第27話 VS公安6
モンスターが弱すぎる。
ポーション銃を撃つ必要もない.
ポーション刀を振れば、簡単にゴーレムが切れる。
ゾンビスケルトンに至っては触れれば溶ける。
動く鎧は鉄を斬るといよりも、紙を斬るという感じだ。
俺も強くなったんだな。
・・・ポーション刀無双なだけな気もするが。
「うーん、やっぱり弱いわね。迷いの十字洞窟のモンスターは。」
アンジェリーナは小銃でモンスターを捌きながら言う。
やっぱりそうだよね、弱いよね。
「そうですね、ここはモンスターの強さではなく、迷宮の謎解きがメインなのでモンスターはそれほど強くありません。正直モンスター自体は初心者向けですね。迷宮に迷って長期戦になってしまい、持久力との勝負というのが本来の姿なのですが、攻略組が一日でクリアしてしまうので、地図を持っていればただの初心者コースです。トロッコがここまで延伸される前は中級者も苦労するスポットとして有名だったのですけどね。」
さすが志帆詳しい。
「私もトロッコがまだここまで来ていない時は、真斗とここの迷宮によく挑みました。」
俺とアンジェリーナ2人でモンスターが片付くものだから父も母も志帆も暇そうだ。そしてここのモンスター素材はトロッコが来てから供給が多くなったせいで値下がりしすぎてあまり良い値段で売れない。
父と母は一生懸命拾っているけど・・・。
「松ちゃん、いいわよ。これで家計が少し楽になるわ。」
「このゴーレムの核、刀の素材として使えるのか?」
喜んでもらえて何よりです・・・。
でもそのゴーレムの核は素材としては下級なので妹の刀には使わないでください。
ダンジョンを進んでいくと、少し見通しの悪い曲がり角が見えてきた。
ここが今回の俺たちの目的地だ。
この曲がり角の影に、昨日アンジェリーナのアイディアで作った隠し部屋があるのだ。
「俺、欲しいアイテムがあるからトラップルームに行ってくる。父さん、母さんはアンジェリーナと一緒に先に行ってて。アンジェリーナ、ボス部屋で集合で。俺たち戻ってこなかったら、先にボスモンスター倒してもいいから。」
「わかったわ。お父さん、お母さん。チャンが先に行けって言ってるから行くよ。」
アンジェリーナは父と母の腕をもって先に進む。
ここは本来なかったストーリーだ。父と母にこれを見られるのはまだよくない。
三人を見送る俺と志帆。
そして見えなくなったところで、少し周りを確認し個人カードを壁にかざす。
扉の形に壁が緑色に光りそして消える。
俺と志帆はその部屋に入った。
中にはたくさんのコンソール。浮遊にあるパネルを並べたものだ。見た目は完全な未来的管理室。
そしてこの部屋はちょうど笠岡さんの位置から見えるか見えないかの場所。笠岡さんはきっとこの部屋を遠くから覗くだろう。
そして予想通り、笠岡さんが足音を立てずにこの部屋にやってくるようだ。
コンソールに表示された地図上の赤い点が2つがこの部屋に向かってくる。
俺はそれに気づかないふりをする。そして笠岡さんと如月さんが勢いよく部屋に入ってきた。
「こんにちは、少しお話を聞かせていただいてもいいですか。」
笠岡さんは銃を片手に部屋へと侵入してきた。
俺と志帆は手をおとなしく上げた。
コンソール上部に ALAERT システムを凍結します 管理室消滅まであと1時間 と表示さがでる。
「「ああーーー」」
俺と志帆が同時にやってしまったという感じの声を出し、テンションが下がったような振る舞いをする。
「なんだ、これは・・・。」
驚く笠岡さん。
「笠岡さん、上のパネルを見てください。管理室消滅ってあります。ダンジョン管理スキルで操作するための部屋だと思われます。最も1時間後に消滅するらしいですかが。」
