第49話 エミリア

「それなら、情報は渡さない。


ああ、真斗とゆりを救ってくれたことには礼をいうわ。でも私は情報を無駄にするアメリカ軍には情報を流さず他の軍に情報を流すわ。


アメリカは私にとってお世話になった国だから公開する前に、先に情報を流そうと思っていたのだけれど、私面倒な人とお話しする気はないのよ。」


エミリア船長とアンジェリーナが面倒な言い合いを始めた。

私はこういう無意味な言い合いを見るのは嫌いだ。


エミリア船長はきっとアンジェリーナの研究情報を手に入れたいのは分かっている。アンジェリーナにとっては情報源を教えないのは何よりの優先事項だ。譲るわけがない。


志帆はアンジェリーナとエミリア船長の話を聞きながら自問自答を繰り返していた。


そもそもエミリア船長が欲張りすぎているのか?

いや、ちがう。アンジェリーナは今回の情報を絶対にアメリカ軍の旗艦に伝えてもらわないとこまるのか?


でもエミリア船長が情報を隠して、それが原因で戦況が変わったらエミリア船長にとって大損だ。

いや、逆に不確定情報をむやみに伝えるのが良いとは限らない。


だからこその情報源か、その内容を補強する何かがほしいのか。


旗艦に情報を流したいアンジェリーナと、確実な情報が欲しいエミリア船長。

なるほど、結局情報を渡すのに変わりはないのに情報の信用性を議論しているのか。


でもそんな議論、いつまでたっても結論はでない。

ならさっさと終わらせよう。


「アンジェリーナさん、質問です。答えれる範囲で常時気に答えてください。」

私は言い合う二人の言葉を遮るように大きな声で言った。

私の言葉にエミリア船長との言い合いをやめ、アンジェリーナはうなずいた。


「まず、アメリカに情報を流すのはアメリカを有利にするため、でしたよね?」

「そうよ。その方が私たちにとって都合がいいからね。」

アンジェリーナは私の質問に答える。


「では、この浮島に上陸したのが、アメリカ軍ではなく、中国軍だったら?」

「もちろん、中国に情報を一番にわたすわ。」

そうだろうと思った。アメリカがたまたま浮島の支配人を確保したからアメリカがこの浮島に来た。

だからアメリカに味方する。


要は北太平洋浮島が勝って、南太平洋浮島が負ければいいのだ。そこに国なんて関係ない。


「ではアンジェリーナ、この浮島にロシア軍がきたらロシアにも先行で情報を渡しますとね?」

「もちろん。」

エミリア船長に一筋の汗が流れる。


「ではアンジェリーナ、この船をでてさっさと中国とロシアに情報を渡しましょう。その方が効率的です。


アメリカは中国とロシアだけが手に入れる情報には敏感でしょう。そしてそこに信用度は求めない。国益になる可能性があればアメリカは動きます。


二国が行動してからアメリカに教えるほうが、いまエミリア船長に情報を伝えるよりもアメリカは手っ取り早く動くでしょう。」


「それいい案ね。そうしよう。」

私の話を聞いてアンジェリーナは立ち上がった。


他の国の名前が出てきて、エミリア船長は慌ててアンジェリーナを止める。


きっと、欺瞞工作の一種と思われていたのだろう。

所が、アンジェリーナが面倒になって、アメリカではなく他国に情報を流すといわれて慌てた。


工作ではなく重要な情報だったなら?


「アンジェリーナさん、いちいちエミリア船長に止めらるのも面倒なので、ここで情報を伝えて、それがおわったらすぐに他の国にも公表できるようにしときましょう。


そうすれば、エミリア船長はアンジェリーナの話を旗艦に情報を勝手に渡します。


アンジェリーナさんがもたらした情報が有用で有れば有用なほどに早く、確実に。」


始めから世界に公開する気だった情報。

アンジェリーナさんはアメリカだけに公開はしない。

私の推理が正しければ、アンジェリーナさんはなるべく多くの冒険者や軍人を北太平洋浮島に集め、北太平洋浮島を強制レベリングさせるのが第3段階の目標だろう。だからこそ、作戦前にダンジョンの強化について私に色々質問した。


北太平洋浮島勝利のためにアメリカ軍が動き出す様な情報を渡す。他の国は今アメリカの動きを監視している。少しの変化でもアメリカが何の理由で動くかが知りたくなる。


そこにアンジェリーナさんが世界にアメリカの動く理由を発信する。

アンジェリーナさんが何を用意しているかはわからない。でもアンジェリーナさんのことだからとんでもないものを用意しているはず。


アメリカが動いていて、その理由に足りる事をしていれば信憑性が上がり、世界もそれなりの動きをする。


それが結果的に北太平洋浮島のレベリングにつながり、南太平洋浮島を負かすほどの差ができるのだろう。


アメリカに最初に情報を渡すのは、アンジェリーナさんにとって、何かの理由でアメリカに北太平洋浮島を占有してほしいから。


松ちゃんを守るなら浮遊都市を守れ。

浮遊都市を守るなら北太平洋浮島を守れ。

北太平洋浮島を守りは、アメリカに守らせろ。


アメリカは一度手に入れた土地を手放す事はしない。

きっと、世界最強の軍事力のプライドが許さない。

北太平洋浮島のSFの様な攻撃を手放すこともない。守るためなら何でもするだろう。


私はなんとなくアンジェリーナさんの考えていることがわかってきた。


アンジェリーナさんは、大きく息を吸い吐いた。


「まず、一つ目の情報はもう聞いていると思うけど、敵は南太平洋浮島だけじゃない。私たちも正体は分かっていないけど、支配人スキルを持っている可能性が高いわ。」

「それは浮遊都市と浮島、ダンジョンスキルを持っている人が敵であるということですか?」

エミリア船長はアンジェリーナの情報について質問をする。

すこし、どこか体に緊張感がある。


「そうね、ダンジョン支配人でないことは分かっているけど、それ以外の浮島と浮遊都市はあり得るわ。それ以上は分からない。」

アンジェリーナさんは、浮遊都市も敵ではないけど、あえて浮遊都市もいれた。

浮遊都市もリストに入れないと、アンジェリーナが浮遊都市に味方しているととられるからだろう。


「2つ目の情報ね。でもこれは情報というよりはメッセージね。

これから北太平洋浮島支配人にチャンスがくるわ。具体的に言うと大量のスキルポイントが手に入る。


北太平洋浮島支配人に伝えてほしいのは、ダンジョンのレベルアップにポイントを使うのでなく、そのポイントをすべて浮島のエネルギー強化に使うようにと。


そうすると、南太平洋浮島よりも強い攻撃力と防御力が高くなる。

私の予測だと、代替南太平洋浮島よりも10%ほど強くなるはずよ。」


こんどはエミリア船長の質問は無い様だ。

アンジェリーナは質問がないことを確かめると次は、すこし高級そうな小さな箱をポケットから取り出した。

その箱はまるで指輪が入ってそうな大きさだった。


アンジェリーナはその箱を開けてエミリア船長に見せる。箱の中には赤い小さな宝石が入っていた。


「これは?」

エミリア船長の疑問はもっともだ。そして私もその宝石がなにか気になる。


「これは私が発見した鉱石で、ある特殊な性質があるわ。その宝石に電圧をかけるとレット波とよばれる特殊なエネルギー波を出す。そしてレット波を受けると電圧が発生する。

つまり現行の無線機とは違う法則で無線通信が行える。それにどんな価値があるか、船長にはわかるでしょ?」


は?うそでしょ?

通信は内容が分からなくても通信するだけで居場所が分かってしまう。


だからこそ、無線機以外の通信手段が軍事では生き残っている。

この宝石があれば、敵に察知されずに通信ができるということだ。

これだけで軍事バランスが崩れる。


エミリア船長は唖然とした顔になった。


「そしてこの宝石は北太平洋浮島で発見された。

これが2番目に言った大量にスキルポイントを北太平洋浮島支配人が手に入れれる理由ね。」

アンジェリーナは自分が持っている無線機本体を取り出す。

無線機の電源を切り、持っていたいドライバーで手早く無線機のボディカバーを外す。


無線機の中にさっきと全く同じ宝石が埋め込まれていた。


「このように、無線機をすこし改造するだけで使えるのが特徴よ。」


エミリア船長はすでに反応さえしない。


「情報を以上よ。


いまこの箱に入ってる宝石は、北太平洋浮島のダンジョンに落ちていたもの。今あるのは無線機に入っている10個のみ。これから私たちも宝石を取りに行くつもりよ。」


私はエリミア船長と共に唖然とした顔になっているだろう。

気軽に渡されたこのランドセル。笑われるので少し嫌だなと思っていたけど、世界の軍事バランスを崩すレベルの代物だと理解した時、私は頭が痛くなった。


普通、そんな国を揺るがすようなものは厳重に警戒しながら移送し、どこかに固定されたりして失わないようにするものだ。


それを高校生にこんなに気軽に持たせるのか。アンジェリーナさんに言われて身から話さないようにはしていたが、結構乱暴に扱っていた。


私はアンジェリーナはきっとこのランドセルを本当のランドセルとほぼ同じ価値に見えているのだろうか。


私は胃もキリキリし始めた。

アンジェリーナはスッキリした顔で唖然としたエミリア船長を置いて勝手に船長室を出ていく。私はしずさんに引っ張られながらこの船を後にした。




「エミリア船長、アンジェリーナ博士が船を出て行きましたが、いいのですか?」

エミリアは今激しい頭痛に襲われている。敵に感知されないソナーと通信機を作りました。


アンジェリーナ博士はそう言っているのと同じだ。そしてその原料がこの浮島にあると言う。


「ええ、ちょっとごめん。いまどうやって報告しようか考えているところなの。」

エミリア船長はアンジェリーナ博士がおそらく意図的に置いていった赤い宝石を見る。


私は部下を船長室から遠ざけて電話をする。

電話の相手は大統領だ。

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