第28話 オークション

投資家たちは驚いた。


急激にユーロの価値が上がり、日本円の価値が下がるユーロ高円安が進んだからだ。


そしてこれまた急にユーロの価値が戻り、今度はダンジョン通貨が急激に高騰した。


つまり、ダンジョン通貨高、円安になったのだ。


そしてそのデータはとある噂になる。

日本のどこかの企業が多額にダンジョン通貨を集めている。その規模は1兆円規模を超えると。


そして商人ギルド、トレード・トライデントがとある情報を売った。


日本円を大量に購入し、ダンジョン通貨を売ったと。

ただ取引相手は高すぎて誰も情報を買えなかった。

それがオークション開始の2日前。


日本企業が浮遊都市の会社を買収しようとしている。それも大規模に。


投資家たちは憶測で行動する。確実になった頃では動くのが遅いからだ。


そしてオークション1日前。


ある日本官僚がUSBメモリを落とし、1日である情報が世界を巡った。


大阪ダンジョンの管理権のオークションが開催されるらしい。そして日本政府が落札しようとダンジョン通貨を集めていると。


ーーーーー


俺たちはギルドハウスでネット中継を見ていた。


日本の大阪ダンジョン管理権のオークションの中継だ。


「まったく、ダンジョン管理権を出品するって、大阪ダンジョンスキル持ち誰だよ。黙って持っておけばいいのに。」

志帆スキルも志帆の苦労も知らない真斗は言う。


「そうですね、専用狩場とかも簡単に作れそうですし、なかなか大阪ダンジョンスキル持ちの人は勿体無いことをしました。」

志帆、完全に他人の振りをする。


「大阪ダンジョンスキルですか、私が持っていたらどうしましょうか?」

こちらも他人事の鈴。


「俺がダンジョンスキル持ちにするなら、蘇りの沼の沼を透明な粘液に変えるな。」

髪の毛が輪ゴムのライオンになっている森が言う。

俺と真斗が寝ている間に、俺たちを輪ゴムライオンにしたので、仕返しに森の頭を輪ゴムライオンにしたのだ。


「森、アホなこと言ってないで、さっさとみんなにジュースを配りなさい!!」

森に命令する神山。昨日ギルドホールで寝てしまった神山の顔に落書きをし、ただいま一日奴隷の刑になっている。


俺は正直、神山の顔に落書きして1日奴隷でよく済んだと思う。


「ジャックさん、お料理持っていきましょうか?」

「ゆりさん、よろしくお願いします。」

ジャックの作った料理を率先して持っていくゆりちゃん。


「ほら、お兄ちゃんも手伝って。」

「はいはい。」

俺も妹に言われて料理を運ぶのを手伝う。


「今日の12時半からでしたよね?このオークション。」

ジャックは中継を見ながら言う。


「そうよ。今のところ落札筆頭公費は日本政府だけど、日本の企業も狙っているところが多いわ。それに海外の巨大企業、EUも狙っているようね。北太平洋浮島政府も落札を狙うと言っていたわ。」


映像は浮遊都市の巨大モニターを中継したものだ。

オークション参加資格は、トレード能力を持ちレア度32アイテムを扱える者のみ。


このレア度はまじめにダンジョン攻略をしているトレード持ちがやっと取れるレベルだ。


トレードスキル持ちは多いと聞くが、この条件に当てはまるトレードスキル持ちは少ない。


それでもオークション参加エントリーは100人を超える。参加者だけではなく観戦も含まれているだろう。


オークションのルールは簡単、指定時間までに参加、オークション参加費単位で値段提示、一番高い値段を入力した人が1分間その値段を保つと落札者だ。値段入力にはそれだけのダンジョン通貨がその場にあるか、ゴールドコイン銀行口座にそれだけのお金がある必要がある。


