第44話 第2段階B班2 空港と暴走ドラゴン真斗くん

空では真斗ドラゴンが敵を足止めしている。


空港ではパニックが起きていたが、どうにかドラゴンが敵ではないことは伝わっているようだ。


避難してきているほとんどの人は戦闘系スキルではない。私のように水上歩行のように普段は役に立たないスキルを持った人は大多数なのだ。


変身系や攻撃系のスキルはそれだけでこの場ではリーダーになれる。


「お嬢さん、よくここまで避難できたね。」

話しかけてくる男。いつも使っているダンジョン武器のハンドガンとナタナイフを持っているが、弱い存在と思われているようだ。


「避難しにきたわけではありません。情報を伝えにきたのです。」

私が高校生だろうか、女だろうか完全に舐められている。

「わかったから、とりあえず向こうのみんなが集まっている避難場所にいきな。」

普段は気にしないが、せっかく情報を持ってきたのに不愉快だ。


「北の貨物ターミナル港に船が来ます。空港は一番狙われやすいから危険です。すぐ空港から離れてください。」

「えーとね、お嬢ちゃん。危険なのはわかっている。だから俺たち最果てパートナーズがここを守ってるの。いいかい、変な情報をばら撒いてパニックを大きくするなよ。」

ケラケラと笑う男。


最果てパートナズ?なにそれ?

明らかな最果て鍛治ギルドのパクリじゃない!!


アホみたい。そんなギルドに所属してなにが楽しいの?

それにせっかく人が親切に来たのにあの態度、ものすごく腹が立つ。


「あのね、パクリギルドに所属してなにが楽しいのかは知らないけど、私は冗談を言いに来たのではないの。さっさとしないと私のギルメンが戦っている意味がなくなるのよ。


あなた達は好きにそこで優雅な守備兵を演じていたらいいわ。


私はこの情報が必要なみんなに伝えに行くわ。」


私は空港の奥にいる避難してきた住人や観光客の方へと向かう。


私が腹が立って喧嘩を売ってしまったのが悪いのだが、後ろから剣を抜き襲ってくるのは反則だろう。


私はナタナイフを抜いて、剣を受け止める。


「あのな、最果てパートナズはそれなりに有名なんだよ。俺のギルドにケチをつけるな。」

「ああそう。最果てパートナズさん。名前がパクリなのは本当じゃない。」


最果てパーティギルドも最果てをパクっているので人のことは言えないが、そんなことは関係ない。


「最果てがつくギルドなんて山ほどあるぞ。名前が同じって言うだけでパクリって言うな。」

「最果てを使うギルドは確かにたくさんあるわ。でもその全てのギルドが最果て鍛治ギルドの最果てをパクってつけたのは事実でしょう?」

一種の自虐なのだが、きっと相手にはわからない。

最果てブーメランが鈴の心を密かに攻撃する。


「俺が名付けたわけじゃ、しかし俺のギルドを侮辱するのは許さない。これでも北太平洋浮島では有名ギルドなんだよ。」

「あら、ごめんなさいね。あなたのギルドには謝るわ。でもあなたに謝るつもりはないわ。それにそれってただの地方ギルドじゃない。」


なんだなんだと、おそらく同じ最果てパートナーズのメンバーだろう人が集まってくる。


「おい、ここで刃物を使って喧嘩をするな。」

リーダーらしき人が、私に切り掛かった男に言う。


「あ、ちょうどいいところに来ましたね。いま浮島の北側の港に船が来ますのでそれを皆さんに伝えてもらえませんか?」

男が斬り返しをするが、男の腕では私は余裕で受け止めれる。


はっきり言って弱すぎる。志帆との訓練ならこれの5倍の速度で攻撃してくる。


「おい、俺を無視するな。」

「うるさいのであまり吠えないでください。いきなり女の私の背中に斬りかかったのにあっさり受け止められて悔しいのでしょうが、今は緊急事態なのであなたを相手している時間はありません。」

