第21話 浮遊都市ダンジョン3

ドラゴン

空を飛び、炎をまとった竜弾を吐く、巨大で耐久性の高いモンスター。


その防御は戦車並みで、弱点の水属性弾を撃ってもひるみもしない。切断系武器はあまり効果がなく、倒すのは至難の技。


ドラゴンを倒せる探索者は数少なく、そもそも手を出すなが原則。


知識はある。手を出すなって、ミノタウルスの説明にもあった。


だが、実際に戦うと、本当に強い。真斗ドラゴンの時点で薄々気づいていたが。


探索者は俺たちが入ってきたのとは違う洞窟に避難した。


せっかくの食事を邪魔するな。


そう言いたいのだろうか、ドラゴンは俺たちに向かって咆哮をあげる。


俺のスキルステータスにはドラゴンの体力が見える。足のダメージ、鱗のダメージ、頭部へのダメージ、体内部へのダメージ、他にもいろんな体力ダメージがある。そして弱点の場所、残りMP。


走ってやってきた、ゆりちゃんや妹、森が攻撃するが、ダメージがわずか。真斗ドラゴンの竜弾でやっとまともな攻撃。それでもダメージとしては少ない。


アンジェリーナは転移でドラゴンに乗り移り、爆発物を設置して離脱を繰り返している。


一番よく効く攻撃はウンディーネの属性付きの攻撃だ。


「属性弾は鱗がない目、鼻、口の中、肛門に。鱗がないから他の場所よりも効くはず!!」

俺はわかっている弱点を無線で伝える。


一番の弱点は内臓なのだが、飲み込まれでもしない限り、内臓への攻撃は不可能。


「皆さん、白ポーションを飲んでください。松ちゃんに中級毒ポーションを使ってもらいます。」

志帆も今のままではドラゴンを倒せないと察したのだろう。


一ノ瀬が6発同時撃ちでドラゴンの目を狙う。目に当たらないこともあるが、当たるといいダメージになっている。


「松ちゃん、真斗さん以外、白ポーションを飲みました。中級毒ポーションで攻撃してください。」


「了解」


俺は念のために思いっきり白ポーションを投げる。白ポーションを瓶ごと食べる真斗。


俺はマガジンを中級毒ポーションに変える。

距離があるが、的は大きいのでそのまま撃つ。


ダダダダという小銃特有の音、手に感じる銃の振動。


毒ポーション弾はブレが大きいながらも吸い込まれるようにドラゴンの背中に命中した。


ドラゴンへのダメージは神山ウンディーネよりも大きいくらいだ。


ドラゴンが俺たちの方を向く。

ドラゴンは飛び立とうと地面を蹴りながら、竜弾を打とうと口を開ける。


その瞬間、踏ん張るドラゴンの右足を思いっきり森がハンマーで叩いた。


ドラゴンがバランスを崩しドラゴンは顎を打ち付ける。ドラゴンの竜弾はドラゴンの口内に炸裂した。


ドラゴンが悲鳴を上げる。


ドラゴンの攻略法を見つけた瞬間だった。


「神山さん、危険な役ですが、ドラゴンに攻撃を当てて引き付けてください。」

「了解。」

神山はウンディーネの能力でドラゴンに水流弾を大量に撃つ。

ドラゴンの標的が神山ウンディーネに変わる。


低空を水を撒き散らしながら高速で飛ぶ神山ウンディーネ。

それを竜弾を撃ちながら追いかけるドラゴン。


タイミングよく森がハンマーを投げる。高速回転したハンマーは竜弾を撃つドラゴンの顎にあたり、ドラゴンの口でまた榴弾が炸裂。


大きな口を開けて悲鳴を上げるドラゴン。

その口に真斗ドラゴンが竜弾をねじ込む。

それも1発ではなく3発だ。

その全てを飲み込んでしまったドラゴン。


ドラゴンの内臓の体力ゲージが残り1/8になった。

かなりの大ダメージだ。

一番の弱点、内臓に炸裂。それもお腹が一瞬膨れたことから肺か、胃くらいは破壊したのだろう。


ドラゴンが血を吐き出す。

神山ウンディーネが、氷の氷柱を作り出し、ドラゴンの口へ攻撃する。

