第46話 第2段階A班2 一ノ瀬

一ノ瀬が一発ずつ引き金を引く。

するとブリッジでは攻撃されたので、銃弾が当たりにくいように回避行動をとるため、ボートが慌てて進路を変える。


一ノ瀬は冷静に船のエンジンである船外機を狙って撃つ。

ボートは見事に故障して停止する。


それを助けるために別のボートが救援に向かう。

そのボートの船外機も長距離射撃で狙って当ててしまう一ノ瀬。


「一ノ瀬ってこんなに狙撃がうまかったのね。」

アンジェリーナは次々と航行不能になるボートを見ていう。


「こんなのダンジョンの飛行形モンスターに比べれば簡単ですよ。ボートはある程度進む方向もわかってますし、的も大きいですから。それにこのアサルトライフル、狙撃銃でもないのに着弾のバラツキすくないから使いやすいです。」

一ノ瀬はエネルギーパックを交換しながら言う。


「銃のことについてはあまり詳しくないけど、最果て鍛冶ギルドのアルさんやガッツさん達に予算を考えなくていいからトップ性能のTE01にしてって注文したから、性能はとてもいいはずよ。


そのせいかTE01改に掛かっている価格が桁違いだから、それなりに性能が良くなければ困るわ。」

アンジェリーナが桁違いと言うレベルのアサルトライフル型のダンジョン武器か。


俺は値段を聞くのが怖くて、今回は聞かないことにした。

一ノ瀬はアンジェリーナの桁違いの値段と言うのを聞いて、TE01改を丁寧に扱う。


俺はポーション刀の切れ味を思い出す。

岩でもなんでも切れるあの恐ろしい切れ味。それを作ったアルおじさん達の予算自重なしの作品。


俺は今もの凄く、最果て鍛冶ギルドのギルマスの胃が痛くなる気持ちがわかる。今回はアンジェリーナという客がいたからよかったものの、このレベルの物を気分で作る鍛冶職人だからな、あの御方達は。


上陸部隊は次々と壊れるエンジンに戸惑いを感じているようだ。


通常、7.62mm弾で狙撃できる範囲は大体600mくらいらしいので、海岸から2km以上あるので狙撃されているということに気づかないにだろう。

海上を双眼鏡で探している。


一ノ瀬は戸惑ってその場を右往左往するボートにも容赦なく撃つので、ボート群はエンジンを止める敵を探すのを諦め、そのまま浜に上陸できるボートから上陸することに決めたようだ。


そして何人かがボートを飛び出して空へ。


この状況なら無難な選択だろう。


「アンジェリーナさん、20艇くらいはエンジンを止めることができましたが、ほとんどのボートはそのまま上陸しそうです。」


一ノ瀬は銃弾とエネルギーパックをリロードしながらアンジェリーナに報告する。


「十分よ。今度は飛行系統のスキル使いを最果て弾に切り替えて撃ち落とすのよ。」


アンジェリーナに言われて船の狙撃から、人への狙撃に切り替える一ノ瀬。銃弾も通常弾から最果て弾へ。


最果て弾7.62mmは通常のダンジョン武器用の最果て弾と異なり、人にも影響を与える。

具体的には防弾チョッキ有無にかかわらず、当たれば気絶するだけで、当たりどころが悪くても死なない。


通常の7.62mmNATO弾が使えるならば、ほとんどの銃で使えるので、最果て弾7.62mmを採用している軍は多いが、一ノ瀬が持つTE01改を使うとチャージして撃つことで狙撃もできるのでその分だけこちらが有利だ。


一ノ瀬が引き金を引くと、気を失った原因にさえ気づかずに気絶し落ちていく上陸部隊が一人増える。


何人か撃つと流石に狙撃されていると気付く。


どこから撃たれているかわからない狙撃は怖い。

急に上陸部隊の動きが鈍くなる。


狙撃は飛距離の影響で通常弾が使われることが多い。つまり撃たれたら死ぬ。

上陸部隊に緊張が走る。


浜に複数の船が上がるも、ゆっくりしか出てこない。

一ノ瀬は無駄に腕がいいので、ゆっくりと出てきたところで眉間に当ててしまう。


最果て弾は怪我をさせずに無効化できる銃弾なのだが、チャージして撃っているため、撃たれた着弾箇所に軽い怪我をする。


そうすると死んでないのに、眉間を撃ち抜かれた死体に見える。

上陸部隊はさぞかし恐怖だろう。


スナイパーは動く的は撃ちにくい。

弾が飛んでくる浜から道路に出る階段までは走れば当たらない可能性が高い。そして浜と道路の間には高い壁がある。そこなら狙撃の可能性は低いし、実際一ノ瀬は撃つことができない位置だ。


