第17話 事件3

<大阪ダンジョン 噴水の間>

俺はアンジェリーナ達と別行動で先に噴水の間のトロッコ駅が見える場所に待機していた。


トロッコが噴水の間に到着した。

一斉に探査者がトロッコを出る。


続々と出る客に混じってダンジョン部の連中はいた。

どうやら一ノ瀬はうまく抜けて一緒にはいないようだ。


パーティーはまとまっているメンバー数からおそらく15人パーティーだろう。


ダンジョン部パーティーのうちの一人がベテランそうな探索者に聞き込みをしていた。

「すいません、噴水の間14番通路ってどこですか?」

どうやら通路番号を知らないらしい。


「ああ、通路付近に木の看板があるだろう?それが通路の番号だ。14番は・・・あっちだ。」

そういってベテラン探索者は一つの通路を指さす。

「ありがとうございます!」

「悪いことは言わないから、あそこの通路に入るのはやめておいた方がいい。罠があってミノタウロスが沢山でるんだ。よほど自信があるなら別だけど。」

ベテラン探索者はパーティーの装備を見て忠告する。

「大丈夫です。秘密兵器がありますから。」

「それならいいが、まあ一応忠告したからな。」

そういってベテラン探索者は自身のパーティーの方へ走っていった。


「先輩、場所聞いてきました。やっぱりこの情報は正しいですよ。ミノタウロスが沢山いるから気を付けろって言われました。あと罠があるって。」

それを聞いた3年生らしき人はにやりとした。


「あいつらバカね。」

真斗と志帆、アンジェリーナ、妹、ゆりちゃんが追い付いたようだ。アンジェリーナが急に後ろから話しかけてきたのでびっくりした。


ダンジョン部に演技で中級ポーションを使うところを見せつけたあと、トロッコの屋根に転移して駅に着く前に転移で降りてやってきたアンジェリーナ達。


「作戦は?」

「きっと成功してるわよ。目つきが悪いダンジョン部の人が私たちのことガン見していたもの。きっと今頃ウハウハの気分で罠に向かってるわ。一ノ瀬が大阪ダンジョンの護符を全員がつけている言っていたからたとえ何かあってもだれも死なないわ。今のところ作戦は順調よ。」

アンジェリーナは笑顔で親指を立てたこぶしを俺に見せる。


「こんなにもうまく行くとは思いませんでした。あいつらバカなんでしょうか?」

「盗んだ情報を鵜吞みして、それに踊らされる方が悪い。そもそも盗まなければこうはならなかったはずだ。」

志帆と真斗は嬉しそうだ。

盗まれてそれを逆に利用して仕返しできるのだ。

「それもこれも一ノ瀬のおかげだな。たぶんあいつがいなかったらそのまま未解決だったな。」

「そうですね。ノートも帰ってきたし、今頃ダンジョン部の部室では残った1年生が慌てていることですよ。一ノ瀬さんが会話を録音したSDを放送室からダンジョン部室に流しているころでしょうから。」


「あ、いま14番通路に入っていきました。」

ゆりちゃんが指をさしながら言った。


ダンジョン部のメンバーが誰も近づかない14番通路に入っていく。そしてしばらくしてゴーンと奥の方で何かが閉まる音がする。


「どうやら罠にかかったようですね、効きもしない偽物のポーションをもって。ミノタウロスにアンデット属性なんて。そんなことを書いてあるノートを信じって。頭の悪さに同情しそうです。」

珍しく嫌味を言う志帆。顔はスッキリとしていた。


きっと今頃ダンジョン部メンバーは聞きもしないポーションを10体のミノタウロスに必死に投げているころだろう。危険フロア、このあたりで有名な危険な場所だ。俺達でも油断すると一人くらいはデスカプセルになってしまうかもしれないレベルだ。


急に出口が塞がれて逃げ場がない中ミノタウロスを倒すフロアで、上級者にとってはちょっとした経験値稼ぎで美味しい罠フロアだ。このフロアまで自分の力で来れるパーティーなら問題なく倒し切るだろうが、トロッコでやってくる初心パーティーが抜けれる罠ではない。きっと恐怖の瞬間を味わって、そろえた新しい装備すべてを失い、裸で沼から出てくることだろう。


