第28話 マリモはうしろで応援してます。

本話から別視点の場合、その部分の始めにどのキャラクターの視点なのか書くことにしました。

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⚫︎バルス


「なら決闘しようよ、僕に勝ったら何でも言うこと聞いてあげる」


「だ、ダメだ!《女の子》が何でもなんて言っちゃダメだ!」


 『何でも』なんて君みたいな美少女が言ったらとんでもないことになるんだぞ!


「は?あのさ、勘違いしてるみたいだけど僕は男だから」


「嘘だ!」


「ひぐ◯しネタはいいから僕の公開情報確認しろよ」


 ひ◯らしネタ?というのは分からないがボクはマヨイちゃん(くん?)の公開情報を確認する。



◼︎パーソナル

名前:マヨイ

性別:

素質:魔術士



「ほんとだ……」


 こんなに可愛いのに男とか卑怯だ。


「それで、決闘するの?しないの?」


「ボクが勝ったらボクが進めているクエストに協力してくれないか」


 ボクの進めているクエストの名前は"聖剣授受(1/3)"というクエストだ。この街が出来たばかりの頃に建てられたという"彩の神殿"に行くだけの内容なので、最初は余裕でクリアできるものだと思っていた。


 最初は他の知ってそうなプレイヤーに聞いて回った。

 普段は使わない掲示板でも情報を募集したが集まった情報は全てガセだった。


 そんな時、住民に聞き込みしたらどうかという意見を貰ったのだ。早速ボクは住民への聞き込みを開始した。


 しかし、どんなに住民に聞いて回っても噴水の中心にある女神像を除いてアルテラに宗教絡みの施設はないと言われてしまった。


 情報を集めるのにボク1人では限界がある。

 そう思ったボクは手伝ってくれるプレイヤーを募集したが、大抵のプレイヤーは二言目には「で、対価は?」とか「で、メリットは?」と言うのだ。


 これまでに稼いだお金は全て装備に使ってしまったし、特にレアアイテムを持っているわけではないボクは引き下がるしかなかった。


 なら初心者を助けて、その対価として手伝って貰うのはどうかと考えて声を掛けたのがマヨイくんだ。


「いいよ、決闘を手伝ってあげる。代わりに僕が勝ったら僕の仲間の1人とも決闘としてくれないかな?」


 こんな旨い話があるか?

 いや、マヨイくんからすれば最初からボクに勝つのを諦めているのかもしれない。何せマヨイくんは魔術士だ。接近戦を許してしまえば戦士のボクには勝てない。


「いや、ダメだ。それはフェアじゃない。勝ち負けに関係なくマヨイくんの仲間とも決闘する。マヨイくんも勝ち負けに関係なくボクのクエストに協力する。それでいいだろ?」


「いいよ、それでいこう」



…………………



……………………………



…………………………………



 決闘を開始してから2分が経過した。

 マヨイくんはボクの想像以上に強かった。


「どうした!防御してるだけじゃ勝てないぞ!」


 左手にナイフを逆手で握ったマヨイくんは、左半身をボクの側に向けていた。またボクの槍による攻撃はマヨイくんを捕られられていない。


 胴に放った突きは回避された。

 即座に引き戻し顔を狙う。


「狙いがバレバレだぞ、当てる気あるの?」


 マヨイは見切ったかのようにスレスレでボクの突きを避けながら一歩踏み出した。

 ボクは慌てて2歩後退する。

 いくら左腕に盾を持ってはいても小回りの効くナイフ相手では不利だ。


「はっ」


 胴への突き、に見せかけた足元への突き。

 さっきと同じように回避すれば、間違いなく足元への攻撃は回避できない。


「フェイント下手くそか」


「なっ」


 胴への浅い突きから本命の足元への突きに移行する一瞬にも満たないような隙をついて、マヨイくんがナイフでボクの槍を大きく払いボクの態勢は右へ流れてしまった。


 このまま斬り込まれたら負けると判断したボクが後退した時、ボクの顔にマヨイくんの右の拳が突き刺さった。


「え」


 マヨイくんの拳によるダメージは想像以上だった。

 筋力への補正がない魔術士が出せるダメージじゃない。


 咄嗟に構えた盾付きの左腕もマヨイの右手に振り払われてしまう。

 あとは喉に吸い込まれるナイフを眺めることしかできなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



⚫︎マヨイ


 決闘開始から1分もしないうちに分かった。

 こいつ、間違いなく僕らと同類だ。


 思考のみでアバターを操作できる特異な才能。

 目の前のプレイヤーは不完全ではあるけれど、間違いなく考えながら身体を動かしている。


 そして文字通り武器の扱いが上手い。

 他のVRゲームで経験があるのか、それとも現実で経験があるのかは分からないけれど、これは槍や薙刀のような武器の扱いに慣れた動きだ。


「どうした!防御してるだけじゃ勝てないぞ!」


 しかも一丁前に煽って来やがる。

 こっちは魔力弾を縛って接近戦の練習をしているのだから攻めてしまっては


 胴から……肩……いや、顔だな。

 残念なことに視線のフェイクはここまでない。

 素直というか実直な性格なのだろう。


「狙いがバレバレだぞ、当てる気あるの?」


「はっ」


 今度は胴に見せかけて本命は太腿か。

 突きの速さは十分だし、何より僕らの同類だ。

 ちょっと面白い一発芸を見せてあげよう。


「フェイント下手くそか」


 胴への突きを引き戻す一瞬、槍の動きが静止した瞬間を狙って槍を弾く。どうやら予想していなかったようで僕の予想より大きく態勢を崩したようだ。


 しかし、判断は早く正確だ。

 僕が左足で1歩踏み出すより数瞬遅れて1歩後退した。

 だから僕はを踏み出すことで空いた間合いを埋めた。そして間髪入れずに右ストレートを憎いイケメンフェイスに叩きつける。


「え」


 そして拳を引きながら相手の左腕に付いている盾を掴んで引き寄せる。あとは引き寄せられた相手の首筋に左手に持ったナイフを突き立てるだけだ。



…………………



……………………………



…………………………………



「うぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


「えぇ……」


 これは予想してなかった……

 マジでどうしよう。


「みぅ?」

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