公安編
第22話 VS公安1
「それで、ミノタウルス10体にボコボコにやられて装備を失ったと。」
「そうだよ!!。」
「それで装備を失って、その装備が欲しくて装備を万引きしたと。」
「そうだよ!!もう勘弁して、これで10回目だ。」
「お前が反省してないから、何度も聞いてるんだ。いいか、お前が盗んだ装備品は金貨32枚。日本円で32万円だ。お前が傷つけた従業員、全治2ヶ月だそうだ。お前のせいで営業を中止。そのせいで本来あったはずの売り上げがなくなったんだ!!」
警官が机をバンと叩く。
「ちょっとは反省しろ。せめて反省している態度を取れ。そうでなくとも前歴多数、暴力事件が2件に窃盗事件が5件。今回は窃盗に傷害、反省しないなら少年院送りかもな。」
警察はバンと取調室の扉を閉めて出て行く。
「やはり、ミノタウルスの数は8体ではなく10体と言っていました。」
革ジャンを着た男報告する警察官。
「別のダンジョン部の人にも聞きましたが、やはり10匹出たそうです。かなり怯えていて、話してくれたのは2人だけでした。やたら警察官を警戒しているのが気になりましたが。」
別の警察官が、革ジャン男に報告する。
「高校生だぞ、何もしてないのに根掘り葉掘り聞かれたら学生は警戒するさ。特に普段から武器を持っているダンジョン部だぞ。銃刀法違反なんて言われたら、学生にその気がなくとも捕まるしかないからな。で、その学生も確かに8体ではなく10体と言ったんだな?」
「はい、確かに言いました。指示通り10体いたかと聞かずに、何体いたかと聞きました。」
警察官はメモをもう一度確認しながら報告する。
「ありがとう、助かったよ。これで日本の未来も明るいかもしれない。」
ーーーーー
7月に入り、終業式が終わり、やっと夏休みに入っる。
窓の外はセミが泣き、暑い夏を語っている。
アンジェリーナは
「無理、限界、この暑さ非常識。」
暑さでヘロヘロになっていた。
「やっぱり大阪の夏はアンジェリーナにはキツイか。」
終業式が終わった体育館から続々と出て行く生徒の流れに、俺と真斗、アンジェリーナ、志帆が固まって進む。
「今年は早めに宿題を終わらせて、さっさと探索に行きたいですね。ギルドホームで合宿してもいいですし、資金があるので東京ダンジョンに行くのもありです。大阪ダンジョンで長期探索するのもいいと思いますし、やりたいことはたくさんあります。」
志帆は嬉しそうだ。
「そうよ、ダンジョンに潜りましょう。ダンジョン内は涼しいし、過ごしやすい。いいわね志帆、ナイスアイディアよ。」
アンジェリーナもノリノリだ。
いま、俺たちは翻訳指輪を外している。アンジェリーナがある程度話せるところで、外してくれと言われたからだ。昔日本語を話せていたとは聞いていたけど、2ヶ月で話せるようになるとは。ただ書くことはできないらしい。漢字がダメなようだ。
「合宿だけど、レンタカーでも借りて東京に行こうかと思うけど。ジャックは忙しいから現地で迎えに行くとして、10人ならギリギリ乗れるはずだわ。」
アンジェリーナは18歳だ。国際免許証を持っているので運転できる。
「あー、最近大阪ダンジョン行きすぎてマンネリ化してるからな。いったん松ちゃんの家に行って、ギルド集合で全員と相談だな。」
真斗がスマホを取り出しRINEで集合を伝える。
「せっかくだから、バカンスにも行きたいわね。海とか行きたくない?チャンはどう?」
アンジェリーナの言葉にドキッとしたのは俺だけだろうか。アンジェリーナの水着が見たいというのが正解かもしれないが、ここは...
