第12話 放課後

ダンジョン装備を整えて集まったギルド最果てパーティ。


「今日も張り切ってダンジョンへ行こう。」

元気な妹。

俺とアンジェリーナはちょっと疲れ気味だ。


ダンジョン入り口には小さな列車が止まっている。

ちょっとレトロ風だが車両自体はとても綺麗だ。

行先幕には 蛇の廊下


「ダンジョントロッコ、蛇の廊下行き。発車します。」

カンカンと鐘を鳴らしながらトロッコがダンジョン入り口に入って行く。


昨日開通したばかりのダンジョントロッコだ。

行先は3つ 蛇の廊下 噴水の間 虹の鍾乳洞 だ。

大阪ダンジョン商店街出資と大手私鉄の共同出資で、トロッコは商店街を通り、最寄りの私鉄の駅まで延伸する予定だ。ダンジョン内はトロッコの線路が剥き出しで引かれているので徒歩で移動する際は注意が必要だ。


「2番線のトロッコは噴水の間行きです。ご乗車に際は切符が必要です。料金は往復一律大銀貨1枚、または1000円です。ホーム入り口で帰りの切符と交換します。お釣りがないようお願いします。」


トロッコの線路はダンジョン入り口から伸び、大きくカーブしながら商店街の道路を渡り、向かいのお店を超えて元廃工場の空き地を利用して駅が作られていた。

島式ホームで線路が2つ。止まってる列車は普段通勤で乗りようなものではなく、3人がけのプラスチックの椅子が向かい合わせ、1ボックス6人。観覧車のゴンドラの椅子が並べられたような配置になっている客車。前後に機関車がついている。


島式ホームの反対にもホームがあるが、そちらは降車専用だ。


「まもなく、1番線に虹の鍾乳洞行きのトロッコが入ります。ご乗車の際は5人、6人パーティ優先ご乗車にご協力ください。ご乗車後はパーティごとに手を繋いでお待ち下さい。2番線は1番線到着後すぐの発車です。」


パーティ登録はダンジョンに入る時、手を繋いで入った者。その仕様は相変わらずだ。


「今日のダンジョンは虹の鍾乳洞だな。」

真斗がそう言って入ってきたトロッコのボックス席に向かう。


そのあとに、妹、アンジェリーナ、俺、ゆいちゃん、志帆が続く。


ボックス席は広くはない。全員が座ると志帆がトロッコのスライドドアを閉じる。ドアと言っても、窓などはなく、風も景色も遮るものはない。


しばらくすると、トロッコが鐘を鳴らし、蒸気機関車ような音を立てながら出発した。


「トロッコって便利ですよね。狭いですけど3時間歩かないいけないところを座ってるだけで30分くらいで行けるんですから。」

ゆりちゃんがいつも通りのぽあぽあを出しながらいう。


「そうですね。以前なら目的地だった場所が出発地になるのは大気と思います。この帰りの切符は要りませんが。」

志帆はホームに入るときに受け取った帰るのチケットを見ながらいう。


「それはフロアボスを倒せるパーティは、だろ。気軽にトロッコで潜れるようになったから、ちょっと無理して経験値稼ぎに行くって人増えたらしいからな。」

昨日開通したばかりのトロッコだが、初日は普段浅い層でレベル上げしていた戦闘職以外の人が大半を占めたそうだ。


今日も軽装で向かうレベ上げ勢が多くトロッコに乗っている。


たまに前方でゴンと音と共にモンスターの悲鳴が上がる。トロッコは途中のモンスターは全て体当たりで倒すか線路外に飛ばす。1日目は探索者も引いたらしいが、鐘を鳴らしているのに気づかず引かれる方が悪いという風潮になった。ダンジョン内でトロッコに引かれて死んでも復活するので咎める人はいない。


