じた。


僕はなぜか誰からも習っていないのに最初にあるそれ等を知っていた。

「地面」も「風」も、空の曖昧な「色」も、漠然とそれ等を理解していた。



しばらくたったあと、僕はとりあえず辺りを見てみる事にして、顔を真っ直ぐにした。


そして、偶然、いや必然的に見るであろうそれを、とても美しいと思った。


何も無い世界、ただ空と地面とその境目だけの、その世界に映し出された黒い何かに、僕は魅了された。


それは代わり映えのしない世界で唯一動いて、追いかけても追いかけても追いつけなくて、でも離れようとしても離れない。

どこか曖昧なようで、でもずっと一緒にいる、そんなものだった。


そして何より、これは多分僕自身なのだと思った。


僕の白い足から伸び、僕が動けば共に動く。


僕はこの「自分」の事を気に入っていた。

この「自分」が、「自分」だけがこのあやふやな世界に僕が「そこに居る」という確証をくれるし何より「自分」を追いかければ退屈なんかしなかった。



とはいえ、僕は考える。

僕以外に、僕はいるのか?と


言い方を変えれば、僕と同じように動く、僕のような存在がいるのか、僕は考えていた。

いたとして、それは僕と同じ姿なのか。

それとも全く違う姿なのか。


考えても答えが無いんじゃ意味が無い。

僕はただ飛び跳ねた。




なんだあれは。


空がどんどん輝いている、まるで力を出し切っているかのように。

でも、それでも「自分」は薄く、そして辺りを照らす光は弱くなっている。


まだ後ろの空はさっきと同じだったが、前の空の向こう側は、


黒く、塗りつぶされている。


僕は震え、怯える。

もしあれにのみ込まれたら「自分」と僕の区別が無くなって、どちらも消えてしまうのではと。


そんなの嫌だ、何でかは分からないけど、消えてしまうことに対して、僕はたしかに恐怖を感じていた。


僕の体がバクバクと波打っていて、息も荒くなって、ついに僕は黒に背を向けて逃げ出した。



逃げてどれくらいたったんだろう?

ただ僕は無我夢中に走っている、今でも全力で地面を蹴っている。


目を閉じて、ただただ光が空にある事を祈って走っている。

でも、薄々は感じている。

もう、空には


嫌な考えが頭によぎった時、足がもつれてしまった。

体は転がり、地面の土が体に付き、そしてはっと目を開いてしまった。


そこに僕は、「自分」はいなかった。


ただ黒い。

それだけの世界。


初めて光は暖かく、そして真っ黒なコレは冷たいのだと気づいた。


急に、胸が苦しくなった。

「自分」がいなくなっただけで、見えなくなっただけで僕はとても、とても弱くなってしまった。

そして1人でいる事が、孤独な事に僕は耐えられなかった。


ボロボロと目から水が溢れ、しばらくたってからようやく僕は泣いてることに気づいた。



嫌に長く空は黒に染まり続ける。

まるで永遠に黒く染まっているかのよう。


いやもしかしたらあの光はもう来ないんじゃ無いか、とまで僕は考えてしまう。


でもそう思うほどに長いのだ。

しかもただ長いだけじゃない、再び光がやって来るのだ。

再びやって来るということはつまり、再び無くなってしまうということ。

僕は永遠に失い続け、苦しみ続ける。

それはとても辛く、苦しい事なのだと僕は思う。

現に、何度僕は失い続けたのか。

もう何回、何千回も繰り返し続けていた。


苦しさに何度流したかわからない涙を流していると、僕は気づく。

地面に、涙が溜まっていた。

そしてそれは空を、そして白い何かを映し出す。

僕はせめて、苦しさで涙を流すならこの涙で何が写っているのかを見てやろうと思った。


最初のうちは涙も地面に吸い込まれ消えてしまっていた。

なら何か涙が吸い込まれにくい地面が無いかと色々探せばやけに硬い地面の欠片があった。

ちょっとは涙は減るけどここに貯めておけば涙は無くならない。

でも少ないと何かは写りにくいみたいだった。


それで僕は思いついた。

地面から欠片を見つけて地面に敷き詰めて涙を多く貯めれるようにしようと。


その時から僕はひたすら地面を掘った。

最初のうちは中々上手くできなかったけどそれでもだんだんなれてきた。

地面を蹴るだけしか使わなかった手がこんなに細かく動かせるとは知らなかったけど使い方を知れば便利なものだった。


地面を掘れば掘るほど体は地面の色になっていったけど気にしなかった。

むしろ、何故か楽しかった。


1回涙が溜まりかけたけど隙間ができてしまって、そこから涙が流れてしまったけど、涙で濡れた地面がドロドロってなっていてドロドロの中に入れば不思議な感触でなんだか楽しかった。



それはともかくとして、何とか涙が溜まって何が映っていたのかがようやくわかった。

そこに映っていたのは、僕だった。


白くて長い髪、頭から生えた長くて白い耳、

そしてドロドロで汚れた体。

体の下半身の後ろに生えた丸くて白い何か。

そして、涙を流し続ける紅い眼。

コレはなんだろうか?

そう思い眺めていると、ソレは僕の動きに合わせて動いた。

その動きには覚えがあった。

端的に結果だけを言えば


確かにそこに僕が、「僕」がいた。


それは「自分」よりも遥かに確かな、紛れもない自身の証明だった。


でも結局、辺りが黒にのまれれば「僕」も見えなくなってしまった。


でも不思議と、僕の姿を思い出せばそれだけで僕は僕でここにいると何故か思えた。


何も見えなくていままで何もできなかったが、それでも確かにこの世界で「僕」という色を見いだせたことで少しだけ、寂しさが無くなった。

そして「僕」を見た事で少し興味がわいたことがあった。


僕の体は、何ができるんだろう?

