第30話 話の途中だがワイバーンの群れだ


⚫︎マヨイ


 地図を見ながら神殿を目指した僕らは西の森の入り口までやってきた。この地図、魔力を消費することで現在地が表示される仕組みがあった。


「なぁ、ここ西の森だろ?」


「そうだね」


「まさか、神殿って森の中にあるのか!?」


 傍目から見ても分かるほど腰の引けたバルス、こう言っては失礼だと思うが今の様子なら女だと言われても違和感がない。

 とはいえビビリ過ぎではなかろうか……


「西の森に入ったことないの?」


「しょ、初日に入って大きな猪に食われたんだよ!」


 僕の場合は最初の突進で即死したが、バルスは運悪く生き残ってしまい倒れた状態で自分が食べられる姿を眺めているしかできなかったのだという。

 控えめに言ってトラウマものだ。


「ま、熊よりはマシだと思えばいいよ」


 藍香は少し感性がズレてるので参考にならないが、僕は熊の方が怖かった。エリアボスの猪は見つける前に魔力弾で殺しているからかもしれないが。


「熊!?熊が出る!?鈴!鈴用意してねぇぞ!」


「そこまで強いわけじゃないからいいよ」


 最悪、僕が魔力弾無双すればいいだけだ。


「みぅぅぅ」


「お、マリモが起きた」


「マリモ?」


「そう。僕のテイムしたモンスター」


 バルスにはということはマリモのスキルが正常に働いているということだ。


「何処にいるんだ?」


「僕の頭の上、マリモ、気配遮断を解除して」


 マリモは文字化けしていたスキルの効果で僕以外のプレイヤーからは見えなくなることができる。3つある効果の中では最も地味だけど、街中でジロジロ見られるのが嫌な僕としては大助かりだ。



名称:闥シ轣ー縺ョ逾槫ィ

分類:補助 神聖

対象:自身

射程:なし

効果:移動速度+100%

   攻撃速度+100%

   気配遮断

再使用:なし



 この気配遮断に関しては使用中は他のスキルを能動的に発動できないというデメリットが付いている。それでも十分過ぎるほど汎用性が高いと思う。


「みゅ」


「!?!?!?」


 さすがに驚き過ぎでは?


「可愛いでしょ?」


「お、おう……そ、の、だな……」


「みゅっ!」


「あ、おいっ」


 マリモが僕の頭からバルスに飛び掛かった。


「おっと、はぁ……かぁいい……」


 バルス、キャラどんどん崩れてる。

 慣れないロールプレイしてた感じはあったけど、これが素かな?


「そろそろ行くぞ、マリモもホラっ」


 バルスに抱えられたマリモを引き取るとマリモはもはや定位置となった僕の頭の上によじ登った。


「あ、あぁ……」


 バルスは残念そうな顔をしてるけど、お前は戦士なんだからマリモを抱えたままじゃ戦闘できないでだろ。


 やや意気消沈気味バルスを連れて僕が西の森へ入ろうとした時だった。

 ノウアングラウスさんから連絡が来た。


『ワイバーンが街から少し北西に行ったところにある村を襲っているらしい。数は報告では4体だ。もしソプラの街にこられたら手が足りない』



◆◇◆◇◆◇◆◇



⚫︎マードック


 まぁ……知ってたけどよ

 ただでさえプレイヤースキルは互角、もしくは俺の方が下だというのにステータスで50倍近い差があるのだ。勝てる勝てないではなく、戦闘になるかどうかってレベルだった。


「覚醒しないとPvPはどうしようもないな」


「そうね。私たち以外に覚醒までたどり着いたプレイヤーはまだいないみたいだけど、近い内に覚醒ラッシュでも起こるんじゃないかしら」


「どうしてだ?」


「私たちと同じ方法は難しいとしても、私たちが覚醒する切掛になった信徒系の素質以外でも覚醒へのショートカットが隠されてるはずなのよね」


「アイちゃんたちと同じ方法は取れないのか?」


 難しいというのが覚醒直後の専用クエストの事を言っているのならいい。しかし、専用クエストまでたどり着く方法を模倣するのが難しいとなれば話は別だ。


「無理だとは思わないわよ。ただ比較対象がないから分からないけど、私たちの覚醒したのはユニーク、ゲーム内で1人しか獲得できないものの気がするのよね。だから真似しても下位互換かそもそも覚醒できないって可能性が高いのよ」


 この場合のユニークとは、ゲーム内で1人もしくは極少数しか獲得できない覚醒やアイテムのことだ。


 このゲームにはアイテムにレアリティ表記がない。

 それは安易に価値を知られたくないアイテムがあるからだと公式が回答している。

 そこら辺の石ころが実は──なんてパターンはないと思いたい。


「サービス開始早々にユニークとは運がいいというか、引きが強いというか」


 マヨイが零した話が本当なら俺が同じ引きをしても無理だったろうけどな。アイちゃんより弱いなんて俺らからすれば参考にならない基準だ。しかし、それだけの強敵であったことだけは伝わってきた。

 それを俺が初見で倒せるかは分からない。

 負ける可能性の方が高いだろう。


「そうね、私たちの引きの強さは親譲りだからそこは両腕に感謝ね」


 アイ&ショウは双子同然に育ったそうだが双子ではない。

 当然、それぞれ別の両親がいる。

 特にアイの両親は有名人だ。父親はVRFPS"ISS"の初代世界王者として名を残す夏間祐樹さん、母親は現役のプロ雀士として今も活躍している夏間由香里さんだ。


「マードック、それにアイちゃん、緊急事態だ」


「どうしました?」


 またミライが何かやらかしたか。

 まったく、だから俺は現役女子高生ってだけで対して上手くもない性格にも問題のあるやつをチームに入れるのを反対したんだ。


「ワイバーンが来るのね?」


「そうだ。一応マヨイ君にもフレンドチャットを送ったが間に合うか分からない。マードック、悪いが街の北からワイバーンに追い立てられたモンスターが多数現れた。兵士の話では相当素早いモンスターのようだ、街の兵士たちだけで対応できるか分からない。救援に向かってくれ」


「私はどうしたらいいかしら」


「アイちゃんにはワイバーンが現れたらしい北西にある村に向かって欲しい。代表の話では数は4、ワイバーンの討伐より生存者の救出を優先して欲しいとのことだ」


 普通なら逆じゃねぇのかとも思ったが言わないでおく。

 ゲームの世界の住人、データでしかない存在だとしても見捨てたら寝覚めが悪いからだ。


「ならショウとクレアには防衛戦をやらせて。私はワイバーンの強さを少し確認してくるわ」


 確かにそうだ。

 現時点でアイちゃんに倒せない相手に勝てるのはマヨイしかいない。ワイバーンに一当てして強さを測るのは悪いことじゃないはずだ。


「頼もしいな」


「ありがとう。ショウ、クレア、聞いていたわね」


「「はい!」」


 瓦礫の山の蔭にいたらしい2人には俺以外は気がついていたらしい。ノウアンさんを恨みがましく睨め付けると大きなため息をつかれてしまった。


 よし、初の防衛戦といきますか!



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ジャンル:SFで週間ランキングに載っていた事を知り嬉しさの余りベッドから落ちて首を痛めたアホです。


ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。今から今日の17時更新用の話書くんだ(喜び勇んでストック消費する悪い例

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