第41話 告白
北太平洋浮島と南太平洋浮島は相変わらずまだ撃ち合いをしているだけで特に動く様子もない。
ポイントを割り振ってもシールドの硬さは変わらない。変わるのはチャージの速度とエネルギー残量だ。
攻撃力が高く防御にもポイントを割り振っている南太平洋浮島の方の攻撃が、先に北太平洋浮島のシールドを突き抜ける可能性が高い。
そう可能性が高いだけなのだ。もしかしたら北太平洋浮島の攻撃が先に南太平洋浮島のシールドを突き抜ける可能性も少ないがあるのだ。
ポイントを割り振ってもすぐに大きな差が出ない。それが北太平洋浮島が攻撃や防御にポイントを割り振らなかった理由なのだ。
ーーーーーー
最果てパーティギルド、そこにパーティ全員が集まっていた。
念には念を入れて、RINEには
重要なことを話すので朝の10時にギルドホームに集合。お昼ご飯はジャックの料理
とだけ書いて送った。
唯一アンジェリーナ以外で俺のスキルを知る志帆だけは、おそらく俺がこの後浮遊都市スキルだと言うこと予測したのだろう。
真剣な表情でみんなよりも少し早くギルドにきた。
「松ちゃん、スキルのことを話すつもりですか?アンジェリーナさんにちゃんと相談しましたか?」
志帆は公安の事件があってから、俺のスキルについては全く知らないフリをしていたのだが、さすがに心配になったのだろう。
「そのアンジェリーナからの提案なんだ。ちょっとこの戦争と俺のスキルで面倒なことがわかったんだ。」
志帆は頭にクエッションマークを浮かべる。
それはそうだろう。俺だって、アンジェリーナにちゃんと説明されなければわからなかった。
自力であの回答に辿りつくアンジェリーナがすごいのだ。
みんなが集まりそれぞれの席に着く。
「まず、みんなにいわないと言わないといけないことがあります。」
俺は改めて10人全員に見られて緊張し、敬語になってしまった。
「おい、ガッチガチだぞ。なんで緊張してるんだ?」
真斗がヤジを飛ばす。
「うるせーな、じゃ代わりにここに立ってみろ!」
「俺は何も言うことないから無理。」
真斗の返事にイラっとしつつも俺は話を続けなければならない。
「私が代わりに行った方がいい?」
アンジェリーナが助け舟を出してくれるが、さすがにここで代わってしまうと、彼氏のプライドとか男のなんたらが全部壊れてしまう気がした。
「いや、いい。途中からはさすがに代わってもらうけど。」
昨日の浮島の戦争と浮遊都市の話はさすがに俺は説明できない。
「えーっと、まず俺のスキルについてですが、みんなにはポーション生成スキルって言ってたけど、実は違ってます。」
なんか緊張しすぎて言葉が変になる。
妹とゆりちゃん、鈴と森と真斗は笑っている。
アンジェリーナと志帆は心配そうにしているが、神山とジャック、一ノ瀬は必死に笑いを堪えている。
「えー、と、ポーション生成は僕のスキルの能力の一部で。」
「松ちゃんが僕って言ってるよー。」
アンジェリーナと志帆以外全員が笑い出してしまった。
くそー、こっちは真剣に言おうとしているのに、こいつらはーー!!
俺はむかっときたのでさっさと言うことにした。
「俺のスキルは浮遊都市です。ポーション生成スキルって嘘をついていました。以上でーす。」
俺は早口でそう言ってアンジェリーナの横の席に座る。
恥ずかしくて顔から火が吹きそうだ。
あまりにも恥ずかしくて顔を伏せる。
アンジェリーナが背中を「ヨシヨシ」と言いながら撫でてくれるが、それがさらに俺の恥ずかしさの火にガソリンを注ぐ。
アンジェリーナと俺は“2人だけの空間”と言う別の空間に入っているが、その他のメンバーはそれどころではない。
「え、松ちゃん、何を言った?俺の聞き間違い?」
当然の反応だよな。
「俺の聞き間違いではなければ、松ちゃんが浮遊都市スキルを持っていると聞こえた。」
森も自分の耳を疑い中。
「お兄ちゃんのことだから、まだ何か隠していると思ったけど。ごめんちょっと想像超えてた....」
「想像以上です...」
妹とゆりちゃんは思考停止状態になっている。
「それで、ここからが本題なのですよね。」
志帆は俺がもともと浮遊都市スキルを持っていると知っているので、その先の話がきになるらしい。
「志帆、松ちゃんが浮遊都市スキルをもっていたことに驚かないのか?」
志帆にとって驚くべきことではないが真斗にとっては驚きしかない。
「知ってましたから。松ちゃんがカミングアウトしたので言いますが、私もトレードスキルではありません。私の本当のスキルは大阪ダンジョンスキルです。」
