元宮高校編

第11話 初登校

「転校生を紹介する。入ってこい。」

先生の合図で俺は教室に入った。


初ダンジョンから1週間、あまり行きたくはなかったが、結局乗せられて来てしまったこの日。きっと顔馴染みの人は多いだろう。


「今日、この高校に転入となった...。」

先生が俺を紹介しようとしたとき「松ちゃんじゃん。」と何人かか言う。」


ほら、いた。


「知り合いなのかね。」

先生に言われ「元同級生です。」と俺は答えた。


「なら、紹介も不要だろう。ではそうだな。後ろの2席が空いてるだろう。好きな方に座りなさい。」


俺は後ろまで歩き、途中で何人かに話しかけられつつ、席に座る。


「もう一人。今度は留学生紹介する。」

アンジェリーナが入ってくる。入学するまでの1週間年相応の若さ以上を目標に毎日スキンケアとダンジョンでの運動を繰り返した結果、アンジェリーナは見事金髪美女になった。

「コンニチワ、アンジェリーナ・サンディ、デス。イタリア、から、キマシた。ヨロシクゥオネガイ、シマス。」

ものすごい片言の日本語を話すアンジェリーナ。


「では、後ろの空いている席に座ってください。」

アンジェリーナは言ってる意味がわからないらしい。

「後ろの席に座れってよ。こっちの席だ。」

俺は少し大きめの声でアンジェリーナにいう。

「ああ、なるほど。後ろの席に座れって意味だったのね。」

そう言って俺の席の隣にアンジェリーナは座った。


「私、ちゃんと挨拶できてた?日本語うまかったでしょ?」

席にすわって小さな声でアンジェリーナは俺に聞いてきた。

「ああ、よかったよ。すっごい片言だった。」

俺の返事にムスッとするアンジェリーナ。

「こんなことならもっと日本語を練習しておくんだった。」


この違和感がある現象、これは翻訳指輪が関係している。アンジェリーナ母国語はイタリア語。そして英語も話せる。

翻訳指輪をしている者同士の会話はたとえ別の言語を話していても、聞こえるのは母国語だ。


しか翻訳指輪をつけていない人には勿論イタリア語で話せばイタリア語で聞こえる。


普段アンジェリーナはイタリア語か英語で話している。俺たちは翻訳指輪で日本語に聞こえるので違和感ないが、高校だとギルドメンバーくらいしか指輪をつけていないので、他の人にとってアンジェリーナ言ってる言葉みんなそのままのイタリア語と英語になるのだ。


解決策は全員が翻訳指輪を付けるか、アンジェリーナが日本語で話すこと。


もちろん全員に翻訳指輪はありえないので、アンジェリーナは一生懸命日本語で話しているのだ。


「チャンが同じクラスになったのはラッキーね。もしもこれで高校3年生のクラス留学だったら気が狂っていたわ。」


アンジェリーナは本来高校3年生に留学予定だったのだが、受け入れは高校2年生と1年生しかしていなかったのだ。ちなみに転入も高校3年生の受け入れはしていない。


アンジェリーナは一つ年上だが、高校2年生となった。高校は義務教育ではないので年齢が違ったり、留年でダブっても制度上問題ない。


ホームルームが終わり、英語の先生が入ってくる。

「アメリカと違って、先生の方が移動してくれるのね。楽ちんでいいわ。」


「今日は13ページからですよね。」

一番前の生徒にどこまで授業したか確認する先生。


「ああ、12ページの後半からですか。転校生と留学生が入ったのはこの教室でしたよね。えーっと名前は。」

名簿を確認して確認しようとする先生


「先生、松ちゃんとサンディさんでーす。さっきから二人でずっと話してます。」

元同級生の森が報告する。


余計なことを言いあがって


「チャン、今あの人なんて言ったの?私のこと呼ばなかった?」

アンジェリーナには日本語がわからない。


「俺とアンジェリーナがずっと2人で話してるから男女の仲ではないか?って」

俺はアンジェリーナに説明する。ここは日本語なのでクラス全員がわかる。


「「そんなの見ればわかるでしょ。あなたに私とチャンの何がわかるの。それともチャンか私に焼いてるの。もっと恋愛してお勉強しなさい。」だってさ。アンジェリーナ、そこまで言うか?」


