第36話 第一次スキル戦争1 夢と現実

飛行機乗り遅れる大作戦。


アンジェリーナが一番最初に行動を起こすかと思っていたが、そうではなかった。


「ジャックー、どこにいるの?」

「ジャックさーん、どこにいるんですか?」


ジャックが帰ってこないのだ。

そろそろ荷物をまとめないと飛行機の時間に間に合わないくらいの時間。


「ジャックは大人よ。そのうちちゃんと戻ってくるわ。」

アンジェリーナがそう言って捜索開始を遅らせたのも事態を悪化させた原因だが。


よく考えたら、アンジェリーナ仕事してるな。


「ジャックー、どこにいるんだ?そろそろ荷物まとめないと飛行機の時間に間に合わないぞ。」

あまりにもジャックが見つからないので俺は本当に心配になってきた。


「ちょっと、海水浴場の端っこまで見てくる。」

そう言って神山が誰もいない砂浜へと走っていった。


こういう時こそ変身すればいいのに。トラブルが起きたときだけだが、そういうところが神山は抜けている。


「俺は神山が行った方と反対の方をみてくるそ。」

そう言って真斗も砂浜の方へと走っていった。


真斗の場合は神山と違って変身するわけにはいかないだろう。


「私は一応ジャックさんの荷物を軽くですが、整理してきます。」

そう言ってログハウスの中にはいるゆりちゃん。

「私も手伝う。」

妹もログハウスに向かう。


最初の1時間はなんとなく、都合いいやと思いながら探していたが、2時間もたつと本気で心配になり、俺もアンジェリーナも本気で探し始める。


「どうしようアンジェリーナさん、飛行機に間に合わないよう。」

不安になる妹。


「乗り遅れれもあとの飛行機もあるし、最終手段で私が転移すればなんとかなるわ。だから今はジャックを探しましょう。」


俺とアンジェリーナはログハウス近くの松の林もみるが、人影はなかった。


念のため、ログハウスの管理センターに行ってログハウスの延長使用の申請と、ジャックの写真をみせて見かけなかったか確認する。その場にいた職員だれもジャックを見かけなかったそうだ。



「念のために、ログハウスを一日延長宿泊できるようにしたわ。」

アンジェリーナは全員に報告する。全員の荷物がログハウスの外に出されていたが、森の手によってログハウスの中に戻された。


「私と健太は念のために一旦空港に行ってみるわ。荷物が残っているからないと思うけど、もしかしたら空港に先に行った可能性もあるから。」

鈴と一ノ瀬はそう言って空港に向かう。浮島のなかの公共交通機関は24時間運行で、最低でも1時間に1本は運行されているので終電が終わって帰れないということはない。


4時間が立った。20時発の飛行の離陸時間まであと1時間。今からどんなに急いでもアンジェリーナが転移でもしない限り絶対に間に合わない。


「アンジェリーナ、なにか方法はないの?」

「チャン、あることはあるんだけど。できればこの方法は使いたくないのよ。


いざという時のために私はギルドメンバー全員に転移のマーカーをしているから、転移すれば見つけることができるわ。でも、ジャックのプライバシーもあるし、誰かがいると私の能力の情報がほかの人に流出するかもしれないのよ。だから本当の最終手段にしたいのよ。」

「ジャックが死んでいるとははない?」

「それはないわ。人間対象にマーカー設置した場合は死ぬと転移できなくなるからわかるわ。」


最終手段があるなら、取り敢えずは安心だ。

アンジェリーナにスキルを使わさないためにも、取り敢えずは今はジャックを探そう。


そう思ってログハウスのそばを離れようとしていた時。

「ジャックが見つかったわ。泥酔していて動けないみたいなの。だれかきて。」

神山がこちらに走ってくる。

それをみた森が神山の方へと走ってく。森をみた神山がそのまま引き返してジャックの方へと案内する。


「ジャックみつかったみたい。」

「そうね。能力を使わずに済んでよかったわ。」

俺もアンジェリーナも一安心した。



「ジャック、しっかりして。ジャック。」

備え付けのログハウスの前のベンチで寝転ぶジャック。それを心配する神山が呼びかける。


「あー、これは完全に動けないわね。森、ログハウスの中にねかしといて。きっと3時間くらいすれば動けるようになるわ。」

お酒経験豊富なアンジェリーナ。そこらへんは心得ているらしい。


「それで、神山。ジャックはどこに居たんだ?」

俺は気になって聞いてみた。


「鈴たちが言っていた色黒のお姉さんのログハウスで伸びていたみたいなのよ。私がジャックを見つけられてのはそのお姉さんたちが、ジャックの介抱でログハウスの外に連れ出した時にあったからだわ。


