第23話 VS公安2
「坂本さん、言われていた2人ですが、調べ終わったのでとりあえず報告します。
一ノ瀬 健太 本宮高校2年スポーツ科 元ダンジョン部。
前歴などはなし。中学生の頃から水風鈴と交際中。
スキルはダンジョン部捜索のデータより、絶縁体スキル。
能力は音の遮断や電気の遮断。武器はスナイパーライフルでの狙撃がメインで、近接戦闘なし。
世界変革前の怪しい履歴は一切ありません。
もう一人
アンジェリーナ・サンディ
本宮高校2年普通科 2年転入だそうですが、年齢は18歳で本来は3年生の年齢になります。
能力は不明です。聞き込みしましたが誰も知らないようなので、ダンジョンで使えない能力か、ダンジョンで使う必要のない能力か。それとも能力なしで探索しているのか全く不明。
国籍はイタリア、アメリカへの留学経験があるようです。アメリカでの経歴は詳しくは現在調査中ですが、アンジェリーナ・サンディはすでに大学を卒業し、アメリカで新設された旧非化学理論博士、現在のダンジョン関連理論博士号を持っています。
名目上は日本の高校へ入学のための留学だそうですが、博士号を持っているため日本の高校卒業が目標ではないようですね。
日本に来た理由ですが、可能性が2つありまして。
1つは大阪ダンジョンの調査のため。
アンジェリーナ・サンディを含むパーティーは積極的にダンジョンを探索しており、外国人もあってかなり有名みたいです。聞き込みしましたが、知っている人が多かったですね。
2つ目は恋人かだれかを追いかけて日本に来た可能性ですね。
もう盗聴器はつぶされましたが、仕掛けた複数の盗聴器から、アンジェリーナ・サンディらしき女性がチャンという男に言い寄っている音声が録音されました。ただ一方的なようで、男性の方は不明です。声紋から分析しようにもデータが足りないので。
おそらくあのメンバーの誰かとは思いますが。」
「一ノ瀬はとりあえずいい。アンジェリーナ・サンディという人物怪しいな、なるべく早くアンジェリーナ・サンディのスキルを確認しろ。大阪ダンジョン管理者ならなるべく早く確保したい。」
部下の報告を聞き、笠岡はスキルがわかっている一ノ瀬よりも、スキルがわからないアンジェリーナ・サンディを優先することにした。
「アンジェリーナ・サンディは日本人ではない。慎重に行動し、なるべく早く見分ける。」
「それがアンジェリーナ・サンディは我々とは別の組織に尾行など周辺調査されているらしく、迂闊に行動できません。」
笠岡は驚く。たかが留学生だぞ。
「どこの組織だ。」
「わかりませんが、おそらくアメリカの諜報部かと。こちらが周辺調査をすると気づかれますので。」
厄介だな、それかアメリカが日本のダンジョン管理者に興味を持ったか。
いや、それなら自国のダンジョン管理者を先に探すだろうし、東京ダンジョン管理者の方も探しているはずだ。
アンジェリーナ・サンディが何か重要な機密を持っていると考えるべきか。アンジェリーナ・サンディはアメリカ政府に追いかけられている?
そのための留学か?
「向こうさんはアンジェリーナ・サンディに接触しているのか?」
「いえ、調査しているだけで全く手を出していません。おそらく本人も気付いていないでしょう。」
見ているだけか。本人に気づかれないように調査してるか。
アメリカから逃げてきたから俺たちを警戒した?
可能性はある。
アメリカの諜報部はアンジェリーナ・サンディの何が知りたい?それとも警護か?
泳がせてアンジェリーナ・サンディが誰かと接触するのを待っているという可能性。
そもそもアンジェリーナ・サンディがダンジョン管理者スキルを持っているか否か。
ダンジョン管理者
・ダンジョンの地形を自由に操作できる
・ダンジョンにアイテムを自由に設置できる
・トレード能力がある
・ダンジョンに関するアイテムを作ることができる
・ダンジョン内のモンスターを自由に操作できる。
・ダンジョン通貨が自由に使える
これらの能力を何かの制限を受けているが、使える人物
そしてこれがのことができるのにお金を使わず積極的な行動を起こさない知能。
いつもなら8体のミノタウルスが10体になった。
これはダンジョン内の出現モンスターをその時だけ増やしたという事。
ダンジョン部は全員スキルを確認した。
全員ハズレ。
ダンジョン部から出た一ノ瀬は確認はできていないからハズレの可能性が高い。
やはり、アンジェリーナ・サンディか?