今回の参加費は最大の金貨1枚。

つまり金貨をその場にどれだけあるかが勝負の鍵だ。


「今日の中華料理は絶品ですね?」

一ノ瀬がそう言った瞬間、オークションが始まった。


「オークションは匿名で行われますが、参加者には各番号が振られています。


いま、入札が始まりました。


金貨1万枚、金貨5万枚、どんどん値段が上がっていきます!!」


実況の人が一生懸命値段を言う。


俺はエビチリと酢豚を皿にとり、烏龍茶を飲む。



「金貨1万枚は日本円にして約1億円。


そして現在の価格は132万枚 つまり132億円です。


また上がりました140万枚 2番が140万枚で入札しました。


8番が200万枚で入札、オークション開始たった1分で早くも200億円です。」


「ねぇ、これ落札した人ってわかるの?」

「企業によってはホームページに参加番号公開しているから公開している企業はわかるわよ。8番は確か、日本の大手企業の月立だったはずよ。」

神山の質問に答えるアンジェリーナ。


俺は、春巻きを大皿から取る。


「300万枚、2番が300万枚で入札、おっと、8番が500万枚で入札しました。


さて、今回の落札予想ですが....


おっと、1番が1000万枚で入札、1000万枚です。


説明には無理な調整をすると管理権剥奪の可能性ありとありと、権利がなくなる可能性もあるにもかかわらず、1000万枚、1000億円を超えました。


いま、1900億円です。1番が1900万枚で入札、東京スカイツリーが650億円で作られました。つまりいま、スカイツリー3本建分の価格。


おっと、3000万枚、3000億円です。いきなり上がりました。97番が3000万枚で入札。」


この権利オークション、本当に儲かりそうだな。俺も浮遊都市の権利の一部売ろうかな。

一体いくらになるだろう。


志帆はお金どうするつもりだろう。

...死蔵だよなー。


そう思いつつ、俺はフカヒレスープを飲む。

美味しい...


「このシュウマイ美味しいわ。」

鈴はのんびりとした口調で、パクパクと食べている。

「でも、あまり食べすぎると太るのよね。」

女子達のお箸が一瞬止まる。


「大丈夫よ。ダンジョンであれだけ動けば体重は増えてもサイズは細くなってるはずだわ。」

アンジェリーナは気にせず、どんどん食べる。


「そういえば、私おやつも、お菓子も、何も我慢せず食べているのにウエストとか全然変わっていません。体重は少し増えましたが。」

志帆が自分のお腹を見ながら言う。


「当たり前よ。一体毎日どれだけのカロリーを消費していると思うの?毎日ロープ1本で大きな荷物持って上がったり下がったり、志帆はモンスターと戦う時は近接戦闘だから宙返りや壁蹴り、モンスターを足場に蹴ることだってよくするじゃない?

