第13話 パーティ

1週間ぶりにアルおじさんの鍛治工房に訪れた。


アルおじさんは工房の端にあるベンチでタバコを吹かしていた。


「おー、チャンクンじゃねーか。俺が入り用になったそうじゃねーか。」

そう言って俺を迎えてくれるアルおじさん。


「え、俺そのことなにも言ってませんよ。」

俺の疑問に答えるアルおじさん

「チャンクン、うちの傘下のギルド所属だろ?そこにいるアンジェリーナが研究データをうちに寄越してくれてるんだが、その中にチャンクンのポーション小銃とポーション刀の報告もあったからな。あのデータ、いまうちの上層部で話題持ちきりなんだぞ。普通の銃弾が効かないモンスター。属性弾しか銃火器系ではダメージが与えられないが常識だったからな。」


銃弾を一つ見せるアルおじさん。見たことがない新しいタイプのダンジョン装備用銃弾だ。

「いま開発中の新しい弾だ。モンスターには効いて、人間には効かない新しいタイプの弾。モンスターごとに属性を考える必要がなく、わからない時はとりあえずこれを打てば効く。弱点属性がわかっていたらそっちの方が有効だけどな。」


今度はまた別の銃弾だ。見たことがない初めて見るタイプだ。

「これは7.62mmの銃弾。人間にもモンスターにもダメージを与えられる銃弾だ。さっきの弾よりもモンスターへの攻撃力が高く、その副産物で人間にもダメージが与えられる。脳天に当てても胴体に当ててもダメージは同じで防弾装備関係なく、子供でも大人でも1発で昏睡状態になる。3日くらいは起きない。ダンジョンなら死亡判定だ。中級ポーションをかけるか、病院でしっかりとした治療をすれば後遺症なく生き返る。」


弾を戻すアルおじさん。

「今の銃弾の開発は全てあんたのところのギルドの研究データで作られたものさ。ダンジョン装備用銃弾はいろんな戦闘系・探索系クランとギルドから、7.62mm弾はNATO弾対応なら大抵使えるということで世界中の軍隊・警察から注文殺到。地下の銃弾製造工場はフル稼働で生産が追いつかないってギルマスが涙流して感謝してたぜ。唯一の職人無しの自動工場の銃弾がいい値段でドンドン売れていくからな。俺たちギルドとアン嬢ちゃんとこのギルドネームから、最果て弾として売り出している。俺たち職人はちょっと複雑だが。」


そんなことがあったのか。アンジェリーナ、そんなこともしていたのか。


「ところで今日は今日は何のようだ?」

アルおじさんは俺に言う。


「そうでした、実は毒エリアに行って、ギルドメンバーの装備が溶けたので一応武器のメンテと防具のメンテをお願いしようと思いまして。」

「そうか、毒ね。うちのギルドで作った装備は安いものならともかく、そこらの毒は効かないはずだが、一応点検しよう。それよりもお前が使ってる毒ポーション影響の方が大きいと思う。」

そう言ってポーション刀やポーション小銃を確認するアルおじさん。


「あー、やっぱり溶けてるな。毒ポーションは最果て弾の原料でな、開発で一番問題になったのは銃弾の浸食なんだ。あ、これはギルド秘密な。チャンクンなら大体予想していたと思うから言うけど。この小銃と刀には銃弾よりも強力な加工をしないとダメだな。なんせ毒ポーションの原液を使うわけだからな。」

武器をバラバラにして細部をチェックするアルおじさん。


「あの、低級毒ポーションだけでなく、中級毒ポーションも使ってます。あと、もし見つかれば高級毒ポーションも使っていきたいです。」

俺の話アルおじさんは。

「それはハードじゃな。低級毒ポーションはいま傘下のギルドに依頼して、日本の蛇の廊下に取りに行ってもらっている。最果て弾の生産が追いつかないのは生産力の問題ではなく、原材料が少ないことが原因なのじゃ。原料の低級毒ポーションならまだもらえるが、中級毒ポーションとなると手に入らない。高級毒ポーションは存在が見つかってないから試し用がないのう。せめて中級毒ポーションがないと高級毒ポーションに耐えられるものは作れん。」


