第20話 浮遊都市ダンジョン2

大きな水道管のような場所、たまにザーっと言う音と共に無数にある通路から水が噴き出す。


きっと俺たちはあれに流されたのだろう。

「2分から10分くらいの間隔、時間の規則性はなくランダムに水がきているようですね。」

すっかり元気になった志帆。


妹とアンジェリーナは地面に下ろされた森の巨大なバックを背もたれに寝ている。


俺は着ていたトンビコートを2人にかける。


コーヒーデビルウットは一部が力尽きて素材化して小さくなるので、周りにいるコーヒーデビルウットを縦に切り裂き、炎属性弾で動けないくらいダメージを与えたあと、焚き火として焼べている。一度安全を考慮して素材化したコーヒーデビルウットで小さな焚き火にしたが、魔物が憑りつくようになったので、元の大きな焚き火に戻した。


2時間くらいここに止まっている。明日は高校が休みなので時間はあるのだ。非常食と水、フライパンにも使える片手鍋はダンジョン装備に含まれているので、最悪長時間の探索になったとしても問題はない。


ただ、食べれれそうなモンスターがいないので、料理は出来なさそうだ。


「さすがに2時間もすると小腹が減ってきたな。」

真斗もお腹が空いたらしい。


「湖に魚が泳いでいるかもしれません。魚系の小さなモンスターなら頭さえ落とさなければ、焼いて食べれるはずです。」

一ノ瀬は立ち上がり、折り畳んでいた狙撃銃を展開する。そしてポケットから電気属性弾を装填。エネルギーパックを装填してスコープを覗く。


「魚系モンスターはいることはいますが少ないですね。」

スキルで無音射撃する一ノ瀬。

水面で銃弾が弾ける。


「やっぱり水で弾かれるみたいですね。」

一ノ瀬は別の種類の弾を装填する。銃口から糸を出し、狙撃銃にアタッチメントのリールを取り付ける。


「日本では違法の銃弾ですが、ここは浮遊都市なので見なかったことにしてください。」

一ノ瀬はそう言いながら、銃口から出てきた糸をリールの糸と結ぶ。


一ノ瀬が引き金を引くとヒューと笛のような音を鳴らしながら、湖に落ちた。


狙撃銃のチャージボタンをたまに押しつつ、リールを巻く一ノ瀬。巻き上げていくと、60センチを超える魚が上がってきた。銃弾...と言うよりもニードルみたいなものが魚の胴体部分に突き刺さっている。そして一ノ瀬がチャージボタンを押すと魚が痺れる。


「すいませんが、水面近くに行って魚を引き揚げてもらえませんか?」

一ノ瀬の頼みに真斗は崩れた石を伝って水面に向かった。


「魚系のモンスターですね。とても美味しそうです。」

焚き火に持っていくと、ゆりちゃんが持ってきた魚を見て喜んだ。


「あまり得意ではないですが、内臓を取り出してじっくりと丸焼きにしましょう。」

寝ている志帆からナイフを取ったゆりちゃんはエラにナイフを刺して止めを入れ、エラの部分に素材化したコーヒーデビルウットの硬い枝をエラに通す。そしてその枝を森に持たせると、吊るしたままで腹を開き、内臓を取り出して捌く。最後に湖で汲んできた水で魚を洗い、口から刀を通して石に突き刺した。


