第24話 VS公安3

「スキルを調べるって、笠岡さんはいつも簡単そうに言うけど、苦労するのはいつも私ね。」


高校生の鞄に盗聴器、それも短時間で8個誰にも見られないように。


他の組織にバレずに尾行


スキルの見極め


変装の趣味を兼ねて入った職場だが、これほど忙しいのは久しぶりだ。


最初はお金がなくて自衛隊に入った。しかしもっと稼げる方法があると聞いて傭兵になった。だが思っていたのと違い日本に戻った。


元傭兵を雇う会社はなかった。自衛隊には戻れない。困っていたら笠岡さんに話しかけられ、気がついたら私は公安になっていた。


スリルが多いこの職業、私はそのドキドキが好きで笠岡さんの部下を辞められないでいる。


視力拡張スキルでなるべく遠くから監視する。


盗聴器はすでに発見されたので、きっと私たちが監視しているのに気がついているのだろう。歩く6人は緊張しているようだ。これからダンジョンに行く雰囲気ではない。


ダンジョン内部へ向かうトロッコに乗り、ダンジョン内に入ると、例の6人パーティは緊張が解れたようだ。何かを話しているようだ。


だが内容は聞き取れない。


アンジェリーナ・サンディだけはダンジョン入ってからも警戒しているようだ。


トロッコの一つ目駅、虹の鍾乳洞で監視対象は下車した。私は悟られぬように追いかける。


私のスキル、視力拡張は今レベル2だ。10倍双眼鏡並みに、遠くのものを見ることができる。逆を言えばそれだけ距離を離れられるのだ。


尾行対象を含むパーティはトロッコの線路を少し戻り、分岐している通路に入っていった。


「ちょっと待って。その道はダンジョン安全情報が出ている道よ。あの子たちそれを知らないのかしら。」

尾行対象とは言え、相手は高校生、子供だ。


興味で近づいているだけだろうか。この先は毒ガスが充満している。


近くまで行って引き返すだろう。


そう思っていたが、危険領域に近づいているに引き返す様子はない。もしかしたら本当に知らないのかもしれない。


彼らは毒ガスに入っていく。


私は追いかけた。


確かにダンジョンで死んでも本当に死ぬわけではない。

それでも高校生を公安とはいえ、警察が放置するわけにはいかない。

私は慌てて追いかけた。


私には視力拡張スキルがあるからかなり離れたところにいた。それに引き返すと思っていたので必要以上にギリギリ見えるかどうかという距離だ。


パーティはどんどん毒ガスの中に入っていく。

私は目がよくても煙の中が見えるわけではない。


パーティはついに見えなくなるほど毒煙の中に入っていった。

私はパーティを追いかけて毒煙に入った。


喉が痛い。


毒の中に入る想定なんてしていなかったから、装備は整えてきていない。


私は一旦毒煙を出た。


そして服を一部破いて水で濡らし、毒煙に中に再び入る。


多少マシだが、目が痛い。


パーティメンバーが倒れているならそろそろ見えるはずだ。しかし、倒れた人はいない。


「あの子たち、危険をわかって聞きにきたの?そんな装備してなかったわよね?ということは誰かが毒ガスを回避するスキルを持っているということかしら。」


私は痺れる喉を我慢しながら、奥へ進む。なるべく毒を吸い込まないように最低限の呼吸で。自衛隊の特殊訓練を思い出す。


走ることはできない。絶対に走ってはいけない。

激しい運動をすればあの子たちと共倒れだ。


モンスターの素材が落ちている。それも少なくはない。かなりの数だ。死骸ではないのでそのように倒されたかもわからない。ただ強力なスキルか武器を持っているのは確かだ。


遠目に誰かが崖を降りるのが見えた。影だけだが確かに降りた。


「ちょっと待って。」

私は思わず声を出した。


崖に向かうが何もなかった。崖のおかげで毒ガスが少し薄いのは助かったが、問題はそこではない。