むしろ、トロッコの運行間隔が多いので、モンスターを線路上に誘導して倒すのが今のやり方らしい。


それもあって、歩行者もいるが結構なスピードでトロッコはダンジョン内を駆け抜ける。おそらく60キロは出ているだろう。


「トロッコ、うるせ〜よ。大声あげないと話せない。」

真斗が叫ぶ


「インカム使うと意外と話せますよ。マシという程度ですが。」

志帆が無線インカムで話す。


「なるほど、これなら大きな声を上げる必要はありませんね。」

ゆりちゃんはのほほんとしながら言った。


「今日はどうする予定なんだ?虹の鍾乳洞のフロアボス倒して奥に行く?」

「いえ、虹の鍾乳洞のボスはきっとボス待ちが多いので、少し引き返して毒の沼地に向かいましょう。どうせ異常状態回復ポーションを使うになら、有効に使っていきたいです。」

俺の質問に志帆が答える。


「普通のパーティなら、1人金貨10枚も経費をかけたら赤字ですが、このパーティなら十分な火力がありますし、今回から全員がポーションバック装備ですので、継続戦闘能力も確認したいところです。松ちゃんがレベル上がったので経費が安くなりましたし。」

志帆の言っている通り、この1週間でこれのレベルが2になった。普通はこれだけ潜ると4レベルにはなってるそうだが、俺はレベルが上がるのが遅い。

そして、レベルが上がったことでポーションの購入1本の価格で2本買えるようになったのだ。


トロッコを降りると虹の鍾乳洞には沢山の探索者がいた。多いのは軽装な探索者にベテランがついてるパーティだ。パーティ内では経験値は一律均等なので、経験がある探索者を戦闘できない生産職が雇ってレベル上げしているのだ。


探索者の護衛は結構高い。6時間探索で金貨10枚は最低金額だ。


それでもベテランにとってはボランティアで雇われているもので、しっかり連携が取れるパーティならば、日帰りで1人金貨15枚ほど稼ぐ。日本円で15万円ほどだ。


多く感じるかもしれないが、無理することが多いのでポーションをよく使うし、装備もダンジョンの深部になると良いものが必要になる。連続で潜ると疲労が大きいので休みも多くなるし、体力仕事な上に考える力も日利用なので、案外分相応なのだ。


雇うのは高い。だが、効率的なレベル上げはしたい。そういう人はどうするかというと...。


「ねぇ、後ろから1パーティついてくるよ。どうする?」

このようについてくるのだ。


妹は後ろからついてくる人を気にするが、


「大丈夫よ。この先毒の沼地よ。流石にあそこに来たら誰もついてこないわ。ついてくるなら、それはそれで経験豊富なパーティだから連携が取れそうでいいわ。」

アンジェリーナは流れに身を任せる派のようだ。


「確かに、この先の毒の沼地に足を踏み入れる人は限られるしな。俺はそれよりも後ろのコバンザメパーティが毒の沼地を知っているかという方が心配だ。」

真斗はお人好し。


「毒の沼地に入ると明らかに危なそうなガスが出てるから、すぐに気付くでしょ。一応毒霧に入る前に見せるように白ポーション飲もう。それで毒霧で死んだら自己責任だよ。」

妹は一応警告はするらしい。


「それでいいと思います。私たちから話しかけて、守るように言われるのも面倒です。」

ゆりちゃんは意外にも厳しい意見だった。


「OK、なら毒霧の前で堂々と白ポーション飲んで入るということで。」

俺の確認に全員が賛成した。


白ポーションは異常状況回復ポーションの事だ。液体が白いので白ポーションと呼ばれている。


トロッコの線路脇を5分ほど戻り、分かれ道に入る。分かれ道すぐに単体でゴブリンがいたが、真斗が一撃で仕留める。首はゆうちゃんが素早く跳ね飛ばし、妹と志帆とアンジェリーナが歩きながらダンジョン通貨と素材を回収。


