浮遊都市と浮島 前編
第40話 松ちゃんの危機?
南太平洋浮島の国王こと、マーガレット・トンプソンは困っていた。
大学中退になり、どこかに就職しようとしたところで南太平洋浮島スキルを手に入れたマーガレットは初期から浮島に訪れ、浮島を育てた。海賊で周りの海が支配された時は苦労したが、逆に海賊を利用するアイディアでそれを乗り切った。
私は良き国王として祭り上げられたが、それは膨らむ元海賊の軍部の思惑だった。
乗っ取られた軍事が私に手を離れて暴走する。最初の方はスキルの力で止めたりもしていたが、軍部が貿易で護送をし始めてからは経済が軍部なしでは成り立たなくなり、私はお飾りになりつつある。
私が楽しようと首相なんて立てたせいで、首相が全権代理が当たり前となり、今更全権代理を取り返そうにも今に状況では破綻する未来しか見えなくて取り上げることができない。そして首相は立派なことを言って演説するが元海賊の頭なのだ。
そして困った事に元海賊の頭は演説が上手い。誰もがそれを聞くとそれが正しいと思ってしまうほどだ。私だって本当にやろうとしている事に気づくまでは立派な人だと思っていたくらいだ。そうでなければこんな男に首相という地位と全権代理を渡す事なんてなかった。
今回の戦争の発端は私が首相の違法薬物の質問に、違法薬物は人類の敵だと答えてしまったために起きたこと。
確かに違法薬物はダメだと思うが戦争しろとは言っていない。でも勝手に私が言った事になっている。
浮遊都市には期待した。暴走したこの軍部を止められるのではないかと。しかし浮遊都市の警告を無視した軍部。
島なんて最悪捨てればいいと考えている海賊だっているだろう。でも私は島が沈めば死ぬ。
それなのに運命を海賊に任せないといけない立場に私は嫌気がさしていた。
ーーーーーーーー
スノーマン(ツエッター)
#救援希望 #緊急 #保護要請
アメリカ政府でもカルフォルニア州知事でも誰でもいい。
とある人を保護してほしい。
その人を私の手で助けようとしたが、私の手に余る事態になりつつある。
そいつはアメリカ人だ。アメリカはアメリカ人を守るんだろう?
そいつは今、死ぬかもしれない状況なんだ。
きっとアメリカにとっても重要な人物になるはずだ。
助けてあげてほしい。
アメリカ政府公式アカウント(ツェッター)
スノーマンさん
保護するかどうかは別として、ロサンゼルスダンジョンの支配人のあなたが保護を要請する人物に会いたいと思っています。
詳しい状況を知りたいので、ご連絡ください。
ーーーーーーー
南太平洋浮島の攻撃が始まった。
攻撃が始まる直前、空港から最後の飛行機が飛び立った。
北太平洋浮島には何人もの人が取り残されたが、空港までにたどり着いた人は、空港職員も含めてほとんどが脱出できたらしい。
北太平洋浮島を離陸したほとんどの飛行機は空高い場所にある浮遊都市ではなく、ハワイホノルルへと向かったようで、アメリカは今回に限り人道的配慮で入国を許可し多く人がアメリカへと渡った。
だが、北太平洋浮島には沢山の観光客、ダンジョン探索者、住民が残されていると言う。
驚いたのは北太平洋浮島の大統領も逃げたことだ。
アメリカは亡命してきた大統領を受け入れず拘束したが、大統領は首にかけられていた全権代理の証の青い宝石を失っており、全権代理の権利も持っていなかったそうだ。
北太平洋浮島はシールド出力を全開にし、攻撃に備えているために航空機の侵入さえできず、南太平洋の攻撃を凌いでいる。
北太平洋浮島も南太平洋浮島に攻撃をしているが、こちらもシールド出力を上げているせいで攻撃が刺さらない状況だ。
迷惑なオレンジ色の光線をお互いにぶつけるので、シールドに反射したオレンジ色の光線が至る所に飛び、周りの海上と空域は危険地帯へと変わっていった。
攻撃が始める直前にアンジェリーナが
「危ないから日本に帰りましょう。ジャックはなるべく最果てレストランに居て。あそこなら街の中心だから何かがあっても守りは硬いはずよ。店を営業してもいいけど建物の外には出ないこと!!