底が見えない崖、地面には杭を打ち込んだ跡があり、ロープごと回収したみたいだ。


手慣れすぎている。


目の前には明らかに凶暴そうなワニが1匹。落ちていた素材から、きっと彼らはこれを倒したのだろう。それも私が追いつく暇もないくらいに簡単に。


幸い、私の後ろにはワニがいない。きっとあのパーティが全部倒したのだろう。


私はなるべく早く通路を戻り、毒ガスエリアを抜けた。


「喉が痛い、目が痛い、なによあの高校生。ダンジョンに手慣れすぎよーー!!」

私は叫ばずにはいられなかった。


ーーーーー


「松ちゃん、前に出過ぎないようにして下さい。真斗はもっと前に出て攻撃をしっかり受けてください。」


「無茶言うな。鉄の棍棒だぞ、これを受けてるだけでも褒めろよ。」

真斗は大剣でトロールの鉄の棍棒を受け流す。


「レベル上がったんですよね?ちょっとくらい耐えてください。」

志帆は相変わらず、真斗に厳しい。


「あのな、レベルが上がったと言っても、氷属性が増えただけだ。力が強くなったわけじゃねぇ。」

真斗は志帆に文句を言う。


俺は後ろにさがり、ポーション銃を撃つ。


「志帆、スキルのレベルが上がってもすぐその能力を使いこなせるわけではない。」

アンジェリーナは志帆に言う。


「そうですよ。簡単に使えれば苦労しませんよ。」

ゆりちゃんが珍しく真斗を庇う。


「あー、もう。逆に俺が情けないじゃないか。能力の制御が難しいんだよ。」

真斗の大剣から白い煙が出る。


「ダメです。大剣を急速に冷やすと脆くなります。」

志帆が真斗を止めるが真斗の大剣はすでに真斗の能力でキンキンに冷えている。大剣の白い煙も、ダンジョンの湿気が冷やされて出てきたものだ。


真斗はその状態でトロールの攻撃を受ける。

金属のひしゃげる音と共にトロールの棍棒も同じようにキンキンに冷える。


真斗はその棍棒に思いっきり大剣を振る。粉々に砕けるトロールの鉄の棍棒。ヒビが入る真斗の大剣。


「あ゛!!」

真斗の声がヒビが入った大剣を持って叫んだ。


「真斗、重さ重視の大剣は金属成分が多いので急速な冷却に弱いのです。氷属性で急速冷却すればそうなるのは当然です。」


トロールは雄叫びを上げる。

志帆はため息を吐く。


「幸い、真斗が棍棒を粉々にしているので攻略は簡単です。

さっさと倒しましょう。


ゆりさん、トロールの足の腱を斬ってください。

真斗さん、トロールに弾を好きなだけ当ててください。

さくらさん、アンジェリーナさんと頭部に飛んで直接目に攻撃、脳を電撃で焼いちゃってください。」


トロールは今の俺たちにとってさほど強い敵ではない。大きい図体なので攻撃力が強く鉄の棍棒を使った振り上げからの一撃や横殴りは驚異だったが、その攻撃さえよければトロールは隙が多く、集中攻撃で簡単に倒せる。


では今なにをしていたかと言うと、真斗がスキルレベルが上がって、ドラゴンの属性に氷が追加されたのでその検証だ。


トロールの右目に見事に刀を刺し、脳をそのままの意味で焼いた妹。足は腱を斬るどころか足首ごと切られている。


ゆりちゃんはレベルが上がり、金属でも切れるようになった。この前に倒したトロールの鉄の棍棒はゆりちゃんがバラバラに切り裂いたのだ。


アンジェリーナのもレベルが上がり、テレポートのマーカーをギルドメンバーにつけることができるようになった。つまり、行ったことがないところでもギルドメンバーが行けば直接飛ぶことができる。この能力はダンジョン内では無効なのでダンジョン内では検証していない。


妹、志帆は未だにレベルが上がっていない。

俺は上がっているのだが、それで何かが変わるわけではない。変わったのは浮遊都市の攻撃力や移動速度だが、そんなものを検証するわけにはいかない。世界は浮遊都市が攻撃できることなんて知らないのだ。