「もしも、中級毒ポーションと低級毒ポーションが有れば大量に有れば出来ますが?」

俺の質問に、

「当たり前じゃ、3日じゃ。それだけあればできる。」

と答えるアルおじさん。


「わかりました。最果てパーティギルドの倉庫に低級毒ポーションと中級毒ポーションが大量にあったと思うので、ギルマスに聞いてみます。大阪ダンジョンは私たちがよくいくダンジョンなので。」


「そうか、助かる。できたら低級毒ポーションはあるだけ全部、ダンジョンで取れたら全て売ってほしい。」

アルおじさんの頼みに、俺は

「それもギルマスに使えます。」

と言った。


「それでは装備メンテナンスお願いします。」

「わし任せとけ。」と早速作業に入るアルおじさんを背に俺は約束のギルド事務所へと向かった。


事務所にはまだ誰も戻っていなかった。


流通用の100本ポーションケースを大量に借りて事務所に持っていく。


今の俺は低級毒ポーションを0.1CCで2本、つまり小銅貨1枚で2本手に入る。このコストの安さが小銃で気軽に撃てる理由だ。


ちなみに属性弾はメーカーを選ばなければ種類関係なく1発2.0CC、大銅貨2枚日本円で20円ほど。最果て鍛治ギルド製の属性弾は1発0.1SC、小銀貨1枚、日本円で約100円だ。大体のガンマンは銃は最果て鍛治ギルド、弾は別の好きなメーカーを選ぶが、スナイパーや銃弾の弾着のブレが気になる人は銃弾も最果て鍛治ギルド製を選ぶらしい。


俺は低級毒ポーションを100本購入してはケースを積みまた100本購入する。

それを繰り返して100箱1万本。これで金貨1枚分だ。さらに100箱で合計2万本、金貨2枚使う。


「空箱だしたくさんあるからいいけど、なにに使うの?」とケースをくれた在庫係に50ケースもらったあたりで言われたが気にせず持っていった。


そして中級毒ポーション1本1.0CC、大銅貨1枚で1000本購入金貨1枚分かい、それも100本ポーションケースに詰めた。10ケース分ある。


これだけ有れば開発には困らないだろうし、生産も追いつくはず。


高く積み上げられたポーションケース。なかなか仕事したなと思った。


「お待たせー、みんなの装備。新調することになったわ。それでデザイン決めたりサイズを図ったりしてたら遅れたわ。」

こちらもいい買い物をしたと満足そうな笑みを浮かべて入ってくるアンジェリーナ。

後ろについてくる面々も嬉しそうだ。特に真斗は俺の最果て鍛治ギルド製の装備を羨ましがっていたのでホクホク顔だ。


「お兄ちゃん、アンジェリーナさん、すごいんだよ。アンジェリーナさんが個人カード出すだけで全部原価で良いって言われてサービスもいっぱいしてくれたんだ。」

アンジェリーナの自慢をする妹。


「ところでお兄ちゃんの後ろの大量のケースなに?ポーション100本って書いてるやつ。」

妹に尋ねられて俺は答えた。

「毒ポーションがなくて装備がメンテできないって言われたから生成した。低級毒ポーション2万本と、中級毒ポーション1000本。ケースはさっき流通の方からもらってきた。」


アンジェリーナは何故か頭を抱えた。

真斗も妹もゆりちゃんも呆れている。


「松ちゃん、時々抜けていると思っていましたがこれほどとは思いませんでした。」

と志帆が言った。


「大丈夫、大阪ダンジョンによくいくし、そこで集めた物だと言えばいいし、ギルマス次第で倉庫の毒ポーションを放出するって言ったからなんとかなるよ。」


アンジェリーナは胃も痛そうだ。


「わかったわ。ここにギルド端末で持ってきたことにするわ。でもこの量となるとそれだけでは通じない量だから、毒ポーションのスキルを使った効率的な取得方法を発見したことにするわ。これからは定期的に毒ポーションを納品するかもしれないけど、いいよねチャン。」

