第47話 第3段階1 接触準備
「志帆、今ログハウスに戻ったわ。今どこにいるの?」
「今、私はアメリカの軍艦のバルセロナって船にいます。」
私は突然のアンジェリーナからの通信に驚きつつも答える。
エミリア船長の目の前で通信してしまったが、仕方がない。
インカムをちゃんと浸かっているので、アンジェリーナさんの声は向こうに聞こえず、私の声だけが聞こえているはずだ。
私はアンジェリーナに状況を説明するわけにもいかないので、マイクの感度を上げて周りの声も拾う様に調整する。
「あなたのお仲間の通信?」
「はい、そうです。何人かで分かれて行動していたので。」
「それにしては今の状況をわかっていなかったみたいだけど。」
「さっきまで無線がつながらなかったので、こちらの状況を知らないのでしょう。
真斗たちが空母にいることも、鈴たちが空港からこの船が停泊している北の港を目指していることも。」
ジャックとさくらは避難民に紛れてバルセロナに乗ったようだが、この情報をエミリア船長の前で今口にしていいかわからない。
「志帆、状況はなんとなく察したわ。まさかアメリカ軍の船長に会っているとは思わなかったわ。
ちょうどいいから今言う言葉を伝えて頂戴....。」
エミリア船長は私が通信している時は黙っている。もしかして聞こえているのだろうか。
私は不安になってインカムの音量を少し下げた。
「今度はどんな通信だったの?」
エミリア船長は私に優しい表情で聞いてくる。
「とりあえず伝えて欲しいと言われたことは、今回の北太平洋浮島の敵は南太平洋浮島だけではないらしいです。
あと、これについて詳しい話をしたいので、話をする場所を設けて欲しいと。」
「誰がくるの?」
「アンジェリーナです。」
鉛を言ってもいいと言われたので、私はアンジェリーナさんの名前を伝えた。」
その名前を聞いた途端、エミリア船長のお姉さんのような余裕にある笑顔が失われた。
「もしかして、アンジェリーナ・サンディ?」
「え...はいそうです。アンジェリーナ・サンディです。」
エミリアが驚きの表情を隠せないでいる。
「あなた、アンジェリーナ・サンディがどのような人物か知っているの?」
「ええ、はい。私たちのリーダーですから。」
私は急に緊張し始める。
相手はアンジェリーナさんを知っている。秘密の呪文である程度の秘密は守られて、例え話してしまっても他人には聞こえない。しかし言葉というのは周りに単語である程度予測がついてしまうことも多い。
気をつけてなければ。
「アンジェリーナ・サンディ。今ダンジョン研究で1番進んだ研究をしていると言われている人物よ。
ダンジョン関連の博士認定時に出された論文はダンジョン研究に大きな影響を与えたわ。理論研究でここまでの衝撃を生んだのは初めてだと、知り合いの研究者が言ってたわ。
それなのに博士になったあと、その研究内容を一切公開せず、特許も出さないから、誰もどこまで研究が進んでいるかわかっていないのよ。
噂によるとアメリカ軍に利用されないために研究を画していると言われていたのに、まさかアンジェリーナ博士からコンタクトが来るとは思わなかったわ。
ちょっと時間がかかるかもしれないけど、あなたの仲間がみんな集まったら、旗艦に向かうわ。そろそろ避難民用の船室も満員になるでしょうし。」
私は忙しくいろんなところに電話し始めるエミリア船長を見てるしかできなかった。
アンジェリーナさんってアメリカ軍が配慮するレベルのすごい人だったの??
私はそう思わずにはいられなかった。
ーーーーーー
「あー、ちょっと後悔だわ。あんまりアメリカ軍に関わるつもりはなかったけど、手取り早いから思わずアメリカ軍艦に行くと言ってしまったわ。」
アンジェリーナは深いため息を吐いた。
「それなら今から断ったら?」
俺はアンジェリーナにそう言うが、
「無理よ。私これでもアメリカのダンジョン研究界隈では有名だもの。私がこの浮島にいると知った時点でアメリカ軍がお迎えにくるわよ。
そんな状況で転移で逃げると私のスキルへのヒントを渡すようなものよ。
こうなったら行くしかないわ。」
アンジェリーナは腹を括ったようで、自身の頬をパンパンと二回叩き、ログハウスから出ようとする。
「待ってくださいアンジェリーナさん。」
一ノ瀬がアンジェリーナを止める。」
「このTE01改を持ったまま行くんですか?これアメリカ軍に見せるのはあまりよろしくないのでは?」
「確かにそうね、あまり他の人には見せたくないわね。アメリカ軍にこの特殊ダンジョン武器が知られると、最果て鍛治ギルドのギルマスにキレられそうだわ。
....いえ、結局はため息で許してくれるかもしれなけど、でも必要のないリスクは犯すべきではないわね。
一旦ギルドに戻ってTE01改を置いてきましょう。ついでにダンジョンの攻略準備もするわよ。
手抜きなしで本気の攻略をするわよ。チャン、ポーション刀とポーション銃、全部中級毒ポーションを使いましょ?
時間をかけれない攻略になるわ。」
「わかった。」
俺はそう返事したが、何をするのか知らないので不安になった。
俺はあの作戦説明の時に寝落ちしてしまったのを後悔した。
神山はひらひらの青ドレスだが、いつもと違い少し胸が大きい。
体全体のバランスは良くなったが、本当にそれでいいのか神山?