ゆりちゃんはトロールの首を跳ねる。トロールが素材になる。どれだけ気持ち悪いモンスターでも素材になればなんともない。それがいいところだな。


「真斗さんが大剣にヒビを入れたので、今日計画していた四足ワイバーンを何回も狩る計画は中止ですね。」

ゆりちゃんは真斗大剣を見ながら言った。


大剣は折れてないものも、見事に綺麗なヒビが広がっていた。


「うーん、これは買い替えだな。次回は真斗の能力に合わせて急冷に強い大剣を注文しないとダメね。しばらくはギルドの武器庫の大剣で代用だな。」

アンジェリーナは大剣のダメージを見て言う。


「大丈夫だよ、真斗さん。私だって最初の頃は何本も刀折ったもん。お金はかかるけど、アンジェリーナさんがなんとかしてくれるよ。」

妹よ。それは慰めているのか?それとも傷口に塩を塗っているのか?


「真斗、とりあえず一旦ダンジョンを出てよう。」

俺はそれしかいえなかった。


四足ワイバーン。

壁や天井にも張り付き、4本足でトカゲのような動きするワイバーンだ。


俺たちはフロアボスの部屋の手前で戦闘準備をする。


「真斗入ったら最初に氷の息で相手の動きを鈍らせてください。

松ちゃんは基本射撃で、天井に張り付いていた場合は足を集中的に狙ってください。


アンジェリーナさんは松ちゃんのカバーをお願いします。動きが早いので松ちゃんでは逃げきれません。


さくらさんは氷属性でワイバーン冷やすのを重視で。真斗はとにかく隙があれば氷の息です。


いいですか、体温を下げて動きを鈍らせますが、十分に注意してください。」


志帆の合図と共に俺たちはフロアボスの部屋に入る。

真斗の氷の息が部屋いっぱいに広がり、部屋はまるで冷凍庫だ。


志帆が予想した通り、四足ワイバーンは天井に張り付いていた。


吐き続ける真斗の氷の息で天井から氷の氷柱が伸びる。俺は四足ワイバーンにポーション銃を撃つ。


しばらくワイバーンはそれに耐えていたが、悲鳴を上げて天井から落ちる。妹とゆりちゃんは飛び出した。


そして砂けむりの中にいる四足ワイバーンを攻撃した。妹とゆりちゃんは左右に分かれ、飛膜を切り裂く。これで風起こしたり、飛ぶことができなくなった。


俺はその間も銃を撃ち続ける。

アンジェリーナも氷属性弾を撃ち込んでいく。


「皆さん、ワイバーンが電撃ブレスを吐きます。」

志帆の合図に全員が四足ワイバーンの頭を見る。


四足ワイバーンは起き上がり、息を吸い込んでいるところだった。


「チャン、口の中に集中攻撃して。」

俺はアンジェリーナに言われるままに口に向かって引き金を引く。


四足ワイバーンは俺に向かってブレスを吐く。

当たる直接にアンジェリーナが俺を抱えたまま転移した。


四足ワイバーンの側面に降り立つ俺とアンジェリーナ。

俺は銃を四足ワイバーンの横っ腹にバーストで打ち込む。


悲鳴を上げる四足ワイバーン。


さらに妹がアゴに刀を突き刺し、思いっきり電撃を浴びせる。

四足ワイバーンは体が一瞬痺れたが、効果はない。


「やっぱり四足ワイバーンには電気属性攻撃は効かないな。」

炎属性で刀を抜くときに攻撃する妹。


口まで貫通していたらしく、口から妹の刀の炎を吐き出す四足ワイバーン。



妹は刀を空を切るように振る。氷の刃が四足ワイバーンに飛んでいき、当たった場所が凍っている。四足ワイバーンに氷の傷跡ができたみたいだ。ゆりちゃんが、素早い動きで四足ワイバーンの腕を根本から切り落とす。