俺は了解した。


ヒョロヒョロの最果て鍛治ギルドのギルマスはこの毒ポーション山を見て大変喜んだ。アンジェリーナには「1日十万本までなら買い取るから、ぜひよろしく。」と言っていた。


その後、最果て鍛治ギルドから転移した俺たち。浮遊都市のダンジョンの地上ダンジョンでは食べられる魔物が多く、浮遊都市の市場やスーパーには魔物のお肉が多く販売されていた。


俺たちはそれを買い、その日の夕食はお肉パーティーとなった。





その頃世界ではいろんな事が問題になっていた。世界の急激な物流変化とそれによる貿易摩擦、ダンジョンから採掘される新しい資源魔石とエリクサ。

そしてそのエネルギー源を使った開発競争だ。


二酸化炭素を排出しない。それはすなわちそのまま潜水艦の新しい動力源になる。


石油産出国は輸出量は減らないが、これから訪れるかもしれない石油離れ対策を進める必要がある。


中国では周りの領土問題よりも、トレードスキルによるアナザーアイテムの流出が問題に。

そして国民のスキル人材の流出。ダンジョン内で長期にわたる探索者急増による急激な富の分散。ダンジョン通貨の流通。


アメリカでは人口割のダンジョンの少なさ、開発に必要なアナザーアイテムの少なさ、さらにはスキル人材の流出以外にも、浮遊都市や浮島への研究者流出が問題化。


インドのデリーとカルカッタ、エジプトのカイロ、パキスタンのカラチ、ナイジェリアのラゴスではダンジョン通貨がその周辺の地元通貨になってしまい、自国の通貨に両替が必要になってしまう事態になっていた。


この通貨問題、自国の信用通貨ではないのでインフレデフレを発行を増やして抑えると言ったことができないため、貿易への影響が大きい。


ここまではまだ平和話。


戦闘スキル取得によって起きること。それは争い、内戦の激化だった。


トレードスキル持ちは世界中にいる。そしてそのスキル持ちはダンジョン通貨さえ有ればダンジョン武器が買えるのだ。

ダンジョン防具は9mmの銃弾程度は弾く。7.62mmも防具によっては貫通しない。


ダンジョン武器の銃は人を殺せない。しかしダンジョン武器の刃物類は簡単に殺せる。モンスター用に作られた武器が人間に向けられた。


そして新しい力は海賊を作った。狙いは普通の商船ではなく、ダンジョン遺産やアナザーアイテムを積んだ商船。


トレードスキル持ちが簡単にダンジョン通貨できるものを積んだ商船。(トレードを使うとダンジョン通貨さえ積めば買われてしまうので希少なものを運んだり、ダンジョン通貨以外の取引の時に使う。ギルド内取引はギルドレベルに応じて取引できるものが制限される)


ダンジョン装備のメンテナンス代は高い。武器と防具も買うには大きなお金が必要。これはほとんど最果て鍛治ギルドのせいだが、それは海賊の運営費にも影を落としたのだ。


襲う商船の選り好み、ダンジョン通貨にできない商船人質に取るよりも、ダンジョン通貨にできる商船を襲う方がすぐに足のつかないお金になっていい事実。


世界連合は海賊の排除を各国に求めたが、ダンジョン遺産が流れた市場に流れたほうが都合の良い国も多いのでなかなか進まなった。


被害が多いのはダンジョン遺産とアナザーアイテムの輸出が多い中国、日本。輸入が多いEU連合とアメリカだった。


日本のとある商船。アナザーアイテムを扱う会社の船が急激に海賊に襲われるようになった。しかし護衛してくれる船もツテもない。船籍は日本ではないので政府は動かない。そしてだんだん合わなくなる採算。この会社はついに海賊を護衛に雇ったのだ。


