第25話 VS公安4 志帆と松ちゃん

ダンジョンから出るとスマホにRINEが入った。


RINE神山


私たちの後を昨日の笠岡って言う人が追いかけてきていた。普通の人は入れない通路に入ったから、それ以上は追跡されなかったけど、そっちも注意して。



「こちらに尾行がついて来ていないと思っていたら、一ノ瀬の方を先に調べていたのね。」

アンジェリーナはRINEを見て言う。


「とりあえず帰りましょう。真斗の武器を交換しないといけないですし、ここに留まっても意味はないですから。」

ゆりちゃんは真斗の心をチクチクと攻撃する。


「まあまあ、そろそろ真斗を攻めるのもやめよう。大剣が高いのはわかってるけど、武器が属性に合ってないならどうせ買い換えだっただろ?」

真斗にとってゆりちゃんの攻撃は大打撃だ。

好き(推定)なゆりちゃんの前で志帆に止められてるのに能力発動して、武器壊したもんな。


....(推定) いる?


「そうですね、松ちゃんの言う通りですね。注意したのに壊すのですから。頭もトカゲになったんでしょうか?」

志帆、キッツイなー。


「志帆ちゃん、ちょっと言い過ぎよ。」

さっきと違い真斗を庇うゆりちゃん。


「大丈夫ですよ。真斗少し嬉しそうですから。」

志帆は真斗の顔を見て言う。


「えーと、いや、ちょっとね。」

真斗、ゆりちゃんに庇ってもらって嬉しかったのだな。

「あそこまで言われて笑ってるってM何ですか?」

ぽあぽあ人間がど直球な質問をピッチングマシンのように打ち出す。


ゆりちゃん、それはちょっとキツいぞ。


「えーと、ゆりさん。その質問は真斗を大変傷つけるので、辞めましょう。」

志帆、真斗の心にガラスが割れる前に止める。


「え、今の私が悪いんですか?」

「うーん、今のはゆりちゃんが悪いかな。」

妹が判決を言い渡す。


恋は本人たち以外はみんな気付いているって本当なんだな。と実感する俺。


「真斗、これから頑張ればいいと思うわ。それにあたって砕けることも大切よ。」

アンジェリーナ、真斗の心はすでにビビだらけでこれ以上割れたらやばいぞ。


「真斗さん、さっきは言いすぎましたけど、私も当たって砕けることは大切なことだと思いますよ。武器は買えば済みますし、挑戦は大切ですから!!」

真斗を励ますゆりちゃん。


俺と妹とアンジェリーナ、志帆はとても深いため息を吐いた。


ちょっと誰か、真斗を助けてあげて!!



「こんにちは、ちょっとお時間いいですか?」

家に帰ろうと商店街を抜けて住宅街に入ったところで俺たちは警察手帳を見せる笠岡さんに止められた。

今度は最初っから本物の警察手帳で。


アンジェリーナは一気に嫌な顔になった。


警察手帳を見せる警察に逆らえることはなく、俺たちはカフェに連れて行かれた。


「改めて、笠岡と言います。昨日あった以来ですね。


ここはおじさんがおごるから、ちょっと話に使って欲しいんだけどいいかな?


拒否したら別の方法を使うことになるからできればこのままお話ししたいな。」

さらりと脅迫をする笠岡さん。


「ちなみに拒否したらどうなるんですか?」

相変わらず喧嘩を売るアンジェリーナ。


「どうなるでしょう?拒否すれば分かりますよ。前回と違って今回はしっかりと準備して来ましたから。アンジェリーナ・サンディさん。」

深い笑みを浮かべる笠岡さん。


名乗っていないのに自分の名前を呼ばれてアンジェリーナは引いた。今回はアンジェリーナが劣勢みたいだ。


「ここにいる6人に名前は把握している。でも、それではリラックスできないだろう?とりあえずあだ名で呼ぼう。みんなにそう呼ばれているんだ?ああ、私のことは笠岡さんで結構だよ。」