私は言うことが言えてとても心がスッキリした。


さらにヒートアップして剣を振り回す男。

私は突撃してくる男の剣を受け流し、スルーしていく。


「あの、とりあえず港の方へ避難をお願いします。」

「お、おう。わかった。」

リーダーらしき人は避難民をバスに誘導していく。


私はだんだんこの男を相手するのが面倒になってきた。


「おーい、鈴。」

どうやら森も空港に到着したようだ。


「鈴、何してるんだ?稽古でもつけているのか?」

森にはそう見えるらしい。


「この男が突っかかってくるのよ。」

それを聞いた森はずかずかと私の前に立ち、男の刀を取り上げて地面に押し付ける。


さすが怪力スキル。


森はたまにこういうカッコいいことをするのよね。

これは静ちゃん惚れるわ。


「おいちょっと待て、そいつは俺の仲間だ。」

男を庇うさっきのリーダー。


「ああ、すいません。仲間に剣を向けていたのでつい。」

森は男を開放する。


「おい、なんで暴れたんだ。」

男に怒るリーダー。きっと避難誘導が進み始めたのでこっちに来たのだろう。


「最果てを馬鹿にされたからです。最果て鍛治ギルドのパクリだって。」

「いや、最果てパートナーズの最果ては最果て鍛治ギルドから取ったものだから、間違っていないだろう。」

リーダー真っ当。


「そういえば俺たちのギルド名も最果て鍛冶ギルドから取ったんだよな。」

さっきまで男に対してパクリと言っていたので、そのブーメランが恥ずかしさプラスで私の心に刺さる。


「いやー、さすが本元の最果て鍛治ギルドの傘下ギルド、最果てパーティギルドさんですね。情報提供感謝します。我々だけでここに止まるのは危険だと言っていたところなのです。」

リーダーはとてもまともな人だった。


ーーーーーーーーーーーー


一隻のアメリカの国旗を掲げたイージス艦らしき船がこちらにやってくる。


あまり軍隊には詳しくないが、日本の自衛隊の船に少し似ている。


ラジオ放送が成功したからか、ここに集まってくる人が多くなってきた。バスも車もどんどんこの港にやってくる。


イージス艦が近づくにつれて港では大きな歓声が上がる。

「おーい、こっちだー。」

「生き延びたぞー。」

「これで助かる!!」


船が近づき、細いロープが投げられる。

誰かがそのロープを引っ張り、太いロープを船から引っ張り出す。そして港にある赤いチンアナゴのようにくねった突起物にかけた。


船の後方も同じように太いロープがかけられる。

船からタラップ(船を乗り降りするための橋)が出されると、船に船員が武器を背負って出てきた。そして港に降り立つ。


「皆さんお待たせしました、お急ぎお乗りください。念のため乗船の際に武器だけは持ち込まないでください。軽い持ち物検査後乗船ください。最優先はお子様をお連れの家族です。次に身分を証明しやすい個人カードやパスポートをお持ちの方優先とさせていただきます。」

メガホンで誘導する海軍の制服をきた女性兵士。

アメリカの旗が掲げたれた船はきっとここに辿り付いた避難民にとってとてつもない安心感を生んだ。


いきなり戦争に巻き込まれて、島を出ていくための手段は残されていない。

飛行機も船も全て他の人が避難するために使ったので、脱出する手段が一切なかったのだ。

泣きながら船に乗っていく人も多い。


私たちがやったことでこの人たちは助かるのだけれど、純粋に助ける気持ちで助けたわけではなく、別の目的のためにやったことなので少し後ろめたい気持ちになる。


避難民が使うタラップ以外にもう一本タラップが出される。

どうやらこちらは船員用みたいだ。


「皆さん、アメリカ軍の船が到着しました。アンジェリーナさんの作戦通り、なるべく早く戻ってきてください。」

私は無線で全員に状況を伝える。もちろんA班のアンジェリーナたちにもだ。


「志帆さん、今空港付近の海上で交戦状態です。できたらアメリカ軍にそれを伝えてください。2人は真斗さんが倒しましたが、1人がフェアリー系の変身スキル持ちで、真斗さんでも苦労しています。