俺はアンジェリーナが言っていることをその場で繰り返して翻訳した。


「喧嘩売ってきたのはあっちよ。」

森はちょっと大人しくなった。


パンパンと手を鳴らす先生。

「実用的な英会話の練習もいいけど、先に授業をしましょう。せっかくネイティブな英語を話せる人がいるので文章を読んでもらいましょう。ミスサンディ。Open your textbooks to page ...12」

「このページの最初っから読んだらいいんですか?立って読んだ方が良いですか?」

「yes.please.」

アンジェリーナと英語の先生は全部英語なんだろうけど、違和感あるな。


アンジェリーナの英文音読が全部日本語に聞こえる。

翻訳指輪を外すと英語。


はめると日本語


面白い。


「なにニヤニヤしてるのよ。そんなに自分の手が好きなの?気持ち悪い。」

英文を読み終わり席に座るアンジェリーナに指輪をいじるのをやめる。


先生は少し笑ってる。言ってる意味がわかるんだろう。


「では転校生の松ちゃん、同時通訳が出来るその実力を見せてください。文章下問題1から。これは文章が読めるとすぐにわかりますね。答えてください。」


翻訳指輪に頼っている俺にわかるわけないでしょ。


「3ばんです。」

適当に答える俺。


「違います。ここで説明している内容と全く別の文章ですよ。真面目にしなさい。」


「....2番で。」


先生、今度はなにも言わない。

「では、森くん。正解をお願いします。」


「4番。」

森は普通に何事もなく答える。


「はい、正解です。1番と比較して「あなた」と「わたし」のところが違いますね。あまり引っかかる人はいないと思いますが、注意してください。」


俺はひっかけにさえ、当たらなかったらしい。


「では次の問題、今日の日直の人答えてください。」

「トマトには毒が入っていると思われていました。」


どんどん進んで行く授業。全くわからない俺。」


「はい、そうですね。上手に意訳できてると思います。」

「次問3、日直の後ろの席の人。」


俺は言ってる意味が全くわからないので、眠たくなりそのまま寝てしまった。


「チャン、起きて。」

体を揺らされ、夢から覚める。


アンジェリーナの周りには何人かの女子が集まっている。

「私の言ってることが全く通じないし、みんなの言っている意味が全くわからないのよ。ちょっと翻訳して。」

頼むわりに笑っているアンジェリーナ。


トントンと肩を叩かれて振り返ると、これまた中学生の頃の同級生、神山が鏡を持って立っていた。


鏡に写る俺、髪の毛が輪ゴムで何箇所も縛られライオンみたいになっていた。

「なんだこれ、誰だよ。縛ったやつ。」


神山が森を指差す。

「おお、悪りぃ。何個輪ゴム縛られたら起きるか賭けしてたんだけど。そのままになってたわ。」


俺は立ち上がって森の胸ぐらを掴む。

「ほらほら起きるなよ。儲けお前にもあげるからさ。」

そう言って100円玉7枚を俺の胸ポケットに入れる森。


お金で収められたわけではないが、どうでも良くなった俺は胸ぐらを離す。


そして感覚でわかる範囲で輪ゴムを取る


「ちなみに誰が勝ったんだ?」

「俺、森と留学生ちゃんの2人勝ちだにゃー。」

ニコっと笑いながら言う森。なんとなく腹が立ったので軽く腹パンして席に戻る。

後で「うぉー、渾身の一撃がささるー」と言って森が演技しているのが、声だけでわかる。


「後ろに一つ残ってるよ。」

アンジェリーナに言われて輪ゴムを取る。


「アンジェリーナも賭けたらしいな。」

俺は少し威嚇しながら言う。


「いやよ。これは私のお金よ。お昼代かけて勝ったお金だからあげないわよ。」

真剣に自分の勝ち取ったお金を守るアンジェリーナに怒る気が失せた。


俺は「はぁ」とため息を吐く。700円を財布に入れるのは忘れない。


「それでなにを翻訳してほしいんだ。」


「はいはい、わたしから「サンディさんってイタリアの何処からきたの?」」

「「ナポリ出身よ。でもイタリア内を転々としてたし、最近までアメリカで暮らしてたからナポリに詳しいと言うわけではないわよ。」」


俺からするとアンジェリーナの言っていることをそのまま繰り返しているだけなのでそれほどではないが、そばにいない者も周りにいる者も同時通訳に驚きの声を上げる。


「「なぜサンディさんは松ちゃんの言ってることがわかるの?」」

「「それはこれのおかげよ。」」


そう言って指輪を見せるアンジェリーナ。


「「日本ではあまり使われてないけど、浮遊都市や浮島とかではよく使われているアイテムよ。」」


「「サンディさんと松ちゃんってどんな関係なの?お友達?」」

おい、それ俺に言わせるか?もう言ったけど。

アンジェリーナも同じことを思ったのだろう。ちょっと引きつっている。

「「ギルドメンバーよ。あといつも一緒に潜るダンジョンパーティでもあるわね。」勘違いするなよ。2人ではなくて6人だからな。」

正解、その通りだ。だが俺は捕捉もする。


「「勘違いさせた方が、森って人みたいに突っかくるシャイボーイが出て面白ろそうなのに。ちょっと今の話を翻訳しちゃダメ。」」

アンジェリーナの言っている事をわざと全部翻訳する俺。


「ちょっとそれは無いんだじゃない?サンディちゃーん。」と森が言ってクラスに笑いが起きる。


「おお、やってるな。さすが転校生と留学生人気者だな。」

そう言いながら教室に真斗が入ってきた。


「人気者ってなによ。学校1日目なんてこんなものじゃない。それにくるのが遅いわよ。」

「ごめん、ごめん。でも学校案内は昼休みな。1時間から4時間目の間の休憩時間は10分しかないから。」

いつの間に真斗はそんな約束してたんだ?