俺たちはそれぞれあだ名を名乗った。


「さくらちゃんとゆりちゃんは中学生だよね?」

笠岡さんの言葉にうなずく妹とゆりちゃん。


「あの、兄たちが何かしたのですか?」

妹が笠岡さんに聞く。


「なにかをしたと言うよりも、なにかを持っているかな。単刀直入に言う。私たちはとあるスキルを探している。

そのスキルを持つ人物を我々は早急に保護しなければならない。」


スキル保護という言葉に俺は息を飲む。


ばれたのか?ポーション生成とか明らかに浮遊都市スキルと関係がないだろう。


「探しているスキルは何ですか?その特徴は?」

アンジェリーナも緊張している。転移スキルもどの方向に使ってもかなり有用なスキルだ。国が保護と言い出しても仕方がない。


「それを今この場で言うことはできない。アンジェリーナ、君にはアメリカからの監視が付いている。我々は情報をアメリカに教えるわけにはいかない。」


アンジェリーナは周りを見渡す。それらしき人はいない。


「向こうはプロだからね。見ただけではわからないよ。それよりもそのスキルを持っているか確かめるために、能力を見せるかこのスキル鑑定紙を使って欲しい。」


「お断りします。そのスキルを持っていれば保護ってそんなの横暴です。ダンジョン管理者でも探しているんですか?」

アンジェリーナは呆れた顔でいう。


「....そうだ。我々は今ダンジョン管理者を探している。今そのスキルは狙われている。」

図星を当てたれて素直に肯定する笠岡さん。


「全員というわけではない。私がスキルの開示をしてほしいのはアンジェリーナ、松ちゃん、ゆりちゃん、志帆だ。私はこの4人が一番可能性が高いと睨んでいる。もちろん確率的には3%くらいと思っているが今までの捜査の中ではダントツだ。」


「スキルを教えるつもりは一切ないわ。私はギルマスよ。全員のスキルを把握しているけど、ダンジョン管理者なんてスキルを持っている人は居ないわよ。話は以上かしら。なら帰るわよ。」