船が一隻空港の方に向かっているのですが、止めれません。」


私は慌ててアメリカ兵の方に走るが、全員が忙しくしていて話しかけることができない。

作戦では無理な交戦はぜす、危険ならすぐに逃げる予定だった。きっと真斗のことだ作戦をしっかり聞いていなかったのだろう。


私は仕方がないので、アメリカ兵の上陸部隊が使っている方のタラップに向かう。

「すいません、今すぐ伝えてください。空港に南太平洋浮島の武装船が近づいているって。」

私は真斗ドラゴンが翼を動かしたり、ブレスを吐く音をイヤホンから聞きながら言った。


「それは知っている、だから今から空港に行くんだ。」

緑色の迷彩柄をきた兵士が歩きながらいう。


「私の仲間が戦ってるんです。」

私は必死そう言ったら、その迷彩柄をきた兵士が急に私を抱えた。

「今すぐ船長に合わせる、話はそこでしろ。その情報は我々にとってとても必要な情報だ。」


小さな私を抱える男はそのまま船内を全速で走る。

「おい、子供連れかよ。なにやってんだよ。」

おそらくその男の同僚だろう。笑うそいつらに。

「緊急事態だ。あの空中戦の情報を持っているらしい。」


それを聞いた同僚らしき兵士が走って追いかける。


「船長、ターナー曹長です。緊急案件です。」

「入れ」

「失礼します。」

私はそのまま船長室に入った。


「ターナーどうした。....驚いたこの子は私達に懐中電灯でメッセージを送った子じゃない。

エミリア・ウォーカーよ。イージス艦バルセロナの艦長です。よろしく。」

私は出された右手を握り握手する。


「ターナー、緊急案件ってなに?」

「とりあえず子にこの話を聞いてください。」


「私は最果てパーティギルドの玉城志帆です。

今さっき、仲間から空港に武装船が上陸しそうだと連絡を受けました。

従兄弟の真斗は今ドラゴンに変身して、南太平洋浮島の武装船から出てきたフェアリ系のエルフと戦っています。

武装船一隻は真斗が沈めましたが、一隻は止められなかったそうです。


空港にはまだ避難民が多く、バスが何度か往復していますが、後20分は避難にかかる見込みです。


私達では守りきれません。助けてください。」


エミリア艦長は私の話を聞くと、目を大きく見開き驚く。


「詳しい話を聞きたいわ。でもその前に、ドラゴンの方が味方なのよね?」

エミリア艦長は私に再確認した。


「そうです、ドラゴンが味方です。背中に女の子を乗せています。」


エミリア艦長はどこかに電話する。

「バルセロナ艦長ウォーカー大佐です。空港上空付近の空中戦ですが、ドラゴンが味方です。ドラゴンが味方です。....はい、こちらで日本人らしき民間人1名を保護、これから詳しい事情を聞きます。...わかりました。」


エミリア艦長は私の前に戻ってくる。


「ターナー曹長、作戦通り空港へ急行せよ。避難民の安全を最優先し、発泡の判断はターナー曹長に任せる。」

私を抱えてきたターナー曹長は船長室を出ていく。


「えーと、ドラゴンに伝えられるかな。なるべく海に近づかないで高いところを飛ぶようにって。これから潜水艦が武装船を攻撃するから。

武装船が沈んだら、敵を連れて行ってもいいから浮島の北の艦隊に向かうように伝えてくれる?

艦隊の空母ならどれに着地してもいいわよ。」

私はエミリア艦長に言われたことをゆりさんに伝えた。


ーーーーーー


海中が膨らんだ後、大きな水柱が船を粉々にする。

魚雷と言っていたので、てっきり海の中で少し爆発するくらいだと思っていた。



私は真斗に高く飛ぶように竜の手綱で指示をしていたので全く影響はないが、あの爆発に巻き込まれたらきっとひとたまりもないだろう。


暴走する真斗さんを止めなければならなかったが、怖すぎて必死に捕まることしかできなかった。こんなことなら早めに切り上げるように伝えるべきだった。


「真斗さん、大丈夫ですか?」

私が乗る真斗ドラゴンは一声上げる。


真斗さんは魚雷のことを知らないので爆発した時はビクッと体が反応していたが、きっと大丈夫と言っているのだろう。


後ろからは相変わらずエルフが追いかけ来る。


「志帆さん、船が沈んだので、指示通り空母へ向かいます!!」

「了解です。」


私は真斗ドラゴンに飛ぶ方向を支持する。

真斗ドラゴンはエルフの攻撃を避けながら、浮島の北側へと進路を取る。


ドラゴンというのは恐ろしく速い。

時速いくら出ているかはわからないけど、5分もしないうちに艦隊を組んだ複数の艦船がアメリカの国旗を掲げている。


真斗ドラゴンは艦隊を障害物にひたすら攻撃を回避する。

私は怖くて叫びながら必死に真斗ドラゴンの首に捕まる。


銃弾の嵐がエルフを襲うが、当たらない。

きっと威嚇射撃だろう。


エルフは風の攻撃を一隻の空母の甲板目掛けて投げる。攻撃はカマイタチのような攻撃で、空母に吸い込まれるように命中し、甲板にあった航空機に命中する。


慌しくなる空母。どうやら発信前だったようでエンジンから火が出ている。


真斗はその空母に向かっていく。


エルフは攻撃をした時点で穴だらけになり海に落ちていった。

スキルは無敵ではない。軍に適いそうなスキルはほんの一握りしかないのだ。


真斗は空母に着陸し、燃えている航空機を氷のブレスで凍らせて消火する。


たまたまとはいえ、指示通りに空母に着地した私は真斗さんに変身解除の合図を出す。


「はー、疲れた。もう空中戦はコリゴリだぁー。」

そう言いながらヘタヘタと座り込んだあと、寝転んだ。


コリゴリって、ここまでしなくてもいいのに勝手に突っ込んだのは真斗さんでは?

私はその言葉を飲み込む。


「真斗さん、お疲れ様です。でもここは空母の甲板の上なので、場所を移動しましょう。」

私は真斗に手を伸ばした。

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