第37話 第一次スキル戦争2 理由

北太平洋浮島


温暖な気候の場所を中心に周回し、観光などを主な産業に知る一方。ダンジョンのポイント投資を疎かにしたために集客が見込めず、それを補うためにコカインの生産を裏の産業にしている、浮島国家。

低レベルとは言えダンジョンの力で急速に成長するコカの木は世界の悩みの種。

大統領は全権代理をもち、この2ヶ月の間に3回大統領が変わった。首にかかている青色の宝石が全権代理の証だ。支配人は不明。




南太平洋浮島


貿易の中継地として初期は発達し始めるも、海賊が住み着いてしまい一気に治安悪化。

ダンジョンと兵器へのポイント投資をなによりも優先し、海賊を積極的に取り込み、軍隊へと押し上げた。

観光地もあるが、貿易と軍事が中心。ダンジョンも特殊で、復活が困難なダンジョンである代わりに経験値がおおく、普通のダンジョンで満足できない強者や、命知らずが積極的にやってくる。

アメリカと中国、オーストラリアが一番警戒している軍事国家。


治安が悪いが、盗みは厳罰のためほとんどない。貿易の中継地かつ、貿易船の傭兵団の基地となっている。

国王が支配人で、首相が全権代理を持つ。




この2つの浮島は以前から仲が悪い。


北太平洋浮島から南太平洋浮島にコカインが持ち込まれる。

せっかく治安が戻り始めたところに送られてくる薬物。これ以上治安が悪化しないよう南太平洋浮島はコカインの取引を禁止した。


何度も何度も忠告したが送られてくるコカイン。医薬品にも使われているため、持ち込み禁止にできないし、セミオートでは用途に応じて持ち込みを禁止をすることもできない。


なぜコカインが運ばれてくるのか。


その背景にあるのが、北太平洋浮島のコカイン流通ルートに南太平洋浮島の貿易ルートが使われているからだ。


せっかく苦労して整えたのに。どんどん内側から破壊される。傭兵団はもとも海賊なので薬物を止めるのも難しい。


南太平洋浮島の国王はブチ切れてた。




これ以上迷惑をかけてくるなら、一層のこと潰してしまえ。



こうして南太平洋浮島は北太平洋浮島に宣戦布告をした。



ーーーーーーー


世界中に緊急ニュースが流れる。


南太平洋浮島、北太平洋浮島に宣戦布告。

攻撃に巻き込まれて民間機、AMA821便東京羽田空港行きの墜落のニュース。



世界各国は知る。

世界の常識を壊すような圧倒的な浮島の攻撃力。


世界の人は感じた。

そしてこの攻撃力が個人の手にあると言う恐怖を。


偶然にも海上から撮影された映像には、南太平洋浮島から発射されたオレンジ色のレーザー光が北太平洋浮島の半円状のシールドに三度弾かれる映像。

そして最後の弾かれたレーザーが、飛行機に当たり墜落していく様子。


南太平洋浮島の攻撃の数秒後。

この攻撃を止めるかのように、2つの浮島の間に撃たれた浮遊都市の攻撃が、ありえない量の海水を巻き上げる映像。


最後の攻撃の余波を受けて激しく揺れる船内と、遠くのコンテナ船が荷崩れを起こす映像が、攻撃の威力を物語る。



世界はアメリカに期待した。世界の警察のアメリカならば、なんらかの方法で解決出来るのではないかと。


アメリカはこの件について、アメリカに被害がない限り関わらないことを宣言した。

ただ、同盟国の飛行機墜落を受けて、ハワイから捜索隊は出すらしい。

攻撃の1時間後のことである。


アメリカの宣言とほぼ同じ時刻。

世界の記者は浮遊都市の攻撃についてアナザーワールド委員会委員長のマグナ・フットは緊急記者会見を開いた。


「今回の攻撃は私の意思でも、アナザーワールド委員会の意思でも、世界連合の意思でもない。

攻撃は浮遊都市支配人の意思だ。


この攻撃を私は止めることはできないし、攻撃をすることもできない。


私には攻撃する権限が与えられていない。」


マグナ・フットは自身が浮遊都市の支配人ではなく、一部の権限を与えられた管理者である事を改めて強調した。


「私は何度も浮遊都市の支配人にメッセージを送ったが、そのメッセージに返信が来ることは、ここ何ヶ月一度もない。


支配人についてわかっていることは、使用する言語が日本語であると言うだけだ。」



世界は日本に注目した。


攻撃から2時間後、日本政府は緊急記者会見を開いた。


「まず最初に今回の民間機の墜落で犠牲となった多くの方々に対し、哀悼の意を捧げます。


AMA821便は夏休み期間中で多くの人が乗り合わせ、520名満席の状態であったと報告を受けています。

現在、生存者が48名、死者が163名、行方不明者が319名。

主翼の一部が南太平洋浮島からの攻撃により、損傷したため飛行不能となり墜落したとされていますが、まだ救助作業と捜索が続いている状況であり、詳しいことはわかっていません。


