第50話 餌やり

「アンジェリーナ、どうするつもりなんだ?」

俺は一応は作戦内容を聞いているが、いまいち意図が掴めないのでアンジェリーナに聞いた。


だって、北太平洋ダンジョンに行くとしか言われていないから、何が目的が一切わからないし。


「これからすることは、ただダンジョンで文字通り餌やりよ。

アメリカは世界一の軍事大国、そうよね。」

「そうだな、その通りだと思う。」

誰も疑わない事実だと思う。


「なら、もしもその地位が崩れたら、もしくは崩れかけていたらアメリカはどう思う?」

「え、兵員増強?」

「まぁ、そうね。それもするし。だけどやっぱりメインはやっぱり軍事技術の開発ね。戦闘機だってどんどんステルス性能が高いものを開発してるじゃない?」


たしかに、アンジェリーナのいい通りだ。


「アメリカは今、ダンジョン産の素材不足で研究が送れているのよ。それこそ日本からの輸入に頼ってる状態だわ。そして今のダンジョン産物の最大産地は中国。そして中国はダンジョン管理者を確保して、新しい軍事技術開発がかなり進んでいると聞いているわ。


当然よね、長年培われていた技術がほとんど意味をなさないのだから。

だからアメリカは焦っているのよ、圧倒的軍事力と言う地位がアメリカを支えてきているところが大きかったからね。


私はそこに、技術開発不要な、つまりお金のかからない新しい軍事技術、その種を教えた。しかもそれを世界にも広めるって言っている。


そしてその技術の根幹となるのが、このレット波を出すレットクリスタル。多分今アメリカが喉から手が欲しいと思っている鉱石。


さて問題よ、このレットクリスタルが北太平洋ダンジョンから産出されると言ったわ。そして実際にレットクリスタルが北太平洋ダンジョンから出てきたら。更にそれがよくわからない南太平洋浮島に奪われようとしている。


アメリカはどうすると思う?」

「え...必死に北太平洋浮島を守る?」


アンジェリーナは正解と言わんばかりに大きく丸を作った。


「だけど、実際は北太平洋ダンジョンではこんなレットクリスタルなんて産出しないわ。だって私が作った合成物なんだから当然よね。


だけどアメリカ軍を動かすためには北太平洋ダンジョンで取れると思わせる必要があるわ。


チャンならこう言う時どうする?」


俺はここでやっとアンジェリーナが餌やりをすると言う意味がわかった。


「つまりこのレットクリスタルを北太平洋ダンジョンのモンスターに食べさせるってこと?」

「正解よ、さすがねチャン!


これでアメリカ軍はこの浮島を守る軍事的な理由が生まれるわ。そして私たちのお陰で浮島にはもう民間人はほとんどいないわ。


盛大に軍事攻撃をできる状態にしたアメリカ。それに対して人質で対抗しようとした南太平洋浮島。おまけに浮島の兵器は使ったら浮遊都市からの攻撃材料になる状態。


この勝負、どこが勝つか丸わかりね。これでアメリカが負けたら、もう軍事大国なんて看板、背負えなくなるわよ。


だからこれからやる餌やりは、この戦争を左右する重要行事なのよ。」


つまり今から俺たち全員ですることは、命懸けのサバイバル。北太平洋ダンジョンの探索。


全員がそれを認知した。


つまりこれから絶対に死ねない戦いをしかもモンスターを倒さずに口にレットクリスタルを放り込んでいかないといけないのだ。


「あまりダンジョンのレベルが上がっていないのが不幸中の幸いですね。」

ランドセルを背負った志帆は大きなため息を吐きながら言った。


 ◇


俺たちは護符も保険も役に立たない、危険なダンジョンへと足を踏み入れる。


アンジェリーナは余裕そうだけど、俺は怖い。

難易度は余裕で浮遊都市ダンジョンの方が高いのだけど、やっぱり命懸けとわかるとそうなる。


なのにみんな別に動きが固まったりしない。

時に妹とかはいつも通り。


「お兄ちゃん、何固まってるの?さっさと仕事して帰りたいんだから。」

「怖くないのか?」

「別に、だって殺さない方が難しいモンスターだし。」


たしかに妹は何回に一回か、完全に仕留めてしまっている。


「そんな体ばかり狙うからそうなるのですよ。腕と足を切り飛ばせば簡単に終わりますよ。」

ゆりちゃん、口調は変わらないのに言ってることは怖い。


森はハンマーで頭を叩いて気絶させている。そしてまるでたこ焼きのタコを入れるように、レットクリスタルをウルフの口に入れる。


真斗も大剣の腹の部分で同じことをしている。


よく見ると方法は似たり寄ったりだけど、みんなダンジョンを探索しているというよりも、魚をひたすら捌いているような感じがする。


仕方がない、面倒臭いけどやるか...


