第43話 第2段階B班1 真斗の性癖

俺はドラゴンに変身して全員を背中に乗せる。

あんまり好きでないが、今回も竜の手綱を付けられる。


今回首に乗って手綱を握るのはゆりちゃんだ。

ちょっと、操られてもいい気がしてきた。


やっぱり竜の手綱いい、最高。


俺の無線機はゆりちゃんが持っている。

ドラゴンの間は俺は無線機を付けることができないからだ。


アンジェリーナたちは車で南に向かったようだ。

さすがアンジェリーナ、準備がいい。


俺はゆりちゃんに操作されるとおりに地面を蹴って空を飛ぶ。


森と鈴はログハウス前の浜でアンジェリーナの残した仕掛けを、北太平洋浮島の初日に使ったレンタル手漕ぎボートに乗せる作業をするためにお留守番だ。


最初の目的地は北太平洋浮島の最北の貨物ターミナル港だ。

ひろい貨物ターミナル港の船が止まっていないだだっ広い場所に俺は着地する。


全員が降りると俺は一旦元の姿に戻る。


「ありがとうございます真斗。」

「ありがとう、真斗さん。」

「ありがとうございます、真斗さん」

志帆と松ちゃんの妹、ジャックからお礼を言われた。

普段お礼を言われるようなことが無いので少し耳がくすぐったい。


「おう。」

俺はすこし恥ずかしくなって短く返事をする。


「では、さくら達は計画通りここからは歩いてください。移動している間に私はアメリカ軍とコンタクトを取るので。

さっさとこのアンジェリーナさんが作った信号をアメリカ軍に送ります。」

さくらは荷物からダンジョンで使う強力な懐中電灯を取り出す。


「志帆、俺は北側に南太平洋浮島の連中を南側以外に近づけさせないようにすればいいんだな。」

「そうです、作戦通り南側に上陸を集中させてください。全てを塞ぐと南太平洋浮島軍は障害を乗り越えようとしますが、攻める場所があれば、連中はそこに向かうはずです。」


俺は再びドラゴンに変身をする。


今回は無茶な動きもする可能性が高いので、ゆりちゃんはしっかり体を固定し、命綱まで装備している。

ドラゴン用の鞍はないので、3本の皮ベルトを首に一周させてそこに足置きや命繋を付けている。


少し不安定なのかゆりちゃんの太ももをしっかりと俺の首に密着させている。

ゆりちゃんのダンジョン防具である巫女服がスカートのようなズボンのスカンツタイプなのが残念だ。


俺は再びログハウスの前の浜に着地する。


「戻ってきました。」

何も話せない俺に変わってゆりちゃんが言う。


どうやら手漕ぎボートでは載せきれなかったらしく、別の大きなボートに変わっている。


俺はロープを足でつかみ、仕掛けの一斗缶満載のボートを浜から海に引っ張る。


はっきり言って超重い。


「もしかしたら、海の近くで積み直しかと思ってハラハラしていたのよ。無事に海まで持っていけてよかったわ。」

森はボートが海に完全に浮かぶ前に船に乗り込む。鈴は俺の背中に乗った。


超低空で飛び足でロープの先をもち、ログハウス近くの浜を出発、ボートを引っ張る。


アンジェリーナが用意していた爆発する一斗缶を森が海にばら撒いていく。

爆発する一斗缶の内側には俺が氷属性のブレスで氷山を作っていく。


これだけの障害があれば、上陸するための船は近づこうとは思わないだろう。


空港付近の海に差し掛かる。

一斗缶が多めに落とされる。避難している人が集まっているだろうと予測されるので、ここは南太平洋浮島の上陸部隊がここを狙うはずだ。

そうなると、避難民の誘導がしにくくなるので、アンジェリーナの立てた作戦が失敗する可能性が高くなるらしい。


なるべく多くの人の避難を行うこと。

それがアメリカ軍の印象の強さに繋がる。


空港を過ぎて、北側の貨物ターミナル港に差し掛かる。

ここは作戦通り何を仕掛けない。


ちらっと見えた志帆はもうメッセージを送っているようだ。


北側の貨物ターミナルを過ぎると再び仕掛けを投下し始める。

浮島の西側の仕掛けが終わり、南側は作戦通りに仕掛けを投下しない。ここは南太平洋浮島の上陸部隊を誘導する場所だ。そこに仕掛けを置くと今回の仕掛けの意味がない。


もっともこの作戦をするまでもなく、浮島の南側に上陸部隊がボートで向かっているようだが。


南側を過ぎると再び仕掛けを置き始めて東側に戻ってくる。

そして出発地点のログハウス付近の浜に戻ってきた。


俺は空になったボートを浜まで引っ張り上げると、鈴とゆりちゃんをのせてまま一旦空港へ行き、鈴を空港で降ろす。