いままでなんとなくで動いていたが自分を改めて認識した今、興味がでてしまい気になりすぎている。

それに何かを見る、という目的を達成した今僕には新しい目的が必要だった。

試しに、色々と力を入れてみる、まずは足、次にお腹、そして腕。

そして首に力を入れた時に僕は何か違和感を感じた。

動かすのとは違う、ただ力を入れた時に感じた変な感覚だった。

しばらく試して見るとそれは鳴った。

「ゥア、があァ?」

なんだ?今のは。

変な音がした。

地面を掘る音でも、涙が溜まる音でも風が体を撫でる音でもない、不思議な音だった。

「ぁ?あー、グァア?」

何回か試して、ようやく気づく。

これは、僕の音だと。

「ァー」

でもこの音は何に使うのか、僕には分からないがまあいいか。

何とも不思議な力があるものだ。

でもなんとなくやっておこう、なれれば別の事もできそうだし。

さて、それはそうと別のも調べよう。

今思えば僕は自分の体をじっくりと触った事がほとんどなかったと思う。

ぺたぺたと自分の体を触って見る。

体は汚れていて汚れの下はあまり良くはわからなかった、でも汚れの上からではあるものの僕は自分の体を調べ、

僕は触ってしまった。


「ぅぁアァアアァ!?」

ピリッと、何かが体を走るような感覚がし、思わず体がビクンと跳ねてしまう。

そしてこんないままで味わった事のない感覚を覚えてもなお僕は仰向けになりながらソレを弄り回し続けた。

「ぁ、あぅ」

とまらない、分からない、なんだろうかこの感覚は。

いくらいじくり回しても分からないこの感覚に恐怖を覚えども、しかし辞めることはできなかった。

目からこぼれる涙はなんとなく、いつもとは違う涙だと僕は思った。


僕が触ってしまったのはおしりの少し上あたりにある丸い何かだった。

毛でおおわれていて汚れのせいで少し触り心地は悪いもののそれでもなおずっと触っていたいほどの魅了をもっている。


しかしその毛の下を触ればビリビリと下感覚が全身に走った。

そして体が熱く、そして無意識に何かを求めるかのように身体を縮めていた。


「うぁ、ぁあ」

思わず強く握る、だがあまり力の入らない手はただソレを通じて僕の体を乱暴に震わせただけだった。

しばらくたって、ふと握るのを止めコレを撫でてみる事にする。

「んにっ!?」

するといままでとは違う、強くはなくしかし弱くはない、そんな感じだった。

激しく震える身体はより激しいビリビリを求めた、しかし僕にはただ撫でるか握るかの選択肢しかなく、どうしようも無いままただ握ったり撫でたりを繰り返すしかなかった。


「ふぁあ、ぁ、ぁ」

どんどんコレの扱いになれていた。

しかしなれる程に体を駆け巡る何かは強くなる一方で、求めるものもやはり強くなるまま。

僕は光が来るまでただ求め続けた。



気が付けば光が差し込み、そして僕は疲れ果て地面に倒れていた。

全身は濡れていて、この水は僕の体からでていて、水が出るのは何も目だけでは無いということに気づいた。

汚れは少し落ちていて、汚れが剥がれた腕を試しになぞってみる。

アレ、いやこの際もふもふと呼ぼう、もふもふを触った時ほどでは無いが少し身震いがするぐらいの感覚がした。

どうやらもふもふを弄り続けたせいで少しだけ体が色々と反応してしまうようになってしまったようだった。


さて、しばらく立ち体の熱さも感覚も少しづつ戻ってきて僕は何かを見つけた。

と言うより、視界に入れざるを得なかったのだろう。

地面に寝そべってる時に何か地面では無いような感触がして確かめ、それを見た。


そこにあったのは緑色の何かだった。

チョン、とつつけばぽいんと揺れて、風がふけばまた揺れる。

顔を近づけよく見ようとすると、何かを感じた。

それは息をする時に感じて、口ではない息の仕方でわかった。

何とも表しずらく(そもそもこう言うのは初めてだ)、これが何であるのかと考えると頭にふと「匂い」と浮かんだ。

なるほど、これは匂いというものなのか、と何故か納得してしまった。

しかし、何故知りもしない事が頭に浮かんだのだろうか?

「にぁー」

まあいい、この不思議な物をながめ、匂いを嗅ぐだけで落ち着いてくる。

ああ、楽しいなぁ。

自分の口から自然と音が漏れる事すらも楽しみながら、僕はただそれを眺めた。


楽しい、とはなんだろうか?

確かドロドロを弄り回していた時にも感じていた。

いつの間に僕はそんなのを知っていたのだろう?

そんな疑問も浮かんだがとりあえず今のこの感覚が楽しいという事なんだろうと決めて気にしない事にした。


それにしても不思議だと常々思う。

何も知らないはずなのに足も顔も匂いも、そんな「単語」を知らないうちに知っている事が。

その癖、何故か細かかったり知らないのがおかしい部分が知らなかったりするのだ。

とはいえ考えても答えは出ないわけだが。

そんな事を頭に浮かべていれば久々のあの感覚を覚えていた。

あの白い部屋で味わった、あの時の感覚。

意識が沈んでいく感覚だ。

多分これは

「眠たい」という感覚なんだろうな。

「ふゃぁあ」

音が漏れ、意識は落ちて僕は「眠りに」着いた。

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