森 勇大という仲間らしき人が言っていた。
作戦を考えたのはアンジェリーナ・サンディだと。
これを証言に障害罪をとるか?
いや、そもそも証言で取ったものではないから傷害罪にはできない。証言を取ろうにもあそこのメンバーはアンジェリーナの確保に協力することはない。
作戦をアンジェリーナ・サンディが作ったのなら、ダンジョン部がミノタウルスの巣に入った時だけタイミングを見てミノタウルスを多く出現させることは容易だ。
やはりアンジェリーナ・サンディは当たりなのか?
だが、作戦を知っていたあの場のメンバー全員が候補なのだ。
いったん全員洗うべきか。せめてスキルだけでも確認すべきだな。
よし、やるべきはアンジェリーナ・サンディにダンジョン管理者スキルの話をして動揺を見る事。目的が伝わるリスクよりも見つける方が優先だ。アメリカに先を取られるわけにはいかない。
あとその他のメンバーのスキルの洗い出しだ。
俺は部下に指示を出した。
ーーーーー
「全員、家には盗聴器があると思って行動して。おそらく公安は私たちのダンジョン部への仕返しを、拘束するための証拠材料として取りに来てる可能性が高いわ。
でもあの事件の発端はノートを見て偽情報につかまされて引っかかって自滅しただけ。そもそも盗む方が悪い。
私たちはノートの内容を知っているから、事件を知っていただけ。
森も、「あの話、信じてたんですか?冗談ですよ。」って言えばいいわ。証言取られているわけではないからね。冗談くらい言うわ。偽ポーションは私が一ノ瀬とノート交換で偽物を掴ませただけ。
元々志帆のものなのよ。偽物渡しても詐欺にはならないわ。
いい?
なるべく情報は言わない。そして昨日相談したように口を合わせる。家でも余計なことは言わない。
そして大事なのは余計な行動を起こさない。
わかったわね?」
全員がうなずいた。
「ジャック、ギルドホームを任せたわ。経験値はギルド全員の均等割に変えたから。変なことをせず、普通に過ごすこと。私もみんなもトラブルがあってもフォローできないから。」
「ウィ、オーナー。」
アンジェリーナの言葉に返事をするジャック。
「さて、帰るわよ」
これから対公安のアンジェリーナ争奪戦が始まる。
-----
鞄の中に盗聴器が入っている可能性を考えていなかった。
私はチャンが好きだ。
最初はチャンが何か重要なことを隠している。それが知りたい。
それだけの興味で私はチャンとその妹さくらとギルドを作った。
チャンは変なところで素直で可愛かった。
私はチャンに秘密を打ち明ける場所を作った。
チャンは自分に秘密を話すが、その秘密は建前だと言うことがすぐにわかった。証拠とかではなく、女の勘か研究者の勘か、しかし、それを隠すことが彼にとってとても重要と言うことは確かだ。
私はチャンを研究対象として見ていた。
私はチャンの家にホームステイすることになった。勉強や研究ばかりしていて早くに家を出た私にとって初めての事がおおい。
異性が私のベットに起こしに来るなんて、初めての経験だった。
高校は流れるようにすぐ卒業してしまったので思い出はなかったが、ライオンチャンを見て笑ったのを思い出す。
ウブな反応が可愛くてチャンに少し刺激の強い悪戯もした。
チャンは気がついたらコートを着せてくれるし、学校で起こす時も私の秘密が周りに知られないように起こしてくれる。
気がつくと私の近くにチャンがいる。
初めて浮遊都市であった時から、今まで私の思い出にはチャンがいた。私の隣にはチャンがいる
研究対象がいつの間にか恋愛対象になっていた。
私は研究が好きだ。辞めることなど絶対にない。
研究が一番だ。
研究のためならなんでもした。興味がそそられる物ならなんでも手に入れた。
今、一番欲しいものはチャンだ。研究は好きだが、チャンが辞めろと言えば今なら辞めれるかもしれない。
今まで経験したことのない感覚だ。私は今、不思議な浮遊感の中にいる。
昔、ルームメイトが一生懸命化粧をする理由がわからなかった。化粧水を毎日塗り、肌にダメージがあるファンデーションを顔に塗りたくり、1時間以上もかけて髪をセットする。
今ならそこ気持ちがわかる気がする。
