第4話 最低の裏技
俺は木の茂みから心桜が1人、おぼつかない足取りでコンビニに入っていく様子を伺う。俺からの命令はこうだ。
『一人でコン○ームを買ってこい』
そう命令を下した時の心のリアクションは凄いもので、俺は思わず笑ってしまった。その後に「変態」と口を尖らせて言ってくるのはテンプレだ。
結構時間がかかっているのは、それの場所が見つからないからだろうか? やがてしばらくすると、心はコンビニのビニール袋を片手にムッとしながらこちらへ向かってきた。
「はい! これで満足!?」
心は俺の懐にそのビニール袋を強く押しつけてきて、受け取る。
「もぉ、信じらんないっ!」
「めっちゃ迷ってんじゃん」
「人の気も知らないでっ。私店員さんに聞いたんだからね」
「……え、嘘……だろ」
「ほんとだよ! もぉ」
「ごめん……今まで馬鹿にして。もう俺お前に顔上がらねぇわ」
「えっ、私に感心する基準そこっ!?」
俺は袋の中身を確認したが、本当にその箱が入っていた。やはり心は凄い奴なのかもしれない。
そしてまさか、この買ったコン○ームが伏線となって、そのうち使う事になるとは誰にも知る由もなかった。
「へぇ!? 言っとくけど使わないからね!?」
あ、言ってしまっていたようだ。それを聞いた心桜は一歩身を引き、頬を染めながら両手を交差させて身を守るように自分の肩を抱いた。
心桜は、俺がお前と使うと勘違いしているのだろうか。お前と使うなんてまだ言ってないのに。
家に戻った俺たちは再びトゥルーオアデェアを再開した。
「じゃあ俺から──」
その後俺は2連勝した。
「告白された回数は?」
「……十数回」
「何カップ?」
「……B」
「よし、5連勝」
「きっと運がいいだけ。奇跡が起こってるだけ。次は私が勝つ」
心桜が何やら独り言を言っているようだが、覚悟をしてほしい。次の質問は公的秩序に大きく反した質問だ。
「トゥルーオアデェア」
「トゥルー」
だんだん心桜の目が鋭くなっている。
「一人でしたことは?」
「……ない」
もうデレカシーの欠片もないその質問をしても、心桜は大きなリアクションを取らずに答えた。だが俺は言動で分かるんだよ。
「本当は?」
「…………ぁる」
俺メンタリストになろうかな。メンタリスト山田……なんか性に合わねーな。
「もぉ! なんでそんな質問ばっかぁー! そもそもなんで勝てないのぉーー」
「お前が弱いんだよ」
真夜中に近づくにつれ心桜のテンションが上がってきているように思う。まるで酔っているかのように、一番分かりやすく言うと馬鹿っぽくなってきている。
そして本気で悔しがっている心桜に俺は少し可哀想だと感じてきた。そして俺は次に負ける事にした。
そう、実はこの30ゲーム。数学が苦手な心桜は、裏技を知っている俺には絶対に勝てないのだ。
言うまでもないが、これに勝つには自分が29を言い終えればいい話。つまり29を言う自分の前に、相手がどんな頑張っても28.27.26までしか言えないようにすれば良い。
そして、これらの数字を言わせるためには、俺が25を言えばいいのだ。よってこれは25を取れば勝てるゲームになる。
では25を言うためにはどうすればいいか? そう、相手を24.23.22までしか言わせないようにすればいい。つまり、俺が21を言えばいい。よってこのゲームは21を言えば勝てるゲームになる。
これを繰り返していくと、このゲームは1.5.9.13.17.21.25.29.を言えば確実に勝てるゲームなのだ。
相手と勝負を初めて、これらの数字のどれかが自分のものになれば、それ以降は、相手の言った数字との和が4になる数字を自分が言えばいいのだ。
よってこれを知らない心桜が俺に勝てることは絶対に有り得ない。
こんな事を知らないで必死にこの30ゲームに打ち込んで、俺のデレカシーのない質問によって自尊心を失われ続けるも、なお諦めない心桜を俺は心から尊敬する。
試合に勝って勝負に負けたと言ってもいい。いや、ありえねぇ。試合に勝って勝負にも勝ったんだよ俺は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます