第19話 浮遊都市ダンジョン1

俺たちは浮遊都市のダンジョン領域に来ていた。


森、神山、一ノ瀬、鈴の装備が出来上がったので、試し斬りをしにきたのだ。


「装備を新調のお金を出してもらった上に、全てカスタムの最果て鍛冶屋製にしてもらって恐縮です。本当に何で返せばいいか、わからないレベルです。」

軍の戦闘服のようなダンジョン装備だ。迷彩柄は明るさや周りの色に合わせて変わるもので、壁に引っ付くと同化して発見しづらい。絶縁体スキルで音や気配を消して狙撃することを重点に置いた装備で、濡れても乾きやすいなど、防御力よりも柔軟性や使いやすさを重視した装備だ。それでも変身した真斗からドラゴンの鱗引き剥がしてるので、防御力はかなり強化されている。


なお、全員の装備に使ったので、かなりの数の鱗を引き剥がした。真斗は人間に戻った後も痛みの感覚が残っていてしばらくぎこちなかった。深爪しすぎて痛いときの感覚ににているらしい。それが全身を


森は全身ドラゴンの赤い鱗とワニ皮をふんだんに使った装備で、ハンマー装備もあり有名ゲームのモン○ン防具のようだ。ただしハンマーは二本だ。専用のリュックサック付きで、拡張バックや吊り下げ部分も合わせると100キロくらい背負うことができる特別製だ。戦闘外では荷物持ちを一手に引き受けることができる。

「コスプレみたいね。」

神山の煽り

「かっこいいだろ?」

通じない森


神山は青色と水色を中心とした羽衣をあしらったドレス風装備。武器も水色と青に塗り、装備にマッチさせている上、ひらひらした部分に折り畳み式の狙撃銃を隠すことができる。どんな素材を使ったのか、濡れない装備らしく、ウンディーネの能力をフルに使えるよう属性強化がされている。足下は桜の花びらが描かれていて、変身した時に妖精の4枚羽がうまく背中から出る様に工夫されている。だがどの角度からも背中は見えない。いろんなところに隠しポケットがあり、見た目よりも収納力がある。

「なんかファンタジー装備だな。」

「可愛いからいいのよ。」

森の反応も上々だ。


鈴の装備は一言で言えばくノ一装備だ。忍者服にマスク、足袋で全身黒色。神山と同じく水面歩行を考慮して水に濡れて1分乾く素材だ。露出は少ないが、太腿までボディスーツなので、鈴の足の細さが強調されている。背中には忍者刀、太ももにオートマチックライフが1丁あり、腰には大き目のパックをつけている。

「どう?健太?」

「うーん、普段の方がかわいいかな。」

鈴にポカポカと殴られる一ノ瀬


ギルドメンバー10人全員で浮遊都市迷宮探索に行く。


浮遊都市のダンジョンには地上部分がある。地上部分は襲ってくるような凶暴なモンスターはいない。だがちゃんとした装備をした探索者は狩りもしない。ここのモンスターは倒しても素材化しない。浮遊都市を支えるお肉生産のための放牧場みたいなものだ。


そして大きな木が地上にのび、木の根が浮き出ている。木の根の中心にはキラキラと光る緑の宝石が、そしてその宝石から緑色の液体がまるで重力が上下逆にあるように大きな木の幹に向かって飛んてゆく。


「ここは何度来ても綺麗だともうわ。科学なんて関係ないかのようなこの光景を見て、私は論文を書いたのよ。その時はまだあの中心の宝石の一部をとることができて、今でもその宝石が私の宝物だわ。」

アンジェリーナは懐かしそうに思い出を語る。


「もう取れないと言いましたが、何か規制でもかけられたのですか?」

一ノ瀬はアンジェリーナに聞く。

「規制とかはないけど、そもそも取れなくなったのよ。ピッケルでもドリルでもダメ。調査用に取っていたひとかけら以外に私は個人的に欲しくて、内緒でもうひとかけら取ったから持っているけど、おそらくあの時取ったかけらは今ものすごい希少価値が高いものとして大事にされていると思うわ。」


ん?急に取れなくなった。つまり壊せなくなった。・・・そう言えば都市全体を破壊不能オブジェクトにした覚えがあるぞ。


「アンジェリーナ、その緑の宝石って何かに使えるの?」

俺はちょっと気になって聞いた。

「何かにって、あの宝石はポーション生成に必要な触媒だと思うわ。あの宝石の上に世界樹から水が滝のように流れているの。この浮遊都市の水はおそらくあそこが原水ね。その水にこの宝石を落とすと、ホーションの原料らしき水に変えるための重要アイテムよ。。ポーションは魔石に触れた状態にするとエリクサみたいに消えなくなるのよ。ただし、魔石は溶けないけど。魔石の量と質によって保持できるポーション量が変わるけど、そのおかげでポーションの成分を分析できたのよ。


ポーションの水は普通の水だけど普通の状態ではないことが分かったわ。熱とは違うエネルギーがあって、ポーションの水はそのエネルギー分子が瞬間的に高エネルギーになり、一瞬で気化するのよ。魔石はどうやらそのエネルギーを保持してポーションやエリクサを液体の状態に保持していたみたいなの。その謎のエネルギーだけど、科学的にはどのようにそんなエネルギーが蓄えられているのかが全く不明。だけど、ここの浮遊都市の水は少しだけ蓄えられていたのよ。


これはまだ未発表なんだけど、地上の水と浮遊都市の水を同じ温度、同じ湿度で置いた時、蒸発して水がなくなるのが早いのは浮遊都市の水なのよ。地上の水と浮遊都市の水で異なること。それはあの巨大な宝石に触れているか、触れてないか。


私は自分が持っている宝石を普通の蒸留水に浸してみたわ。結果は何も起こらなかった。しかし、私はこれはエネルギー源が無いからそもそも変化が起こらないと考えたわけ。熱を加えたり、電気を通したり、光を当てたり、放射線を当てたりしたけど変化なし。ここで私はこれが科学では無いことを思い出したわ。エリクサに魔石を溶かすと燃料になる。なら水に緑の宝石を入れて魔石を入れるとどうなるか。


魔石は溶けて宝石は光、水にエネルギーを蓄えさせることに成功したのよ。だけどポーションではなかったわ。回復はしなかったから。つまり、この緑の宝石はポーションを作るための触媒の一つということよ。


って、みんな大丈夫?何を言っているかわからないって顔しているけど?」


アンジェリーナの研究がすごいということは分かったギルメンだった。


アンジェリーナが話しているうちに地下ダンジョン入り口の世界樹の根本についた。あまりにも大きなこの木の根っこの隙間がダンジョン入り口なのだ。この入り口は木の大きさもあり、無数に存在する。根っこ一つ超えるだけでダンジョン内が全く異なるのだ。一度数えた人がいるが千を超えているのに先が見えないほどの量があることを知って諦めたそうだ。


入り口でこの状態なので、ダンジョンマップなんてものはなく、自力で探索しないとダメなのだ。


なお、ギルドやパーティが探索の目印を入口の壁に貼っている場合がある。ここではその目印はなるべく剥がさないのがマナーらしい。


「地下ダンジョンに入る前に、個人カードで保険をかける様のを忘れないようにね。大阪ダンジョンと違って迷えばほぼ帰れないし、ダンジョン内で死ぬ可能性も高いから、このダンジョンでは装備や持ち物にも保険をかけれるわ。


全員ポーションや属性弾などの消耗品以外は、下着なども含めて全て保険に入れること。ここには沼なんてないから、命だけ保険にかけたら復活の時に隠すものが無くて、全裸になるわよ。保険は使用されるまで有効だから。高くても入ること。費用はギルドから出すから、その費用を報告して。私がギルマス権限でその場でギルド口座から引き出して渡すから。」

アンジェリーナの忠告で全員が自分の全ての装備に保険をかける。俺はかけなくても復活できるが、念のためだ。


装備含めて保険金金貨50枚。50万円相当。


払うのは俺。受け取るのも俺。それをギルド経費にする。なんか申し訳ないな。


全員分の保険金を払うアンジェリーナ。

どれだけギルドお金持ってるんだろう。


「アンジェリーナ、今ギルドの貯金ってどれくらいあるんだ?」

アンジェリーナが講座を確認する。

「今、ざっと金貨三千枚くらいね。」


ちょっと待て、その金額はおかしい。

「どうしてそんなにお金があるんだ。」

「そんなの決まってるじゃない。情報を最果て鍛冶ギルドに売ったからよ。最果て弾の情報はいい値段で売れたわ。情報を制するものはお金を制するってね。元々は私の研究だから、研究に協力したギルドと私とで折半したわ。最近ギルドと自分の研究の費用の計算が面倒だから、もういっそのこと研究費もギルド持ち、研究で得た情報の売り上げも全部ギルドにつけようか迷ってるのよね。」

どれだけ稼いでるんだよアンジェリーナ。


「それ...ほとんどアンジェリーナさんが稼いでいるんじゃ...。」

ゆりちゃんが唖然とした顔で言う。


「確かに私が論文とか書いているから、そんなふうに感じるかもしれないけど、毒ポーションを異常状態回復ポーションで防げることをさくらが見つけたところから最果て弾は生まれたし、ポーションが余るほどあるからポーションの研究ができるわけだし、ダンジョンにみんなと潜ってるから新しいことを思いついたりすることが多いから、一概にそうとは言えないわ。だからいいのよ、何か返したいのなら私と一緒に冒険して。」

欲に忠実なアンジェリーナだな。


「お、お金の話は置いといて。いや、大事だとは思うけど。今は冒険がしたい!!」

こちらも欲に忠実な妹。


俺たちは浮遊都市の迷宮は入る入り口で雰囲気が全く違うらしい。今いる通路はゴーレムが出てきそうな石の壁の通路だ。


先頭を行くのは真斗と森だ。

神山はウンディーネになり空中を浮遊しながらついてくる。

俺と妹とアンジェリーナ、鈴と一ノ瀬で並んで歩く。


「何にもねーな。本当にモンスターとか出るのかってくらい静かだな。」

森は無警戒に進む。


「確かにな、少し地面に水の流れがあるのが気になるな。」

真斗に言われるまで気づかなかったが、地面のが濡れていて石の隙見に水が流れている。


「ダンジョン上部ではさっきも言ったと思うけど、水が流れてるのよ。そこの水がダンジョン内部に流れていても不思議ではないわ。」

アンジェリーナは落ち着いて言う。


「さっきから気になる音があって、水を伝ってくる音なんだけど、ゴーって滝のような音がたまにするのよ。」

さすがウンディーネの神山。水関係には強い。


「それが本当ならここは水路かもしれませんね。」

一ノ瀬が石の壁を見ながら言う。


真斗が急にパンと一回手を叩く。


真斗の急なおかしな行動にみんなの顔に疑問符が浮かぶ。

「これでもドラゴンだからな、耳がいいんだよ。この先、広い空間があるみたいだ。反響音がないくらい大きな。あと神山の言う通り、その反響音がなくなったところでたまに水の音がする。俺たち多分ハズレの入り口を引いたみたいだ。一ノ瀬の言う通りここは水路。それも一気に大量の水が後ろからくるタイプだろう。後ろから風が来たら壁にしがみつくか、通路の凹みとかを探して隠れた方がいいかもしれない。」


俺はちょっとずるいと思ったが、スキルでマップを確認した。

この通路の先は大きな丸い水道管みたいなところに繋がっているみたいだ。そしてこの通路、仕掛けで隠れているがいろんな箇所に凹みがある。きっと水がきたときの避難用の凹みだろう。仕掛けで壁の凹みを出しておかないと全員流されて大きな水道管に押し出され、50mくらい落ちることになる。