今回アンジェリーナが考えた作戦


まず一ノ瀬がノートを取り返し、コピーと偽った犯行の証拠を書いた紙と脅し文を作る。教科書からとった指紋、やめた1年生の証言、証拠はいくらでもあった。

作戦用に作った志帆が書いたノートのコピー、ノートと同じ筆跡で書かれているのだ。きっととんでもないことを書いてあったとしても信じるだろうと思っていた。


そしてアンジェリーナの失敗作の・・・ではなく、青色がついた水を用意する。


当日、一ノ瀬にはICレコーダーをもってダンジョン部に偽物ポーションと証拠コビーをもっていく。そして証拠コビーはそう簡単に確認できないところに置いてもらう。


ポーションのうち1つは本物で、あたかもすべてが本物のポーションであるかのように思い込ませる。

そして志帆のニセ情報を見せてダンジョンに行きたくなるように仕向ける。ここで想定外だったのは1年生を連れて行かなかったことだ。しかし、仕返しの相手は3年生だったので問題はなかった。


ノートを信じてダンジョン部パーティーは14番のゴキブリホイホイに引っかかって全滅。


後は主犯の3年生の大量の証拠を先生に報告。ほかのメンバーは共犯だとわかる録音がとれていればそれを放送室からダンジョン部だけに繰り返し放送。

ダンジョン部の主要メンバーの装備一式すべて全ロストで活動が不可能になり経済的に廃部となる。


放送では共犯のダンジョン部全員の名前を一人ひとり読み上げる予定なので、ダンジョン部室だけ流すとはいえ、共犯の会話内容と個人名が同時に言われるトラウマものの放送になっていることだろう。