後ろのパーティは戦闘後取り残した素材がないが探していたが、俺がしっかりと確認したため取り残しはない。


さらに奥に進むと茶色の毒煙が見え始めた。


「全員止まれ、この先毒霧だ。白ポーションを出せ。飲んだら出発するぞ。」

わざと後ろのパーティに聞こえるように大きな声でいう真斗。


全員で見えるように白ポーションを出し、飲み干す。


「よし、出発するぞ。」

真斗の掛け声で毒霧に入っていく俺たち。


「これで何の対策もせずに入ってきたら、バカよ」アンジェリーナがボソリと呟いた。


「さすがについてきていないようですね。」

志帆は後方を確認していった。


霧と言っても周囲が見えなくなるような霧ではない。ライブどかいくと会場が少し曇っているように感じることがあるが、それよりも少し濃いくらいだ。


毒の沼地、名前の由来である沼。それは毒霧に入って5分くらい歩いた所にあった。ボコボコと気泡が常に湧き出し、そこには大きなワニが顔を出している。


「あのワニ大きわね。沼に近づけば引きずり込まれるわよ。」

アンジェリーナが先頭を歩く真斗に警告する。


「まじかよ。沼に入らなければいいと思ってた。」

真斗が慌てて沼から離れる。


「反対側も気をつけてください。崖ですよ。」

志帆が崖に近づく真斗に注意する。


「この崖から下に降りたら、下の階層に早く着きそうね。」

呑気な妹。


「そんなの無理に決まってる。無謀なことを言うな。」

妹に俺は言った。


「案外いいアイディアかもしれないわ。毒沼に長時間耐えられるロープが有ればの話だが。」

アンジェリーナは本気でここから下層に降りる手段を考えている。


「ちょっと皆さん、戻りましょう。後ろのワニが道を塞いでます。このフロア、もしかしてワニを地上に誘導しながら進まないと挟み撃ちされるフロアなのでは?」

ゆりちゃんが不安そうに言う。


「それ、もう少し早く行って欲しかったぜ。前側もワニが出てきた。」

真斗が大剣を構えながら言う。


「リュックは背負ったままで戦闘します。沼の反対側は崖です。落ちたらアイテムと装備をすべて失うのでそこだけは落ちないようにしてください。真斗、ゆりさん、さくらさんが前方、松ちゃんとアンジェリーナさんは基本後方で状況に応じて前方に出てください。後方補助、戦闘指示は私が担当します。パーティ前方3体ABC、側面2体DE 後方2体FG。先頭開始です。」

志帆は素早く状況を整理し、指示を出す。


「側面DE優先。ゆりさんと真斗さんお願いします。」

「「了解」」


真斗は大きく大剣を振り上げ、ワニの頭を狙う。ワニは素早い動きで大剣を避けて真斗に襲いかかる。真斗は地面に突き立てた大剣を支えにジャンプして避け、ワニの首に跨った。


もう一体のワニがそれを見て真斗に襲いかかるが、俺の毒ポーションフルオートがそれを牽制防ぐ。


ゆりちゃんは真斗がまたがるワニの首を居合斬りで落とす。

ワニは素材になる。

「ワニD撃破。」


前方では

ワニに冷却の刀で妹が牽制する。そして隙を見て志帆が属性弾で攻撃する。


後方ではアンジェリーナがナイフでワニの手足を転移で突き刺し、床が血だらけになっていた。そしてワニが口を開けると口の中に爆発物と毒ポーションを転移させる。爆弾とポーションを食べたワニは体内で爆発した爆弾で動かなくなる。


「ワニG撃破。」


俺はマガジンを中級毒ポーションに切り替える。そのまま、前方のワニCに向かってフルバーストで打ち込む。

ワニは大きな悲鳴を上げて動かなくなる。

「ワニC撃破」


ワニが一体いなくなったので妹が動く。ワニに向かって突撃し、ワニ鼻先を思いっきり蹴る。ワニが首を振り、妹を牽制するがそのくびの付け根の白い部分に妹は刃を突き立てた。そして悲鳴もなく凍るワニ。わずかに口が開いているのがリアルだ。