下手すると自衛隊よりも志帆は運動量多いわよ。

体重が重くなったのは脂肪がほとんどなくなって、筋肉質な身体になったからよ。むしろタンパク質とらないと筋肉痛とか治らないわ。」

アンジェリーナ、さすがに詳しい。


「でも私、少し太った気がするわ。」

神山は自分の二の腕をつまむ。


「静はスキルでいつも飛んでるから、消費カロリーが少ないのね。」

アンジェリーナ、遠慮はない。


「私、今度からなるべく変身せずに戦うわ。」

神山はダンジョンダイエットを決意した。


「やめとけ神山、胸まで縮むぞ。」

森の頭部が水の球体に包まれる。ライオン頭まで全て水の中だ。


さすがウンディーネ。


ゆりちゃんが森にストローを渡す。

ストローで呼吸する森。


きっと森はしばらくジャックの特製広東料理を食べれないだろう。


なお、エビチリは広東料理ではないが、妹が御所望だったので作ったらしい。


「鈴さんは最近胸大きくなったよね?」

妹が鈴の胸を見る。


神山とゆりちゃんの耳が動いた気がした。

「えーと、さくらちゃん。それはちょっとここではね。」

「えー何をしたんですか?」

妹に男がいるからとかいう配慮はない。森が反応しないのは、水の中で何も聞こえないからだ。


「えーと、毎日牛乳飲んだからかな。」

鈴がそういうと、神山とゆりちゃんが立ち上がって冷蔵庫に向かった。


「そんなの愛し合ってるからよ。ホルモンの関係で...」

速攻でアンジェリーナの口を塞ぐ鈴。珍しく顔が真っ赤だ。一ノ瀬、お前も赤くするとバレるぞ。


冷蔵庫に向かった2人にはアンジェリーナの冷静な解説は届かない。


「何よ、面白いじゃない?恋の経験者の話聞きたいわ。一ノ瀬との出会いの話聞かせてよ。」

どSアンジェリーナはニヤニヤしながら、鈴に言う。


「絶対に嫌よ。ここで言ったら学校中で噂になるじゃない。」

鈴さんよくお分かりで。


「鈴、どうしたの?アンジェリーナの横に来て。」

「なんでもないわ。」

冷蔵庫から戻ってきた神山。

大きめのコップに並々と牛乳が入っていた。


再び全員がテーブルに着く。


俺はあんかけチャーハンをすくって口に入れる。

これも美味しい。


「8000万枚を超えました。現在8300万枚。2番が8300万枚。1番が1億枚でコール。

ついに1兆円です。大台に乗りました。


1億100万枚で2番

1億600万で42番

1億700万で81番


おっと、2番が1億3000万枚で入札しました。


瀬戸大橋の建設費は1兆3000億円だったと言うデータがあります。ちょうどもう一つ瀬戸大橋が立つ金額。


誰も出ません。


30秒が過ぎました。あと30秒で2番が落札することになります。


誰も入札しません....


3、2、1....落札されました。1億3000万枚、日本円にして1兆3000万円で落札です。


ここで日本政府が緊急記者会見を15時から開くとの情報が入りました。」


1兆3000億円かー、志帆...世界ランキングに並ぶお金持ちになったな。


アンジェリーナがモニターを消す。

全員が食べ終わり、何かコーヒーやお茶などを飲んでいる。


「さて、オークションも終わったし、どこかへ行きたいわ。」

「賛成です。そろそろ予備の武器を作りたかったので。」

アンジェリーナの買い物に賛成する志帆。


だけどアンジェリーナの言っている買い物は武器ではなくて、服とかだと思うぞ。


「いいわね、私も実験素材を新しく買いにいきたいところだったのよ。ちょうど薬品も注文しにいきたかったし。」

アンジェリーナの欲しいものは服ではなく、実験素材でした。


残念女子2人は置いといて、


「私も買い物に行こうかしら、どう健太?」

「鈴が行きたいなら行くよ。」

一ノ瀬は鈴と一緒にデートにいくようだ。


「俺はジャックと一緒にテーブル片付けるよ。」

俺はそう言ってテーブルの上の皿を片付け始める。


なお森はやっと水牢獄を解かれていま一生懸命食べている。ライオン髪型はお昼までの約束なのでもう外している。


「なら俺も松ちゃんと一緒に片付けを....」

「ダメ。真斗さんは荷物持ちとして一緒に買い物にいくの。」

真斗は妹とゆりちゃんと買い物らしい。


「えー、と。真斗さんお願いしてもいいですか?」

ポワポワ攻撃でダイレクトアタックされた真斗は妹とゆりちゃんと一緒に行くことになった。


妹が真斗に見えないように鈴に何か合図を送る。

何かたくらみがあるようだ。


結局残るのは俺と森で、俺たちはテーブルを片付けることになった。


ジャックはみんなが出かけると同時にレストランに戻った。


忙しいお昼に抜け出すシェフって、なんか間違ってるな。

そう思わずにはいられない。


ーーーーー


落札したのは日本政府だったらしい。

1番は謎だが、日本の鉄道会社も大手企業も参加していた。

アメリカや中国、イタリア、フランス企業も数多く参加。なんと最果て鍛治ギルドまで参加していたようだ。


「結局1番って誰たったのだろう。」

俺の疑問に答えたのは志帆だった。

「私ですよ。安く落札されるのが嫌だったので1億枚まで上げてやりました。それ以下の値段なら売る気はなかったので。」


おいおい、本末転倒なことを言い出したぞ。


「ところで手に入れたお金はどうするんだ?」

「全部課金しますよ?すでに使い道は決まっています。」


志帆さん、それゲームに課金するよりもゲーム会社を買った方が早いのでは?


「ああ、課金といってもスキルにですよ。ちょっと作りたいものがあったので。」


なんですと?