浜に上がった船の1つから1人が飛び出し、走って浜を越えて道路前まで行く。


道路と浜の間には2mを超える高さの差がある。

きっと浜を走り切った上陸部隊はそこに隠れている。


それを見ていて勇気が出たのか、最初の人が合図したのか、さっき飛び出しがあったボートから一斉に十何人が飛び出してきた。


一ノ瀬は集団に向かって撃ち、2人ほど浜で気絶させる。

そして3人が地面に吸い込まれるようにドラム缶に落ちた。


俺は単眼鏡でそれを見ていたのだが、ドラム缶に落ちる時の顔が変顔になっていたのでクスッと笑ってしまった。


「どうしたの、チャン?」

俺の小さな笑い声を聞いて俺を見るアンジェリーナ。

「いや、ちょっとドラム缶落とし穴に落ちる時の顔が変顔で面白かっただけ。」

「それなら出てくる時の方が面白いわよ。」

アンジェリーナはニヤリと笑う。


そういえばドラム缶にも仕掛け、いや嫌がらせでペンキを入れておいたのだ。


ドラム缶から出てきた3人。

赤色、黄色、茶色とそれぞれ全身がペンキ塗れになっている。


茶色は色が悪く、肥溜に落ちたみたいに汚い。

茶色に染められた人はきっと狙撃はもちろん、攻めている事を怒りで忘れているにだろう。


持っていた小銃を思いっきりドラム缶投げつける。

ドラム缶の縁に当たって小銃の一部の部品が周りに散らばる。


「FU○KKKKKKKkK!!!!!!!」


きっと渾身の怒りで大きな声で叫んだのだろう、俺たちの場所までしっかりと聞こえた。


俺とアンジェリーナと神山は思わず拭いてしまう。


怒り狂った兵士の眉間に一ノ瀬が冷静に引き金を引き、最果て弾を撃ち込む。

そのまま後方へ倒れてドラム缶の中へ再び落ちていく汚い茶色。


俺とアンジェリーナと神山は耐えきれなくなって笑ってしまう。


「え?僕何かしましたか?」

「いえ、何もないわよ。一ノ瀬は気にしないで。」

「....?」


赤色と黄色の上陸部隊はドラム缶から素早く這い上がり、そのまま浜の端まで逃げた。


この一連の状況を見ていた他のボートに残る上陸部隊たちが一斉にボートを飛び出し、浜の端まで走る。


何人かはドラム缶に落ちてペンキ塗れになり、何人かは一ノ瀬に狙撃されて砂に倒れ込むが、数はあまり減っていない様に思う。


「アンジェリーナ、本当にこれ、大丈夫なの?

混乱するどころか一致団結してるように思うんだけど。」

「...そうね。

でも混乱させるのは侵攻速度を遅くするためだから。


海の上にもまだまだ動けないでいる船がいるから一斉攻撃でなくなったし、厄介な飛行能力系スキル持ちを撃ち落ちせたのも大きい。


さらに死なないとはいえ、ブービートラップにも警戒しなければならないからかなり侵攻が遅くなってる。


作戦は失敗したけど、結果オーライね!


日本のことわざで“結果良ければとりあえず良し”と言うし。」

アンジェリーナ、それ“最後が良ければ全て良し”の間違いでは?


「あとはこの灯台を含めた三箇所のブービートラップに引っかかるか見たいところだけど、そこまで待つと本当に銃弾がここに飛んできそうだわ。


そろそろ引き上げましょ。」



全員がアンジェリーナに捕まった。アンジェリーナはログハウスへと転移する。


ーーーー


俺は黄色と呼ばれている。

もちろん、元々そう呼ばれていたわけではない。


ドラム缶に落ちて黄色のペンキ塗れになったからだ。


狙撃の中、潜入先の隊長に走ってこいとジェスチャーで支持されて仕方なく走った。そこ結果、俺は黄色のペンキが入ったドラム缶に落ちた。


耳元で弾が頬のギリギリをかすめて血が出た。

俺はきっとドラム缶に落ちていなかったら、狙撃されてからた。


俺はすぐにドラム缶から這い上がり、隊長がいるところまで走った。




全身黄色のままで。



俺は今すぐ帰りたくなった。しかしこれも任務なので帰るわけにはいかない。


「おい黄色、大丈夫か?お前のAKもう使えないだろ?」


隊長が俺の持つペンキ塗れのAKを見てそういう。

AK-47は少々のことでは壊れないが、流石にペンキ塗れで撃てるとは思えない。


「はい、流石に撃てないと思います。」


俺は黄色くなったAK-47に安全装置をかけてそのまま適当な場所に放置する。


ついでに着ていた南太平洋浮島の迷彩柄の軍服も脱ぐ。黄色のペンキは目立つので、これならば着ない方がマシだ。


幸い内ポケットに入っていた予備のハンドガンは使えそうだ。


俺はこれからこの格好で戦わないといけないのか。


俺の今の服装は黒のボクサーパンツに、黒い袖が長いシャツ。


ボクサーパンツのゴムに2丁あるハンドガンのうち、1丁が挟んである。黒の長袖シャツの胸ポケットには何発かハンドガン用の9mm弾が入ったマガジンの予備があるが、3本しかない。