化粧なんて今でも滅多にしないけど、チャンとデートに行くことになれば、私は一生懸命化粧をするだろう。
そのチャンが今公安に取られるかもしれない。
私ならいい。転移で逃げられる。でもチャンは転移スキルを持っていない。
私は盗聴器が付けられていることを知らずにチャンにヘイトを向けられないでよかったと迂闊なことを言ってしまった。
私は何かを隠しているチャンを庇うために公安にわざと目をつけられるような事を言った。
そんな私がチャンへのヘイトを向けられるのが嫌だといえば、公安はチャンを徹底的に追いかけてチャンの隠したい秘密が漏れてしまう。チャンの秘密は私だけが知って、私以外には知られたくない。
私はとっさにチャンが好きで好きで仕方がないから、ヘイトを向けられたくないと言い訳をした。
どれだけ効果があるかわからない。
しかし、秘密があると言うよりも恋していると見られた方がいい。
私はわざとらしく音を立てて無理矢理音を立ててキスをした。
恥ずかしかった、ものすごく。
そして盗聴器には気付かないフリを続け、わざとらしくならないように気をつけながら鞄を部屋で探した。
私は大きな声で叫び、盗聴器を今見つけたように装い、全員の盗聴器を徹底的に潰した。
プライバシーを無視した公安の弱みを握れたのはよかった。だけどここまでやってくる公安にどうやって私は対処すればいいのだろうか。
ルームメイトが教えてくれた彼氏の浮気を自白させる方法は刑事の公安見破りの時に役に立った。
そんな感じのいいアイディアが欲しい。
チャンを守れるようないいアイディアが。
それにはまずは公安が何をしたいのかを知らなければならない。それには公安が焦る何かが必要だ。
私は自分の切り札を一つ一つ確かめながら対策を考える。
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「父さんおはよう。」
「おはよう」
夏休み初日、俺は9時ごろに目が覚めた。
本当は昼まで寝るつもりだったのだが、自然と目が覚めてしまう。アンジェリーナも9時に起きてくる。
「おはようございます、お父さん。」
「おはようアンジェリーナ。」
本当の父ではないが、妹の真似をしていて自然とこうなった。「お父さん」が初め名前だと思っていたらしい。お父さんをひらがなで書くとそれが父と言う意味だと理解したようで、恥ずかしさで顔を赤くしていたのが懐かしい。父もアンジェリーナにお父さんと呼ばれるのが気に入ったらしく、アンジェリーナも正式にお父さんと呼ぶことになった。
今ではアンジェリーナはもう家族だ。
ちなみにサムさんとは仲が良く、電話越しでも翻訳指輪が使える事を知ってからは良く電話をしている。
アンジェリーナはキッチンに行って料理をし始める。いつもの土日のようだ。普段通り過ごせとはこう言うことか。
母は最近忙しくて朝起きた時にはもういない。
トントントンと包丁が野菜を刻む音がする。
そして何かを焼く音、いろいろと忙しそうにアンジェリーナは料理を作る。ご飯が炊けたと炊飯器が音楽を奏で、アンジェリーナは冷蔵庫から味噌を取り出す。
味噌汁と香ばしい焼き魚の匂い。
食卓に並べられたのはサバの切り身、サラダ、ご飯味噌汁 納豆、味噌汁だ。
最近アンジェリーナは日本食にハマっている。
妹が父の横に座り、その対面に俺とアンジェリーナが並んで座る。
「「「「いただきます」」」」
母がいないのが少し寂しい気がした。
「さくら、刀だが、昨日サムにアドバイスをもらって、属性が付与させやすいように峰にミスリルを付与して見た。使い心地を見てくれ。」
「ありがとうお父さん。」
会社から早く帰れるようになり、父はレンタル鍛治屋によく足を運んでいる。同時に最果て鍛治ギルドに入ったサムといいライバルになっていて、アドバイスし合うが父は刀、サムは大剣で色々と争っているらしい。
師匠はあのギルマスの弟ガッツさんらしい。
歳を食っているが、成長が早く、人気の刀鍛冶になりつつあるらしい。少しずつ名で買って行く探査者が増えたとか。
大阪の刀鍛冶人気作り手では今7番手らしい。
「アンジェリーナさん、私ダンジョン今日も行きたい!!。」
俺は盗聴器を警戒してなるべく予定を言わないようにと思っていたのだが、妹はいつもの妹だった。
