第38話 第一次スキル戦争3 アンジェリーナの覚悟

アンジェリーナに連れられて俺はギルマス室に入った。


「チャン、言いたいことはわかっているわね?

私以外にあなたのスキルのことは言ったらダメ。」

アンジェリーナは俺の両腕を掴み、少し怒り気味だ。


「俺はアンジェリーナと違ってそれほど頭がいいわけではないんだ。だから俺のスキルで戦争を止められる人の為になる。なぜそれがダメなんだ?」


「ダメに決まってるじゃない。チャンは本当に笠岡さんに連絡して、浮遊都市のスキルを日本政府に公開することがいいことだと思っているの?」

確かに、良いことだとは思ってはいない。


あれだけの軍事力だ。きっと何かに利用されるのはまず間違いない。


どこの国にも属さない軍事力だからこそ、どこの国も警戒してバランスが取れているのに、何処かに属してしまうとそのバランスは一気に崩れる。


しかしだ。

「アンジェリーナ、良くないと思う。それはわかってる。だけど、正直に言うと俺は、500人以上の人間を見殺しにしたことに精神的に耐えられない。

そのもしも俺のスキルの制御を日本政府に渡せば、少なくとも俺はその重荷から解放される。」

正直これが本音だ。


志帆はすごい。

俺よりも年下で、誰にも言わず黙々とスキルの管理をしてきた。最初のうちはきっと何度も設定ミスをして死人を出したことだろう。


そこから死なないダンジョンを作り、リアルばれのリスクを背負って東京ダンジョンスキル持ちに会い、あの事件があるまでは1人で大阪ダンジョンを守り続けた。


一方俺はオートモードがあるから全てをオートモードに託し、何もしていない。

やったことと言えばポーションをひたすら生産するだけだ。


浮遊都市スキルを持っているのに何もしていない。

事件が起きるまではそれでもよかった。

でもこれからは?


「アンジェリーナ、俺は今日感じたこの重荷をもう背負いたくない。今までは戦争も起きなかったし、それほど重大な事件も起きなかった。だけどこれからは違う。

アンジェリーナは俺がアンジェリーナに相談しなかったのを怒っていると思うけど、俺はアンジェリーナに俺の背負っている重荷を背負わせたくない。」


「私の言いたいことよくわかってるじゃない?

そうよ、私はチャンが私に相談しなかったことを怒っているわ。


でも今は違うわよ。それよりももっと言いたいことができたわ。」


アンジェリーナは足払いをし、俺はふかふかの絨毯に無理矢理寝かされた。

俺の上にアンジェリーナは跨る。アンジェリーナのロングスカートがふわりと俺の腰に広がる。


「チャン、旅行が終わるまでに私と付き合うか決めてと言ったけど取り消すわ。今すぐ私と付き合うか決めなさい!」


急な出来事に俺はびっくりしたが、アンジェリーナの真剣な表情に俺は正直な気持ちを答えた。

「今すぐにでも付き合いたい!!

でも、俺はアンジェリーナが好きだし真剣だからこそ、ちゃんと気持ちの整理して付き合いたいんだ。


アンジェリーナは俺が骨が浮くようなガリガリの時から好きだと言ってくれていた。俺はこの前アンジェリーナが言った通りいい容姿ではないけど、アンジェリーナは俺のことを好きって言ったんだ。


だけど俺はアンジェリーナの顔や胸や腰とか体ばかり目が行く。俺はアンジェリーナの体目当てで付き合ってないかって言われたら正直否定できない。」


何が体目的だよ。そんなにことを本人の前で言って告白する馬鹿が何処にいる。


「じゃ、チャン。もしも私の胸が全くなくてまな板みたいに何もなかったらどうするの?私の事を好きになれない?」

まな板って、その表現何処で覚えた。


「いや、多分それはそれで好きになると思う。」

貧乳でもそれがそれで良い。


「なら、私のお腹がたるんでいたら?」

「それはそれで可愛いと思ったかも。」

たるんだお腹を必死に隠して、裏で一生懸命腹筋をするアンジェリーナは目に浮かぶ。それも可愛いな。


「どこに私の体が目的の要素があるの?

私の体目的って言うけど、それの何が悪いの?