靴はペンキ塗れで気持ち悪いがそのままだ。靴底に身分証を隠しているから脱ぐわけにもいかない。


「階段を上ったら再び狙撃される可能性がある。絶対に留まらずに俺について来い。黄色、今度は落とし穴に落ちるなよ?」

隊長はそう言って階段の方へ向かう。


階段の前に海藻がある。さっきは海藻でドラム缶が隠れていた。

隊長はそれを見ていたんだろう。


ドラム缶が仕掛けていそうな海藻を飛び越えた。


どうやら海藻が置いている場所ではなく、そのすぐ先にドラム缶の落とし穴があった。

「うぁぁぁ!!」

野太い男の悲鳴をあげながら隊長はドラム缶に落ちていった。




きっと隊長のあだ名は緑になるだろう。


隊長はどうやら落ち方が上手だったらしく、下半身ズボンまでが緑になった。


「ったく、誰だよこんなの仕掛けた奴。」

ドラム缶から這い上がる隊長。


俺の間抜けな格好にはなりたくないのだろう。

幸い付いた色が緑ということもあり、隊長は脱がずにそのまま行くことにした様だ。


俺たちは階段を駆け上がり、浮島の内側に向かって全力で走る。


隊長はどうやら灯台が目標らしく、俺たちもそれについていく。

狙撃される可能性が高いが、こればかりは仕方がない。


それにしてもあれほど狙撃されていたのに急に狙撃されなくなった。場所移動でもしているのだろうか。


俺は走りながらふと目標地点の灯台の上部を見る。


人影が見える。たまたまだが、おそらくスナイパーだろうか。

俺はその様子が気になって、他の人に気づかれないようにチラ見で様子をうかがう。


俺はスパイだ。敵の部隊に紛れて南太平洋浮島軍がどのような動きをしているかアメリカ軍に伝えるのが任務だ。


つまり俺を撃った灯台の上にいるスナイパーらしき人は味方である可能性が高い。

そしてその味方はきっとまだ俺たちに気づいていないだろう。


上陸部隊の情報も十分に本部に送ったので、もうすでに好きなタイミングで任務をやめることができる自由撤退命令をもらっているので離れても文句は言われない。


俺は灯台の中で適当にはぐれたふりをしながら、屋上の味方であろうスナイパーを助けに行くことにした。



俺は灯台の壁に張り付く。

俺が潜入した部隊の目標は、北太平洋浮島にいる一般人を無傷で多く南太平洋浮島に連れて帰ることだ。これは船長とよばれれるこの軍の命令権をもつ人物が直接出した命令で、最優先らしい。


人をさらうなんてしたくなかったので、ある意味ちょうど良い機会だ。

適当に人を助けてそのまま帰還しよう。


船長室になるべく留まる様に妻のエミリアには言っている。浮遊都市が南太平洋浮島に攻撃するまではスキルで脱出出来なくなっていたので少し慌てていたが、今はすぐにでも脱出できる。


俺は灯台の入り口の扉を勢い良く開けた。

扉の前に置かれたマットに何か仕掛けをしていたのだろう。


俺の視線は強制的に天井に切り替わり、身体が重力に従って落ちていく。


「わーーー!!!」


情けない声をあげながら後頭部を強く打ち付ける。

床はコンクリートだ。


あまりの痛さに床を転げまわっていると、ピンがとれたグレネードらしきものを見つける。


俺は慌てて壁の端まで逃げるが、どうやらスモークグレネードらしく。あたりが白くなるだけだった。


ブービートラップ。


こんなものに引っかかる奴は馬鹿だと思っていたが、まさか自分が引っかかるとは。


そう思っていたら、今度はバババババババババと強烈なマシンガンを撃った時のような銃撃音に似た炸裂音が響く。


俺は慌てて壁の隅に飛び込む、頭を抱えて伏せる。中に入ろうとした部隊も慌てて扉を閉める。


ここで死にたくない。


灯台の屋上にいた味方には申し訳ないけど、俺はここで脱出することにした。ここにいる住民はかなり武装しているので、きっとそう簡単には囚われないだろう。


俺はエミリアにつけたマーカーを頼りに、ひとり単独で転移した。










あの銃撃音はアンジェリーナが仕掛けた爆竹だったのだが、それを知るものはここにはいなかった。


黄色が転移した後、灯台の窓から炎が上がった。

アンジェリーナが上階の床にばらまいたガソリンが気化し、それが灯台の中全体に回っていたようで、塔内で大爆発が起きたのだ。


きっと黄色はあのタイミングで転移して逃げていなければ確実に死んでいただろう。

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