いつも通りか。
「アンジェリーナ、どうする?ダンジョン行くなら月パーティ全員呼ぶけど?」
最近は月パーティと神パーティは別れて行動している。俺たちのレベルだと10人では手持ち無沙汰な奴が出るので、別れて普段は探索している。
アンジェリーナは考えている。引きこもるべきか行くべきか。
「アンジェリーナ、いつもならどうする?」
俺はアンジェリーナに言った。
「ダンジョンにいきましょう。ただし、毒ガスコースにしましょう。あそこなら追いつけないでしょうから。」
いつも通り玄関に集合して、月パーティ全員でダンジョンに向かう。
いつもなら話しながら行くこの道もなんとなく警戒してしまう。
誰かが後ろをつけているかも。
誰かがはなしかけてくるかも。
すれ違う車が怖い。
ダンジョントロッコに乗って、ダンジョンの中に入ったら、落ち着いた。
「ダンジョンの外よりもダンジョンの中の方が安心できるってなんかおかしいよな。」
俺は一息を吐き、揺れるトロッコに身を任せる。
「松ちゃんもか。俺もなんだかダンジョンの方が落ち着くわ。」
真斗もおんなじらしい。
「ダンジョンの方が安心なんて、皮肉ですね。私もですが。」
志帆は水入れの水を飲みながら言う。
「そうでもないわよ。あの場所を超えないと、なんとも言えないわ。」
アンジェリーナは一応警戒しているようだ。
「とりあえず、毒の沼地へ行きましょう。」
ゆりちゃんはポワポワ雰囲気で言う。今日ばかりは癒されていいかも。少し妹の気持ちがわかる。
「お兄ちゃん、ゆりちゃんは私のものだからね。」
おい妹よ、勘が鋭どすぎではないか?
トロッコを降りて少し戻る。
そうしたら全員白ポーションを飲んで、毒エリアに入る。
「松ちゃん頼んだ。」
「ヘイヘイ。」
真斗に頼まれ、俺は低級毒ポーションをワニに打ち込む。
最果て弾の研究で何発かをチャージしてから放つこの新しい機能はポーションの消費数が増えるが、ダメージは桁違いだ。
一発でワニを鎮める。それをゆりちゃんがクビチョンパして素材化。
何度もここに来ているうちにできた一番効率の良い方法だ。
そして歩いている間に使える素材だけをリュックに入れる。使えなさそうなもの、安いものはその場に放置だ。
しばらくすると崖が見える。
アンジェリーナが地面に太い特殊な釘を何本も挿し、ロープを設置する。そして崖にロープを下ろす。
毎日ダンジョンに潜って通常ではありえない運動ばかりしたせいで俺たちはロープ1本で崖を登ったり降りたりできるようになった。
普通は崖をロープ1本で降りたりしないが、何かあれば真斗が助けてくれるし、アンジェリーナには転移能力がある。
そのおかげで俺たちは安心してロープを降りることができる。
しっかりと固定されたロープをまずは真斗一人で降りて行く。20mくらい下に、別のフロアがあり降りることができるのだ。
ロープが緩み、真斗が降りたことが分かると、順に全員降りて行く。
降りる時は俺は革手袋をする。一度素手でしたら手のひらが痛くなってからはそうしている。
アンジェリーナが降りるといつも通り赤い電線の先についたボタンを押す。これで杭が地面から外れ、ロップを引っ張るとロープごと杭が外れる仕組みだ。
帰り道がなくなると思うだろうが、この先のフロアボスは十分に倒せるレベルなので魔法陣で帰ることは容易だ。それよりもこの杭とロープを失う方が痛い。毒に耐性をつけたロープのため意外と値段が高いのだ。
ここ血の地下山脈フロアの通常モンスターは吸血オオコウモリ、トロール、赤狼、オオヒルで、フロアボスは四足ワイバーンだ。
今までは前菜、これからが本番だ。
今日の目標は四足ワイバーンを何度か倒して素材集めだ。電撃に強い素材が得られる。
「全員、準備ができ次第出発します。毒塩を腕と足に振るのを忘れずに。オオヒルに噛まれて貧血になりますよ。弾は最果て弾で、余裕が有れば属性弾に切り替えです。いきましょう。」
リーダーらしい仕事をするゆりちゃん。
真斗を先頭に俺たちは錆びた鉄の匂いがするダンジョンを進み始める
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