「お、ちょっと焼いたか?松ちゃん。」

喧嘩を売る真斗。


買ってやろうじゃないか。


「そんな事していたら、ゆりちゃんが泣くぞ。」

「おい、なんでここでゆりちゃんがでくるんだよ。」

元サッカー部、コミュ力抜群の真斗が吠える。口調で確定ではないように言ってるあたりがすごい。


「なに、真斗はゆりの事好きなの?」

アンジェリーナはここで大砲を放つ。幸いなのは普段話すのがイタリア語で、クラスの誰もアンジェリーナの言ってることがわからない事だ。


「アンジェリーナ、高校生にとって恋愛はデリケートなんだよ。あんまり突っ込まない方が良い。」

「チャンも高校生じゃない。でもなんか良くわかったわ。」


「その話を俺の前でするのはやめろ。」

真斗が怒った。



チャイムが鳴り真斗が自分のクラスに帰る。


「真斗の恋が実ると良いのにね。ゆり、真斗に興味無いから。」

真斗がいなくなったところでアンジェリーナが暴露した。


南無、真斗


次は数学の授業。

頭がハゲたガリガリヒョロヒョロの先生が入ってくる。


数学の授業は日本語が分からなくても、数字と記号の組み合わせなのでそれほど困らないだろう。数学は世界共通だ。そう思って安心していた。


予想通り、最初は大人しかったアンジェリーナ。


しかししばらくしてプリントが配られると、

「チャン、このプリントの日本語読んで。」

とか

「チャン、先生が黒板に書いた日本語読んで。」

とか、

「チャン、先生はなにを言っているの。」

何か日本語でわからないことがあるたびに俺に聞く。


あまり大きな声で言っていないので目立つわけではないが、正直めんどくさい。そして段々アンジェリーナの机が俺の方に寄って来ている。


「おい、わたしが言ってる事を翻訳してくれ。」

と先生もアンジェリーナに何か言いたい時に頼んでくるので数学どころではない。


元々高校の授業なんで適当にやっていたので、授業内容についていくのもやっと。

先生が、「授業の最後に授業の小テストをします。」と言っていたので必死だ。


授業の最後、小テストが配られる。10問くらいのテストだ。

「チャン、この文章なんで書いてるの?」

と俺に聞くアンジェリーナ。


「サンディ、今はテスト中なので人に聞くのは無しだ。」

と先生。


先生が何を言っているか分からないアンジェリーナ。

「悪いが私が言った事を翻訳してくれないか。」

先生が言うので「アンジェリーナ。これはテストだから俺に日本語の意味を聞くなってよ。」と説明。


「チャン、私の言ってる事翻訳して。「先生、私はこのテストに書いている日本語が読めません。日本語の授業ならわかりますが今は数学の授業です。難易度の低い日本語でふりがなが書いているならわかりますが、漢字だらけ。チャンに日本語を聞いたらダメなら。先生、このテストの翻訳してください。」」


先生が困った顔をした。