何かあればまた連絡するわ。」
そう言って全員を日本に帰し解散させて、再び俺とアンジェリーナだけここに戻ってきたのだ。
ギルマス室のモニターに写るのは浮島同士の攻撃のやり取りだ。
「まるでSF映画でも見ている気分だわ。
浮遊都市は化け物スキルで浮島はその劣化版くらいにしか思っていなかったけど、浮島も十分化け物スキルよ。
こんな戦争に参加したい国なんてどこにも居ないわね。
世界戦争になる可能性がないのが今回の戦争の唯一の救いだわ。」
時々浮遊都市に飛んでくるビームがあるが、浮遊都市にはなんの影響もない。影響があるのは空の便だけだ。
それを知ってか知らずか浮遊都市の住人は平和なものである。
きっと嵐でも来た感覚なのだろうな。
「アンジェリーナ、ここに戻ってきたのには理由があるんだろ?」
俺はなんとなく察していた。アンジェリーナが俺だけを呼び出す理由がなんて、浮遊都市のことしかない。
「これをみて。」
それは昔アンジェリーナが見せてくれた浮遊都市ダンジョン入り口にある、大木の下の大きな石の欠片だった。
「この石、光ってるでしょ?
実は昔から真っ暗にしたら光るのは知っていたの。
普段は周りが明るいから光っているなんてわからないのだけど、暗幕金庫で暗室を作ってわずかな光量を検出できる機械にずっと入れて、調べていたのよ。
そして鉱石が発する光の強さを時間事に記したグラフがこれ。」
アンジェリーナは地震計の針が動いたような長い紙のロールを持ってくる。
時々、反応が上がる時間があったり、逆に下がったりしているが概ね平坦なグラフだ。
そして端の方でメーターが振り切れてそこからデータがしばらく途切れ、またデータが続いている。
「まず見てほしいのがここの部分。」
アンジェリーナはそう言いながら3つの小さな山を指差す。
「この山ができた時、それはちょうど南太平洋浮島が北太平洋浮島に向かって3発の砲撃をした時間のデータなのよ。
そしてこっちを見て。」
今度はギザギザの線、そしてたまに大きな山のグラフが描かれている。
「ここは南太平洋浮島と北太平洋浮島が撃ち合いをしている時のグラフで、この大きな反応があるのはこの浮遊都市が流れ弾を受けた時の反応。
つまり、浮遊都市が攻撃を受けたり、2つの攻撃をする度にこの石は何かのエネルギーを受け取り反応して光るのよ。
そして問題はここよ。」
アンジェリーナは3本の山の前乗りも随分前の場所で、1回振り切れるくらいの反応がある。
「この反応おかしいと思わない?」
「なぜ?」
アンジェリーナはそう言うが、反応が大きいから攻撃されたから、攻撃したのだろうが、それ以外はわからない。
「チャンは浮遊都市が何かしたと思っているかもしれないけど、この前チャンにもらったその....婚約者権限で確認したけど、その時浮遊都市のオートモードはなにもしていない。」
アンジェリーナは一瞬照れながら言うが、顔は真剣だ。
「実はこの鉱石が妙な光りかたをするのは昔からあったから、潜水艦の音波分析みたいにこの資料を分析機にかけてコンピュータ分析していたのよ。
今日の朝、その分析結果を見た時に私は震えたわ。
最初の3発の攻撃のから分析した南太平洋浮島の波長紋、撃ち合いからわかる北太平洋浮島の波長紋、浮遊都市の常に発する動作に関する波長紋、これらをさっきのデータに当てはめてそれらを打ち消すと、あの謎の振り切れる反応の直前に、1回謎の攻撃の反応があったのよ。」
アンジェリーナは謎といったところをクルクルと赤いマークをかく。
「これは浮遊都市が過去に攻撃されたと言う証拠。