「妹が言いそうだな。東京に行く途中にでも海水浴場があればいいな。」
完璧な回答。
「ちょっとアンジェリーナさんがかわいそうになってきました。」
小さな声で言う志帆。
おい、アンジェリーナには聞こえてないが俺には聞こえてるぞ。
一階の廊下を歩き、珍しく高校の応接室に明かりが付いている。ちょっと気になり中を覗くと、一ノ瀬と鈴、森、神山が中で話していた。誰と話しているかはわからない。覗いていると先生と目があった。
しまった。
ついやっちまった。
「アンジェリーナ、真斗、志帆、走るぞ!」
「「「えー?」」」
走り出そうとする俺を追い詰めるかのように応接室の扉が開く。
「まて、そこの4人。呼ぶ手間が省けた。ちょっとこっちに来い。」
あー、よりによって学生指導の先生に捕まるとは不運な。
部屋に入ると、一ノ瀬たちの対面に座っていたのは革ジャンにシワが多いシャツをきたおっさんだった。
「こんにちは、私は坂本と申します。」
そう言って坂本さんは警察手帳を見せてくれる。
「私はいまとある事件を調べていて、その犯人から君たちの名前が出たので少しお話し聞こうと思ってきました。」
優しくあたりのいい刑事さんのようだ。
「どんな事件を調べているんですか?」
アンジェリーナはずばりと聞く。
「私の答えられる範囲は少ないが、ちょっとダンジョン近くで窃盗傷害事件があって、容疑者を逮捕したのが、その容疑者の動機内容に君たちの名前があったんだ。」
俺は気づく、例の先輩のことだろうと。
「あー、瀬戸先輩のことですね?」
俺は刑事さんに聞く。
「ごめんね。私の口からは容疑者の個人情報は言えないんだ。」
なんとなくわかった。正解だ。
「それで巡査が一人で高校にきたんですね。」
「あ、ああ。」
アンジェリーナ、何かに気がついたようだ。
刑事さんはちょっと驚いた表情と警戒が混じった顔になる。
「最近の警察は巡査1人だけで聞き取り調査をするんですか?」
「そう言う時もありますよ。あまり重要ではない事件の時は急いで情報を集めるからね。重要な証言が有れば後でもう一度、上司と一緒に聞きに行くんだ。」
「なるほど、今回は重要ではないと。ところでそんな重要ではない事件なのに、なぜ東京にいるはずの警視庁の巡査さんがいるのですか?」
「それは事件と関係することなので答えられないよ。ごめんね。」
アンジェリーナに押され気味な坂本巡査
「なるほど、警視庁が出てくるくらい重要な事件なのに、やってきたのは巡査1人だけ。怪しいですね。先生、多分この警察官偽物ですよ。それか公安警察ですね。警察手帳はちゃんと地方警察名まで偽装しないとバレるわよ。」
アンジェリーナの言葉に先生は固まる。
「先生、念のため大阪府警に坂本という巡査がいるか確認しましょう。いると言われたら、偽物ではなく公安警察決定です。大阪府警はきっと協力関係なので、肯定して庇うでしょうから。ああ、念のため警察手帳をもう一度見せてください。」
先生は電話をかけようと応接室の電話を取った。
坂本巡査は、その電話を横から手を伸ばして切った。
「失礼、普段から身分を偽る癖がぬけないもので。改めまして、笠岡と申します。」
そういって刑事さんは警察手帳を見せる。
俺はマジマジと警察手帳を見る。確かに警察手帳の上部に笠岡祥一と書いてある。階級は警視みたいだ。警視ってどれくらい偉いんだろう?
「それで公安警察の警視さんが高校生に何の用でしょうか?」
アンジェリーナは完全警戒モードだ。
「正直に言いましょう。例の容疑者の動機の中に看過できない案件がありました。容疑者が嘘をついている可能性もありますが、その真相は確かめる必要があるものです。はっきり言いましょう、偽ポーションについてです。一ノ瀬くんが部室に持って行ったという偽ポーションは流通してしまうと社会が大きく混乱します。ポーションの偽物を作っても犯罪にはなりませんが、精巧な偽物は犯罪の種になる可能性があるのです。私たちはそれを確かめに来ました。偽ポーションを作ったのは?」
俺たちは誰もアンジェリーナを指名しない。なんとなく指名したらいけない気がした。
しかし、アンジェリーナは自ら手を挙げる。
「それを作ったのは私です。でも製造法は一切言いません。それは会社が秘密を守るのと一緒です。」
「一緒ではない、犯罪の種になるんだ。つくり方がわからないと偽物と判別付かない。」
笠岡は怒るような口調で言う。