「「サンディ。今日のテストは翻訳してもらっても良いですが、次から一人でやってください。次回からは問題文にはふりがなを付け、なるべく簡単な日本語にすることにします。」」


アンジェリーナはテストの最初の時間で、テストに書いてある日本語をイタリア語に翻訳し。そのあとは一人で問題を解いた。


小テストが終わって回収するとき、アンジェリーナの答えをチラ見したら、全部英語で書かれている。


先生、苦労するだろうな。


アンジェリーナは満点の自信があるようだ。


「キョーカチョ、しゃぁーペン。ケッコウ、れんシューしたつもりダッタですが、シラナいタンゴイッパイ、デス。」

神山と日本語で会話する、アンジェリーナ。

日本語が読めなかったのが、ちょっと悔しいのだろう。さっきから隣で神山に教えてもらいながら練習をしている。その隣で森が椅子をカッコンカッコンと鳴らしながら暇そうにしている。


「でも、わたしの言っていることわかるじゃない。」

意識的にはっきりと話す、神山。


「ユックりはなすと、ハナスことはできマス。日本のヒトとゲームしてタのデ。あと、アメリカで日本ゴのジュギョーうけてマシた。まダ、ヒサしぶりデ、ナレていないダけデス。」


「日本人とゲームって、例ギルマスのことか?」

俺はアンジェリーナに何気なく聞く。

「そうそう、最果て鍛治ギルドギルマスのことよ。」

急にスラスラと日本語を話すアンジェリーナ。


だが実際は

「サンディさん、日本語ではなくなっているよ。多分イタリア語?」

「チャンとハナすと、イタリアごか、エイごにキコえルから。オモワず、ニホんごイガイでハナす。」

ちょっと日本語が変なアンジェリーナ。


「松ちゃん、サンディさんが日本語話してる時は話かけるの禁止!!」

理不尽な!!


「松ちゃんも、サンディさんみたいに何かしたら?英語も数学もボロボロじゃない。中学卒業してなにもしてないでしょ。元学年3位が泣いてるわよ。」

そんなもの泣かせとけ。


俺は中学の頃は真面目に勉強していた。真斗も優秀で成績2位、俺は3位だった。そして神山は4位。

入学した時はそれほど高い成績ではなかったが、中学2年生の頃くらいから卒業するまでこの順位は変わらなかった。


宮元高校は成績的には上位の学校だ。俺が転校できたのは、転校前の通信制高校の成績...と言ってもレベルが低いので少し勉強すれば高成績になる...よりも、中学卒業時の成績の高さに起因する。


いざ転校してみたら、全然追いつけないのだが、これから勉強するしかない。


留学生のアンジェリーナは学年の問題があったり、日本語が苦手だったりとあるものの、成績的には余裕だ。さすが博士。そして研究熱心。


「松ちゃんって大学に行く気ある?ちゃんと勉強しないと、大学行けないよ。」

人が気にしていることに塩を塗っていく神山。


「俺は高卒でいいんだよ。大学なんでお金持ちか勉強ガチ勢しか行かねーよ。」

現実みろ!!