最初のうちはお姉さんたちがジャックに飲ませていたんだけど、様子がおかしいから止めたらしいわ。そしたら、自分からどんどんお酒を飲んじゃって。お姉さんたちも本人が飲むなら大丈夫だと思って止めなかったらしい。お姉さんたちのお酒を飲んでいたみたいだったから、念のために金貨1枚置いてきたわ。」

ジャック以上に大人な対応の神山。さすが元学級委員、しっかりしている。


「きっと調子に乗ったのね。ジャックも普段はおとなしいけど大人の男なのね。きっと今頃幸せな夢を見ているわ。」

アンジェリーナの言う通り、ジャックの寝顔は気持ち悪いほどの笑顔だった。


ーーーーーーー


予定になかった浮島2日目の夕ご飯はギルドホームに持って帰ったバーベキューの残りだった。

昼間はお酒をのんでいたのだが、ジャックを見たことで自重することにしたのかアンジェリーナはお酒を飲まなかった。


「多く焼き過ぎたと思っていたけど、意外なところで消化できてよかったわ。」

鈴はすこし疲れ気味に言った。


「全く、ジャックにこんなに振り回されるとは思っていなかったわ。」

神山はいつも通りの口調で少し怒るが、やはり疲れているのだろう。あまり覇気ががない。


「普段ジャックに世話になってるから今日くらい羽目を外してもよかったけど、せめて行き先くらい教えてほしかったぜ。」

こちらもクタクタの真斗。


もうすぐ夜の8時になる。

「ああ、飛行機行っちまったな。」

「そうですね、でもこういう日もありますよ。」

森に珍しく同調する志帆。


そう言えば、20時と言えば何かあったような。


俺は遅めの夕ご飯を食べながら考えていた。

何か重大なことを忘れている。


そんなことを思っていた時、急に空気全体が揺れるような大きな振動と音がログハウスを襲った。


慌てて外に出る俺たち。


外に何も変化はない。ほかのログハウスの宿泊客も何人か外に出ているので、さっきの音は空耳ではないのだろう。


1分くらい様子をみていると、オレンジ色のビームが夜空を突き抜けるように駆け抜け、同時にさっきと同じような衝撃音と振動が俺たちを襲った。


俺は一瞬で思い出した、あの悪夢を。


「アンジェリーナ、3発目で飛行機が。」

俺はアンジェリーナだけに聞こえる声で言った。


ちょうど空高く上がっていく飛行機。きっと俺たちが乗る予定だったものだ。

1分くらいの空白の時間。俺は飛行機を見続ける。


まさか、本当に落ちるわけがない。あれはただの夢だ。


オレンジ色の光が俺の見ていた飛行機の主翼を貫く。

ここ一番の大きな音。そして地震のような振動。


衝撃で海にも波が広がる。。




「あの飛行機みて、燃えながら落ちていくわ。」

着水とは程遠い状態で飛行機は海に突っ込んでいった。


大きな爆発音とともに。


俺は見ていることしかできなかった。



「俺行ってくる。」

真斗が飛び出そうとする。

きっと、ドラゴンに変身して助けに行こうとしているのだろう。

それをアンジェリーナが真斗の肩を掴んで止めた。


「まって真斗。あれはどう考えても攻撃よ。真斗はあの攻撃に耐えれる自信はある?」

「だけどよ。あそこで人が死んでるんだぞ?今なら助かるかもしれない。俺はドラゴンだ。俺はいるだけで状況は変わる!」


真斗がアンジェリーナの静止を振り切って、行こうとする。アンジェリーナが慌てて真斗に手錠のような腕輪をかけた。


変身しようと飛び上がる真斗。しかしそのまま真斗は変身できることなく地面に落ちる。


「なにするんだよ、アンジェリーナ。」

「あなたが興奮状態で、勝手に危ない場所へ突っ込んで行こうとしたから止めたのよ。」

「なんだよ、助けることが悪いことか?」

「人を助けることが悪いとは言わないわ。でもあの飛行機の落ち方よ。きっとすぐに救助のボートやヘリが現場に向かうはず。そこにモンスターかもしれないドラゴンが現れる。救助どころじゃないわ。