なんの違和感なくするが、刀を石の地面に突き刺したのだ。簡単そうに見えるが、これは切断スキルを持つゆりちゃんしか出来ない芸当だ


「魚いいじゃない。しかもなかなか大きわね。」

神谷がやってくる。今は普通の人間の姿だ。


「確か塩を森のパックに入れていたはずだわ。私イラッとして森に水をかける可能性があると思って、濡れたらまずい系の調味料とかはタッパに入れておいたのよ。」

そう言いながら森のリュックを漁る神山。

「おい、俺に水をかける気だったのか。」

「いいじゃない。そのおかげで今回は調味料は全部助かったんだから。」


そう言いながら塩を魚に塗す神山。


なお俺が持っていた塩は水に落ちて溶けて消えた。そこまで想定していなかった。


「もう1匹取ってきたぞー。」

真斗と一ノ瀬は嬉しそうに魚を見せた。


「それにしても、狙撃で釣りができるのは初めて知った。」

真斗はアタッチメントを片付ける一ノ瀬の狙撃銃を見ながら言った。


「ニードル弾とアタッチメントのリールを使ったんです。ニードル弾で金属繊維が含まれた糸を打ち込み、エネルギーパックで作った電気で直接痺れさせるのが本来の使い方ですが、このように魚を狙撃することで大きな魚も痺れさせて簡単に取ることができるんです。最も水面近くにいる魚に限られますし、エネルギーパックの残量が大きくへるので、釣竿とかあればそっちの方がいいです。


ニードル弾は物理的攻撃が可能なので、日本では使用禁止の上、攻撃力自体はほとんどないのに高いので使う人は少なく、ニードル弾を知らない人は多いです。今回はあるなら使ってみたいなって思って持ってきていました。」


じっくりと魚を焼き、美味しそうな匂いが周囲に広がる。それに釣られて妹とアンジェリーナが起きた。

「お腹すいた。」

寝ぼけながら言う妹にみんなが笑った。


焼けた魚をプラスチック皿に取り分け、全員で食べる。

ご飯が欲しいところだ。

「おにぎりあるわよ。日本のお弁当はおにぎりって聞いて初めて作ってきたの。タッパ弁当が男らしいってマンガで読んだからたくさん作ってタッパに詰め込んできたわ。神山がウンディーネだから濡れると思って入れたけど、まさか水に落ちるとは思わなかったわ。浮遊都市ダンジョンにこんな場所があったなんて。通りで最果て鍛冶ギルドで神山が濡れない服を頼んでも悩まないはずだわ。」


タッパには不格好なおにぎりが詰め込まれていた。食べてみると塩味が全くしない。きっとそのまま握ったのだろう。塩味の効いた魚にマッチして美味しい。


「アンジェリーナ、とても美味しい。...けど多分レシピ間違えている。」

最初は嬉しそうな笑顔を返したが、二言目でえーと言いたそうな顔をするアンジェリーナ。


「やっぱりそうなのね。なかなかコンビニみたいに綺麗な三角にならなかったから。」

しょぼんとした顔のアンジェリーナ。


「いや。コンビニのおにぎりは無理だから。今度一緒に作ろう。作り方教えるから。」

嬉しそうなアンジェリーナ。


「もうお前ら付き合えよ。」

真斗が俺たちを見ていった。


「「え、付き合ってなかったの?」ですか?」

一ノ瀬と鈴の声がかぶる。


「ほっとけ。」

俺はそれしか言えなかった。



相変わらずザーという水の落ちる音が響く。

だが、その中に一度「わーー」という男の叫び声が聞こえた気がした。

「な、今叫び声が聞こえた気がしたけど気のせいか!」

森にも聞こえたらしい。

「私にも聞こえたわ。」

神山も

「私も聞こえたわ。」

鈴も聞こえたらしい。


そのほかのメンバーも聞こえていたので、どうやら空耳ではないらしい。


「私ちょっと見てくるわ。」

鈴が立ち上がり湖に向かった。

「私もいくわ。」

ウンディーネに変身して宙に浮かんで追いかける神山。


「おい、まっちゃん。窃盗目的のPKが最近流行っているらしいからな。みんなも武器はいつでも抜けるようにしとけよ。」


唯一人に攻撃できる銃を持つ俺はポーション銃に毒ポーションを装填して構えた。


神山と鈴に助けられて陸に上がる男3人。

「すまない、助かった。」


息絶え絶えだが、パーティリーダーらしき人が神山と鈴に握手でお礼をする。


神山と鈴は俺たちの警戒する様子を見て、すぐに戻ってくる。


息を整えた3人だが、俺たちを見て手練れらしき2人が警戒する。1人は剣は抜かないものの、武器に手をかける。


「助けてくれてありがとう。おかげで助かったよ。俺たちはPKではないよ。そんなに警戒しないでくれ。」

リーダーの男が大きな声でいう。だが後ろの1人の男は警戒を解かない。


「助けたことは別に気にすることはない。ダンジョンに潜ってるもの同士、助け合いは必要だろ?警戒するのはお互い仕方がないだろう?最近PKがダンジョン内で流行っているらしいからな。」

