第5話 盗撮された

「じゃあ私から、1.2──」



「やったぁ!! 勝利の女神が微笑むのは結局私なんだ!」


 ほんとに心から嬉しそうだ。これならわざと負けた甲斐があるかもしれな……


「さてと」


 え? 何その目? 今まで見た事ない。え、髪が逆立ちそうだよ? 牙生えてきそうだよ? もしかして包丁とか持ってないよね?


「トゥルーオアデェア」

「デェア」

「へぇ」


 普通はトゥルーにする場面だが、俺は嫌な悪寒がした。なにを聞かれるか分からない。心桜は俺の幼馴染だから、きっと俺の秘密とかをいっぱい知っているだろう。


 その中から、一番やばい事を聞いてくるかと考えると自分でも不安で仕方がない。


 そして、心桜は優しい。きっと俺みたいに一人でコン○ームを買ってこいなんて鬼畜な命令は下さない。きっと……。うん。


「どーしよっかなーー」


 あ……やべ。これやばいやつだ。勝たせなければよかった。


 心桜は「そこで待っててね」と満面の笑みで口にすると、部屋を出て行った。一体何が起こるのだろうか、心臓が高速で脈を打っている。いまなら心拍数が1分間に300回越えててもおかしくない。いや、ハムスターかよ。


「お待たせっ!」


 だからなんだよその笑み。だが俺は少し安心した。なぜなら彼女が持ってきたのは制服だったからだ。もっと怖いものを想像していた。


 それで何をするつもりなのだろうか。


「ねぇ山ちゃん。着替えて」


 なるほど。心桜は自分の制服を着させて俺を辱めたいのだ。とはいえ、本当にそんなこことでいいのだろうか。


 先程は覚えとけと鋭い眼光を向けていたが、逆襲はその程度か。そんなのぐらい俺は余裕で着るぞ?


「余裕」

「ちょっ!? まだ脱がないでよ!」

「いや、着替えろっつったのお前だろ」

「そうだけどぉ」


 そして俺は難なく着替え終わった。リボンをつけ、短いスカートと、まぁ思うところはあるが対して気にならない。ってか足の通気性が良すぎだろ、冬死ぬぞ?


「もういいぞ」


 それを合図に背を向けていた心桜は振り返った。


「かっ……かわいい」

「これで満足か」


 彼女の挑戦は呆気ないものだった。


「ねぇ山ちゃん、私のど乾いちゃった。タピオカミルクティーかってきて?」

「……は?」


 そして俺は彼女の魂胆を知ってしまった。俺が心桜に一人でコン○ームを買わせたように、彼女は俺が女装姿で一人でjkっぽい飲み物を買ってこさせようとしているのだ。


「あれー、言うことが聞けないのかなぁ?」

「……」

 

 くっそ。マウントを取りやがったこのやろ。


「おう、分かった買ってくるわ。じゃあ着替え──」

「させないわ」

「……うっ!」


 服を脱ごうとしたら心桜に全力で俺の手を止められた。これはもう……やるしかない。そうだ、ズルをして勝ち続けた俺への罰だ。彼女への自尊心を削ぎ続けた残虐非道な俺への罰。やむを得ない、受け入れよう。



 うわぁ、恥ずかしい。絶対に心桜は今頃木陰に隠れて俺の様子伺ってるじゃん。さっきから店員の視線が痛い。


 これで昼だったら俺社会的に死ぬぞ? 心桜は心桜でよくこんなすごい事思いつくよな。




「380円になりまーす」


 たっか! たかがミルクティーに芋入れただけだろ? くっそぉ。ってか俺は心桜にゴムを買わせたんだ。きっともっと高いだろう。


「おい、買ってきたぞ」


 ……


「心桜?」


 きっと隠れているのだろう。先程まで木陰にいるようだったが、家に帰ったのか? このやろ、俺をこの格好で一人で帰らせる気か?


 その時、俺はその木のふもとに心桜のスマホが落ちていることに気づいた。スマホを忘れるとかどんだけドジなんだよ。悪用されても知らねーぞ。


 俺はスマホを拾い上げ、土を払う。


 そして気づいた。そのスマホは撮影中だと言うことに。


 うわ、こいつずっと俺の様子をカメラに収めていたんだ。なんてやつだ。その動画を停止して、俺は心桜のスマホのパスワード──0119を入力して開き、アルバムのフォルダからその動画を開いた。

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