突然従妹が実は大阪ダンジョンスキル持ちと言われて、発言に困る真斗。
しかし、俺が浮遊都市スキルであるという衝撃の後なので、何とか飲み込みができたようだ。
「と言うことは、公安が私たちに目を付けたのも、実は間違ってはなかったのね。」
神山も俺の爆弾発言のせいで、大阪ダンジョンスキルへの衝撃が麻痺している。
「ええ、実はダンジョン部メンバーへの仕返しに、モンスターの数をあの時だけ増やしました。まさかそれだけの情報でここまでたどり着くとは。公安って怖いですね。」
志帆は自分自身がやらかしたミスを自白する。
「えーと、と言うことは志帆は金貨確か1億・・・。」
「1億3000万枚ですね。」
真斗が何を言おうとしているのか予測して答える志帆。
「じゃ、その1億3000万枚はどうしたんだ?」
当然生まれるこの疑問。
「全部使いました。きれいさっぱり使い切りましたよ。」
「ええええ!!。」
真斗は俺の浮遊都市スキル発表の時よりもいい反応をする。
日本円にして1兆3000億円を使い切ったと言われれば、驚くだろう。
「いや、それほど驚くことは何だろう?まず、志帆ちゃんがそのお金を使うはずないから。普通に考えて、ダンジョンの拡張に使ったんだろう?おおかた急に敷かれたレールを使うのにでも使ったんだろう?
レールを敷くのって意外とお金かかるんだぜ。」
「その通りです。森さん。」
森は日常では全く役に立たない知識は多いらしい。
「そんなことはどうでもいいのよ。いまは松ちゃんの浮遊都市スキルの事よ!!」
神山は忘れていなかったようで、復活した俺をじーっと見る。
「松ちゃん、聞くけど本当に浮遊都市スキルを持っているのね!!」
「ああ、持ってる。」
「なら証拠を見せなさい。別に松ちゃんを信用していないわけではないけど、さすがに浮遊都市スキルを持っていると言われて、はいそうですかとは言えないわ。全く現実味がないもの。」
神山に言われて俺は何をすれば証明になるか考える。
しかし、結局何も思いつかない。普段なにもしていないので正直何が証明になるかもわからないのだ。
俺はアンジェリーナをちらりと見る
「そうね、手っ取り早くいくなら、浮遊都市に雨でも降らしてみたら?そうね、いまから1分後に1時間40mmの雨を3分くらいでいいんじゃない?」
なるほど。
俺は言われるがままに、天候欄を開き、アンジェリーナに言われた通りに設定する。
窓の外に土砂降りの雨が降り始める。
「確かに松ちゃんは浮遊都市スキルを持っているわね。正直まだ現実味が薄いけど、とりあえずそう言う事と言うのはわかったわ。」
神山はとりあえず理解はしたようだ。
「それで、なぜここで今更皆さんに松ちゃんは秘密を言ったのですか?
私はてっきりこの秘密は誰にも言わないものだと思っていました。」
志帆は早く理由を聞きたいらしい。
「えーと、端的に言うと、チャンの命が危ない。」
アンジェリーナそれは略しすぎ。
ーーーー
「ジャックさん、スープのお替りお願いします。」
志帆が珍しくお替りしている。
1日時間を置いて整理されたアンジェリーナの説明は昨日聞いた説明よりもさらに複雑怪奇な説明になっていた。あまりにも難しい説明に、アンジェリーナの演説後には真斗が眠っていたほどだ。
ただ、アンジェリーナとアンジェリーナの師の話は省かれていた。
話が終わったところで、ちょうどいい時間になったので、最果てレストランを
「つまり、簡単に言うと今回の戦争は謎の支配人スキルが原因で、この戦争で南太平洋浮島が勝ってしまうと、いろいろ回って松ちゃんの命が危ない。そう言う事ですね。」
志帆は細い体に食べ物がどんどん入っていく。
「そうね、簡単に言うとそう言う事よ。」
アンジェリーナは一生懸命話したが、全部省略されてちょっと不機嫌だ。
先に食べ終わった真斗と森はソファーでオセロを、妹とジャックは食器を片付けている。
「なぜ、2人は暢気に遊んでいられるのよ。もしかしたらチャンが死んじゃうかもしれないのよ?」
「そんなこと言われても、戦争を止めたりなんて俺たちにはできないし。確かに俺はドラゴンになれるけどミサイル10発撃たれたらどうしようもない。ダンジョン攻略ならともかく、俺たちには無理だよ。」
真斗は完全にやる気なし。俺が真斗の立場ならここまで大っぴらにしないけど、それでもどうしようもないとは言うだろう。
「戦争といえば、今回のアメリカが北太平洋浮島側として参戦するらしいですよ。なんでも、北太平洋浮島の支配人が正式にアメリカ人で、ロサンゼルスダンジョンの支配人、スノーマンさん経由で保護されたのが理由らしいですね。」