作戦が終わり、俺たちはEカフェで一ノ瀬がやってくるのを待つことにした。


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<噴水の間 第14番通路奥 ミノタウルスの巣>

細い通路だった。2人が横に並んで歩けるくらいの広さの通路だ。


戦闘をするならもう少し広い空間がいい。新しい武器を振り回すにはここは狭すぎた。


俺がそう願ったからか、急に広い空間になった。広いドーム状の場所。さっきの噴水の間ほどではないが、これから戦闘するには十分な広さだ。


「ここがノートにあったアンデット属性のミノタウルスが現れるところか。みんな、ポーションを絶対無駄使いするなよ。それが俺たちダンジョン部の切り札だからな。」


後ろで気合を入れる部員達がいるがどうでもいい。


俺は超音波スキルで周囲の状況を確かめる。天井に大きな穴がいくつかある。そして奥には宝箱だ。


「おい、天井に穴があるぞ。そこからミノタウルスが落ちてくるかもしれん。その前に属性弾を打ち込め。アンデット属性があるんだ。きっと聖属性弾打ち込めばよく効くぜ。」

俺は穴の場所を指を刺して教える。そして俺は宝箱に向かう。


全員が部屋に入り、大量のポーションが入ったリュックを置いて戦闘態勢に入ろうとした時。急に入り口がドンとドーム内に大きく響く音と共に壁になった。


俺は鳥肌が立った。もしかしたらやばいかもしれない。喧嘩して顔面にパンチが入る前に感じる悪寒と同じものを感じた。


いきなり現れた壁に慌てて壁を叩く部員。

叫び声、これからの運命を話し出す奴。


「おい、罠があると書いてあっただろう。それくらいで狼狽えるな。これから一体でも多くミノタウルスを倒すぞ。」

俺言葉に冷静さを取り戻す奴もいれば、足がガタガタに震えている奴もいる。


「おい、そこの2年。銃で穴を狙え。」

一番震えていたガンナーを指名し撃たせる。震えている奴ほど思い切りの良い行動をする。


2年生ガンナーは震える手で穴に銃口を向ける。


「さっさと撃て!!」

ブルブルと震えて全く動かないから俺は命令した。


ドンとダンジョン用銃の独特の鈍い発射音が鳴り、奥の方でモンスターの声がする。


「ほらみろ、これなら出てくる前のミノタウルスにダメージを与えられるぞ。」


全員がやる気になる。


2年ガンナーが「よし、俺もやるぞ」と言ってもう一度銃口を向けようとした時、そのガンナーは消えた。

突然降ってきたミノタウルス踏み潰されてトマトみたいにグシャリとなり血溜まりとなる。

血溜まりが光り、直径10センチくらいの球になった。


俺は青ざめた。一瞬で死の恐怖が身体中を駆け巡った。


次々と穴から落ちてくるミノタウルス。


さっきの2年生は幸せだろう。死の恐怖を味わうことなく逝った。

護符を付けていたら死んでも死なない。

そうだ、死ぬことはない。だが実際目の前で血の水溜りのようになった人間を見たら、そうは考えられなくなった。


「狼狽えるな。剣を抜け。撃て。ポーションを用意しろ。」

口は勝手に行動する。俺だって震えている。狼狽えるな?そんなの無理だ。


一斉に咆哮を上げるミノタウルス。


「うぉぉぉーーー。」

声を上げる部員1人が大きな剣を構えて突撃した。

剣はミノタウルスの脇腹に少し刺さる。


一太刀浴びせ嬉しそうな顔をするが、刺さった剣が動かない事に気付いて慌てているみたいだ。


ミノタウルスがニヤリとする。


「おい、逃げろ!!」

俺は思わず叫んだ。


え?という顔をしたそいつ。そしてミノタウルスに片手でつまんで投げられる。

壁に鈍い音と共に全身を打ちつけ地面に落ちる。そしてミノタウルスは自分に刺さった剣を投げる。


「やめろ!!」

俺は叫んだがミノタウルスには通じない。

剣は投げられ、壁で気絶するそいつの腹に突き刺さる。そいつは口から大量の血を吐き出して10センチの球体になった。


ダンジョン部全員でポーションをミノタウルスに投げつける。何の変化もないミノタウルス。


最後のポーションを投げた時にはもう全員の顔は血が全く通ってないと思えるくらいに白くなっていた。


ここにいるメンバーに戦闘系のスキルを持ったやつはいない。そんなやつはすでに外部のクランの所属なりダンジョン部を出ていった。唯一俺が探査系でギリギリ戦闘に使えるかどうかだ。


必死に逃げるダンジョン部メンバー。


人間逃げるためなら何でもする。武器を投げるなんて当たり前。


人をわざと転けさせて自分を守る。死の恐怖というのは人間を本能の動物にする。


次々と球体になるダンジョン部メンバー。ついには球体を持ってミノタウルスに投げる奴も出た。だが当たってもノーダメージだった。


俺は必死だった。

気がついたら俺だけが生き残っていた。


だがミノタウルスは攻撃をやめない。むしろ俺で遊ぶかのようにつまみ上げ。ミノタウルスに投げられ、別のミノタウルスがそれをキャッチし、投げる。それを3回されたあと、俺はミノタウルスにパチンと蚊を潰すように殺された。


気がつくと俺は溺れかかっていた。

慌てて立つと、そこは緑色のドロドロの液体で満たされた沼だった。


ダンジョン部メンバー全員が緑色のペンキ塗れだった。

「いやー、災難だったねー。ところでその手元にある大銀貨で服買わないかい?」

いつの間にか手には5枚の大銀貨を握っていた。


災難?そんな甘い物ではない。恐怖だ。喧嘩し始めた最初の頃味わった何をされるかわからない恐怖。それを心の奥に刻まれた。


「お兄さん達高校生だろ?何があったのかは知らないけど、素っ裸でうろつくのはよくないよ。大銀貨5枚でシャワーも貸すから服はどう?」


よく見ると全員が裸でペンキをかぶった状態だった。

俺たちは恐怖でまだ足が震える中、服屋でシャワーを浴びて、とてつもなく安そうな服を買った。



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<Eカフェ>

俺たちの待つテーブルに一ノ瀬が入ってきた。

メンバーはギルド全員に森、神山、鈴がいた。


この作戦を聞いた時、神山は「やりすぎでは?」と言ったが、アンジェリーナが、「自分でノートを作ればそのノートを作る苦労と愛着がわかるわ」と言ったのを俺はふと思い出した。一ノ瀬はすこし嫌がったが、「皆さんがそれで気が収まるなら」と作戦に協力してくれた。