鈴は空港の避難民に島の北側にアメリカ軍の部隊がいることを伝える先発隊だ。きっと空港には飛行機が全て飛び立ったあとやってきた避難民がたくさんいるだろう。


空港から浮島の北までは少し遠いが、空港にはたくさんバスやタクシーが放置されている。人数が多くても大丈夫だ。

避難している人の誰かが運転できるだろう。


鈴を降ろした俺は、すぐにログハウスの浜に戻る。

森はボートを念のために元の場所に戻し、浜に戻ってきている。


俺は森を空港まで背中に乗せて飛んだ。

俺は森を空港に送る途中に大きめの2隻の船が空港に向かっていることに気づく。


俺は森を降ろすと、そのまま空港を狙って上陸しようとする南太平洋浮島部隊の迎撃に向かう。


一番空港が狙われるとアンジェリーナが言っていた。


2隻しかないが、南側とは違いボードではなく、しっかりとした船だった。


俺たちが仕掛けた障害物を避ける様に大回りして空港の方へ向かっているようだ。


ゆりちゃんは志帆と連絡をとっている。


「真斗さん、最果て弾が使われる可能性が高いので念のため白ポーションを飲んでください。明らかに空港を狙っているので警告なしでできれば2隻とも沈めてください。ダメでも1隻は航行不能に。危なくなったら森さんと鈴さんを回収して脱出です。」

ゆりちゃんの手で白ポーションが手綱の口噛みから口に流し込まれる。

なんとなくちょっとうれしい気がする。


俺はドラゴンの最大攻撃の竜弾を空から2隻を狙って撃つ。溜めが必要な技なのでなるべく高い空から太陽を背にして。


急な攻撃に2隻の船に一発ずつ竜弾が着弾する。一隻は船首に当たってそれほど影響はない様だが、もう一隻は船尾にあたり、一気に速度が落ちる。


俺は速度が落ちた船に集中して竜弾で攻撃する。

一応は遠距離系のスキル持ちがいるようで、炎の玉が飛んできたり、ナイフが飛んでくるが空を飛ぶドラゴンの俺に当たるわけがなく、素通りしていく。

10発くらい当てたところで何かに引火して爆発した。


それを見ていたもう一隻から人が出てきて飛び上がる。

向こう側にも飛行系の人のスキル持ちが乗っていたようだ。


羽が生えたフェアリー系の変身スキルが1人、おそらく浮遊スキルか飛行スキル持ちが2人。


飛行スキルは空中で止まれないからまだいいが、浮遊スキルは空中停止をできるので厄介だ。後ろを簡単に取られる可能性がある。


持っているのはダンジョン系の武器ではない。きっと普通の軍隊で使われているようなマシンガンかアサルトライフルだろう。

弾はきっとモンスターでである俺を見て上がってきたので、最果て弾だろう。


普通の銃弾の可能性もあるが、それならば俺が受ければいい。ドラゴンには銃弾は基本効かずに無傷。弱点でも当たらない限り効かないし、当たっても銃弾くらいならおそらく蚊を叩くくらいの痛み程度しかないだろう。


それよりも問題はフェアリー系の変身能力だ。

同じフェアリー系の変身能力を持つ神山の能力を考えると、絶対にこいつらは厄介だ。


見た目はネットで見た人間種のエルフに似ている。おそらく妖精種の方のエルフ変身スキルか、人間種のエルフ変身スキルのレベルが上がったか、そのどちらかだろう。


無駄に変身スキルを調べていてよかった。


上位種のシルフやサラマンダーならこちらも危ないところだ。

エルフならこちらは炎、向こうは植物系。


少し苦戦するかもしれないが、圧倒的有利だ。

1人が空中静止しながら、1人がそのまま動きながら引き金を引く。


空港には鈴と森が居る。できればここ全員つぶしておきたい。


俺は体を捻り、その場から逃げる。

ゆりちゃんが悲鳴を上げるが、避けないとゆりちゃんが危ない。


ドラゴンになった俺の首に必死に捕まるゆりちゃん。鱗のせいで感覚はあまりわからないが、首元が暖かいのでゆりちゃんがそこにいることはわかる。


そして、ちょっと悲鳴か可愛くて耳が心地いい。


俺はどんどん飛行速度を上げていく。その方が銃弾を避けやすいし、飛行スキルも浮遊スキルもドラゴンの速度には追いつかない。


敵が多数なら、空中戦は位置が大切。

空中戦をするなら上を取れ。攻撃するなら避けられることを考えろ。


俺はエルフに向かって竜弾を吐く。

エルフと言えどもそんな攻撃は痛いはずだ。

全力で避けるエルフ。その後ろには浮遊スキルで持つ南太平洋浮島の兵士。


オーバーキルもいいところな攻撃と思われるが、実際にはそれほど威力は高くない。手加減したと言うよりも溜めが短かった。それでも人間をノックアウトするには十分な威力だ。