アンジェリーナは白衣がメインのダンジョン装備だが、白衣の中身が少し変わっている。神山を意識したのか、腰のくびれがしっかりと出るタイトなシャツで、黒色のひらひらとしたロングスカート。レイピアは腰とオートマチックハンドガンが2丁腰のホルダーに目立たないようについている。
一ノ瀬は全身迷彩柄で、いつものカスタム狙撃銃。
おれもいつものトンビコートだにポーション銃とポージョン刀だ。
アンジェリーナが何か袋をもってきた。
「アンジェリーナ、それは?」
「ああ、これはダンジョンにばらまく予定の餌よ。見てみる?」
アンジェリーナは俺に袋の中身を出して見せてくれる。
中身は赤い宝石だった。大きさは大体小指の爪くらいの大きさで、三角形の面だけで作られた正八面体構造だ。ピラミッドの模型2つを用意して、底を引っ付けたら丁度このような形になるだろう。
この赤い宝石がジャラジャラと袋の中に入っているようだ。
「これが何の餌になるの?」
神山が宝石をみていった。
「うーん、簡単に言うとこれを使うと、強力な無線機を作れるようになるわ。この宝石に電圧をかけると、一種のエネルギー波を放出するのよ。そしてそのエネルギー波は同じこの赤い宝石で受け取ることができる。
つまり、現行の電波ではない新しい電波をつかった通信機をつくれるのよ。そして、この通信はこのレットクリスタルエネルギー振動子がなければ受信も送信もできない。盗聴もそこに電波があることさえ、分からないのよ。
世界中の軍や新しい技術を求める企業が欲しがるものね。
本当はいざって時のために切り札として残しておくつもりだったけど、今回の作戦が成功させるためなら使うわ。これでチャンが死ぬ格率が減るなら儲けものよ。」
なんとなく、その宝石の価値がわかったような、わかってないような。
「志帆に渡した中継器を東京スカイツリーの頂上に置くと、関東平野くらいなら余裕でどこでも通信できるようになるレベルのエネルギー波が出るわよ。エネルギーパックで最大500kmを送受信できるから余裕ね。もしかしたら大阪と東京で通信できるかもしれないわ。」
アンジェリーナが細く説明してくれた。
うん、その宝石がとてもすごいことは十分に理解しました。
俺の顔をみて、アンジェリーナがうんうんと満足そうにうなずく。
「そんな宝石をダンジョンにばらまいてどうするの?それにその宝石希少じゃないの?」
神山の顔はそんなことしてもいいのかと、言っている。
「うーん、希少といえば希少だけど、私にとっては希少ではないわ。だって、これ私がつくった人口ダンジョン鉱石だもの。」
アンジェリーナの言葉に俺と神山はポカンとした顔になる。
「この袋に100個ずつ、2袋で200個はいているわ。そして、こっちの綿に包まれた高級そうな箱に入ってるのが、アメリカ軍に見せる用のデモ用宝石。
私はこれからこれをアメリカ軍に使い方を見せに行くわ。
そしてそのあと大急ぎで浮島に戻ってダンジョン探索をしながらこの宝石を撒いていく。
本当はアメリカ軍に使い方を見せる前にばら撒きたいところだけど、もしもこの宝石の作り方をもうすでに知っていたりして、興味がなさそうならまた別の餌を用意しないといけなくなるわ。
希少性がないものをダンジョンにばら撒いてもただのゴミをばらまいたのと同じになってしまうからね。
出来ればこれ以上の手札は切りたくないから、これで成功することを祈るばかりね。」
きっとアンジェリーナが作ったこの宝石はアナザーアイテムに分類されるものだろう。
探索者はこのアナザーアイテムを求めてダンジョンを探索する人もすくなくない。
アンジェリーナはそれを自分で合成してしまった。
俺は自分の中の常識というものが、ゴリゴリと削られていっている気がした。
ふたたび俺たちはログハウスに転移してきた。
アンジェリーナがログハウスの扉を開ける。
「あ、しまったわ。ここから北の港までかなりの距離があるわ。なにかいい乗り物はないかしら。」
アンジェリーナの言葉に俺の危険感知センサーが働く。
アンジェリーナがログハウスの裏の道路にでてキョロキョロと周りを見渡し、何かを探しているようだ。
いや、何を探しているかは正直分かっている。ただ、俺は理解したくない。
あの恐怖を1日2階も味わいたくない。
分かるだろうか、ロータリーがあるたびに、急ハンドルで重力がかかったと思えばすぐにその重力がふと無くなり、景色が前から後ろではなく、左から右、右から左に流れる感覚。
ここは右側通行なのだが、アンジェリーナは日本でよく運転していたらしく、左側通行になれていた。そのせいで道路の左側を走るのでなんどか正面衝突をするところだった。
一番怖かったのはロータリーを時計回りに回る所を反時計回りにドリフトで回って、他の車と衝突しかけた時だったな。
いや、メーターが150キロを超えているのに、車に酔った俺を気にして片手運転の上に、俺ばかり見て全く前を見ていなかったときかな。
どちらも命の危機だった。
俺はアンジェリーナに徒歩で行くよう提案しようと近づいたとき、アンジェリーナがうれしそうな顔で、
「あったわ、いいところに車があるものね。これもキーが座席に置かれているみたいだから、すぐに使えるわ!!。」
と言って飛び跳ねながら俺に報告した。
車のドアを開けて、エンジンを吹かすアンジェリーナ。
「良い音ね。これなら北の港まですぐに着きそうね。さぁ、乗って!!」
アンジェリーナの元気そうな顔に俺たち3人は首を横に振ったが、結局時間がないということで乗ることになり、俺が酔いやすいという理由で助手席、あとの神山と一ノ瀬は後部座席に座らさせた。
すでに神山の顔は青い。
「神山って車に弱いの?乗っただけで顔が青いわよ。」
アンジェリーナ、それは車に弱いのでなく、アンジェリーナの運転に弱いんだ。
とは言えなかった。
一ノ瀬は何かを悟ったように、一心に自分の愛用している狙撃銃を磨き始めた。
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