「ワニB撃破」


俺の牽制がなくなったが最大火力のゆりちゃんは健在だ。俺のフルバーストで沼に逃げようとするワニの尻尾に真斗が大剣を突き刺す。大きな鳴き声を上げて進めなくなったワニに、ゆりちゃんがとどめの一撃とばかりに足の付け根あたりで胴を輪切りにする。

ワニは数歩前足だけで進んだが、すぐに動かなくなって。

「ワニE撃破」


ワニ一本を1人で倒したアンジェリーナ。2体目は警戒して口を開けない。アンジェリーナはそのままレイピアで地面とワニの口を突き刺した。動けなくなるワニに、俺が毒ポーション刀で首をはねる。ワニは素材になった。

「ワニF撃破。」


残るワニAは沼に逃げようとするが、沼に逃げるとこちらの危険性が高くなる。俺とアンジェリーナ、志帆で銃撃して絶対に沼に潜らせない。ワニは追い詰められて崖の方へ。そして真斗が突撃しに行ったところで崖に落ちていった。


「あー、素材がー。」

底の方へ消えるワニの悲鳴ともに真斗の叫びが響く。


「戦闘終了、後片付けをしましょう。」

志帆は冷静に言った。


ここから大きな戦闘はなかったが、ワニが1体、2体出てくることはあった。


3人くらいのパーティなら苦労するだろうが、6人パーティなので何事ともなく、すぐに終わる。


ただ、ゆりちゃんが一度だけ急に飛び出してワニを攻撃するために無理をして捻挫した。だがポーションがあるのですぐに治療できた。


「今回の探索は実りがいいですね。短時間で素材として良さそうなワニ皮がたくさん取れました。できればこの沼を水抜きして、ワニを一掃したいくらいです。」

志帆が少しホクホク顔だ。


「確かにこのワニ皮は使えそうだ。毒沼耐性もあるし、防刃効果も大きそうなのに、柔らかい。軽いので動きも邪魔しなさそうだ。最果て鍛治ギルドに持っていけばいい装備品ができそうね。」

アンジェリーナは素材を分析する。


「ワニ皮でホースを作って、石油ポンプみたいにサイフォンで水を抜いたらどうですか?ちょうど崖があるので捨てやすいですし。でも、下に人が歩いてたら悲劇ですね。」

ゆりちゃんは武器ではなくアイテムとしての使い方を提案した。


「ワニ皮は防毒でここの沼に浸かっても溶けないなら、ロープを作って下の階層に行くことも出来るかもしれないな。」

俺もアイディアを出したら。

「いや降りるだけなら俺がドラゴンになれば降りれる」と珍しいく真斗が突っ込む。


「俺は自分の装備に防毒加工をしたいよ。なんか鎧が少し溶けている気がする。」

真斗は装備の方が心配みたいだ。


「皆さん、まだフロアボスは倒してませんよ。そう言う話はフロアボス倒してからにしてください。」

志帆がゆるんだ気を引き締めた。


フロアボスは足が何本もあるワニだった。

全員ワニが素材にしか見えなかった。だった一体だったので、全員で一気に斬りかかる。足は全部ゆりちゃんが切り落とし、大きな口は真斗の大剣でアンジェリーナが地面に釘刺しに。真斗は火を吹き鼻先からじわじわと焦がす。そして大人しくなった時に妹が目から刀を突き刺し、思いっきり電気を流し込んだ。