「そんなの見ればわかる。おい、そこの2人、この管理室消滅を止めろ。」
ダンジョン管理スキルをもった人を探している。つまりこの部屋はきっと喉から手が出るくらいにほしいはずだ。それが目の前で消滅となれば当然の反応だろう。
「笠岡さんが不用意に俺たちを調べるからですよ。この管理室の消滅を止めれるのは笠岡さんが探している大阪ダンジョン管理者だけです。俺たちは志帆がトレードスキルでたまたま見つけた大阪ダンジョンの管理権を持っていただけです。
この部屋は登録している人以外が入ると、秘密も守れない人が管理者になったとシステムが判断し、俺と志帆の管理権もろとも全部白紙になるんです。俺たちが黙っていたのも、アンジェリーナが何も言わんかったのも、この場所に入られると全部白紙になるからです。アンジェリーナは察してくれてこの場所を知っても知らないふりをしてくれてました。それなのに・・・」
俺は笠岡さんに怒る・・ふりをする。
笠岡さんがこの部屋に入ってこなかった場合は、この管理室の譲渡をどこかの形でするストーリーだったが、笠岡さんは突撃してきた。
如月さんは部屋の外で警戒中だ。
「笠岡さん、私たちは今笠岡さんたちのためにコンソールで権利譲渡の操作をしている途中でした。2人しか登録できないので、一度私か松ちゃんの登録を解除し、笠岡さんの登録をする予定だったのですが。
この部屋の場所が誰かにわかると部屋の位置も変わるので、笠岡さんにも如月さんにも話せなかったんです。ですが、もうその作業の必要もなくなりました。私たちは笠岡さんが大阪ダンジョンの管理者を探していると聞いた時に、松ちゃんと相談してこの管理権を手放すことを決心していたので悔いはありません。
ただ、私たちの善意を無駄にしたことをすごく腹立たしいとは思いますが。」
敵の公安を味方に作戦が効いているようだ。
笠岡さんが顔が物凄く後悔に満ちた顔になっている。
おそらく、いや確実に俺たちからこのコンソールを取り上げるつもりだったのだ。それも公安の権限を全力で行使して。
だが、ふたを開けてみれば俺たちは譲渡の作業をしていて、その譲渡予定だったほしいものを自分が壊した。
この作戦を考えたアンジェリーナは笠岡さんに盗聴器を仕込まれてから、絶対に仕返ししたかったみたいで、俺たちのスキルをカミングアウトしたときから必死にお酒が抜けきれない頭で考えたそうだ。
俺たちはこの作戦を聞いた時、絶対笠岡さんは管理室突撃ルートになると思っていた。
志帆は「いえ、公安ですから慎重になると思います。さすがに管理室に突撃することはないでしょう。後日ダンジョン管理室を渡すことになると思います。私としては追いかけられなければどっちでもいいですが。」と言っていた。
「あー、もう今日の目的なくなっちゃたし、帰りますか。もうどうでもいいや。」
投げやりな俺。
「そうですね、松ちゃん。帰りましょう。」
そう言って俺たちは管理室を出る。
「あ、如月さんスキル鑑定紙もっていますか?」
俺は如月さんからスキル鑑定紙を2枚もらう。
「以前、俺たちのスキルを知りたがっていましたね。黙っていてくれるなら俺たちのスキル見せますよ。」
俺の話にうなずく如月さん、俺と志帆はスキル鑑定紙を見せる。
俺が持っているスキル鑑定紙には ポーション生成
志帆が持っているスキル鑑定紙には トレード
と書かれていた。
如月さんが俺たちのスキル鑑定紙をしっかりと見たのを確認すると、俺はスキル鑑定紙をもっていたライターで燃やす。
俺と志帆は唖然とした如月さんと笠岡さんを尻目に迷いの十字洞窟のフロアボスの方へと向かった。