ジャックが食器を洗いながら言う。
「ちょっと待ってそれ初耳よ。」
アンジェリーナはジャックの言葉に反応する。
「なんでも逃げ遅れた北太平洋浮島の人を救うために既に派遣をしているらしいですよ。」
ジャックの説明を聞くアンジェリーナ。
「あーもう、次から次へと情報が入ってきて何も思いつかないわ。最悪、南太平洋浮島を浮遊都市の攻撃で吹き飛ばせはなんとかなるのだけれど。」
アンジェリーナが物騒なことを言い出した。
「南太平洋浮島が負けて、北太平洋浮島が勝てばいいのですよね。それならいっその事、アメリカ軍を助けたり、無理やり北太平洋浮島のレベルを上げますか?北太平洋浮島はアメリカが抑えているので、乗っ取られる可能性も低いことですし。」
最後の杏仁豆腐を食べる志帆が言った。
「なるほど、それいいアイディアね。志帆、あなたダンジョンに詳しいわよね。ダンジョンがレベル上がる条件とかを一通り行って欲しいわ。」
アンジェリーナが考える体制に入る。アンジェリーナが考えるときは大体こめかみにペンを当てて考えるのだ。
「支配人のポイントは溜まってもそう簡単に強くなりませんよ。それこそ長い時間かけて...」
「いいから早く言って。」
アンジェリーナに急かされる志帆。
「えーとですね、ダンジョンのポイントは及びレベルは、ダンジョンに入る人数とダンジョンに入る探索者の強さの平均をかけたものです。それ以外はあまり関係ありません。」
アンジェリーナは何か閃きがあったみたいでどんどん書いていく。
「ダンジョンのレベルは取得ポイントとは関係ある?」
「直接的な関係はありません。ですが難易度が高いとそれなりの探索者が来るので、それなりに設置します。」
「復活系アイテムを使わせることと、取得ポイントは?」
「関係ありません。ただ復活関連を増やすと、探索者がもらえる経験値が極端にへります。」
「志帆、ちょっといい?今までに使ったポイントとか、アイテムの値段、あと出現させることができる魔道エンジンとかのアイテム一覧を書いて欲しい。」
志帆はものすごく面倒な顔をしたが、黙々と書き始めた。
「さてと、次に考えないといけないのは、アメリカ軍にどうやって連絡を取るかね。召集はかかってるけど、これに応じても、研究ばかりでアメリカ軍に情報を送る見ないなことはできないわ。
アメリカ軍の指揮官か、指揮官が耳を傾けるような人物に会う方法を考えないとダメね。」
アンジェリーナはゆりちゃんを見る。
「ゆり、空港にいた子供いたじゃない?小さい子を含めて北太平洋浮島に残った人を全員ではないけど、救う方法があると言ったらどうする?
危険だけど、チャンが自重なしにポーションを作れば多分死ぬことはない。それならどうする?」
何故かゆりちゃんに聞くアンジェリーナ。
真斗の耳がピクンと動く。
「神山もどう思う?きっとあの警告ではみんな南太平洋浮島に連れ去られるわよ。そうなったら残酷に殺される人が多くなるわ。それを全部ではないけどある程度止められるならどうする?」
彼女を責めて彼氏を落とす作戦に出たアンジェリーナ。予想通り森の耳がピクンと動く。
「それは可哀想な子が助かるならいいと思いますよ。松ちゃんの自重なしポーションと言うのがちょっと怖いですが、ちょっと危険でも私はやりますよ。それにそれが松ちゃんを助けることに繋がるのでしょう?」
「もちろんよゆり。アメリカに私たちに興味を持ってもらうためよ。神山はどう?」
「確かに戦争で巻き込まれる人を助けるのはいいことだと思うけど、それって大丈夫なの?」
「大丈夫よ、いざとなったら私も一緒に行くから転移して逃げればいいわ。」
「なら私も松ちゃんのために協力するわ。それにかっこいいじゃない?」
神山が言った。これは明らかに森を煽っている。
真斗が立ち上がる。
「俺に出来ることなら、なんでもするよ。松ちゃんのためだからな!!」
森も立ち上がる。
「仕方ないな!!静がやる気なのに、俺が何もしないのもカッコ悪いしな。」
うわー、完全に載せられている。大丈夫かなこの2人。
アンジェリーナがトコトコと俺のほうに近づき、ギュッと抱きしめる。
「どうしたのアンジェリーナ?」
「いや、わざとやったのだけど、みんなチャンの心配してくれて嬉しい。でもちょっと妬きそうになったからチャン成分を補充しようと思ったの。」
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