素材と宝箱を残して消えるフロアボス。


俺たちは素材と宝箱中身をリュックに詰め込み、魔法陣で地上に戻った。


地上に戻った俺たちは、一度家に帰り着替えたあとダンジョン装備とお泊まり道具を持って俺の家に再集合することになった。


と言うのも。


「真斗の装備が少し毒で溶けっちゃてるわね。」

ダンジョンを出たあと本当に溶けているのかアンジェリーナが真斗の装備を確認したのだ。


「真斗の装備が溶けている以上、ほかのみんなの装備も溶けている可能性が高いわ。今日はいつもよりも早くダンジョンを出たから時間も十分にある。せっかくなのでギルドに戻って装備修理点検対策ついでに、みんなでギルドホールでパーティついでお泊まり会はどう?」

アンジェリーナのこの提案にみんな賛成したのだ。


家に戻る。

両親はまだ帰ってきていないみたいだ。


俺は書き置きで、俺と妹アンジェリーナ夕食は要らないことと、今日外泊することを書く。


妹は自分の刀をテーブル近くにおいた。


「持っていかないのか、武器は。一緒に修理出さないのか。」

俺が訊ねると妹が、

「私の刀はお父さんが見てくれるからここにおいておく。」

と言って2階に上がる。


それを見ていたアンジェリーナが

「きっと君のお父さんは喜んでその刀を点検修復するだろう。その姿が目に浮かぶわ。」

と言った。


父は妹を激愛してるからな。そうなるだろう。


1時間後、全員がアンジェリーナの部屋に靴を持って入る。


「ごめん、みんなが来るのわかってたけど、実験が止まらなくて、そのまま実験してたわ。汚いけど入って。真斗、見渡しても私のパンツは落ちてないわよ。」

アンジェリーナはそう言いながら部屋に入れる。


アンジェリーナの部屋は綺麗だがカオスだ。埃とかゴミは一切ないが、実験中の器具が所狭しと置かれ、大量のレポート用紙、本が平積みに。その全てが英語で書かれている。そして科学誌に付箋がたくさん。その関連論文だろう、そこにも付箋がされ科学雑誌に挟み込まれている。