これが世界的大問題になった。調べると他にも商船が海賊を雇う事例はたくさん有り、世界連合はこれを問題視。日本政府もこれを危機的状況だとした。そして日本は今までダンジョン関連の取引には一切手を出していなかったが、海賊に関わる全ての企業の船の入港を禁止した。


これで困ったのが、取引先だった先進国と発展途上だった。中国は自国都合のみで輸出を認めていたので、取引量は多くとも希少なアイテム、ダンジョン遺産の輸出はほぼしない。あるのはアイテムトレードスキル流出くらいだ。だがダンジョン管理者が1人いるので問題になるのは「もったいないから問題にしている」程度で欲しい分は確保されている。


お金で買える希少品ではなくなったダンジョン遺産。最大産出元の東京ダンジョン。

貿易赤字の日本。


流通への国家の不正介入と言われても世間的問題で「海賊と取引を一切していない会社、海賊が関わっている会社と一切取引いていない事が証明できる会社しか日本国は取引できません。」


これにより爆発的成長したのが、傭兵ギルド。


そして日本は国内の物流を回復するため、傭兵制度関連の法律の整備。そして日本国内のクラン登録システムを構築。一部クランと国内で活動するギルドに国外での船団護衛のみ傭兵稼業を許可したのだ。


日本でクランが乱立。終業後や放課後のお遊び程度だったクランが大多数だったところが、会社所有クランまで出る。


海運会社ではクラン経験や、入社前のクラン入会がそのまま入社の判断材料にすると言い出す始末。


クラブ活動が進学に影響する様に所属クランが就職に影響するようになった。有名ギルド所属は花だ。


だがギルド結成にはギルドホーム必須。数に限りがあるギルドホームは高騰しクラン格上げでくらいでしか立てれないほどに。


就職時期の就活生が実績あるクランで必死に功績を挙げる。成長するクラン。流通関係就職、海運関係。開発はダンジョンアイテムに詳しいほうが有利。所属クランが有名で実績があるほど知識はつくし強い。この風潮がダンジョン関連商品を扱う世界中の先進国に広がった。


これが高校での校長がダンジョン探索を許可した理由。

有名ギルド傘下のギルドの最果てパーティに入会依頼が殺到する理由。


そしてこれから起きる事件の理由だった。


元宮高校、ダンジョン部。元宮高校クラン

3年生は必死にダンジョン探索を行う。学校も就職率数字があるので3日間連続ダンジョン内も問題視しない。他の学校も、大学も就職率の数字があるから見て見ぬ振り。


4月なので就活終わりには余裕がたっぷりとある。一発逆転の可能性。


所属2年生も就職に向けて必死。1年生も3年生を見ているので頑張る。


だが、所詮クラブ活動。道具も装備もお金も大手クランやギルドには及ばない。戦闘スキル性能が高い人はクランへ行くのでパーティ戦闘力が伸びない現実。


実績を作るために、レベ上げパーティに混じってダンジョンに降りる。トロッコができたので実績を上げやすなる。


そう思い潜ったその日。高校で見たことがある留学生を発見する。2年生は全員が同じ高校の人だと言った。


そのパーティは6人。自分たちよりも高級な装備を持つ。そして降りた人たちのほとんどがいく虹の鍾乳洞ではなく、別の道へ。


洞窟の魔物を止まることもなく倒す実力。


おそらく警告をしてくれているとはわかるが、見せびらかすように飲むポーション。


毒霧に消えるパーティ。


他のパーティの取り残りを必死に集めて実績を作ったトロッコの帰り。


おそらく魔法陣で地上付近まで戻ったんだろうそのパーティのリュックには有名ギルドと同じくらいかそれ以上の収穫を持ってにこやかに帰る6人パーティがトロッコ線路横を歩いていた。