ドラゴンは悲鳴を上げることも出来ずに倒れた。


今回のMVPは間違いなく真斗と神山だ。


強力な魔物への変身は強い。強すぎて桁違いだった。

俺はほとんどなにもしていない。というか化け物すぎてなにも出来なかった。


ゆりちゃんと森は意外とドラゴンの体力を削っていたが、それでも届かない。


射撃では一ノ瀬が活躍。目とか、鼻への攻撃は意外とドラゴンダメージを与えていた。


「あー、ドラゴン相手はキツい。」

そう言いながら元の真斗に戻る。


何度か竜弾を食らっていた真斗。

何のためらいもなく中級ポーションを飲む。


実はかなり痛かったらしい。

森とゆりちゃんは体に低級ポーションをかけながら、ごくごくと3本くらい飲む。


「もう、限界だー、巨大な足で引っ掻いてくるし。踏み潰そうとするし、なかなか怖かった。」

森の装備はボロボロで新品だったはずなのにいろんなところが裂けていた。


ゆりちゃんの装備もぼろぼろ、肌けているところも多い。近くまで駆け寄ったアンジェリーナが自分の白衣をゆりちゃんにかけた。


ドラゴンの骸の前に、みんながニヤリと笑う。


「ドラゴン討伐!!探索者の夢!!それを今私たちは達成したのよ。今最高の気分だわ。」

アンジェリーナは子供のように喜ぶ。


「俺と神山、鈴は初ダンジョン初ドラゴン討伐。最高!!」


鈴はちょっと複雑な顔だった。初ダンジョンで森と神山は大活躍。鈴はあまり動けてなかったからだろうか。

「鈴、あなたには助かったわ。爆弾の組み立てをすぐに習得して、私の代わりに組み立ててくれてありがとう。おかげで攻撃回数が増えたわ。」

アンジェリーナは鈴を褒める


「私もです。鈴が神山さんが、ドラゴンよりも早く飛べるって気づかなかなかったら、私は神山さんを囮にする決心がつきませんでした。」

志帆も鈴を褒める。


鈴はちょっと嬉しそうだ。


「ま、一番の活躍は俺だけどな!!」

真斗が自分を指して冗談っぽく言った。


「うるさいですよ、ドラゴン。こんな広いところくらいしか変身して戦えないのに。黙ってててください。」

「なにおう?」

志帆が真斗に噛みつき、真斗が喧嘩を買う。


ドラゴンを倒した興奮感で全員が再び笑う。


「あのー、助けてくれてありがとうございました。」

洞窟から出てきたのはジャックだった。


どうやら別れてから別の通路を通ってドラゴンにあったらしい。

その手には草が握られていた。


「あのとき逃げていたのはジャックさんだったんですね。ジェームズさんたちはどうしたのですか?」

俺の質問にジャックはドラゴンを見る。


きっとドラゴンに美味しく食べられたのだろう。今頃保険で地上に出ているはずだ。


「なるほど。ドラゴンに飲み込まれたらデスカプセルはお腹の中。倒すまで手に入らない。これが大阪ダンジョンなら1発全ロスか。怖いなドラゴン。」

俺は改めてドラゴンの怖くなった。


「あのーどうお礼を言ったらいいか。お金がなかったから、私は命の保険しかかけてなかったんです。だからもしもここで死んでたら素材も包丁も失うところでした。ありがとうございます。」

お礼をするジャック。


「お礼に無事ダンジョンを出てたら、キッチンを貸してください。料理を振る舞わせていただきます。もちろんドラゴン肉を使わせて頂けるなら、最高のおいしさを提供します!!」


ジャックの料理の腕は魚を料理した時に知っている。


俺たちはお言葉に甘えることにした。


ドラゴン首を切り落ちし、素材にする。そして詰めるだけの素材をリュックに詰めて、宝と共に持って帰る。ダンジョンを出るまで我慢すれば全てギルド倉庫へ行く。素材全てを変身した真斗に乗せて帰還魔法陣に乗った。