真斗は何かを言おうとしたが、部屋の状況に言葉が出ないようだ。


「見回してもなにも出ないと言ったけど、女の子の部屋を本当に見回すのはよくないわよ。」

俺と妹はよくアンジェリーナの部屋に入るので見慣れているのでなんともないが真斗も含め、見回していたのに。真斗だけ志帆とゆりちゃん、妹に冷たい目で見られる。


ちょっと理不尽な光景のような、理不尽ではないような。不可抗力?ラッキースケベではないだろうし。


「みんな荷物を持って集まって、ギルマス室に転移するわ。」

アンジェリーナの肩や手に全員が触れる。そして触れてるのを確認して。

「行くわよ」とアンジェリーナが言った瞬間に景色が変わった。


「さてまずは最果て鍛冶ギルドに装備を持っていくのが先決ね。それをしないとみんなでここへきた意味がないわ。」

アンジェリーナはそう言いつつ、素材庫に行き、使えそうな素材を探しにいく。


「さっさと泊まりの荷物を置いて最果てギルドに行くぞ。」

真斗の掛け声でギルメン全員それぞれ自分のベットに荷物を置きに行った。


俺は荷物をおき早々ギルマス室へ戻ってきた。

「早かったわね。」

ギルド倉庫で使えそうな素材を取り出しているアンジェリーナ。


「手伝おうか?」

大量の素材アイテムを引っ張り出すアンジェリーナに聞いた。


「じゃ、お願いするわ。」

ギルド倉庫はこの1週間で持ち帰った素材が整理され、積み上げられていた。だがまだ倉庫に余裕はある


「チャン、みんながいないうちに頼みたいことがある。」

「なんだよ。」

俺はアンジェリーナに運び出すよう言われた素材を倉庫の外に出しつつ答える。


「恥ずかしいけど、明日起こしてほしい。さくらでは少し不安で。チャンも私の私室に入れるようにしておくから。今日久しぶりにお酒が飲みたいのよ。」

アンジェリーナはワインボトルを俺に見せる。アンジェリーナはイタリア人。18歳ですでにお酒を飲める歳だ。


「好きにしろ、明日も高校あるからな。アンジェリーナは起こすだけなら簡単だ。それくらいなら別にいいよ。」

「ありがとう、これで遠慮なくワインが飲めるわ。」

そう言ってアンジェリーナはワインボトルに頬擦りをした。よほど楽しみなんだろう。


ギルドメンバー全員が集まると、持っていく素材を荷台などに括る作業をし、最果て鍛冶ギルドへ出発の準備が完了した。


荷物を片手に全員がアンジェリーナに捕まる。

「行くよ」と言うアンジェリーナの掛け声とともに景色が変わった。


到着した場所は始めてきた場所だった。


「アンジェリーナ、ここはどこ?」

「ここは最果て鍛冶ギルド内、最果てパーティギルド派出所。最果て鍛冶傘下のギルドしか持つことができない事務所みたいなところよ。」

アンジェリーナは俺の質問に答えながら、部屋の電気をつける。


部屋は事務所にしては狭いが、部屋の広さ的には十分で10畳ほどの広さがあった。


最果て鍛冶ギルドと最果てパーティギルドの大きな旗が並んで壁に貼られている。


旗が貼られた壁と反対のカーテンを開けると、銀行のような受付窓口が3つあり、受付用の机には電話だけが置かれていた。


事務所内と受付には鍵のかかった扉付き仕切り。

扉の鍵を開けて、外に出ると段ボールが置か、大量の手紙が入っていた。


窓口からその様子を見ていたアンジェリーナは、

「ここ、一応公式では最果てパーティの唯一の窓口になってるから。ここに手紙とか、荷物が来るのよ。荷物は基本何かあったらと思って最果て鍛冶ギルドの方で拒否してるけど、手紙は拒否できないから、山積みなのよ。」


手紙の差出人は企業や個人、ギルド、クランと多いが、ギルドの参加や依頼、協賛やギルド統合が主な内容のようだ。


「重要なものはうちのギルドホームの住所に届くから、そこにあるのは全部破棄ね。最果て鍛冶ギルドにうちに来る手紙は全部破棄でいいって言ったんだけど、念のためって言われてその状態になってるのよ。」

ギルド管理全てを賄うアンジェリーナ、まさかここまでギルドホームだけ管理していると思っていたが、ここまでやってくれてるとは。


「ねぇ、ここ最果て鍛冶ギルドの中なのか?なぜ最果て鍛冶ギルドの中に俺たちのギルドの事務所があるんだよ。」

混乱中の真斗、ゆりちゃん、志帆。


「なにって、一応私たちのギルド、最果て鍛冶ギルド傘下のギルドだもの。」

固まる真斗、ゆりちゃん、志帆。


最果て鍛治ギルドは今一番のトレンドギルド。武器といえば最果て鍛冶屋、防具といえば最果て鍛冶屋。有名なダンジョン鍛冶職人のほぼ全員が所属。世界中の鍛治スキル持ち一千万人以上が登録する超有名ギルドだ。


有名ブランド、メーカーにも多くの商品を卸し、そう言った商品を含め、ここで作られる商品には必ず、太陽を背に金床に金槌と剣がクロスしたギルド旗と同じ紋章が刻まれている。指輪も、ピヤスも、小さなアクセサリーにも、目立つ目立たない関係なく、どこかに必ず紋章は刻まれる。