トロッコでそれを見た元宮高恋ダンジョン部。苦しい思いで必死に集める3年生。にこやかにいい思いをしているのは2年生。


以前からダンジョンに潜っている2年生がいるのは知っていた。だがその2年生はパーティ組んでる人がいると言って入部を断った。


あのパーティはその2年生がいるパーティらしい。

そしてパーティメンバーの父親が鍛治スキルを持ちがいるらしい。そして武器はその父親が作っている。


中学の後輩から聞いた話が部員に火をつけた。情報を集めると。


中学生、高校生の男女混交パーティで、ダンジョンができた初期から潜っている。


スキルで当たりを引いたメンバーばかりで戦闘特化のパーティ。


潤沢な運営資金があり、ポーションも渋る必要なく使えるほど。


噂では商店街入り口から入るパーティでは上位にギリギリ入る実力。


入部を断った2年生のスキルは変身スキル(ドラゴン)で、チート級の強さを持つ。


パーティのうち1人は最果て鍛冶屋ブランドのみで装備を整えている最果て鍛冶屋関係者か、まだ無名の実力者。


ダンジョン部内の嫉妬は溜まっていた。



何も知らないでパーティを楽しむ最果てパーティメンバー。


「アンジェリーナ。飲み過ぎじゃねーか。」

ワインを二本。ビールは数え切れないほど飲んだアンジェリーナを心配する俺。


「大丈夫よー。欧米人のお酒の強さは世界一よ。いくら飲んでも平気、平気。私いま最高潮。」

アンジェリーナは全くなんともないように振る舞っているつもりだろうが、顔が赤く、言動が少し変だ。


「あんたものむ?日本じゃ未成年かもしれないけど、ここでは成人も何もないからお酒飲んでも合法よー。」

そう言いながらお酒の入ったグラスは絶対離さないアンジェリーナ。


他の4人はゲームで盛り上がっている。

あまりゲームに興味がない俺とアンジェリーナ。


アンジェリーナはお酒に酔っているので俺がパーティの片付けをしている。


「日本酒も買ってくればよかった。日本のビールは冷えてないと美味しくないのが不思議だわ。」


ビールとワインを胃に入るだけのむアンジェリーナ。

一体何リットルのお酒がと言いたくなる量だ。

脱水作用でトイレに行く回数も多い。


「ねぇ、チャン。私もっと色々研究したいわ。もっとダンジョン深くまで潜りたいわ。東京ダンジョンにも行きたい。チャンは一緒に来てくれる?」

腕を首に絵絡めてくるアンジェリーナ。


「いくいく。行くから腕を絡めるな。」

俺はアンジェリーナから離れようと必死だ。女性独特の匂いとか、胸に押しつけられた感触とか、色々と刺激が強い。


「もしも2人だけになっても、ちゃんとついてくるのよ。」

そのままヘットロックをするアンジェリーナ。直に谷間の間に埋まる顔に、引き剥がそうとしたと気に感じる引き締まったお腹と腰。


「分かったから。約束する、ついていけばいいんだろ。」

俺は色々と危うい言葉を発していたが、必死なので意識はなかった。


「うん、よろし。もしも2人になってもついてくる。約束ね。」

お酒のせいで顔が赤いのかわからないアンジェリーナの笑顔。そしてそのセリフの意味。


きっとアンジェリーナを意識したのはこの日この時が最初だろう。


----


ゲームをしながら私は松ちゃんとアンジェリーナさんの様子を見ていた。さくらさんはともかく、真斗、ゆりさんも気付いているだろう。


真斗はアンジェリーナが松ちゃんのこと好いていることに薄々気付いていたようなので、やっと気づいたかくらいにしか思っていないだろう。


しかし、ゆりさんの方はまっちゃんを好きまではいかなくとも意識はしていたので心中複雑だろう。


真斗はゆりさんのことが好きで、それをゆりさんは気付かない。アンジェリーナさんは松ちゃんが好きでアピールしていたけど、気づかない。これが続いていたのに、お酒が入ったアンジェリーナさんが急激近づいてやっとアンジェリーナさんを意識した松ちゃん。