悲鳴を上げる四足ワイバーン。


妹がワイバーンの首を振る動きを利用して顔に乗っかる。そして目玉に刀を刺す。


悲鳴を上げて首を振る四足ワイバーン。

空を飛ぶ妹をキャッチする真斗。


ゆりちゃんがさらにもう一つの片腕も落とす。


俺はその間にも毒ポーションをどんどん打ち込んでいく。だがここまでくると、完全に動きが鈍くなり、弱り切った四足ワイバーンはゆりちゃんの蹂躙対象だ。


体の下を2回潜った間にお腹を引き開き、内臓が体から出てくる。

それはまるで魚を裁くように綺麗な切り口で、もう四足ワイバーンはなにもできない。


そして動けなくなった四足ワイバーンの脳天を真斗から離れた妹が刀で突き刺し、ゆりちゃんが首を斬る。


素材になる四足ワイバーン。


「今回は真斗さんがいないから少し苦労しました。」

ゆりちゃんはいい汗をかいたとばかりに手で汗を拭う。


「ここまでくると、この四足ワイバーンばかり倒すのではなく次のフロアに行きたくなりますね。真斗が大剣を壊さなければ、次のフロアに行くんですが。」

志帆が言う。


四足ワイバーン、素材が高く売れるのだ。電気を通しにくい素材な上に、ワイバーンの一種ではあるが一応はドラゴンに近いために、まぁまぁな防御力がある。売れて当然だ。


「今回は真斗が大剣を壊したので大赤字です。」

志帆、そろそろ辞めてやれ。真斗が相当なショックを受けて動かなくなってるから。



ーーーーー


ダンジョンから帰ってすぐ私はダンジョン入り口が見える場所で待ち伏せをしていた。


ダンジョンまで尾行していたら、毒ガスで撒かれてしまったと笠岡さんに報告したら、ダンジョンの入り口を見張るように言われた。


笠岡さんは一ノ瀬がいるパーティを尾行してダンジョンに行ったが、神山と思われる女子が何かの変身能力でダンジョンの壁をびしょびしょに濡らし、水風と思われる女子は濡れた壁を走ってダンジョン上部の通路に入られたため、尾行不可能になったらしい。男の森というやつはジャンプで3m飛び上がり、もう一人の一ノ瀬は神山というやつに抱えられて上部の穴に入ったそうだ。


追いかけることはできたが、4人の能力からダンジョン管理者である可能性が低くなったので、さっさと出てきたらしい。


「如月、どうだ例のパーティは出てきたか?」

双眼鏡を持っていない笠岡さんは私に聞くしかないから、さっきから無線で10分おきに様子を聞いてくる。


笠岡さんは、はじめはゆっくり尾行をして能力を見極めようと言っていたが、アメリカさんが関わっているかもしれないと知ってからは少し慌て気味だ。


いつもなら無闇に何度も対象と接触する事はない。それも公安だとバレている相手にだ。


今回はなんというか、行き合ったりばったり感が拭えない。おそらく日本政府にそれほど急かされているのか、アメリカさんがよほど気になっているかのどちらかだと思うが、この急展開は公安としては異常だ。


「笠岡さん、左10時の方向。別組織のエージェントがいます。その位置だと見つかりやすいので気をつけてください。」

「了解。」


私は笠岡さんの近くに資料に載っていた顔写真の主がいたことに気がつき、笠岡さんに言った。


笠岡さんはその場を移動するだが、ダンジョン入り口は見えない場所であっても、離れる事はなかった。


私の報告で、笠岡さんはアンジェリーナ一派に一度話をすることにしたらしい。毒ガスに入っていくし、崖をロープで降りる。


どちらも簡単そうに聞こえるが、とても難しい。ダンジョン管理者でもなければ、安心して降りれる状況はないだろうし、ダンジョン管理者くらいしか毒の影響を受けずに進む事はできない。


しかもそのような危険なことに中学生まで巻き込んでいる。


ダンジョンからアンジェリーナたちが出てきた。リュックにはあまり素材は入ってなさそうだ。欲しかった素材が空振りに終わったのか、すでにダンジョン内で換金したのかわからないが、全員が有名ブランド、最果て鍛治屋の装備なのですぐにわかる。


「笠岡さん、アンジェリーナ一派がダンジョンから出てきました。住宅地の方向へ向かっています。おそらく帰宅するつもりのようです。」


笠岡さんは私の報告を聞いてアンジェリーナ一派を追いかけた。

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