志帆が作りたかったもの、それはダンジョン内線路だった。


全ての入り口付近に駅を作り、主要なフロアや分岐が多い場所に駅を設置。架線(電車の線路の上にある電線)も設置し、その鉄道利用権を落札された管理権の中に付与。ダンジョン内の電気はダンジョン通貨で買えるらしく、上乗せして電気代として鉄道利用権として請求できるようにした。ダンジョン内の線路を使いたいなら、利用代を払え方式だ。


「ダンジョンスキルは利用者が多いほどレベルが上がるので、鉄道を通すことで利用者を増やそうと考えました。」

結局、全権代理を俺に渡しても色々やってしまう志帆だった。


ーーーーー


日本のとあるニュース番組


本日ニュースです。


東京ダンジョンと大阪ダンジョンで浮遊都市のギルドホームに行くことが可能になったことで、本日政府は新しい法律を即日施行で対応すると発表しました。


当初は大阪ダンジョンだけでしたが本日より東京ダンジョンからでも浮遊都市のギルドホームに向かえることになった今日。多くのギルド関係者がダンジョン入り口に向かう姿が見られました。


(インタビュー)

「飛行機使わなくなったのでありがたいですね。」

「今までは気軽に浮遊都市に行けなかったのでうれしいです。来週良いギルドを探して登録しに行こうと思っています。」


大阪ダンジョン、東京ダンジョンから各所属のギルホームに行ってもギルドホーム外には出れないの仕様になっており入国出国を確認する必要がなく、政府は国内に武器などの危険物など持ち込みを制限できる状態にあるため特別な手続きを設ける予定はなく、入国審査や検疫などなしで浮遊都市に行くとこが可能ということです。



....



日本のダンジョンから浮遊都市に行くことができることを受けて、アメリカロサンゼルスダンジョンを管理していると言われている人物、ツェッターハンドルネーム、スノーマン氏が日本のダンジョン同様に浮遊都市へ行けるようにするとツェッター上で発表。


すでに東京ダンジョンと同盟関係にあり、これから浮遊都市と交渉するとコメントしています。


また、スノーマン氏はダンジョン間のこういった活動と情報交換の場として非公開のコミュニティを作りたいと各ダンジョンスキル所持者や浮島スキル所持者、浮遊都市を管理している世界連合所属アナザーワールド委員会のマグナ・フット氏に呼びかけており、すでにほかのダンジョン管理者と思われるアカウントからも支持するというコメントも。


これに対し世界連合所属アナザーワールド委員会のマグナ・フット氏はツェッター上で 私としても世界の探索者の支援やダンジョン管理者の協力の輪を作ることはアナザーワールド委員会の活動趣旨でもあるため、ぜひとも協力したい とコメントしています。


.....



大阪ダンジョンに突如出現した線路、この線路の管理を大阪府知事、京都府知事、兵庫県知事が合同で管理することが本日発表されました。線路は通常のレールタイプではなく、路面電車のように地面に埋められているタイプで、標準軌道、狭軌軌道両方に対応しているとのこと。

鉄道各社が車両を乗り入れる片乗り入れ方式で運用予定だと発表されました。ホームは標準的な車両で6両分の長さがあり、自動改札機と券売機、信号灯などを設置したらいつでも運用が可能であるそうです。各鉄道会社は協議中であるためまだコメントを控えると発表しました。



ーーーー


俺はベットの上でスキルステータスを開く。


スキルメッセージ・・・・

久々に見るな。


2件、ロサンゼルスダンジョンからの同盟依頼とギルド転送許可願いか。


オートモードシステムは同盟依頼は拒否推奨か。

なら同盟依頼は拒否、ギルド転移許可はオートモードに委託と。


重要メッセージ以外全部オートモードに委託に設定を変更しよう。

東京ダンジョンと変に関わりができたせいで面倒だ。


あ、いつのまにか委員会のマグナ・フットがブロックリストに入っている。


そう言えば どうぞお構いなく って送った以来何も送ってこなかったのはこれが原因か。きっと俺の返信の意図を読んでブロックリストに入れたのだろう。


うーん、ブロック解除したらまた面倒な文章が送られてくるかもしれないからこのままブロックしておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る