顔がそう言っている。


ダンジョンがただの土壁洞窟で初期型の特に凝っていない作りなのも大きいのだろう。

大きな穴も、毒霧も、何もない。


それでもずっと討伐がされてこなかったためか、とにかく数が多い。


「キリがないですね、数が多すぎます。」

志帆は軽やかに上下左右まるで重量で遊んでるかのようにモンスターを翻弄し、短剣の持ち手でモンスターを着実に半殺しにしていく。


「たしかにこの数だと参るわね。」

神山はふわふわと浮きながら水圧でゴブリンの首を絞めてノックアウトさせる。なかなか酷い。


こんなにサクサクとモンスターが処理されていくのを見ると、怖くなっていたことが恥ずかしくなる。


なんだよ、見掛け倒しかよ。


「これ、まだそんなに奥まで行ってないのにこんなにレットクリスタルを食べさせていいんですか?」

鈴が疑問に思いつつも、また一粒オークの口へと赤色の宝石を入れる。

何故か少しだけエロい。


「問題ありません。モンスターは溢れない限り、本能的に奥へと進んでいきます。ダンジョンはある程度何もしなくても、食物連鎖も相まってレットクリスタルが奥へと送られていくでしょう。1日も有ればある程度バラけるはずです。」

大阪ダンジョンを管理しているだけあってそこら辺は詳しい志帆。

アンジェリーナも知っていたようで、ウンウンとうなずいている。


「それなら安心ですね。このまま奥のモンスターまで同じことをしないと行けないかと思ってました。」

ゆりちゃんは時々間違って首まで落としていた。




レジ袋に雑に入れられていたレットクリスタルを全部ばら撒き終えた俺たちは疲れていた。


俺たち10人はヘロヘロになってギルドホームにかえってきた。ホームに帰ると一足先にホームにいたジャックが日本食を作って待っていてくれた。


ジャックが作ってくれたお味噌汁とあさりの酒蒸しが見に絞めて美味かった。

俺たちはいつもはしない手加減で意外に精神をすり潰し、気がついたらそれぞれ仮眠やリビングのソファーで寝てしまった。


 ◇


俺たちが寝ているその頃、ツエッターのある動画がバズっていた。

それは北太平洋ダンジョンで産出された赤色のルビーのような宝石が、全く既存の電波を使わずに通信すると言う映像。

赤い宝石を電極に繋ぎ、音楽を流す。それがもう一つの赤いクリスタルが受診してスピーカーから音楽が流れる。

それをあらゆる電波をキャッチできる受信機で電波を探すと言うもの。


デジタル通信でも、波形が動かないと言うわけではない。何故なら0と1の通信をしているのだから。

しかしこれはそれさえもない。


最初はフェイク動画として扱われていたが、資料をもつアメリカ軍はそれどころではなかった。


こんなにも簡単にただ無線の発信アンテナ部分を入れ替えるだけでできてしまうステルス通信機が動画で公開されたのだ。


軍部はアメリカ本国を守る以外の戦力を北太平洋浮島に向けた。

そしてアメリカの動きを知ったロシアと中国が慌てて北太平洋ダンジョンに軍を集結させる。


仮想敵国同士が同じものを敵とする稀に見る状況になった。世界が南太平洋浮島を敵として位置付けた。


全世界に敵扱いされた南太平洋浮島、さらにはあのSFのような攻撃防御を浮遊都市に睨まれている状態。


脱法貿易を目標にしていた元海賊たちは諦めなかったが、南太平洋浮島スキル持ちのマーガレット・トンプソンが浮遊都市に脱出。

これをアナザーワールド委員長マグナ・フットが亡命を受け入れた事により、海賊たちは全権限を消失、島を逃げ出した。



「まさかこんな事態になるとは。」

俺はアンジェリーナの隣で南太平洋浮島侵攻の生中継を見ていた。


「わかってはいたけれど、予想以上ね...」

ロシアとアメリカは幾ら攻撃しても批判が起きない南太平洋浮島をもはや軍事アピールをするかのように攻撃をしていた。


ほとんどの海賊は既に逃げるか捕まるかして、ただ浮島のSFチックな攻撃でさえ、俺たちには敵わないんだと言わんばなりに構造物徹底的に破壊していた。


俺は正直、支配人シリーズのスキル持ちとして、かなり気分が悪かった。何度も寄り付いて無駄に施設を破壊しまくる軍に腹が立たない奴はいないと思う。