「一緒ですよ、それに治外法権です。その知識は日本の企業の権利でも日本人が開発したものではないです。たとえ知っていても私が教える義務はありませんし、相手が警察でも教えることはできません。製造法が知りたいならその権利を持っているところを調べて正式な手順で、合法的な取引で、正当な料金で教えてもらってください。私は知りたい情報があるときは、そうやって手に入れてきました。情報は脅せば手に入るものではないのですよ。」
アンジェリーナ、強えぇ
「でも、協力する気がないわけではありません。偽ポーションのあまりなら、持っていけなかった分があるので、私のロッカーにあまりがあります。それならお渡ししますよ。」
アンジェリーナはにっこりとした。
ーーーーー
笠岡は外に待たせていた車に乗り込む。
「どうでした?情報収集できましたか?」
運転席にいる同僚が聞く。
「収集できたといえばできたが、目的の情報ではなかったな。それに手ごわい人に当たってしまった。」
笠岡は襟の隠しカメラをパソコンに繋ぐ。
そして2人の顔を拡大して印刷した。
「この二人について詳しく調べてくれ。」
「はい、わかりました。」
黒い日本製高級車は学校の校門を出る。
運転手のポケット入っている写真にはアンジェリーナと一ノ瀬が映っていた。
「早く、ダンジョン管理者を見つけなければ...。」
「そうですね、何か行動する前に確保したいところです。」
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「アンジェリーナ、怖くなかったのか?」
俺は笠岡刑事と分かれ、教室に戻った。
「怖かったわよ!!でも、公安や警察はこっちから話しかけるときは味方だけど、あちらから来るときは基本敵なのよ。一度、先生が軍の研究していて、その機密が漏れたとき散々経験したわ。それに情報取集していたのが身分偽りの上に警視なのよ。正直これからどうするか迷うレベルだわ。」
アンジェリーナは珍しくまいっているようだ。
「とりあえずチャンへのヘイトは避けられてよかったわ。きっと公安は私と元ダンジョン部の一ノ瀬を重点的に調べるはずよ。
私って意外と経歴多いから調べるのに苦労するはずだわ。とりあえずチャンの家に行って全員と相談ね。」
アンジェリーナは荷物を持つと俺に抱きついた。普段なら教室でそう言うことは絶対にしないのに、珍しい。
「チャン、私はあなたが好きよ。いい、私だけを見て。他の女を見たら嫌よ。」
そう言ってアンジェリーナは俺の首筋に生々しい音を立てながらキスをして離れた。
急な出来事に俺は何も出来なかった。
「なんてね、驚いた?さて、さっさと家に帰って会議しましょう。」
俺は今されたことに頭が一杯で何も話せなくなり顔が真っ赤になった。
家に帰るとアンジェリーナは自分の部屋で「わーー」と叫んだ。
「どうしたアンジェリーナ!!」
俺は慌ててアンジェリーナの部屋に入ると、鞄を裏返して機械を見せる。
「チャン、どうしよう。盗聴器よこれ。いつの間にか鞄に中に仕掛けられていたみたい。今日の高校のキス...誰かに聞かれていたかもしれない...。徹底的に盗聴器を潰すわ。チャン、みんなの鞄にもあるかもしれないから全員の持ち物徹底的に電子レンジでチンよ。回路が使われている機械はみんな電子レンジで壊れるはずよ。」
アンジェリーナは汚物は消毒だーとどこで覚えたかもわからないセリフを言いながら徹底的に学校から持ち帰ったものを電子レンジにかける。俺の鞄も制服も、徹底的にだ。
家にいるみんなにも電話して、学校から持って帰った鞄を調べると高校組の鞄全てに盗聴器が仕掛けられていた。アンジェリーナは全員の服を脱がして徹底的に電子レンジにかける。
そして持ってきた全ての荷物を確かめてから、何かを家にしかけまくり、「みんな捕まって」とどこに行くかも告げずに転移した。
ついた場所はギルマス室だった。
「あー、焦ったわ。まさか学校の鞄に盗聴器を仕掛けられるとは思わなかったわ。警察は2人で行動すると言うけど、もう一人は盗聴器を鞄に仕掛けに行ったのね。服は洗濯するけど鞄は洗濯しない。しかも基本プライベートな場所に置く。鞄を持った時に、膨らみがあったのに気づいた時は焦ったわ。」
アンジェリーナ、有能すぎるだろ。
「日本の公安って優秀って言われていたけど本当の話だったのね。」
いや、優秀なのはそれに気づくアンジェリーナだよ。
ん?ちょっと待て