「グレたわね。」

「グレたな。」

「グレタ?」

神山、森、アンジェリーナが言う。アンジェリーナは意味がわかっていない。


「ほっとけ。」

俺は拗ねた。


「ちーす、何の話してるんだ?」

コミュ力オバケ、真斗が入ってきた。


「進路の話よ。松ちゃんは大学行かないらしいわよ。」

神山はさらりと俺の進路を暴露する。


「進路か、高校2年入ったし、そろそろ文系理系のクラス分けされるしな。」

そうなの?初めて知ったぞ。転校したばかりだからな。あと、そんなガチ話はしてないぞ。


「ああ、だからクラスが1年のままだったのか。」

森は知らなかったらしい。


「真斗くんは進路どうするの?」

突っ込んでいく神山。


「俺か、留学!」


「「おおぉ。」」

俺と森は感心したが。


「冗談はいいから、現実的にどうするの?」

神山は突進をやめない。


「そうだな、多分理系のクラスには行くけど、その先は考えてない。考えてたけどスキルとかあるからな。

大学出てもな。ちょっと前まで、いい大学、いい企業と思ってたけど、スキルができてからはスキルとその能力が優先されるだろ?

商社マンとかプログラマーとかなくならない職業はあるけど、あれだけ安泰と言われた医療系なんて、就職先としては虫の息だせ。

日本は医療制度があるからポーション1万円でも普通に病院行ったほうが安いけど、アメリカなんて医者がすごい勢いで廃業して言ってるらしい。」

真斗、ダンジョンでは馬鹿っぽいけど、実は色々考えてるんだな。と一人大変失礼な事を考える俺。


「確かにそう言われると私も考えるべきなのかな。」

神山は真面目だった。


「俺は3年になってから考えたらいいと思うぞ。志望校決めたって、成績が良くなかったら行けないし。志望校余裕で合格する成績ならもっと上の大学目指すんだろ?今決めたっていっしょじゃん。なりたい職だけ決めとけばいいんじゃね?」

森の理屈がある適当は説得力がある。


「俺は正直、ダンジョン探索家でもいい気がしてるけどな。俺のスキル似合ってるし、これいいし。」

そう言いながら親指と人差し指をくっつけてる真斗。確かにダンジョンでもらえるお金は大きい。


「いいな、私もダンジョンに潜ろうかな。」

神山の発言に森が。

「神山には無理、お前運動神経ないし。入ってすぐ蘇りの沼送りだぜ。」

とからかう。


蘇りの沼とか大阪ダンジョンの入り口のそばにある緑色の沼で、護符を身につけて死んだ人が復活するところだ。身につけていた道具も装備も服も全部失う。ダンジョン内では死ぬ以外での最悪の状態だ。