「チャン、あまり顔色が良くないわね。」

「ちょっとね。色々あったけど、やっぱり無抵抗の浮島を攻撃しているのを見るとね。」


マグナ・フットは南太平洋浮島を自分達の第二の拠点としようと画策しているみたいだけど、それを理事国5ヵ国がそれぞれ言い合いをしてどうにかして浮島の利権を握りたい様子。


南太平洋浮島スキル持ち本人のマーガレット・トンプソンはアメリカと台湾の二重国籍だと言うことが判明。さらには浮遊都市スキル所有者に対して、保護を求めているのがものすごく面倒臭い。


アメリカと中国、アナザーワールド委員会の三つ巴状態が続いている。


俺は本人の安全が確保されている時点で手を出す気はないし、そもそも今回の事件にもうこれ以上関わる気がない。


それにこう言うことは“ごく普通”の高校生が関わることじゃない。


今回が特別で、俺は普通がいいんだ。

素直にそう思えた。


この世界からの報復とも思える攻撃が終われば、世界は再び平和を取り戻す。


誰もがそう思い、実際そうなるはずだった。





しかし、そうはならなかった。




何度も流れる南太平洋浮島侵攻のニュース。

流石にこれだけ何度も同じ映像が流れると、何も感じなくなりついにはふかふかのソファが眠気を誘っていた。


ギルドメンバー各々が終わった怠い戦いに喜んでいた。

ジュースを飲み、ジャックの特製料理に舌を打ったり、ゲームをしたり、イチャイチャしたり。


アンジェリーナに至ってはジャックにひたすらシェイクを作らせては飲んでを繰り返し、頭の上からシャボン玉を飛ばしそうな雰囲気さえある。


俺は愛しの残念な初彼女をベットに届けようと眠い目を擦って立ち上がった。


しかし、その瞬間俺は再びソファに座り込む事になる。


浮遊都市に起きるはずがない大きな地震と雷の音が連続したような轟音が俺たちを襲ったのだ。


ギルドホールにいる全員が叫ぶ中、俺は目の前に示された仮想ウインドウ表示に目を疑っていた。


<<アラート:浮遊都市が攻撃を受けています。シールド飽和率10% 直ちに反撃することを推奨します。>>


警告音が直接頭に響く。どう考えても危ない。

俺は反射的に叫んだ。


「反撃しろー、どうにかしてくれ!」

かなり精神的に来てるものがあって、俺にはもう状況を把握する余裕がなかった。


今度はさらにゴゴゴゴと言う大音量がギルドホールに響き始めた。


全くどうなっているかわからない。

ただわかるのは今の状況が途轍もなく危機的であること。


俺はただ浮遊都市スキルが推奨するままに攻撃を指示するしかなかった。


10分後、南太平洋浮島は沈み、マーガレット・トンプソンは謎の心不全により急死した。


南太平洋浮島を攻撃したアメリカ軍、ロシア軍、中国軍は多大なる犠牲者を出した。



....続く。


ーーーーーーーーーーー


後書き


長い間お待たせしてしまい、すいませんでした。


かなり長い間を開けたせいで完全に設定をわすれてしまって思い出すのに苦労しています。


改めて....



ここまでスキル浮遊都市を読んでいただきありがとうございます。

この後ですが、また少しずつ書き溜めて...と言いたいところですが、気が付いたらお待たせしている方が沢山....本当に申し訳ないです。


なので完成次第どんどん出していこうと思います。


当然この次の話もまだできていません。

でも大体どうするかと言うのは考えていて、あの時に出てきたキャラを出していこうと思っています。


あの時とは...

ただネタバレが嫌なので伏せているだけですが。


まぁ何気なく作中に出ています。


※多分ですよ、頭の中にしかプロットないのですぐに変わってしまうんです。


あ、短編の外伝を1つ挟みます。こちらは書き上がってるのでお楽しみに。


最後に応援していただいている読者様、ありがとうございました。そして各サイトで続きを書くきっかとなった応援コメントを送ってくださった皆様、感謝しています。


そんなわけでまたちょっとずつ書くつもりなので引き続き応援とコメント、評価の方をよろしくお願いします。

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