アンジェリーナは来たばかりのホットコーヒーを一気飲みした。


...が口の中を火傷したらしく、お水も一気飲みする。


「ちょっとまて、話は終わっていない!!」

笠岡さんは立ち上がってアンジェリーナを止める。


「あら、他に話があるんですか?」

アンジェリーナは笠岡さんに質問する。


「....いや、ない。だが、スキルを..」

「盗聴器、犯罪の可能性もないのにストーカーしたこと、スキルの開示の強要。さて、どうしようかな。」

強気アンジェリーナ復活


「...わかった。なら気分が変わるか、それらしき人を見つけたらここに連絡をくれ。」

笠岡さんは一枚の名刺を全員に配る。

ご丁寧に本名の方の名刺だ。公安とは書いていないが警視までは書いてある。


「わかったわ。」

アンジェリーナがカフェを出る。俺たちはアンジェリーナの後をついていく。


「なあ、アンジェリーナはなんでそんなに堂々としてられるんだ?」

真斗がアンジェリーナに聞く。

「私たちは悪くないのよ。それに法も侵してない。どっちが正しいかなんで明白じゃない。逆に怯える意味がわからないわ。ここがアメリカなら裁判しているところよ。」


そうでした、アメリカは裁判の国でしたね。


「それよりもみんなに連絡して、チャンの家に集合よ。あと、真斗。大剣を壊した罰としてスキル鑑定紙を買えるだけ買ってきなさい。できれば50枚ほしいわ。」

「アイアイマム!!」

真斗は商店街へ回れ右をして買いに行った。




ーーーーーー

<ギルドホール>

「面倒くさいことになってきたわ。」

ワインを飲み干し、カウンターで足をぶらぶらさせるアンジェリーナ。


「一体今度はどうしたんですか?」

ジャックはシェイカーでカクテルを作りながら聞く。

ジャックは料理だけではなくお酒にも精通しているらしい。


シェイカーから青いお酒をカクテルグラスに入れる。そしてコルクのコースターを置き、アンジェリーナの前に置く。

「これは?」

「ガルフストリームです。ウォッカとピーチベースのお酒ですよ。」

アンジェリーナはジャックが出すカクテルを一口飲む。


「美味しい。」

アンジェリーナは気に入ったようだ。


「アンジェリーナ、程々にしろよ。」

俺はアンジェリーナに言うが、飲みたいらしい。


「松さん、あなたにもカクテルを作りましょうか?ノンアルコールで。」

「お願いします。」

ジャックは新しいシェイカーを取り出し、分量を測ってシェイカーに入れる。

バーテンダーのようにシェイカーを振るジャック。


真斗の武器を注文して帰ってきてからずっとこれだ。

「お待たせしました。シンデレラです。」

綺麗カクテルグラスに入ったジュースのような飲み物。

いや、ジュースか。


飲んでみるとただジュースを混ぜただけなのになんだか甘いけど柔らかい味がした。


「ジャック、あなたバーテンダーとしてもやっていけるんじゃない?」

「料理にあうワインなどを研究しているうちに、お酒にハマりまして、今では料理と並ぶ特技です。」

ジャックは鼻高々だ。


ジャックは完全にうちの専属料理人兼パーテンダーになりつつある。

お店を開いているので専属ではないかもしれないが。


「お酒も美味しいけど、出てくるおつまみも美味しいのよね。」

「それは料理が本業ですから。」


「よければ松さんも、何か作りましょうか?」

「手間でなければよろしくお願いします、ジャック。」

なんとなく上品になってしまった。


ジャックは最近スキルレベルが上がったらしい。それからますます料理とお酒にお熱だ。


「ジャック、ところでジャックのスキルってなに?前から気になっていたんだけど。」

俺はアンジェリーナから、「ジャックのスキルは戦闘にも十分使える強力スキルよ」と聞かされていたが、どのようなスキルかは聞いていない。


「私のスキルですか?私のスキルは温度操作スキルです。便利そうに聞こえますが、温度調整が難しくてなかなか料理に活かせられないんですよね。例えば中心温度90度にしたいと思っても、ついこの前までは5度くらいの差ができてしまっていて、結局自分で火を入れた方が美味しかったということは多々ありました。」

ん?ちょっと待て、温度操作ってそれ、モンスターみんな加熱したら即死じゃん。最強レベルだぞ。


「やっと誤差1度くらいまでスキルレベルが上がって嬉しいです。今日のカクテルも、おつまみも温度操作スキルで今日は作りました。」

俺が言えるたちではないが、スキルがもったいない。


「スキルの使い方なんて、人それぞれよ。むしろダンジョンで使えるスキルなんて半分くらいしかないと思うわ。」

アンジェリーナは飲みながら言う。


今日はアンジェリーナはそれほど酔っていない。

顔が赤いが、呂律もしっかりとしているし、トイレに行く時も普通に歩ける。


アンジェリーナがトイレに入ると同時くらいに志帆がやってきた。カウンターに座る志帆。


「アンジェリーナさんは今どこにいますか?」

「ちょうど志帆と入れ替わりで今トイレにいるよ。」

「...そうですか。」

志帆の様子がギルドホームに戻ってからおかしい。いつもなら堂々としているが、何か悩んでいるみたいだ。


「松ちゃんは私が迷惑をかけたら起こりますか?」

「内容によるかな。わざとなら怒る。それが避けようがないなら仕方がない。


なに?志帆も武器を壊したの?」

志帆は首を振る。


「真斗と一緒にしないでください。私は自分の武器を大切にしているので。」

少し怒るが、少し寂しそうな顔をする志帆。


「では松ちゃん、私はこれからとてつもない厄介事をアンジェリーナさんに報告します。真斗も知らない私だけが知るとてつもない厄介事です。本当はもっと最初に言うべきでしたが、笠岡さんが何故私たちに狙いを定めたのかも知っています。その報告するのについてきて下さい。一人では不安なんで。」

ちょっと待て、公安の情報をどこかで横流ししてもらっていると言うことか。


これは本当に厄介な問題が出てきているにかもしれない。


「...わかった。」

その情報元が気になるし、知っておきたい。


志帆もジャックを意識していなかったが、ジャックがノンアルコールカクテルをカウンターに出して気付いたらしい。


ジャックは気になってはいるだろうがプロ意識なのか、我関せず言わんばかりになにも言わなかった。



「アンジェリーナさん、お話があります。」

トイレから出てきたアンジェリーナに話しかける志帆。


いつもにない真面目そうな志帆を見て、ジャックからお水をもらい、ギルマス室に案内するアンジェリーナ。顔がお酒で赤いが、ここはギルマスらしく椅子に座り、志帆に話しかける。