チャン、おそらくだけど、浮遊都市を狙っている人がいるわ。」
「....うそ!!」
「本当よ!!」
えー、浮遊都市が狙われている。
「そしてこの謎の攻撃、チャンが私に悪夢の相談した夜に、1回行われているのよ。
そしてその次の日の攻撃。
なんの関係もないと思う?」
俺は首を振った。
「実は私のスキル、転移する前に前工程があって、転移直前に転移可能か、確かめる工程があるの。
私はそれを確認フェイズと呼んでいるだけど、私は確認フェイズで人の体内に異物を送れるか確認するとこがあるわ。」
アンジェリーナはとんでもないことを言い出した。
俺はドン引きしていると、
「勘違いしないで、実際にはやったことないわよ。同じスキルだったら干渉して相手が転移スキルってわかるからやってるだけで。」
アンジェリーナが慌てて言う。
「それを実は一回、チャンにしたことがあるのよ。
初めてあった路面電車のでよ。」
あーそんなこともあったなーと俺は思い出していた。
「結論を言うと、チャンには転移制限がかかっているわ。
そしてマーカーをしているのに転移できない場所があるの。それは今戦争中の北太平洋浮島のログハウスよ。
そしてチャンは気づいていないかもしれないけど、チャンにもシールドが貼られている。
私の仮説は“シールドが転移スキルを制限している”と言うものよ。
そしてこのシールドを貼る人を私はもう一人知っているの。
私の大学の亡くなった先生よ。
先生はあのときどんなスキルを持っていたか知らなかったけど、今なら予想がつく。」
アンジェリーナは一間おき、言った。
「ダンジョン、浮島、浮遊都市。それ以外の支配人スキルが存在するわ。」
机の上に大きな模造紙を広げ、太いマジックで太平洋周辺の地図をスラスラと書いていくアンジェリーナ。
アラスカや北アメリカの西海岸、南アメリカ大陸、南極大陸、ニュージーランド、オーストラリア、ソロモン諸島、パプアニューギニア、フィリピン、台湾、ユーラシア大陸の東側、日本列島、オホーツク海周辺のロシア。
ハワイを中心とした太平洋の正距方位図法(形が崩れるが距離と方向が正確な地図)をアンジェリーナはフリーハンドで書いていく。
アンジェリーナは頭がいいとは知っていたが、こんな曲芸を見せられると改めてすごい人なんだと思う。
いや、正直すごいなんてものじゃないぞ。
日本地図をフリーハンドで書け言われても俺には無理。
世界地図を書けって言われたら三角とか四角を使って簡単に書くのが限界だ。
それをアンジェリーナは普段見慣れた長方形のメルカトル図法ではなくて正距方位図法で書いているのだ。
人間業ではない。
アンジェリーナが実は地図スキル持っていると言ったら、俺はきっと信用するだろうな。
「アンジェリーナ、それどうやって書いているんだ?」
「そうね、頭の中に地球儀を浮かべて書くのよ。少し島とかが多いから覚えるのが大変かもしれないけど、ある程度略していいなら覚えることは簡単よ。
正距方位図法を書くときのコツは、地球儀で版画を刷るみたいに想像するのがコツね。
難しいのは距離が離れると形が崩れるから、引き延ばしをしたときの形まで考えないといけないところよ。
でも今回は太平洋周辺だけ分かればいいから、ほかの部分は略せて楽ね。さすがにこの調子でもっと広い範囲を書けって言われたら、地球儀がないと書けないわ。
化学の原子の衝突とか、光子の動きのイメージを頭の中でシュミレートするよりは簡単だと思うのだけれど?」
アンジェリーナの天才度を俺は垣間見た気がした。
「あ、しまった。新聞紙とかを紙の下に引くのを忘れていたわ。」