パーティ代表として大きな声で話す真斗。その後ろには大きなハンマーを2本持った森が立つ。


「俺たちはギルド、ヌワラエリア・パートナーズ所属、ベルボッソクラン。ジェームズだ。」

ジェームズが名乗った。


「あら、最果て鍛冶ギルド傘下じゃない。珍しいこともあるものね。」

大人しく後ろに下がっていたアンジェリーナが真斗の前に立つ。

「私たちはギルド、最果てパーティ。私はアンジェリーナよ。念のためにギルド章を提示していただけるなら、一緒に焚き火でもしましょう」

「それはありがたい。是非お願いします。」

ジェームズたちも俺たちも警戒を解いた


ジェームズとアンジェリーナはお互いに個人カードでギルド紋章を見せ合う。

アンジェリーナの言う通り、ジェームズの所属するギルド紋章には傘下の証の最果て鍛冶ギルド旗が紋章の中に描かれていた。

「まさか、伝説の最果てパーティギルドに会えるとは。10人もいない小さなギルドなのに最果て鍛冶ギルド傘下で、最果ての名を冠するギルドとして有名ですよ。よろしく、アンジェリーナさん。」

「傘下最大で最果て鍛冶ギルド以上の大きなギルドと伺っています。よろしく、ジェームズさん。」


握手を交わす2人。ゆりちゃんは魚を3人分切り分けて渡した。


アンジェリーナは俺の横に戻り、俺にもたれかかる。


「ああ、そうだ。仲間を紹介するのを忘れていた。後ろで無表情な筋肉男は俺のタッグ相手のアーサーだ。所属ギルドは一緒だよ。


後ろにいる大きな身持つを持っている金髪の男はジャック。こいつは俺たちのギルドには入っていない。荷物持ちでもいいから、経験値を積ませてくれって頼まれて一緒に行動している。戦闘は一切できないらしい。」


「俺は真斗、ギルド最果てパー....