俺たちが去った部屋のコンソールには 1週間後にダンジョン管理室使用権利再販予定 制限時間1時間でオークション形式の予定 と書かれていた。
ーーーーー
「スッキリしたわ。1番の見物はやっぱりこれだったわ。」
静止画で映る青ざめた笠岡さんの顔。
俺と志帆は苦笑いだ。
あの管理室にはカメラが仕込まれていたのだ。アンジェリーナが「盗聴のお返しよ」と言って志帆につけさせたのだ。
確かに今回の公安の行動はやりすぎだと思う。だがそれは笠岡さんも自覚していて、どうしてもその時は必要だと思ってやったと、後から謝罪された。
お詫びにと焼肉をギルド全員に自腹で奢ってくれた。ジャックは流石にいなかったが。
正直ジャックの作る料理の方が美味しいが、やはり人が奢ってくれる焼き肉も美味しい。
公安の上層部は管理室を失ったがそれは結果論。それよりもオークションの情報を手に入れたことを評価しているらしく、管理室が手に入るならということで、捜査は中止。俺たちには緘口令が言い渡された。1週間以内にこの情報を外部に漏らすと本当に逮捕されるらしい。
公表はされていないが、これからオークションに必要なダンジョン通貨を集めるらしい。
「志帆、本当にいいのか?志帆のスキルだぞ?」
「はい、別に私が大阪ダンジョンの支配人の権利を失うわけではないですし、そのほうがきっと、便利になると思います。私はダンジョン支配人も正直やめてしまいたいくらいです。これからは本当のトレードスキルとしてやっていきます。今までよく管理できていたと思うくらいです。」
ギルマス室、俺とアンジェリーナと志帆がこの部屋にいる。
「確かに厄介なスキルは一人に固めていた方が楽だと思うわ。志帆から大阪ダンジョン全権代理をくれるといわれてるのよ。もらっておきなさい。」
アンジェリーナは気軽にいうが、全権代理ということは大阪ダンジョンスキルをお金やポイント以外は実質俺が操作できるということだ。
俺のスキルには下位の管理スキルをオートで管理する機能がある。それを使うにはダンジョンスキルや浮島スキルをもった人から全権代理をもらう必要がある。
俺と志帆は握手をする。
俺のスキルステータスに大阪ダンジョンの欄が増えた。
「これで松ちゃんが全権代理者になりました。」
俺は大阪ダンジョンをオートモードに設定する。モンスターの配置や難易度の調整など、勝手に管理してくれる。
大阪ダンジョンスキル自体にはオートモードはないため、これをすべて手動でスキルステ―タスから調整割り振りをしていたらしい。
真面目な志帆だからできたことで、俺には絶対に無理だな。
素直にそう思えた。
「やっと、これで睡眠不足から解消されます。真斗にも誰にも相談できなかったので毎日辛かったです。」
志帆は安堵の表情をしていた。
「支配人スキルも苦労するわね。」
「はい、正直大変でした。中国の少年が保護されたという事件の後、私は保護されて何をされるかわからない状況になるのが怖くて必死にダンジョン管理していました。
今から考えると国に保護されるのも、この煩わしい調整作業からおさらばできると考えたら一つの手だったのですね。」
志帆は腕を上げて手を組み、大きく伸びをした。
俺は大阪ダンジョンの欄を開き、ざっと中身を確認する。各フロアの地図、まだ発見されていない隠し部屋やモンスター。アイテムの出現率などいろんな数字が並んでいた。
そして同盟欄に東京ダンジョンを見つける。
「志帆、東京ダンジョンと同盟って?」
「ああ、それですね。実は東京ダンジョンと大阪ダンジョンのレベルを合わせたり、同じ復活システムを使ったりするために同盟関係になりました。実際に東京ダンジョン管理者と会いましたがいい人でしたよ。」
え、志帆。それ大丈夫なのか?そこから身バレしない?