模造紙の一部をペラリとめくると、黒い斑点模様がテーブルの所々についていた。
俺はアンジェリーナのやらかしを見て、なんとなく安心した。
アンジェリーナがカウンターにある瓶ビールの栓を持ってくる。そして蓋にマジックで北、南、浮、謎と書く。
そして謎と書かれた栓以外を地図上に並べた。
「もしも支配人スキルの人が、浮遊都市の何かを狙って攻撃した」
アンジェリーナが浮と書かれた栓の横に謎と書かれた栓をおく。
「が、浮遊都市が想像以上よりもシールドが強力だった。
目的は何かはわからないわ。
でも浮遊都市をいきなり狙うということは浮遊都市と言う支配域と同等くらいの支配域を持っていると勘違いできるほど強力な支配域を持っていると言うこと。
そんな人が次に考えるのは、当然近くにある浮島の支配域を手に入れて自分の支配域の強化だわ。」
アンジェリーナが北と南と書かれたビール栓を持つ。
「さて問題です。支配人がわかって軍隊が海賊で付け入れる隙がおおい南太平洋浮島か、支配人不明でどこの国が背後につくかわからない不安要素が多い北太平洋浮島、どっちを最初に抑える?」
俺は南と書かれたビール栓を指で刺した。
「きっと、その人もそう考えたのでしょうね。
そして南太平洋浮島の乗っ取りに成功した。
次に狙ったのは北太平洋浮島。政治的な理由があるから攻撃したとしても、存在がわかりにくい。
失敗しても失うのは南太平洋浮島だけ。
これを足がかりに、7つの浮島を抑えられるとすると、おそらく浮遊都市は再び攻撃される。
浮遊都市のシールド稼働時のエネルギーから予測した最大シールド防御力値と謎支配域からの攻撃力値の係数は約3。
つまり謎支配域の3倍の攻撃で浮遊都市のシールドは飽和する。
そして浮島との攻撃力値の係数は約7。
浮島7つ集まって攻撃すれば浮遊都市のシールドは飽和する。
つま謎支配域に5つ浮島を抑えられると、浮遊都市のシールドは破壊される。
はっきり言うわ。
ここが肝心よ。
北太平洋浮島が支配されたら、たた続けに他の浮島も落ちる可能性が高いわ。
そしてそれは浮遊都市の危機であり、浮遊都市が破壊されたら死ぬチャンの危機でもある。」
アンジェリーナは俺を見て言う。
「あなたは浮遊都市をどうしたい?私はチャンを守るために浮遊都市を守りたい。」
俺の心臓がドクンと跳ねた気がした。
「浮遊都市が攻撃されたと言うところまでは事実よ。でもそっからは私の憶測、だけど私はチャンに浮遊都市のオートモードが送ったメッセージが気になっているのよ。
“ 警告
北太平洋浮島と南太平洋浮島で緊張が高まっています。
20時間後に浮島間戦争の可能性有り。
直ちに退避することを推奨。”
ただ危険性を示すだけなら“付近で戦闘の可能性あり、直ちに避難することを推奨”くらいしか書かないわよね?
私が知るスキルの理念を考えるならそれさえも書かない。スキルはスキル持ちに味方しない。
なのにあえて北太平洋浮島と南太平洋浮島の名前を出したとしたら。
チャンが死んでも浮遊都市は死なない。浮遊都市スキルには関係ない。でも浮遊都市自体が攻撃されると浮遊都市は危険な状態に陥入る。
だからチャンの警告に見せかけ、事実だけを述べている裏に浮遊都市の本当のメッセージがあるとすれば。
私はみんなに浮遊都市のスキルの話をして、浮遊都市を守るように言うべきだと思うわ。
本当は誰にも言わない方がいい。でも今回は信頼している仲間を頼りましょう。」
アンジェリーナの真剣な表情に俺はうなずいた。
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