そのまま落ちていく浮遊スキル持ちと、それを追いかける飛行スキル持ち。


あの2人はこれで戦線離脱だ。


きっと連携して戦うつもりだった3人が一気に1人になった。

エルフはさぞかし慌てているだろうが、こちらもゆりちゃんを乗せている以上リスクは低い方がいい。


なるべく早く倒して、空港に向かう船を沈めたいところだ。


首に必死に捕まるゆりちゃんを守っているというのが、なんだかとても心地良い。

変温動物のドラゴンなので、余計にゆりちゃんの体温をよく感じた。


ーーーーーーー


ある意味今回、北太平洋浮島の避難民を一番助けることになるだろう。


浮島のテレビ局は遠いので、私が危なくなる。

お兄ちゃんに、無理はするなと言われてる以上無理はしない。


私達が向かっているのは小さなラジオ放送施設。

入り口はよっぽど慌てて避難したのか、開けっぱなしで放置されている。


持ってきたチェーンソーや私の刀の出番はなさそうだ。

ご丁寧に鍵付きの自転車もある。

集合場所まで2キロほどあるので帰りは楽そうだ。


「志帆、ラジオ局についたよ。」

「そうですか、それでは機材の立ち上げをお願いします。それができないと話にならないので。」


私とジャックはラジオ施設に入る。

ここは趣味で作られたラジオ局らしい。ネットに書かれた情報によれば、テレビ局があるのにラジオ局がないのはおかしいと言って作られた。


金属ラックに押し込まれた機材、パスタ状になった配線ケーブル。

そしてマイクが1本、隣のスタジオらしき部屋には2本マイクが置かれている。


機材には英語で書かれた手紙。

ルーズリーフ3枚に渡って書かれたその紙はおそらくこのラジオ局の持ち主が書いたものだろうが、英語なので私には読めなかった。


「ジャック、英語読める?たぶんこれ、機材のマニュアルよね。」

「簡単な英語なら読めますよ。見せてください。」

そういって、ジャックはルーズリーフを流し読みする。


「この機材見たときはちょっと覚悟しましたが、立ち上げはそれほど複雑な手順は必要ないようです。」


私はジャックの指示でラジオ局の立ち上げを始める。

インカムから水の音がする。

きっと今真斗さんが引っ張るボートで森さんがアンジェリーナさんの罠を海に仕掛けているのだろう。


とても長い船の汽笛がインカムのヘットホンから聞こえる。

どうやらアメリカ軍にこちらのメッセージを送れたようだ。


志帆が送ったアンジェリーナさんのメッセージ。

懐中電灯を使った光の英語のモールス信号。


アメリカ軍へ

北側に逃げ遅れた避難民を誘導中である。

今私がいる港に救難艇を要請する。

南側と私がいる北側を除き、海上には障害物あり。

敵は南側から上陸する。

了解された場合は長汽笛を鳴らせ。

こちらは浮遊都市 最果て鍛治ギルド


志帆はモールス信号の内容までは理解できないが、アンジェリーナさんが作った丸と線を光信号で送ることはできる。志帆はずっとこのメッセージを繰り返しアメリカ軍へ送っていたのだ。


これでこちらも安心してメッセージを放送することができる。メッセージを発信して実は避難するための船が来ませんでしたでは逆に被害を大きくする。


「浮島の北側、貨物ターミナル港に救助艇が来ます。急いで北側の貨物ターミナル港に避難してください。」


録音した私の声がラジオのテストスピーカーから聞こえる。このラジオの電波範囲は短いが、届く人には届くはずだ。

私の日本語の後にジャックの英語版の音声も流れる。


「お疲れさまです、さくら、ジャック。疲れているところですが、急いで戻ってきてください。聞いていたと思いますが、すでに南側に敵が上陸しているとゆりさんが言っていました。」

私は体に鞭を入れて、ラジオ局を出る。


ジャックは放置された自転車に跨り私はその荷台に乗り、志帆の待つ北の貨物ターミナル港へと向かう。

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