「あったのは東京ダンジョン内でしたし、お互いリスクは理解していたので、同盟関係構築のために会っただけです。顔も隠しましたしあそこから個人を特定するのはほぼ不可能だと思います。」
それなら良いのだけど・・・。
「では松ちゃん、アンジェリーナさん。あとは頼みました。私はみんなと一緒に買い物に行ってきます。実はさくらさんとゆりさんを待たせていたので。」
そう言って志帆はギルマス室から出ていく。
不思議と志帆が嬉しそうだ。
ギルマス室は俺とアンジェリーナの二人になった。
「チャン、あなたの支配人スキルにオートモードがあってよかったわね。」
全くです、ほんと。
「アンジェリーナ、志帆から全権代理をもらったし。昨日言っていた例の機能を追加しようと思うんだけど。」
例の機能とは、ギルドホーム転送機能だ。
ギルドに登録していること、浮遊都市に住人登録をしていること、大阪ダンジョンの護符を所持してることが条件になるが、大阪ダンジョンの各入り口付近の転送魔方陣から浮遊都市の各所属ギルドに行くことができる機能だ。
制限としては大阪ダンジョンから所属ギルドホームに行った場合は浮遊都市に出ることはできない。浮遊都市からギルドホームに入った場合は大阪ダンジョンに行くことができないことだ。
ただアイテムは生身の人間が移動できないだけで荷物は移動できるので、そこを注意して持ち込み許可設定する必要がある。
そしてこの持ち込み許可リストは日本政府がダンジョンの管理権を落札できた場合に一緒に付与する予定だ。ただし、ダンジョンアイテムの移動制限だけはさせるつもりはない。
俺はアンジェリーナにシステムについての説明を聞きながら設定を組んでいく。
俺よりも俺のスキルに詳しいアンジェリーナって何者だよ。
「チャン、初めてじゃないの?浮遊都市スキルで本格的で何かをするのって。」
「確かに、正直チート過ぎて俺の手に余っていたし、本格に操作するのは初めてかもしれない。いままでポーションしか買っていなかったから。
それよりも、アンジェリーナなんでそんなに管理スキルに詳しいんだよ。どこかの浮島かダンジョンスキルを持ってるのではないか疑うレベルと思う。」
アンジェリーナはにこっと笑う。
「実は私、パリダンジョンスキルを持っているわ。」
「え?」
嘘だろ?
志帆だけでなくアンジェリーナまで支配人スキルもっているのか!!
このギルド、支配人スキル持ち多すぎないか?
志帆の支配人スキルだけでこんな偶然あるかと思ったくらいなのに。
そんなことを考えてる俺の顔をみたアンジェリーナはため息を吐いた。
「嘘よ。支配人スキルに転移能力はないでしょ?
ギルマスコンソールを触っていたら、だいたいシステムの事はわかるわ。全部はわからないけど、チャンのスキルで何ができるかも大体ね。
今更だけど、チャンが浮遊都市スキルを持ってよかったわ。私がチャンのスキルを持っていたら、今ごろこの浮遊都市は私の実験場になっていたに違いないわ。
このスキル一つで世界VS浮遊都市で圧勝できるのも想像に難くない。それだけに欲望がある人間のスキルだったらと思うと恐ろしいわ。
世界連合に一部だけの管理を任せるというのも、チャンがその性格と考えだったからオートモード機能がそうしたのだろうと思うわ。
良い?チャン。私を含めて絶対に全権代理を誰かに渡したらだめよ。そしてこれから先この部屋と私の私室以外であなたのスキルの話をするのも禁止。ギルドの秘密呪文ももしかしたら穴があるかもしれない。私はその可能性はゼロだと言い切れるけど、それでも警戒すべきレベルのスキルなのよ。
妹のさくらにも、家族にも誰にもあなたのスキルは悟られてはダメ。
相談するなら私とだけで、そしてこの部屋だけよ。」
アンジェリーナは俺を思ってくれている。
きっと何かがあってもアンジェリーナは俺を守ってくれるだろう。だけど俺はアンジェリーナに守られたくはない。
どちらかと言うと守りたい。
「ああ、アンジェリーナにだけ相談する。ほかの人にはたとえ妹のさくらでも相談しない。約束する。」
本格的な夏がもうすぐ訪れようとしているこの日。
すこし、俺にも遅い春が来たような気がした。
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