ーーーー


荷物持ちをしていたジャックは、戦闘はできないらしいが、料理はできるみたいだ。


「なにこれ美味しい。」

妹大興奮のおいしさ。


「本当だ、塩加減も絶妙。同じ魚とは思えない!!」

神山も喜んでいるようだ。


俺やアンジェリーナ、俺たちは夢中で食べた。


「本当にシェフなんだね。」

妹がジャックに話しかける。

「もっとスキルのレベルをあげたら、もっと美味しい料理を作れる自信があるぞ。」

胸を張るジャック。


「ジャック、ちょっと女の子に褒められたからって調子に乗るな。」

ジェームズに頭を叩かれるジャック。

「いいじゃないか、ちょっとくらい。」

ジャックの反応にみんなが笑う。


ーーーー


「また、ジャックに会いたいね。」

妹が珍しく男に興味を持った。

「あの料理また食べたい。」

妹はジャックではなく料理に惚れました。

シェフ冥利に尽きるな、ジャック。


俺たちは石畳の通路を進む。

先ほどからモンスター咆哮が聞こえる。


「それにしても、あの調味料で魚があそこまで美味しくなるなんて、俺感動したな。」

「いっそのこと、ギルドでシェフとして入ってくれないかな。」

俺と妹は冷汗を流しながら、会話をする。


モンスターの咆哮は大きくなる。


「なぁ、そろそろ現実逃避するのはやめようぜ。」

真斗は俺たち兄妹に言った。


「僕もそう思います。10人もいるんです。なんとかなりますよ。」

「ちょっと待て、それはフラグだ。言ってはいけないやつだ!!」

一ノ瀬の言葉に俺は反応する。一ノ瀬は顔がエーと言っている。


「そんなことはどうでもいいのよ。みんなはなにが来るかわかってるの?」

神山は知らないみたいだ。そういえば素材採取の時、神山は職人に衣装のデザインを伝えるのに必死で、一緒に居なかったのだ。


「私、さすがに引き返した方がいいと思うわ。」

鈴も少し嫌そうだ。


「俺は逃げるなら後でもいいと思っている。やれるだけやってみたい。」

森はやる気満々のようだ。


「武器の試し斬りにしてはちょっとモンスターが強すぎると私も思う。」

アンジェリーナも慎重だ。


また洞窟に響く咆哮。


「でも、フロアボス倒さないと地上に上がれないんでしょ?」

神山は言う。経験していないと言うのは恐ろしい。

「それよりもなにがこの先にいるのよ。」


これだけみんなが反応すると気になるよな。

「ドラゴンです。真斗から鱗を引き剥がした時に真斗があげた咆哮にそっくりです。」

志帆の説明に神山が固まる。


「そ、それってとても強いモンスターじゃ。」

神山は状況を正しく理解できたようだ。


「引き返すにも出口が何処かわからない。進むしかない。」

真斗は以外と冷静だ。


真斗ドラゴンの鱗を引き剥がす時、真斗は暴れた。

俺たち8人で抑えるのがやっと。属性弾を撃ちまくっても暴れる体力がある真斗ドラゴンに俺たちは手を焼いた。


鱗を取るためとはいえ、人間の話がわかる状態でこれなのだ。

野生のドラゴンを倒せるかは微妙なラインだ。


ゴーと炎を吐く音が聞こえる。


洞窟に終わりが見え、とてつもなく広い場所が見える。

ドラゴンが探索者と戦っている


どうにかして逃げようとする探索者。どうにかして食事がしたいドラゴン。


きっとあの探索者も保険をかけているだろう。だが、ドラゴンのお腹に一度でも詰まるのは嫌だろう。それを見て見ぬふりするもの俺は嫌だった。


「アンジェリーナ、いいか。」

アンジェリーナはうなずく。志帆の方を見ると志帆も頷いた。


「一ノ瀬、神山。遠距離からの牽制任せた。全員インカム装着。戦闘準備。森、真斗と俺をドラゴンの方向に思いっきり飛ばしてくれ。」

森は一瞬なにを言っているのかわからないと言う顔をするが、俺が本気なことを察すると俺と真斗を掴んで空中に放り投げた。


20メートルは上がっただろうその時、真斗は変身してドラゴンになる。俺は真斗にしっかりと足でしがみつく。


急に現れた2体目のドラゴン。探索者は混乱する。しかし野生のドラゴンはもっと混乱した。

急に現れた自分の食事を奪う相手。


「早く逃げてください。」

俺は真斗もの背中から叫ぶ。そしてドラゴンにポーション銃で1マガジン打ち切る。


ドラゴンが竜弾を撃つ

真斗ドラゴンが竜弾で相殺する。


ドラゴンに向かってスナイパー攻撃が命中するが、ドラゴンにそれほどダメージが入っているとは思えない。


冒険者は必死で逃げる。


ドラゴンは獲物を逃すまいとそれを追いかける。真斗ドラゴンがドラゴンと逃げる探索者の間に入り、ドラゴンから守る。


ドラゴンは竜弾を撃った。


真斗は反応しきれず、まともに食らってしまう。


広がる白い煙。

揺れるドラゴンの背中、必死にドラゴンの背中に捕まる俺。


竜弾の煙のせいでなにも見えない。

真斗は地面を蹴って飛び上がる。


後ろを見ると、ドラゴンが探索者に大きな口を開けて追いつきそうになっているところだった。


真斗は竜弾をドラゴンに向かって撃つだす。

ドラゴンは上から竜弾を喰らい、地面に押しつけられた。


ズルズルと地面に体を擦るつけるドラゴン。

きっと、ドラゴンからすれば、空から落ちるというのは自転車で転けるくらいのダメージしかないのだろう。


一瞬は痛そうだが、すぐに復活して真斗ドラゴンに向かって竜弾を放つ。


真斗ドラゴンは竜弾を避けた。


竜弾は広いフロアの反対側に飛んでいき、壁に当たる。土煙が広がり、壁の一部が崩れ落ちた。


なぜ邪魔をする。

そう言わんばかりに俺たちに向かってドラゴンは咆哮をあげた。


俺が初めて経験する化物同士の戦いが始まった。

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