それもあってか、世界ランキング5位。所属人数としては3位、生産系ギルドでは2位と100倍以上の差をつけて圧倒的1位だ。


そのギルドの傘下なのだ。

固まってしまうのも無理はない。


「ギルド旗に最果て鍛冶ギルドの旗が入っているのは?」

「もちろん傘下のギルドだからよ。他のギルドはわからないけど、最果て鍛冶ギルド傘下のギルド旗はみんな入ってるわよ。」

志帆の質問に答えるアンジェリーナ。


「てっきりさくらさんのお父さんが最果て鍛冶ギルド所属なので、その伝があるのかと思ってました。」

ゆりちゃんの言葉に、真斗と志帆がうなづく。


「そんなわけなんじゃない。個人的依頼ならそれもありだけど、それなら直接チャンのお父さんに頼んでるわよ。」

と手を振りながらアンジェリーナはいう。


「昔私は最果て鍛冶クランという今の最果て鍛冶ギルドの前身組織に入ってたのよ。それでギルドを立ち上げる時に色々手伝ってたお礼かどうかわからないけど、このギルドのギルマスになったからと鍛冶ギルドのギルマスに挨拶に行ったら、最果て鍛冶ギルド傘下ギルドになったのよ。」

アンジェリーナの経歴を知って言葉を失う真斗、ゆりちゃん、志帆。


「さくらとお兄さんは知っていたのですか?」

ゆりちゃんの質問に

「そりゃまぁ。」と俺。

「立ち上げたの私とアンジェリーナさんだし。」と妹。


「そんなことどうでもいいよ。さっさと用事済ませてパーティしようよ。装備預けにいこうよ。」

妹、世間に興味なし。


「俺の装備、最果て鍛治屋で買ったものでないぞ。」

真斗の一言に、「「私も」」と妹、ゆりちゃん。


「このギルドで最果て鍛冶屋でフルで揃えてるのはチャンくらいよ。」

アンジェリーナはそう言って事務所を出た。

みんなは慌ててそれに続く。


事務所の扉の外側には最果てパーティギルド旗が描かれている。アンジェリーナは全員が出たのを確認すると扉を閉めた。


「この扉オートロックで個人カードを扉にかざすと開くわ。浮遊都市では基本扉にカードをかざしてロックが開けば、基本入ることができるエリアよ。」

アンジェリーナは基本的な説明を志帆、ゆりちゃん、真斗にしていく。


「このセキュリティを超えると、最果て鍛冶ギルド関係者専用の窓口があるの。傘下のギルドや専属契約をしている人が使える窓口ね。」

そう言ってセキュリティゲートに個人カードをかざすアンジェリーナ。みんなも見様見真似でセキュリティを通っていく。


「普通の窓口にいくと、最果て鍛冶ギルドの通常価格で販売されてて、カスタムとかを注文するととんでもない値段がするのよ。だけどこっちの窓口は傘下ギルドの功績に合わせて割引きがされるのよ。もちろん、ギルド内ショップでカードを提示しても割引されるけど、混んでるし目立つからここで買う方が楽だわ。」

アンジェリーナはそう言いながら空いている窓口に行く。


「メンテナンスと強化をお願いします。毒で装備が溶けたので、毒に対して耐性もつけて欲しいです。」

アンジェリーナさんは手慣れた様子でいう。

手にはいつのまにか取っていた毒沼のサンプル。


「はい、では皆さま。個人カードを確認後、それぞれの職人のもとへご案内します。」

そう言って個人カードリーダーを出す受付のお爺さん。


志帆、妹、真斗、ゆりちゃんと順調だったが、アンジェリーナさんで、受付のお爺さんが

「専属の登録がありますが、そちらの方へ行かれますか?」と聞かれた。

「いえ、装備新調ではないから結構よ。」というアンジェリーナ。


俺の番になり、カードをかざすと、

「専属の登録がありますが、そちらの方へ行かれますか。」と同じように聞かれた。


「チャン、あなたの装備。それは特殊だからちゃんと見てもらったほうがいいわ。」

アンジェリーナの勧めに俺は「専属の方へお願いします。」と返事した。

「では他の皆様をご案内しますので、他の案内人を手配します。」と言われたので、俺は「いえ、それなら1人で行けるので、1人で行きます」と断った。


「終わったら、ギルド事務所集合ねー。」

そう言って手を振るアンジェリーナ。

「職人さんに迷惑かけるなよ。」

と真斗が言ってみんなと一旦別れた。

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