第29話 君の願いはようやく叶う
⚫︎マヨイ
決闘終了直後、泣き始めたバルスをどう扱えばいいか分からなかった僕は泣き止むのを待った。慰めるために接触してハラスメント行為扱いになるのが怖かったのだ。
「すまない、みっともないところを見せた」
「驚いたけど気にしなくていいよ。僕がいうのもなんだけど、負けて悔しいのは当然の感情だと思うし」
僕だって負けて泣いたことがある。
藍香だってそうだ。
勝つ気でいた対戦での負けは悔しいんだ。
「そ、そうか……さて、ボクはマヨイくんに負けた」
切り替え早いなぁ……
僕としては助かるけど
「だからボクの用件よりマヨイくんの用件を優先させるぞ。仲間と待ち合わせしてるって言ってたけど、ボクと決闘したいって人もその中にいるのか?」
いるけど遠いんだよなぁ……
ここからソプラの街まで最短でも1時間近く掛かる。
それにバルスを僕らの仲間に引き込むためには先にバルスの用件を済ませてしまった方がいい。
「ストップ。先にバルスの用件を済ませないと後で絶対に面倒なことになるんだ。それにバルスが探してる"彩の神殿"の場所ならすぐに分かると思うし」
「え、今なんて言った?」
「だから"彩の神殿"はアルテラの街が出来た頃にはあったんだよね」
「そうクエストの説明文に書いてあっただけだけどな」
「そして僕はアルテラの街が出来た頃の地図を持っている。まだ確認してないけど、たぶん載ってると思うよ」
「そ、そんな地図、何処で手に入れたんだ!?」
別に仲間に引き入れる予定だから教えても構わないのだけど、周りで聞き耳を立ててる連中が邪魔だ。僕は情報の安売りはしないし、売ったり流したりする情報は自分で決めたいんだ。
「歩きながら説明するよ。フレンド申請していい?」
「いいぞ!」
[バルスとフレンドになりました]
僕が申請を送るとすぐに承認されたという連絡が来た。
『よろしく。誰が聞き耳を立ててるか分からないからフレンドチャットで話したんだけど、いいかな?』
『フレンドチャット!おおー!いいぞ、よろしくな!』
僕は"トリスの雑貨店"で手に入れた"アルテラの旧い地図"を取り出して入手した経緯を説明する。
そして気がついてしまったのだ。
『悪い、バルス。僕、この世界の文字読めないんだ』
これは恥ずかしい……
『ならコレをやるよ、対価は空欄でいいぜ』
[バルスからトレード申請が届いています]
◼︎トレード申請
バルス:スキルオーブ"言語学"
マヨイ:
スキルオーブは使用すると特定のスキルを習得出来るようになるアイテムだ。希少性は随分と高く、ゴミスキルと呼ばれるようなスキルのスキルオーブでも1000Rはすると掲示板のトレード交渉板で見た気がする。
『いや、希少なもんだろ?タダで貰うのは嫌だぞ』
『あー、言語学のスキルオーブは図書館に行くと50Rで貰えるんだ。プレイヤーの間では重要だけど住民からすれば必要ないスキルだからな』
『なら手数料ってことで55Rな。もっといるか?』
『タダでいいのに……』
55Rでトレード申請を返すとバルスはしぶしぶといった様子でトレードを受けてくれた。
[トレードが成立しました]
『ありがたく使わせて貰うよ』
[スキル:言語学を習得しました]
言語学を習得するとアルテラの旧い地図に書かれていた読めない文字が日本語に翻訳された。
『ところでバルスは何でスキルオーブを未使用で持ってたんだ?』
『ん?だって、この世界の言葉が分からないなら覚えればいいだけだろ?』
え、まさかと思うけど……
『覚えたの?1つの言語を?』
『まだ普段使いしそうな単語だけだけどな』
すごい。
英語だけで四苦八苦してる僕とは大違いだ。
『地図によれば彩の神殿があるのはこっちだね』
あー、気付きたくない事に気がついてしまった。
地図に書かれた神殿という文字のある場所はアルテラの街の中じゃない。ここは西の森の北側、昼過ぎに熊と遭遇した辺りだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
⚫︎ノウアングラウス
ソプラの街に着いた俺たちは[クエスト:街の復興支援]という繰り返し受注できるタイプのクエストの存在を知った。
経験値の獲得効率も非常に良いクエストだ。
チームのメンバー全員が受注することになった。
「
普段、ゲームばかりで誰かに感謝されることの少ない俺たちにとって、復興作業は非常に心洗われるものだったといえる。
そのせいで経験値効率に目が眩んだという後ろめたさもあるのだが……
「どういたしまして。兵士さん、ここの瓦礫はどこへ持っていけばいいですかね」
「それは街の東側にある集積所までお願いします」
このクエストの厄介な点は瓦礫など撤去の対象をアイテムボックスを利用して運べないことだ。そのため筋力・耐久・敏捷の高いメンバーが瓦礫の撤去、器用・知力・精神の高いメンバーは外壁の修理をしている
「ノウアングラウスさん、こんにちは」
声を掛けてきたのは午前中に圧倒的な実力を見せつけてくれたアイ&ショウの片割れ、ショウ君の相方であるアイちゃんだ。
「こんにちは、アイちゃんも復興作業かい?」
朗らかな声色で話しかけられたことで油断していた。
それに俺は大きな勘違いしていたんだ。
「いいえ、ノウアングラウスさん……というよりKING'Sの人を探していたのよ」
「何かあったのか?」
「覚醒を獲得したまでは良かったのだけど、アバターがステータスに振り回されるような感覚がしてるのよね。よかったらKING'SのどなたかとPvPできないかしら」
『マードック、アイちゃんとPvPしたいって言ってたよな。喜べ、向こうからPvPの申請が来たぞ』
『マジ?予告されてるPvPの大会のためにも情報収集したかったし渡りに船ですね』
すまん、マードック……
たぶん、その船はタイタニックだ。
───────────────
自分の情報を餌にマヨイと遊べないストレス発散と覚醒により上昇したアバターの動作調整、スキル攻撃威力調整の練習をしたいアイちゃんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます