第48話 第3段階2 アメリカ軍接触

やった!!俺は生き残ったそーーー!!

と叫びたくなるところだが、今回は普通の運転だった。


全く前を見ずに話しかけてきたりはするが、南側にいくときに比べれば格段に安全運転だった。


今回は俺も神山も酔ってはいない。


「つぎアンジェリーナの車に乗るとき、死ぬ覚悟をしたけど今回は安全運転で助かったわ。」

神山がため息を吐きながら言った。


「え?私いつでも安全運転よ。事故も一度もしたことがないし、サーキットで走ったら車好きの知り合いに、ものすごくセンスあるプロドライバーにもなれそうな素晴らしい運転とほめられたわ。」


俺と神谷と一ノ瀬はそれを聞いて何とも言えない顔になった。


「今回はさっきチャンが酔ってしまったから、今度は車酔いしないように丁寧に走らせたわ。正直あのスリルが全くないのがすごくつまんなったけど、チャンの体調には代えられないわ。」

「アンジェリーナ、できればいつもこの運転がいいな。俺、アンジェリーナのゆっくりの運転好きだよ!!!!」


俺は全力でアンジェリーナを安全運転に導く。

俺は命がけの車には乗りたくはない。


「わかったわ。眠くなるけどなるべくチャンが乗っているときはゆっくり運転することにするわ。」

どこか機嫌がいいアンジェリーナ。これでとりあえず今度からアンジェリーナの車に乗ってしまっても安全だ。



周りには次々と集まる避難民たち。

目の前にはテレビやインターネットでしか見たことがない灰色の船体。


テレビで見た時はそれほど大きくないと思っていたが、実際に見てみるとかなりの大きさだ。


その船が2艇。


おそらくアンジェリーナを探しているのだろう。

アンジェリーナと志帆の通信を聞いていた限り、きっとアンジェリーナは歓待されるだろう。そしてアンジェリーナの到着を今か今かと待っているはずだ。


きっと、どこかに海兵がアンジェリーナを探しているはずだ。


そう思っていたら、避難民の中をかき分け進んで白い制服を着たアメリカ海軍兵らしき人が2人こちらにやってくる。


アンジェリーナはいま博士らしく、白衣を着ている。

実際には白衣はダンジョン装備なのだが、白衣は白衣だ。


海軍兵達はアンジェリーナを見るなり、何か相談している。

おそらくだけど、アンジェリーナが本物かどうか迷っているのだろう。

きっとアンジェリーナが大学にいた頃とか写真なのだろう。なんども手元の写真とアンジェリーナを見比べている。


そりゃそうだ。


アンジェリーナは昔はともかく、今は完全に見た目は女子高校生。実際も女子高校生であるが、きっと彼らが想像していた容姿ではなかったのだろう。


アンジェリーナの2年前の写真を見たことがあるが、16歳とは思えないレベルの老け顔で、少し若作りした教授にしか見えなかった。


俺と出会って気が付いたら、この年齢通りの見た目。


昔のアンジェリーナの写真を頼りに探して見つけたアンジェリーナ。

声をかけるに躊躇するに決まっている。


しばらくして意を決したみたいに俺たちに近づいてくる。


「あのー、アンジェリーナ・サンディ博士ですか?」

アンジェリーナは急に声に声をかけてきた海軍兵を見る。


俺の手を急に握ってくるアンジェリーナ。

「ええ、そうよ。私がサンディ博士よ。バルセロナ艦長のエミリア・ウォーカー大佐に話は通っているはずなのだけど、案内してくださる?」

アンジェリーナはいつもと違う高校生のノリが入った感じではなく、完全にセレブを感じさせるような口調で迎えに来た海軍兵に行った。


「はっ、艦長より連絡は受けております。ご難内します!!」

アンジェリーナに言われてピシッとした綺麗な敬礼をした海軍兵たち。


俺たちは前後に付く海軍兵にエスコートされながら、目の前の灰色の船へと入っていた。


迎えにきた海軍兵は実は偉い人だったのか、すれ違うたびに敬礼をするアメリカ海軍兵が多い。

なんとなく、違う世界に来たような感じがする。


しばらく船内を進むと、船長室と書かれた部屋の前にやってきた。

ここまで案内してくれた海軍兵がノックをしようとすると、その前に船長室の扉が開く。


どうやら、私たちの気配か足音かを聞いて開けたのだろうか。

「ようこそ、バルセロナへ。私は船長のエミリア・ウォーカーです。」

アンジェリーナは気が付いたら俺の後ろついていた必然的に俺が前を歩くことになり、手を出される相手も俺になるのだが....しかたがない。


「こんにちは、俺は盃 松秀です。よろしくお願いいたします。」

と言いながら挨拶した。


唖然とする船長。


ここはきっとアンジェリーナと握手をしたかったのだろうけど、仕方ないね。

神山と一ノ瀬はアンジェリーナの後ろで必死に笑いをこらえてる。


アンジェリーナも顔はしっかり無反応でこらえているが口元がピクついている。


「あのー、アンジェリーナ・サンディ博士?」

あ、俺に向けて手を出したから、俺に握手を求めていると思ったが、アンジェリーナに握手を出したのか。


「アンジェリーナ・サンディ博士、当艦にあなたをお招きできて光栄です。」

こんどは俺を超えて手を出した上に、名指しで握手を求めるエミリア・ウォーカー船長。


アンジェリーナはさっきと違って少し緊張しているようで、恐る恐る握手をした。


さっきの勢いはどこへ行ったのか。

「サンディ博士です。よろしく。」


挨拶も適当になっている。


「どうぞ、艦長室へ。ご友人も先に来ていますよ。」


アンジェリーナは握手が終わると、俺の左手を腕ごとしっかりと抱え、引っ付いて歩く。


一瞬戸惑っていたみたいだが、再び見た目に反した大人な歩き方、余裕を持った笑みで船長室にはいるアンジェリーナ。


もしかして、これはアンジェリーナがエスコートをしろって合図なのだろうか。

とりあえず、背筋をのばして歩いてみるが、たぶん緊張した青年がいい所でアンジェリーナみたいに余裕のあるおとなの雰囲気は出すことができない。


俺は変に緊張してぎこちない動きになる。


「松ちゃん、右手と右足が一緒に動いてるわよ。」

後ろから見ていた神山に指摘される。


それを聞いた一ノ瀬が鼻で笑う。


「やっときましたか、ずいぶんと遅かったので、何かあったのかと心配になりました。」

船長室の真ん中にあるソファーで見た目に似合わないアイスコーヒーを飲む志帆。

アンジェリーナの言いつけ通り、無線中継器を背負っているので、小学生が大人の真似をしてアイスコーヒーを飲んでるようにしか見えない。


アンジェリーナはもしもアメリカ軍に無線を通じて俺たちの情報が伝わってもいけないと言って、浮遊都市にいる間は無線機の電源を切っていたのだ。


そのため志帆は俺たちが浮遊都市で着替えた理由も、これからアメリカ軍に何を見せるかも知らない。


「ごめんごめん、ちょっと無線の電源を切っていたのよ。」

志帆は少し考えて状況を整理しているようだ。


きっと、意図的に無線を切った理由と、俺たちが着替えてからここに来たことから、浮遊都市のギルドホームで何かをしたことくらいは予測しているだろう。


「志帆、何かされなかった?」

俺は冗談っぽく、いいながら志帆に安全と船長との親密度を訪ねる。


「何もされませんでしたよ。それどころかエミリア船長には真斗たちを助けていただきました。


ちょっと困っていることは子ども扱いされることですかね、私が中学3年生だといってもなかなか信じてくれないのです。」


さもありなん。


一ノ瀬と神山は別で用意された椅子に座り、俺とアンジェリーナ、そしてアンジェリーナを挟むようにして志帆がソファーに座る。


目の前のテーブルには3人分のアイスコーヒー。


「助け?ああ、真斗のことだからゆりちゃんが背中に乗っていたから、かっこいいところでも見せようとして無理したのかしら。」

「そうですね。きっとそうだと思います。」


「アンジェリーナ、余計なこと言うな!この無線は俺にも聞こえているんだぞ!」

インカムから真斗の声がする。


「余計なこと?もしかして当たったの?あと、真斗に聞こえているならゆりにも聞こえているはずよ?」

アンジェリーナの返事に真斗は声にならない悲鳴を上げる。今きっと真斗は羞恥心にうろたえているのだろう。


「チャンも真斗みたいにアピールしてもいいのよ?私そういうチャンも見たいな。」

アンジェリーナが急に話を俺に振る。


「いや、むりだよ。俺、無線機でみんなに聞かれた状態でアンジェリーナに告白まがいのことはできないよ。


それに格好つけるといっても、俺よりもアンジェリーナのほうがよっぽどカッコイイ場面が多くてな。」

アンジェリーナはため息を吐きながら首を横に振る。


「あのね。すきな女の子を振り向かせるために一生懸命になるのがみたいのよ。なんか可愛くていいじゃない?」

アンジェリーナが身内トークを始める前に、神山がパンパンと二回手を鳴らす。


「はいはい、アンジェリーナ。そこまでよ、話進まないわ。」

神山に言われてアンジェリーナは少し姿勢を正す。


さっきまで俺たちの言い合いを聞きながらコーヒーを飲んでいた船長がアンジェリーナの話を聞くためにコーヒーカップをテーブルに置いた。


先ほどとは違い、船長室に一気に緊張が流れる。


「たしか、北太平洋浮島の敵は南太平洋浮島だけではない。でしたっけ?」

先に口を開いたのは船長だった。


「ええ、そうよ。でもどこからの情報かは言えないわ。私の研究と関係してくるからね。どこでどのようにこの情報を手に入れたか、一切聞かずにいるなら、私が知っている情報を伝えるわ。そしてこの情報を旗艦に伝えてほしい。」


船長はアンジェリーナをじっと見る。きっと何が狙いか見定めているのだろう。

アンジェリーナは長年研究を発表していない。そしてアメリカ軍を避けてきた。そんな人間が急に条件なくアメリカ軍に情報を渡すなんて、こんなに怪しい情報はなかななか無い。


「旗艦に伝えるのはその情報の信用度によるから、一概に絶対に伝えるとは確約できません。

艦隊の運命は五千人以上のアメリカ兵の運命、中途半端な情報は艦隊を危険にさらす可能性すらあります。聞くだけならいいですが、旗艦に伝える約束はできないです。伝えるか伝えないかは私が判断する問題です。


例えば情報の信用度を上げる情報のルーツがあれば話は別ですが。」


「それなら、情報は渡さない。


ああ、真斗とゆりを救ってくれたことには礼をいうわ。でも私は情報を無駄にするアメリカ軍には情報を流さず他の軍に情報を流すわ。」


いま、アンジェリーナと船長との駆け引きが行われている。

きっと船長はアンジェリーナが出してくる情報なら基本何でも受け入れるだろ。だけど、アメリカが欲しいのはアンジェリーナが持ってきた情報だけではない。

アンジェリーナの研究の情報も欲しいのだろう。


これに対してアンジェリーナはなるべくアメリカ軍が情報を手に入れるほうが、アメリカ軍の勝利の確率が高くなるので教えたい。でも元の情報は俺が浮遊都市スキルを持っていたからこそ手に入った情報だ。ぜったいに情報源を漏らすわけにはいかない。


こうしてアンジェリーナとエミリア船長で、情報をかけた心理戦が始まったのだった。


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