今回の民間機攻撃事件を受けて、日本政府は南太平洋浮島政府に対して非常に強く抗議し、これからの対応については先程設置された、北太平洋浮島対策本部にて会見終了後議論する予定です。


最後になりましたが、世界連合、アナザーワールド委員会、マグナ・フット委員長の発言についてですが、日本国は国民全員のスキルについて調査しているわけではないので、浮遊都市のスキルを持った国民がいる可能性は否定しませんし、肯定もしません。


また今後国民個人に対し、スキル開示を不必要に求めることもしませんし、強制調査する予定もありません。


スキル証明制度を利用して調査している範囲では浮遊都市スキルを持った個人は見つかっていません。」


日本政府は北太平洋浮島の了承の上、自衛隊による捜索隊を現地に派遣を決定した。


ーーーーーー


「なかなかすごいことになってるわね。北太平洋浮島行きの飛行機は全て欠航。当然ね、民間機が撃ち落とされたのだから。」

アンジェリーナは日本の記者会見を見ながらいう。


「ジャックさんが酔っ払って飛行機に乗り遅れてしまったおかげで私たちは助かりました。犠牲になった人には悪いですが、本当に幸運でした。私たちの乗る予定だった飛行機が攻撃されたと知った時はしばらく震えが止まらなかったです。」

志帆はまだ少し手が震えているようで、手持ちのグラスの水面に波形が浮かぶ。


「多分この中で一番幸せなのはジャックだろうな。飛行機のことも、攻撃のことも何もかも知らないからな。」

目の前で飛行機の墜落した瞬間を見た真斗は流石にいつもの元気さはかった。



俺はソファにだらしなく座る。

あの時は自分にも危険が及ぶ可能性があって冷静になれなかったけど、今は冷静に見れる。


スキルステータスに映る2件のメッセージ。


この中で唯一俺は南太平洋浮島の攻撃を止める手段があった人間なのだ。

そして、飛行機が墜落するのも夢でとはいえ、知っていた。


落ち着いて状況を把握した時、俺は飛行機への攻撃を防げる立場にいながら、自分たちだけが助かる道を選んだその罪悪感に俺は押し潰させそうになっていた。


俺はどうしたらよかったんだろう。


攻撃を止めれた方法はいくつもある。一番簡単な手は浮遊都市が放った攻撃を1発目すぐに撃てばよかっただろう。


それならば、少なくとも飛行機が墜落することはなかった。


アンジェリーナが俺のことを心配そうに見る。

アンジェリーナの心配は嬉しいが、俺の中の罪悪感は消えない。


もしもこのままメッセージを返信せずに放置すれば、きっと何時間後かに攻撃が再開されるだろう。


浮遊都市もそうだが、浮島には支配領域の境目に外部の攻撃から島を守るシールドがある。


そのシールドは支配者の意思で通過できるものが決められており、そもシールドを破壊されない限り攻撃は通らない。


浮遊都市の破壊不能オブジェクトもこのシールドが使われていて、シールドが破壊されれば浮遊都市の施設も破壊可能だ。


浮遊都市のシールドを破るには浮遊都市の主砲、超高密度光子砲を高出力で30回当てる必要がある。シールドにダメージがあり出力が低下してもすぐに再チャージされるので、同時に一箇所に30発着弾でもしない限り破壊不能だ。