私の体目的無しで付き合いたいって、それって私に肉体的な魅力がないって言いたいの?」

「いや、アンジェリーナは肉体的にも魅力だよ。むしろ肉体的に魅力的すぎて本当にアンジェリーナの事が俺は好きなのか考えたくらい。」


「なら良いじゃない?それで結局私と付き合うの付き合わないの?チャンの口から言ってよ。」


なんというか、性格に女の子らしい恥じらいが本当にないな。でも俺にとってそれが良いのかもしれない。

こんなど直球に言えるのはアンジェリーナくらいだよ、本当に。


「アンジェリーナ、俺はアンジェリーナと付き合いたい。でもアンジェリーナからではなく、俺から告白させて。」

アンジェリーナは少し赤くなりつつうなずいた。


俺は深呼吸をしてからアンジェリーナに言った。

「アンジェリーナ、俺と付き合ってください。俺はアンジェリーナの事が大好きです!!」

ベタな言葉しか思いつかなかった。


でも、俺にとって初めて言った告白だ。本当は飾った言葉がいいかもしれないが、これはこれで俺らしくていいや。


「はい、喜んで。私もマツヒデの事が大好きよ。」

アンジェリーナは寝転ぶ俺に覆い被さるように抱きついた。


俺は初めて好きな人に愛される幸せを感じた気がした。





でも、まさか俺の初めての告白が寝技になるとは思わなかった。


「アンジェリーナ、でもなぜこのタイミングで俺に返事を聞いたんだ?」

俺は素直な疑問をアンジェリーナにぶつけた。


「簡単よ。チャンと一緒にチャンの重荷を背負うためよ。」

ちょっとまで、俺はアンジェリーナにこの精神的苦痛を味合わせる気はないぞ。


「アンジェリーナ、それは無理。アンジェリーナがそうする必要もない。」

俺はアンジェリーナに告げた。


「わかってないわね。チャンの事が好きだから一緒に背負うのよ。それとも結婚でもしないと背負わせる気はない?


チャンはどうか知らないけど、私はチャンと結婚する気でいるわよ。もしもチャンと結婚しなかったら、もともと一生を研究に捧げるつもりだったし、独身でいるつもりよ。


ちゃんとカップルって言える状況でなかっただけで、私はチャンの事を結婚してもいいくらいにはよく知っているつもりよ。毎日チャンの家で起きて寝るまで一緒にいたのだから。


結婚しないと背負わせる気はないというなら、17歳のチャンは日本で結婚はできないから婚約でもする?


それでもダメって言うなら今すぐベットに行って絶対的な証拠でも作る?


好きな人のためならなんでもする。それが女の覚悟よ。」


アンジェリーナは胸を張ってそう言った。


ちょっと、ま。

いや、それはそれで魅力的な提案かもしれないけど。


しばらくして堂々と言った内容にアンジェリーナは恥ずかしくなって、顔を逸らす。


そこで赤くなるなよ。恥ずかしくなるなら初めから言うなよ。


「アンジェリーナ、わかった。わかったから。一緒に俺の重荷を背負ってくれ。」

流石に無理。

そんな風にアンジェリーナを扱えないし、扱いたくもない。



「俺もアンジェリーナと結婚するつもりで、付き合うから。アンジェリーナがいいと言うなら浮遊都市スキルの重荷を一緒に背負ってくれ。」



スキルステータスの管理画面に婚約者の欄ができ、そこにアンジェリーナ・ネロ・サンディの名前が入った。


なんだか浮遊都市に婚約を認められたみたいで嬉しかった。




「なにこれ。チャン。よくこのスキルを持っていて欲のままに使わなかったわね。


このスキルだけで世界を征服できるわよ。

経済的にも技術的にも人民的にも。


チャンって薄々わかっていたけど、あまりダンジョン通貨に興味がなかったのはこれが理由ね。

ゼロを数えるのが面倒になるくらいの金貨を持っていれば、お金にも興味がなるなるわけよ。


でも日本円には積極的よね?何かあるの?」


婚約者特権で俺と同じスキルステータスを持ったアンジェリーナ。

全権代理と同じように全てを見れるらしい。


普通の全権代理と違うのはオートモードが俺を守ったようにアンジェリーナも守ってくれるところだ。


こんな機能があるとは知らなかった。


「このスキルで集めたダンジョン通貨を日本円に換えないことにしているから。目立つと思ったし、ポーションを買うとき以外に使ったことはない。


もしもスキルが急に無くなったら暮らしていけなくなりそうで。

おかげで金銭感覚は、まだ普通だと思う。」


アンジェリーナは無限にある機能を大雑把に確認していく。最初は一つ一つ細かく確認していたが、あまりにも細か部分を読んでいたらキリがないと悟ったようだ。


「この攻撃システム、偵察も簡単にできるのね。盗聴、盗撮なんて世界中どこでも簡単で、事故を装った攻撃も簡単にできる。


これなら2つの浮島の間のトラブルの理由も簡単に突き止められそうね。


とりあえず、まずはメッセージの処理ね。


このまま放っておくと多分三時間後にはドンパチやる始めるわよ。


宣戦布告直後に主砲を3発も撃つような状況よ。きっと鬱憤が溜まりに溜まってるはずだわ。


飛行機を撃ち落としたことはきっと後悔はしているだろうけど、それでやめるなら初めから撃っていないわ。」


アンジェリーナは2つのメッセージを見比べる。


「とりあえず、今確かなのはこのメッセージに直接返事をすると、ダメという事よ。一方的な通告かつ、オートモードが撃った攻撃に意味があるようなメッセージを全世界に発信するのがベスト。