そしてそれを見てしまったゆりさん。

これでゆりさんの対象が真斗に移ればハッピーエンドだが、2人をガン見してしまってる時点でそう簡単にはいかないよね。


この関係がどうなるのだろうか、ドキドキ半分ワクワクが半分だった。


「みんなゲーム真面目にしてよ。」

怒るさくらさんに3人は慌ててコントローラーを握った。


----


お兄ちゃんはシスコンだ。

何かを頼むと大概やってくれる。


無理を言ったら聞いてくれる。


ギルドを作るときもダンジョン入ったことないのに、わがままを言うと入ってくれた。


私は呑気で適当に振る舞うのが好きだ。それが一番楽しいから。


きっと一緒にダンジョン探索したら面白いから、アンジェリーナさんとギルドに誘った。

きっとお兄ちゃんがいると楽しいから、ギルドに入れた。


きっとギルドに入れると面白いから真斗さんとゆりちゃんを入れた。

きっともっと楽しくなると思って志帆ちゃんをギルドに入れた。


私の楽しいとみんなの楽しいが一致しているかはわからない。けどみんなダンジョン探索が楽しそうだ。


私はこのギルドが好きだ。


秘密主義だけど秘密にできないアンジェリーナさんも、秘密を抱えながらも一緒にいてくれるお兄ちゃん。

頭がいいのに馬鹿なことをする真斗さんに、萌え萌えのゆりちゃん。

そして意外に分析やでギルドの戦闘管制志帆。


だけど、今日はちょっと違った。アンジェリーナさんがお兄ちゃんにアタックしている。みんなそれを気にしているみたいだ。


私はお兄ちゃんのことが好きだ。けどそれはLOVEではなくLIKEだ。


お兄ちゃんはアンジェリーナさんを選んだ。顔がそう言っている。


私は必死にゲームをしてみんなの気を逸らすが、3人はお兄ちゃんたち見るのに必死だ。


なるべくお兄ちゃんの恋路は邪魔したくはない。


私はお兄ちゃん初恋を応援しよう。


「みんなゲーム真面目にしてよ。」

そう言って私は怒ったフリをする。これがお兄ちゃんへの精一杯だ。


ーーーー


アンジェリーナは立てなくなるほど酔っていた。

「チャン、無理歩けない。助けて。」


父親や母親がここまで酔っ払ったら怒る。

だがアンジェリーナが酔っても怒る気がしなかった。


アンジェリーナを私室の部屋に連れて行くために、アンジェリーナの腕を自分の肩に回し、抱えて歩かせる。アンジェリーナの背と俺の背が近いからできることだ。


「えー、連れて行くならここはお姫様抱っこよ。」

そう文句を言うアンジェリーナ。


「無理いうな。俺にはそんな筋力はない。」

みんなは相変わらずゲームに夢中のようだ。


俺は仕方がなくアンジェリーナを私室に連れて行く。明日起こすためにアンジェリーナに私室の入室権限をあらかじめもらったのが幸いした。


ギルマス室に入るとアンジェリーナは俺のほっぺにキスをする。

「フランスでは友人の挨拶にほっぺにキスをするのよ。チャンも私にする?」

という。


完全に酔っ払って自制が効いていない。

この酔っ払い様だ。

早く寝かせてあげよう。


俺はアンジェリーナの私室に入る。大量の研究資料に実験器具、そしてダブルベット。

俺の家のアンジェリーナの部屋と違うのは抜き散らかされた服とランジェリー、つまり女性用下着がそこら中に落ちている。


俺はなんとも言えない気分になりながらもアンジェリーナをベットに寝かせる。

「みずー。」

というので、そこらにある未開封のペットボトルを期限を確認して渡す。


アンジェリーナは500mlペットボトルを一本飲み干すと俺に絡みつく。


「チャン、私可愛い?」

「ああ、可愛い可愛い。」


そう言ってアンジェリーナを引き剥がす。

可愛いというか、魅力的だが羞恥心がそれを言わせない。


「ねぇ、チャン。可愛いなら抱きしめてよ。」

「明日同じことを言ったら考えるよ。」

俺は必死にアンジェリーナをあしらう。


その間にもアンジェリーナは服を脱いでパンツ1枚だ。

布団をかぶアンジェリーナ。

「ねぇ、明日までここにいてよ。」

「俺が寝れねーよ。」

いろいろな意味でな!!