どうやら今回の入り口。落ちてから上に上がるダンジョンと受けから下に行くダンジョンで大きく通路が分かれるタイプのようだ。


さてこれを伝えるべきか伝えないべきか。ここを落ちないで抜けてもすぐにフロアがあって、落ちて大きな池に落ちても、水を上がったところにフロアがある。


今回水系を操るスキルが2人もいるから、落ちてみるのもいいかもしれない。


俺は呑気にそんなことを考えて何もしなかった。そしてそれを30秒後には後悔した。


うしろかから水の音とともに風がやってくる。湿った風。


「やばい、全員壁に貼り付け。水が来るぞ。」

真斗の言葉に全員が壁に張り付く。

勢いよく押し寄せる大量の水。


「やぁー!!」

ウンディーネの神山が大量の水を抑え込む。

「なにこれ、思った以上に量が多い。」


みんながほっとするのもつかの間。


「無理、これ耐えられない。みんなしっかり手をつないで。せめてはぐれないように。私もう限界...」

神山は力尽きて、水が再び押し寄せる。


俺たち10人はまとめて水に押し流されて、そのまま水に包まれながら大きな穴の中に落ちていった。


怪我はなかったが、めっちゃ怖かった...。


水から顔を出す。

「大丈夫?」

上から空中に浮かぶ神山が叫ぶ。


そして赤いドラゴンがゆっくりと着水した。

「おい、みんな俺の背中に乗れ。」

みんなが乗りやすいように体を沈める真斗ドラゴン。


9人が真斗ドラゴンの背中に乗る。

「寒い、凍えそうよ。」

極寒というほどではないが、急に水に入ると寒い。


「私たちあそこから落ちてきたのかしら。」

鈴が見上げた先にはまだ水が少しずつ流れ落ちている通路だ。

「大体50mくらいあるわね。無傷で全員生還ってなかなかの奇跡ね。これくらいの高さなら自殺できるわよ。」

ギョッと驚く俺たち。


「きっと、装備が俺たちを守ったんだよ。」

半笑いで言う森。


「いえ、多分水に包まれたまま落ちたのがよかったのだと思うわ。本来コンクリートに落ちたくらいの衝撃が伝わるところを水の流れで緩和されたのね。落ちた時かなり白く濁っていたから、水に空気が入って水面が柔らかくなっていたのもプラスに働いたみたい。よくできているわダンジョンって。これだから探索はやめられない。」

寒いと言いつつもワクワクが止まらないアンジェリーナだった。


真斗が全員を乗せて水面を進む。


「真斗、なぜ飛ばないんだ?冷たくないが水の中。」

「これくらい平気。それに俺が飛んだら風が背中に行くから寒いぞ。」

真斗は配慮して飛ばずに水を進むことを選んだらしい。


「今回ばかりは真斗に感謝です。正直今は寒くて動けません。」

寒さで震えている志帆。


「本当は濡れている服を脱いだ方がいいのかもしれないけど、男女混合パーティの弱点ね。」

アンジェリーナも寒そうだ。


妹は完全に震えて固まっている。


平気そうなのは服が濡れない神山。服がすぐに乾いた鈴の2人だけだ。


「もうすぐ陸地だ。陸地にモンスターが集まっているみたいだから、みんなはおりたら少し待っていて。」


俺たちは真斗に言われた通り、真斗ドラゴンの背中を降りるとそのまで待つ。


目の前には樹木の魔物が10体ほどいた。

「あれはコーヒーデビルウッドね。その名の通り燃やすとコーヒーの香りがするのよ。」


真斗は火流弾を吐き、一瞬でコーヒーデビルウッドを倒し、その残骸をかき集めて焚き火にする。


「みんな、いい感じに焚き火になったから、ここで暖を取ろう。」

真斗はみんなを呼んだ。


コーヒーデビルウッドは見事な大きな薪に早変わりしていた。たまに「キー」とコーヒーデビルウッドが鳴くが、ドラゴンの炎で瀕死になり動けないみたいだ。


「少し鳴き声が気持ち悪いですが、暖かいです。」

志帆は震えが止まっているみたいだ。


俺もさっきまで寒かったが、大きな火で暖まっているせいか、体が温まるのも早い気がする。


焚き火の遠くに樹木系のモンスターがいるが、この巨大な火と燃えているコーヒーデビルウッドを見て逃げ出す。


「みんなちょっと疲れているわね。ちょっとここで休憩しましょう。」

神山は森の荷物を漁って、鍋を取り出してお湯を沸かし、インスタントのコーンポタージュを作った。


寒いダンジョンの中で飲むコーンポタージュはとても美味しかった。

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