だがあくまでもこれは浮遊都市の場合だ。浮島のシールドは浮遊都市のシールドに比べると貧弱すぎる。


4発目の前に浮遊都市が自動で攻撃したのは照準が俺がいた浜辺の方向にロックされたためであったからだ。


きっとまだシールドには余裕があったが、シールドが破れる可能性もあったのだ。それをスキルのオートモードは感知たらしい。


このまま現状維持か、何か行動するか。

俺自身のことだけを考えるなら何もしないのが賢明な判断だろう。


だけど、このままでは確実に犠牲者は出る。


一番簡単な解決策は浮遊都市も戦争に参加して圧倒的な攻撃で二つの浮島を支配すればいいのだ。


全権代理を渡さないと浮島を沈めるといえば、浮島の消失が直接の死の原因になる浮島の支配人は逆らうことができない。


だけどその後がめんどくさい。俺は浮遊都市だけでも手に余っているのだ。その上浮島なんて管理したくない。たとえオートモードがやってくれるとしてもだ。


もう一つ選択肢がある。俺が世界連合か日本政府に名乗りを上げ、アドバイスを聞く方法だ。

きっと俺では思いつかない選択肢も出てくるだろう。

正直何も考える必要がないから楽だし、責任転換かもしれないが気分も楽だ。

だけど自由と安全がなくなる。それが嫌だ。


アンジェリーナに相談という手もあるが、それをするとアンジェリーナにも責任の重石が付く。だから却下だ。


きっといつもの俺なら何もしないだろう。だけど沢山の人がなくなってる状況をなんとかできるなら。

笠岡さんに俺のスキルのことを話そう。


そう決めてスマホと笠岡さんの名刺を取り出した時、俺の手をアンジェリーナが掴んだ。


「チャン、それは絶対にさせないわよ。」

「アンジェリーナ、俺は....」


俺の話を聞く前にアンジェリーナは俺の口を手で塞ぐ。


「それは言ってはダメよ。絶対にね。

話はギルマス室で聞くわ。」

俺を無理矢理引っ張ってギルマス室に向かうアンジェリーナ。

「ちょっと待てアンジェリーナ、そんなに引っ張るな。」

「なら早くギルマス室に来なさい。」

アンジェリーナはソファで寝転ぶ俺の手を引っ張る。


「なぁ、松ちゃんは何を言おうとしたんだろうな。」

真斗は俺たちの様子を見ながらいう。


「聞いてはいけませんよ、真斗。あれはアンジェリーナと松ちゃんの問題ですから。」

「志帆は何を言おうとしたのかわかるのか?」

「大体予想はつきます。でもこの問題は松ちゃんのことが大好きなアンジェリーナが解決するでしょうから。」

「ふーん、松ちゃんもモテモテだな。俺も彼女候補欲しいなー。」

「ゆりさんが好きなのではなかったんですか?」

「まぁな。でもあまり俺のことを意識してくれないし、俺にことは眼中にないって感じだからな。って待て、今この部屋にゆりちゃんいるだろ!志帆、なぜ暴露した!!」

「それはゆりさんは疲れて寝ているからですよ。」

志帆は俺が寝ていたソファの対面を指差す。


ゆりちゃんが気持ちよさそうに寝ていた。


俺はソファから引き起こされ、アンジェリーナに連れられてギルマス室に入った。


ーーーー


私はアンジェリーナの鋭い声で起きた。


だけど軽い貧血ですぐには動けない。私はそのままソファに寝転んだままだ。


「なぁ、松ちゃんは何を言おうとしたんだろうな。」

アンジェリーナさんと松ちゃんが押し問答しているということは何かあったのでしょうか?真斗の発言も気になります。


「聞いてはいけませんよ、真斗。あれはアンジェリーナと松ちゃんの問題ですから。」

「志帆は何を言おうとしたのかわかるのか?」

「大体予想はつきます。でもこの問題は松ちゃんのことが大好きなアンジェリーナが解決するでしょうから。」

「ふーん、松ちゃんもモテモテだな。俺も彼女候補欲しいなー。」

真斗さん、誰が好きな人でもいるのかな。


私は興味本位で寝たフリをして話をいく。

森さんも松ちゃんも一ノ瀬さんも好きな人を行くけど、真斗さんだけ聞いたことないな。


「ゆりさんが好きなのではなかったんですか?」

え、志帆さん?! 何を言い出すんですか!!


「まぁな。でもあまり俺のことを意識してくれないし、俺にことは眼中にないって感じだからな。って待て、今この部屋にゆりちゃんいるだろ!志帆、なぜ暴露した!!」

ええー、私ですか?


そんなこと考えたこともなかったです。

え、ちょっと。

寝たフリしなければよかった。


「それはゆりさんは疲れて寝ているからですよ。」


今絶対起きたらダメ。

志帆さん、私が起きていること絶対気付いているでしょ!


今日の話は絶対聞かなかったことにしよう。

そうでもしないと、恋とかしたことないから真斗さんの顔を見れなくなりそう。


寝てるフリをしていたら、いつのまにか寝ていた。

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