「お待たせしました。」

そう言って俺たちのまつテーブルにやってきた一ノ瀬。


「私の作戦、成功した?」

アンジェリーナはとりあえず結果が気になるらしい。一ノ瀬に真っ先に聞く。


「はい、全部成功しました。主犯の3年生の先輩は1年生の時も2年生の時も問題を起こしているらしく、おそらく退学になるだろうって先生が言っていました。1年生は結構なパニックのようでちょっとかわいそうなくらいでした。沼から出てきた2年生と3年生はさすがに家に帰るでしょうから、明日そのことを知るでしょうね。玉城さんだけはノートの名前があったので、もしかしたら明日ダンジョン部のメンバーが来るかもしれません。」


「それはいいですね、しっかりと謝ってもらいましょう。人の情報を勝手に使った罰です。1年生の盗人として有名になってもらいましょう。」

志帆はにやりとした。


黒志帆という言葉が俺の頭に浮かんだ。


「これで、ダンジョン部は活動不可能。証拠を握っているし、これで事件解決だね。」

妹が事件の解決策を宣言した。


「ところで一ノ瀬さんはこれからダンジョン探索はどうするんですか?」

妹が一ノ瀬に聞く。

「えーと、これからは鈴と二人でダンジョン探索する予定です。鈴は初心者なので探索スタイルができるまで時間がかかりますが、ダンジョン探索してみたいといっていたのでちょどいい機会かと。」

「なら、森さんと、神山さんも一緒にダンジョン探索すればいいともいます。」

急な妹の提案に慌てる森と神山。


「ちょっと、あの二人は付き合ってるから。俺は邪魔したくないそ。」

森は反対のようだ。

「え、私は鈴と一ノ瀬がいいなら一緒にダンジョン探索行きたいわ。森は来なくていいわよ。」

神山はついていく気満々のようだ。

「邪魔ではないですよ。ダンジョン探索は人数が多いほど安全ですから。私たち付きあって3年近いですから。な?鈴もパーティーメンバーが多いほうがいいだろう?」

一ノ瀬に「うん。」と答える鈴。


「なら、森さんと神山さんと鈴さんと一ノ瀬さんで新パーティー結成ですね。」

妹があっと言う間にパーティーを結成させてしまった。


「結成ついでに私たちのギルドの第二パーティーとして活動しませんか?」

「「おい、ちょっと待て。さすがにそれは相談してから言え。」」

俺と真斗は妹の提案に突っ込みを入れた。


「え?だめ?絶対そのほうが面白いし、ギルドメンバーが増えていいと思うけど?」

妹の調子にギルドメンバー全員が追い付けていない。


「さくら、私は構わんがあの儀式をまたしないといけないぞ。」

アンジェリーナは賛成らしい。


「あー、目隠しのあれですか。ちょっと不安でしたけど意外と面白かったですよ。」

ゆりちゃんも賛成らしい。


「私はあとから入ったメンバーですから決定権はありませんが、森さんも神山さんも鈴さんも一ノ瀬さんもいい人っぽいので私はいいと思います。」

志帆も賛成。


「ああ、もう俺も別に知らないやつではないし。ただ気持ち悪いからもう事件も解決したし、一ノ瀬。普通に話せ。それなら俺は別にいいぞ。」

真斗も賛成。


「すきにしろ。ただ今度からせめてギルマスのアンジェリーナには相談しろよ。」

俺は妹にそう言った。


「全員賛成。それで4人はどうする?私たちのギルドにはいらない?」

妹、すでに敬語がとれている。仲間に誘う妹は楽しそうだった。

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