帰還後、地上ダンジョンにドラゴンが現れて騒ぎになったが、荷物がなくなって真斗が元に戻ると騒ぎは収まった。


ちなみに、今回のフロアクエスト。ドラゴン討伐ではなく、ドラゴンの撃退だった。ジャックが持っていた草、それはにがり草でドラゴンが嫌がる匂いを放つ。


2人は運悪く食べられてしまったが、にがり草でドラゴンを燻して撃退すればよかったのだ。3人はダンジョンを回っており、ヒントからそれにたどり着いていた。だが、最短距離でドラゴンに出会った最果てパーティたちはその情報を知らなかったのだ。焚き火の時もドラゴンの穴に潜るくらいなら知っているだろうとジェームズたちは言わなかったのだ。


そんなこと、きっと最果てパーティーの面々は知るはずもない。


今回の稼ぎはかなり良かったらしい。アンジェリーナはご機嫌だった。


ーーーーー


「ドラゴンハムのラフランス巻きです。」


本来なら一人一人にお皿を出すところだが、ジャックは大皿にたくさん乗せて持ってくる。



「「「おおお」」」

全員の目がハートになる。とてもおいしそうだ。


口に入れると、ラフランスの甘さとハムの塩気がにいいあんばいにドラゴンのお肉の旨さを引き立てる。


「スープはドラゴンのベーコンをじっくりと煮出して作ったオニオンスープです。」

「ドラゴンステーキ、赤ワイン仕立てです。」

「ローストビーフ、ドラゴンバージョンです。」

「ドラゴンソテー、クリーム仕立てです。」


次々と出てくる料理。普段食べれないフランスレストランのようなおいしさに俺たちは舌をうつ。


「どうだったでしょうか?私の料理はお口に合いましたでしょうか?」

ジャックはコックコートで俺たちに聞く。


「とても美味しいです。もうギルド専属コックになって欲しいくらいです。」

妹はホワイトクリームがかかったドラゴンソテーを食べならいう。


「そうですね、食材を自由に使えてレベ上げに参加できるなら是非やらせていただきたいところです。」


「アンジェリーナさん!!」

妹がアンジェリーナに確認する。

アンジェリーナは妹にお任せ、みんなも妹は止められないと放置。


「ジャックさん、ギルドに入りませんか?住み込みで食材は...自由というわけではないけど食べれる分なら作ってもいいし、ギルマスのアンジェリーナさんが許可するならお店も出してもいいからギルド専属シェフになりませんか?経験値も荷物持ちだけというわけにはいかないけど、パーティー参加すれば手に入ります。どこかに依頼したりするよりも安くて安全でシェフもできていいと思いますがどうですか??」


妹、ジャックの料理に惚れたらしい。


「私の自由にできるレストランがもらえるなら、是非お願いします。」


コックのジャックさんがギルドに参加。神パーティーのメンバーが4人から5人に増えた。


ギルドメンバーが10人を超えたので、お店が開けるようになった。お店は最果てレストランという名前に決定。店長の気分次第で開くことになった。


そこからはとんとん拍子で話が進んだ。

最果てレストランを開くと最果て鍛治に報告すると、お店を確保してくれると言ってくれた。その場所は浮遊都市のメインストリートに面する建物。最果て鍛治屋の4階に店を構えることになった。


店舗はアンジェリーナによって裏技突貫工事ですぐに客席間取りなどは作られたが、厨房だけはそうもいかず、業者に頼むことになり1ヶ月かかるそうだ。


ギルドホームと最果てレストランの間には専用電話が引かれ、最果てレストランの料理長室とジャックの私室に繋がっている。ジャックの私室はジャックのみが入れるように。料理長室は最果てパーティギルドメンバーのみが入れるようにした。


従業員は最果て鍛治屋の方から、開店時だけ応援に来てくれることになった。その代わり最果て鍛治屋系列のお店としての運営で経営は最果て鍛治屋扱いだ。レストランの利益は最果て鍛治屋と最果てパーティーで折半。最果てパーティーはレストランの利益はジャックに任せることにした。