それに行ったところで連携できない素人なんて邪魔にしかならないわ。」

アンジェリーナに諭され冷静になった真斗は大人しくなる。


最も飛び出そうと変身能力を使った人はもう1人いるが、アンジェリーナの真斗への説得を聞いて大人しい。


「攻撃は一旦止まりました。とりあえずログハウスに戻りましょう。」

こんな時にも冷静な志帆。


俺たちはログハウスのリビングにそれぞれ座るところを見つけて座る。


全員無言。


そんな静かな空気に志帆が口を開く。

「まず、今の状況を整理したいです。


まずあの黄色い光線。国に属する軍が撃てるようなものではありません。

これはおそらくスキル能力を使った攻撃。それもレーザー系統です。


正直こんなことを考えたくありませんが、これは明らかに危険すぎる能力です。


私たちはこれからどうするか真剣に考えないとダメな状況にあります。


浮島の入国履歴を無視してアンジェリーナの能力で帰るべきか否か。


そしてもう一つ、アンジェリーナさん。真斗の能力を封じた腕輪についても教えてください。」


アンジェリーナが大きくため息を吐く。

「真斗につけた腕輪は私が使っている能力妨害の腕輪よ。集中すれば能力を普通に使えるけど、慌てている時や冷静でない時にその腕輪をつけていると能力が封じられるのよ。


元々は私が寝ている間に転移していることが一度あって、それを防ぐために作った腕輪よ。


これは部外秘。


いい?この腕輪のことは絶対に言ってはダメよ。今回は緊急事態だったから使ったけど、こんなものがあると分かるとアメリカを始め、いろんな国に狙われることになるわよ。


真斗、その腕輪はスペアを作ってないから落ち着いたら返して頂戴。


私もそれがないと落ち着かないのよ。」


真斗が立ち上がってアンジェリーナに腕輪を見せる。

アンジェリーナは腕輪の端のボタンをカチカチと何度か押し、真斗から腕輪を外した。そして自分の左腕に着ける。そしてその腕輪を腕まで上げた。


水着の時の銀色のアクセサリーはこれだったんだ。

てっきり腕を細く見せるためのアクセサリーだと思っていた。


「アンジェリーナさん、とりあえず安全確保のためにギルドホームに戻りませんか?少なくともここにジャックを置いておくのは危険です。」

志帆が寝室の大部屋を見ながらいう。


「そうね。辻褄あわせなんてあとですればいいものね。みんな荷物を持って、一旦ギルドホームに戻りましょう。」

荷物が多かったのでアンジェリーナが何度か往復する羽目になったが、一応もうログハウスには荷物も人もいない状態にした。


俺はギルドホームに戻りスキルステータスを開く。


普段は絶対に触らない攻撃のタブを開く。

そしてその中のパッシブレーダーの項目を開き、レーダー波を発進した。


浮遊都市は今高度2万メートル。北太平洋浮島から西に約500kmの位置。


超高密度光子砲でギリギリ北太平洋浮島に撃てる距離。


これは射程の距離の限界ではなく、弾道が直線で地球が球であるためにできてしまう射程だ。


そして北太平洋浮島から南に50kmの位置に南太平洋浮島。こちらかの距離は約500km。


攻撃履歴がある。


どうやら浮遊都市は南太平洋浮島が北太平洋浮島を三度攻撃したとき、警告で北太平洋浮島と南太平洋うのちょうど半分の場所の海に超高密度光子砲を打ち込んだみたいだ。


低出力で海では放ったが、それが浮島に命中したらシールドが一発で剥がれ、二発目で壊滅的大被害、高出力なら一撃で浮島は破壊され沈む。


南太平洋浮島は浮遊都市を警戒して今は攻撃をやめているようだ。


浮島のシールドは核兵器には楽々耐えるからな。

今回の攻撃はきっと浮島にとって核兵器よりも恐ろしいに違いない。


俺のスキルステータスのメッセージ着信欄には南太平洋浮島からのメッセージと北太平洋浮島からのメッセージが届いている。


南太平洋浮島からは

浮遊都市への攻撃意思はないというメッセージ。


北太平洋浮島からは

守ってくれたことへの感謝とこれからの反撃の協力依頼だった。



なんだよこのカオスな状況。


どちらにも味方についたらいけない状況。

返信すら危ないかもしれない。







俺はメッセージを見なかったことにした。


無理、こんなの見たくもないし、面倒だ。

こんな高度な政治判断、俺の手に余る。

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