世界へのメッセージ発信にちょうどいい人材をオートモードが見つけている事だし、その人に発表してもらいましょう。


その人ならもしも何かあっても、チャンや私に直接的に被害が来ることはないわ。今の地位がお気に入りみたいだし。」


浮遊都市の重荷をアンジェリーナに背負わすなんて考えなくても良かったみたいだ。

アンジェリーナは初めておもちゃを与えられた子供のように実に楽しそうだ。


「チャン、戦争というのは言わば子供の喧嘩みたいなものなのよ。厄介なのは関係ない人を巻き込む事よ。


喧嘩は止められない。でも関係ない人が死ぬは許せない。それなら関係ない人が死なないようにすれば解決ね。」



アンジェリーナはとある人に送るメッセージを書く。

「チャン、とりあえずこれでいい?これで三日間は戦争止まる。三日間あれば関係ない人は出ていけるわ。これで残った人はみんな関係者。喧嘩の当事者たちよ。当事者まで救う必要なない。喧嘩の原因になる人だもの。


戦争がどう言うものか、わからない人には体感してもらうのが一番よ。」


ーーーーーー


マグナ・フットが今回の浮遊都市の対応について緊急発表がある。


世界の注目がマグナ・フットに集まる。


「まず、これから発表する事について、私たちは一切質問に答えられない事を言っておきます。


先ほど、浮遊都市支配人からメッセージが来ました。


その内容は、


浮遊都市はこのメッセージの内容が発表されてから三日間、北太平洋浮島と南太平洋浮島について、一切の攻撃を禁止します。これに背いた場合、海上に発射した攻撃よりも強力なものを直接背いた浮島に撃ちこみます。


攻撃は浮島のシールドを一瞬で溶かし、一撃で沈没させるだけのエネルギーを持っています。


これは浮島支配人への警告です。

この言葉の意味を支配人は理解できると信じています。


北太平洋浮島、南太平洋浮島に住む一般人にはこの三日間で浮島領外への退避をお勧めします。


残った人は関係者と断定します。三日間経過後は戦争に巻き込まれる事を覚悟してください。


住人で次の住む場所が見つからない方は、他の浮島に移る事をお勧めします。

浮島は他の国家と異なり、住人になる人には比較的寛容な対応をしてくれると思います。


この三日間を有効に使う事を浮遊都市は願っています。



以上がメッセージに書かれていた全文です。


世界連合はこれを受けて、三日以内の2つの浮島の待避を推奨します。

浮遊都市は海上に南太平洋浮島が攻撃を中止するような一撃を撃ちました。


浮遊都市が見張る三日間のうちに飛行機を送り、なるべく多くの人を救う行動をとる事を各国に求めます。」


記者からは「その支配人からのメッセージは日本語だったのか」「支配人を見つける手がかりにならないか」などの質問があったが、マグナ・フットが「今その議論をする事に意味がありますか?緊急事態に無駄な質問をする記者は追い出しますよ。」と言われ引き下がった。


世界は大慌てで飛行機をチャーターし、北太平洋浮島、南太平洋浮島へ飛ばした。


2つの浮島の空港最高記録の発着数となった。

細かいトラブルがあったものの、ほぼ希望者の退避は完了しつつあった。




ーーーーー


「警告の意味、伝わればいいな。」

「わかるわよ。浮島を沈めると言うことは支配人にとって死の宣告ってことくらい。」


アンジェリーナはマグナ氏の発表の中継を見て概ね満足していた。

でもそれはメッセージ欄を見るまでだった。


「何よこれ、チャンがブロックしたのもうなずけるわね。まるでストーカーされている気分になるような件数ね。」

アンジェリーナはマグナ・フットから送られてくるメッセージを見る。


ほとんどが何かをして欲しいみたいな希望ばかり、それを1日で30件くらい送ってくるのだ。


しかも一つ一つが長文。


こんなの一つ一つ見ていたらキリがない。


「私マグナ氏は結構頑張っている人だと思って少し尊敬していたけど辞めるわ。特定されそうな事を返信する様に誘導するような内容も含まれているわね。さっさとブロックね。また必要な時にブロック解除でいいわ。」


こうして今度はアンジェリーナの手によって再びブロックされたマグナ・フットだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る