レストランが開店時するころ、やっと浮遊都市も地下ダンジョ以外だが携帯電話が使えるようになった。


最果て弾で膨大な利益を上げた最果て鍛治ギルドは携帯会社に資金の80%を出資。最果て回線コンポレーションが作られた。実質最果て鍛治ギルドが浮遊都市ケータイ会社の親会社ならぬ、親ギルドになった。


最果て鍛治ギルドの方針で携帯、スマホ本体を販売せず、通信会社として徹するこのになり、SIM(携帯電話に入れる通信の設定が記録された小さなプラスチック製のカード)のみ販売。膨大な資金を出した割に、料金を高くせず一気に広げたために、浮遊都市に進出しようとエリアを拡大させていた他のケータイ会社を一瞬で一掃させた。


空港に入ればとりあえず最果てSIMを買って入れ替える。1GB大銅貨3枚日本円で50円。つまり。100GB使っても5000円。その代わり通話は日本の携帯国際通話くらい高い。そんなプランだった。通話機能使用にはパスポート登録必須だ。登録がなくても通信はできる。


支払いは個人カード決済のみ。SIMは1枚大銀貨5枚、つまり5000円。SIMカードを返すと大銀貨2枚帰ってくる。つまり実質3000円。


最果て回線株式会社はネット回線も作った。世界各国の衛星と通信し、浮遊都市の外周には横に伸びた地上との通信塔が作られた。こうして短期間で浮遊都市に通信インフラが整えられた。


なお、最果て鍛治ギルド傘下ということで俺たちには無料のSIMカードをくれた。これで俺のスマホも浮遊都市で使える。


「そういえば、なぜ最果て鍛治屋が携帯会社作る気になったんだろう。」

「ああ、それね。SIMを取りに行った時にギルマスが教えてくれたわ。なんでも最果て鍛治ギルドの商品を地上の提携店に売っているらしいんだけど、インターネットも電話もつながらないから不便と以前からクレームが多かったらしい。あと、地上の鍛治職人とも連絡を取りづらいから、もう待ちきれなくて、なかなか進まない通信インフラを自分たちで整えることにしたらしいわ。」

アンジェリーナが教えてくれた


なんというか、豪快だな最果て鍛治ギルド。


「最果てレストランも開店から2ヶ月、開店ツエッターがあるたびに店が満員になるらしいわよ。中華にフレンチ、イタリアン。結構いろんなメニューが全て絶品で、手頃ではないけど質の割に安く食べられるって噂になっているそうよ。


ただ、シェフは気分次第で店を開けるし、気分次第でオーダーストップ。この前は神山さんから大阪ダンジョン探索に誘われたからオーダーストップだったらしいわ。他の店では許されないけど、開店当日からやったから気分次第オーダーストップしたから、もうそういう店として認識されたらしい。」


ギルド専属コックもぶっ飛んでいるな。


「それにしてもよくギルドハウスと料理長室の間に魔法陣で転移門作ったな。」

「ああ、それはね。ギルドルールを利用してしたのよ。浮遊都市内しか使えないし、ギルドメンバーしか使えないけど。ちょっとした法則に気がついて。」

アンジェリーナが説明に入る前に俺は止めた。どうせ聞いてもわからない。


「アンジェリーナがよくやっているのは知ってるよ。」

「そういうなら、もうちょっと私を甘えさせてよ。」

アンジェリーナは俺に抱きつく。

ギルマス室。誰もいないとわかってるからこそだろう。


「アンジェリーナやめろ。引っ付くな。」

「えー、いいじゃない。いい加減私を認めてよ。」

「認めてるって、すごいと思うよ。でもそういうのじゃない。」

俺は引っ付くアンジェリーナを必死に止める。胸が腕や体に当たって、もういろんな意味でやばい。


その時、ギルマス室扉が開けられる。

アンジェリーナは俺から素早く離れる。


「すいません、アンジェリーナさんも松ちゃんもいないと思っていたので。ギルド倉庫から食材を取り出したらすぐに、消えますので。」

ジャックは食材を取るとすぐに出て行く。


「今度から、私の部屋に行こう。」

アンジェリーナはポツリという。

「いい...いや、無理だ。」

俺は思わず肯定しそうになった。

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