「アンジェリーナ、それを知っていて俺に...その...あれをやったのか?」
俺はアンジェリーナに聞く、キスの真実を。
「そうよ。それを聞いている公安に主張したかったもの。チャンは私の特別ってね。私のミスを補う為よ。本当は人に聞かせるのではなく、ベットの上でチャンだけに言いたかったわ。」
アンジェリーナ、暴露しすぎ。ほら、ゆりちゃんと志穂の顔が真っ赤になってるぞ。
「おい、松ちゃん。前から思ってたけどおまえらって。」
森が言いかけたところで真斗が肩を叩く。
「森、それ以上言うな。見たらわかるだろ?」
なんかそのノリ前にされた気がする。やめてくれ。
アンジェリーナも少し顔を赤くするな。こっちが照れる。
「俺とアンジェリーナはまだ付き合ってない!!」
「まだねー?」
俺のセルフにツッコミを入れる神山。
「付き合った方が楽よ。お互い正直に気持ちが言えるわよ。」
一ノ瀬と付き合っている鈴が言うと説得力あるな。
ただ、言った後恥ずかしくなって一ノ瀬見るのはやめていただきたい。思わず爆発させてしまいたくなる。
「すいません、楽しいところ申し訳ないですが、私にとって盗聴器の方が重要なのでそれについてお話ししませんか?」
真っ赤な顔が治った志帆が言った。
「そうね。でもそれは念のためもう一度盗聴器を探してからでもいいわね?ここにはちゃんとした金属探知機も電波探知機もあるから。録音されていれば私たちの相談も向こうに駄々洩れだから。」
アンジェリーナはそう言って、いつのまにか作っていたギルマスから通じる研究所から大型の機械を持ちだしてきた。
俺たちはアンジェリーナの指示に従って徹底的に調べた。
ーーーーー
「な、思うんだけど、公安が盗聴器を仕掛けたとしてここまで警戒する必要あるか?」
真斗は素の疑問をアンジェリーナにぶつけた。
「あるわよ。もしかしたらないかもしれないけど、私は徹底的にしたいわ。女の子のプライバシーを侵害するなんてあり得ないわ。いまは盗聴くらいで済んでるけど、盗撮の可能性や家を無断で調べられる可能性もあるのよ。徹底的にするわよ。」
プライバシーね、アンジェリーナが?
「それに私の研究ってあまり知られるの良くないのよ。それこそさっきのポーションの話も偽物を作れるし、このギルドの秘密の呪文だって方法を知られて悪用されれば、それこそ黙っているアナザーワールド委員会が出てくるような案件だし、あの緑の宝石だって知られれば、アメリカの研究所で戦争が起きるわ。
チャンが持っているポーション銃は火薬を使っていないけど、ダンジョン武器の銃火器系で唯一人間に直接的な攻撃力を持つ武器よ。私たちはこの何か月かで確かにダンジョン深くまで潜り、沢山の素材をあつめ大阪ダンジョンではベテラン以上のことができるスペシャリストと言えるレベルになったわ。でもそれと同時に皆がほしがる情報を持ってるのよ。」
アンジェリーナは一度間をおいた
「真斗、森。とくに2人はやりすぎと思って油断しやすいわ。情報はそこから漏れるのよ。私はアメリカに論文で目をつけられている。日本の公安ほど露骨なことはしてこないけどね。誘拐か、拉致か、脅迫か、なにが起きるかわからないのよ。スキルができる前と同じように考えないでほしいわ。
今は公安のヘイトは私と一ノ瀬に向いているはずよ。なるべく情報は漏らさないように。そして平常通り行動しましょう。私と一ノ瀬が注意すればきっと今は何もないはずよ。
あと、ジャックはしばらくお店以外に外出禁止ね。」
「え?そうなんですか?」
ジャックは固まった。
「その代わり、経験値については何か対策を考えるわ。」
「わかりました。ですが、それほど公安が心配なら浮遊都市にいればいいのでは?」
ジャックは案を出す。
「それは私も考えたわ。このままいればそれは安全よ。でも全員がチャンの家から出てこないというのも怪しいし、何より問題解決にならない。合法的に飛行機で浮遊都市にいけば、私たちのギルドホームを暴露するようなもの。大阪にいるのが一番だわ。」
なるほど
「ジャックのディナーを食べたら戻るわよ。本当はここに泊まりたいけど、そういうわけにはいかないわ。」
俺たちは今日もおいしい料理を味わった。
「アンジェリーナ、俺やっちまったかもしれない。」
ギルマス室に行くアンジェリーナを追いかけて森は言った。
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