「俺は向こうに行くぞ。おやすみ。」

「おやすみ。」

アンジェリーナは素直に布団をかぶって寝る。


俺はさっさとアンジェリーナの私室から出た。

アンジェリーナがいつもつけている香水の匂いが全身からする。


ギルマスの部屋から出ると、4人はまだゲームをしていた。


「お前らまだゲームをしてたのか。そろそろ寝ないと学校行けなくなるぞ。」

「えー、いまいいところだからあともうちょっと。」

妹が文句をいう。


「なら、切りのいいところでやめろよ。俺は疲れたからシャワー浴びて先寝る。」


俺は一方的に宣言して、仮眠室に向かった。



朝、俺は7時にアンジェリーナの部屋に行き、アンジェリーナを起こす。布団の中は服を着ていないので布団をめくるわけにはいかない。膨らむ胸の位置から大体脇腹の位置を予測。


俺は布団の上からアンジェリーナをくすぐった。

2秒で起きるアンジェリーナ。起き上がろうとするのを俺は止めた。


「何よ。」と怒るアンジェリーナ。俺は「自分の状態をみろ」と言った。


「なぜ裸なのよ。チャン見たの?」

「今日は見ていない。」

正直に答えすぎだけど、仕方がない。


「今日はって何よ。昨日は見たってこと?。」

そう言って昨日のことを思い出そうとするアンジェリーナ。そして顔が一気に赤くなる。


「チャンは昨日お酒飲んでないわよね?」

「もちろん。」

「全部覚えている?」

「....うん。」

「...全部忘れて。いや、忘れて欲しくないけど。恥ずかしいから忘れて。いや、忘れたフリをして。

いい?昨日は何もなかった。何もなかったけど。」

アンジェリーナの顔が昨日とはまた違った理由で赤い。


「いい?みんなに聞かれても私は何も記憶がないというわ。あなたも何事もなかった様に振る舞いなさい。いいわね。でも私が一緒にずっと居たいって言ったのは本音よ。そこは忘れないで。」

「ずっと一緒に居たいってのは初耳。」

アンジェリーナの頭から湯気が出ているのが見える気がする。この自爆から照れ顔が不覚にも可愛いと思ってしまった。


「あ、そう。そうよ初めて言ったもの。私を振ったら後悔するわよ。」

「今の告白?」

俺のツッコミにアンジェリーナは爆発した。


「あー、そうよ。私はチャンのことが好きよ。でも返事は聞かないわ。だって今は一方通行だもの。今は私意識して顔を赤くしてくれるだけで十分だわ。」

言われて気づく。俺は自分のほっぺを触ると熱かった。


「いい?いつかチャンスがあればもう一度聞くわ。その時私と付き合うか付き合わないか決めて。もちろん、チャンから告白してくれてもOKよ。むしろ私はその方が好きだわ。」


もう知られたから遠慮なく恥ずかしいことを顔を真っ赤になりなりながらも平気で言うアンジェリーナ。


「それまではいつもどおり、平然としていて頂戴。私が意識しちゃうから。」

ここまで正直に言うアンジェリーナに俺は「おう。」としか言えなかった。


上から下まで全身裸のアンジェリーナが急に布団から出て着替え出した。

俺は慌てて部屋からでる。

部屋からでる時「あら、シャイ。見ればいいのに。」といったのはきっと気のせいだ。


俺は自分のベットに戻って出発の準備をする。

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