「失礼な、私だって少しはやるわよ。...きっと?」

神山は森に反発して言ったが、自信がないらしい。


「今度、松ちゃんと真斗とサンディさんに連れて行ってもらおうぜ。」

「「え、やだ。」」

森の提案に、俺と真斗は速攻拒否した。


3時間目は化学だ。

担任の先生が担当らしく、ホームルームの時にいた先生だ。


この先生やる気があるのだが、威厳がない。


教卓で実験をして一生懸命説明するも、誰も聞いていない。しかしちょっとした派手な実験もするのでその時はみんな面白がって聞いている。


アンジェリーナは授業が始まって数分で寝ている。


黒板には反応とか、この実験でなにが起きるかといった説明を書くが、配ったプリントに全て書いてるので誰もノートを書かない。


俺も最初は耐えていたが、だんだん眠くなり気がついたらそのまま寝落ちしていた。


気がついたらお昼だった。周りはお弁当タイムだ。

隣の席のアンジェリーナはまだ爆睡中のようだ。


真斗はアンジェリーナを起こすべきか迷っているみたいだ。


「真斗、お昼休憩はあと後何分で終わる?」

「1時30分までだから、あと40分くらいあるぞ。」


慌てる時間ではなかったようだ。

俺は鞄から弁当を取り出した。

「いただきます。」


久しぶりに食べた母の弁当は冷めてはいたが美味しかった。


20分くらいで食べ終わる。真斗も弁当代わりのコンビニのパンを食べている。アンジェリーナはまだ起きない。


「さすがに起こしたほうがいいと思う。」

真斗は言った。


「なら起こせば。」

俺は素っ気なく言う。


アンジェリーナを揺り動かす真斗。起きないアンジェリーナ。


アンジェリーナは一度寝ると起きないのだ。

この1週間、アンジェリーナはホームステイしていた。9時には起きてくるのだが、それ以上早くは起きてこない。


家から高校まで歩いて15分。高校が始まる時間、8時30分。家を出る時間は余裕を持って8時10分。7時30分には起きないと学校に行けない。


高校に行けるよう、練習で7時30分までに起きようということになった。


1日目 俺もアンジェリーナも寝坊。

2日目 俺なんとか起きる アンジェリーナ寝坊

3日目 俺起きる アンジェリーナ寝坊


アンジェリーナは朝には弱くない。だが9時以降しか起きない。そして昼寝をするとなかなか起きないのだ。


4日目 妹が起こすがアンジェリーナ寝坊


このままでは高校に行けないので、どうしようとなった。ここでアンジェリーナを簡単に起こす方法が発覚。


5日目からは俺か妹が起こしに行くと起きるようになったのだ。


「おーい、アンジェリーナおきろ!!。」

必死に起こす真斗。


俺はさすがに“真斗”が可愛そうだったのでアンジェリーナを起こすことにした。


アンジェリーナ起こす方法、あんまり人の前ではやりたくなかったが仕方ない。


「真斗、あっち向いてろ。」

俺は真斗が反対方向を見た瞬間、アンジェリーナの脇腹に手を入れくすぐった。


1秒もかからずに起きるアンジェリーナ。

「アンジェリーナ、おはよう。昼休みが終わるまであと20分だぞ。早く弁当食わないと食う時間なくなるぞ。」


「チャン、もっと早く起こしてよ。」

3秒で目が覚めてすぐに状況を理解し、文句をいうアンジェリーナ。


「真斗に感謝しろ。真斗が起こそうとしなかったら、俺はアンジェリーナを起こさなかった。」

「真斗の前で私を起こしたの?もしかして見られた?」

アンジェリーナはこの起こされ方を知られるのが嫌らしい。


「いや、別方向向いてもらった。」

ちゃんと配慮したぞ。


「ごめんね、真斗。私一度寝ると起きないのよ。そういう時はチャンに任せて。」

アンジェリーナは真斗に言う。


「なぁ、アンジェリーナにどんな魔法使ったんだ?」

小さな声で俺に聞く真斗

「本人に聞け。」


その後アンジェリーナは女子とは思えない速度で弁当を食べた。

曰く「研究が忙しい時はこんなものよ。」らしい。


5時間、6時間目は講堂に集まって緊急集会らしい。


ダンジョンについてとスキルについてだそうだ。


「いま、ダンジョンが世界中に出現し大変問題になっています。」

....


「当校ではアルバイトは禁止していません。したがってダンジョン探索も禁止しません。ダンジョン探索はアルバイトの一種と考えます。」


...


「ダンジョンに潜るなら、大阪ダンジョンの護符。これを身につけるのは義務です。少なくともこの高校の生徒は全員ダンジョンに行く時は身につけてください。そしてなるべくひとりでダンジョンに行かないで下さい。」


....


「スキルはみだりに使用してはいけません。特に人に害が及ぶスキルの使用は控えなけるならなりません。」


...


「テストでスキルを使ったカンニングは禁止です。」


...


「特殊なスキルや配慮のいるスキルはなるべく担任の先生に言ってください。高校教員は国から求められてもあなたたちのスキルの秘密は守ります。これは高校教員のプライドです。」


...


「国から高校生にスキル認定を勧めるよう通達がありました。が、私はそれは個人の自由だと思っています。スキル認定を受けた方がいいと思う方は受けてください。迷っている人は担任に聞いてください。先生たちは貴方の味方です。」




綺麗事?それとも本気?


全校生徒を集めての緊急全校集会だったらしい。

要するに国のスキル調査には反対、ダンジョン探索は賛成だが無理はするなと言いたかったらしい。


中学校の校長もそうだが、なぜ校長は長い話をしたがるのか、簡潔に説明するとたった二言で終わるのに。


こうして俺とアンジェリーナの高校初登校は終わった。




ギルドRINE 妹

“ダンジョン前に集合!!”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る