「少し酔っているけど、気にしないで。それで話ってなに?」


「早く話すべきだったのですが、言えませんでした。公安が今回の窃盗事件に介入したのは、ミノタウルスの巣で出現するミノタウルスの数が8体なのに、ダンジョン部の時のみ10体になっていたからです。


トラップやボスモンスターでは出現モンスターは一定数又は一定確率で出現します。それがダンジョン部の時のみ出現数が変わったので、公安はダンジョン管理者がそれを変更したと考えたようです。


そして、そのダンジョン部に関わったメンバー、つまり私たちを調べ、その中にダンジョン管理者がいると睨みました。それが今回の騒動の全容です。」

志帆、ちょっと何故そこまで知っている。これは明らかに異常だ。本当に公安とつながりがあるのか?


「志帆犯人はあなたね?」

アンジェリーナ、犯人ってハッキングでもしてたってこと?


「はい、私が犯人です。」

志帆認めちゃったよ。


「そう、まさか志帆だったなんて。私はチャンだとずっと思っていたにだけど。」

「え、俺が犯人?俺なにもしてない!!いや、それは後でもいいけど、話が見えないんだけど。」

アンジェリーナの急な振りについていけない俺。志帆とアンジェリーナは話が通じているみたいだが、俺にはさっぱりだ。


「つまり、志帆がトレードスキルを持っていると言っていたのは嘘で、志帆のスキルは大阪ダンジョン管理者だったということよ。」


....


....えーーーー!!


「私は大阪ダンジョンの管理者はずっとチャンだと思っていたわ。ならチャンは東京ダンジョン管理者なの?」

「いえ、違います。松ちゃんのスキル、ポーション生成は能力としてダンジョン管理者には含まれていません。設置はできますけど、それでも確率出現で、手元に出すことは不可能です。松ちゃんのスキルはもっと上です。」


ちょっと待って、俺のスキル志帆バレてる?


「松ちゃん、私が一緒に来て欲しかったのはスキルを聞いた時から、松ちゃんがダンジョンよりも上の管理者だと予想していたからです。言わないなら私が松ちゃんのスキルを言いますよ。」


あー、もうどうにでもなれ!!


「あー、もう。そうだよ。志帆の言う通りだ。俺の本当のスキルは浮遊都市スキルだ。」


「え...」

「え?!」


ちょっと待て、もしかして俺自爆した?


「ごめん、今のなしで。」

俺は現実逃避をした。


「いや、無理あるわよ。冗談だったとしてもタチが悪いわ。ちょっとスキル鑑定紙を握りなさい。」

「そうですよ、浮島の管理者ではなかったですか?私の予測の斜め右なんですが、本当に浮遊都市管理者なのですか?私も鑑定紙見せるので、見せてください。」


俺と志帆とアンジェリーナはスキル鑑定紙でスキルを見せ合う。アンジェリーナは私だけが不公平だものねと言って握った。


志帆の持っている紙には 大阪ダンジョン

アンジェリーナの持っている紙には 転移

俺の持っている紙には 浮遊都市


「...浮遊都市スキルって、あのアナザーワールド委員会の委員長が持っているとずっと思っていたわ。まさかチャンが持っていたなんて。精々ダンジョン管理者くらいだと思っていたわ。」

アンジェリーナは酔いが吹っ飛び、椅子に深く座る


「いや、あの委員長は管理者代行は渡しているから、間違いではないと思う。」

「ちょっと待って、管理者って代行置けるの?」

アンジェリーナは立ち上がる


「「置けるよ」ますよ」

俺と志帆は同時に返事をする。


「いいわ、これは使えるわ。なんとかなるかもしれない。志帆、あなたがダンジョン管理者だったおかげでね。


今日のことは3人だけの秘密よ。あと、このスキル鑑定紙はもらうわよ。スキル鑑定紙で鑑定されないようにギルドルールを書き換えるわ。


そして、2人はギルドの秘密コマンドを唱えて。

今すぐよ。


私はその秘密をさらにプロテクトをかけて3人以外には漏れないように細工するわ。」


俺と志帆は自分のスキルをいい、『これは部外秘』呪文を唱えた。


アンジェリーナはその内容を3人だけの秘密にした。スキルの内容、その話を含め、このスキルに関わる事はこれで全て保護される。


その夜、俺は盛大な自爆に後悔で頭が痛くなるも、心は随分と軽くなった。

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