閑話 そのゲームのタイトルは?
時刻はマヨイが1度目の配信を終了した正午まで遡る。
日本から遠く離れたイギリス、ロンドンの中心部に近い高級ホテルの一室で熟睡していた
『今何時だと思ってるのよ、クソ雑魚ジョージ!』
電話の主は
戦歴は過去に出場した大規模な大会では決勝進出率が90%を超えるまさに怪物。しかし、決勝戦や大切な試合になると決まって調子を崩し、初心者でもしないようなミスを連発することから
『午前3時を回ったところだ。ジル、そんな事はどうでもいいんだ!ビックニュースだよ、アイ&ショウが復活した!』
『なんですって!?』
そう叫ぶジュリアも負けてない。13歳の時にVR格闘ゲーム"DFS"の世界大会で初めての入賞を果たしたのを皮切りに様々なジャンルのゲームで輝かしいまでの戦歴を誇っている。
昨年には"DFS"の世界王者に弱冠16歳の若さで登り詰めた。
『…………また偽物じゃないでしょうね?』
そんな華々しいジュリアの戦歴の中に今でも残る
13歳という年齢で世界大会を勝ち進んだ彼女に舞い込んで来た様々な依頼の中で、一際異質だった『私たちに勝ちなさい。勝てないようならば同世代最強は名乗らせない』という拙い英語で書かれた挑発文。その送り主は日本では有名らしい2人組の動画配信者だった。
その配信者の歳はジュリアよりも2歳下だ。当時のジュリアには同世代最強のゲーマーという自負と自信があった。しかもアイ&ショウから指定されたゲームはジュリアが世界大会で入賞した"DFS"だ。負けるわけがないと、ジュリア・ウォーカーこそが同世代最強のゲーマーなのだと証明する為にジュリアはオファーを受けた。
結果は敗北。それもジュリアの自尊心を凌辱するかのような苛烈な仕打ちを受けての敗北だった。
『本物さ。彼女たちのアカウントが使われている。間違いなくアイ&ショウだ』
『あは、あははははははははは!やっと、やっと、やっと帰って来たのね!ジャンルは何?FPS?Fighting Game?どんなジャンルだっていいわ!今度は、今度こそは、私が上だって、プロゲーマーを舐めるなって、あのレズカップルに言ってやるのよ!』
その翌年の冬、突然に彼女らは引退を表明した。
彼女らが最後のイベントとして企画したのは"Island Survivors"(通称ISS)というFPSでの2vs58のカスタムマッチだ。参加メンバーを募集していると聞いたジュリアは彼女たちにリベンジする機会を逃したくない一心で立候補した。
ちなみにジュリアがジョージと知り合ったのはこの時だ。ジョージはFPS専門のプロゲーマーでありながらFPSとは無関係なゲーマーからも"アイ&ショウの最初の犠牲者"ということで広く知られている。
現役のプロゲーマーであるにも関わらず、まだ10歳にも満たない子ども2人に自分から指定したゲームで負かされたジョージはリベンジに燃えていた。
集まった58人はドリームチームだった。
彼女らに敗北したことのあるプロゲーマーたち、彼女らを倒して名を挙げたいと考える若手のプロゲーマーたち、プロゲーマーではないがアマチュアとして名の知れたゲーマーたち。まだ
試合開始から15分が経過した頃、ユウキ・ゲマとジョージがアイを倒した。それまでに21人が敗退していた事を考えれば不甲斐ないと言われてしまうかもしれないが、ジュリアを含めて生き残っていたメンバーの多くは勝ちを確信した。
その直後、例外的に気を引き締めていた日本チャンピオンのケンゴ・マサキの叫び声がフィールドにこだました。
────気を引き締めろ!世間的にアイ&ショウはアイの方が上だとされちゃいるが、ショウの方が対人戦闘においては遥かに異常なんだからなっ!
その直後、チームの指揮を取っていた世界ランキング10位のマイケルが死んだ。その次に警告を送ってきたケンゴ・マサキが、直後にはジョージとユウキ・ゲマが立て続けに死んだ。
そしてアイを倒してから30分足らずの間にジュリアを含めた37人は、ショウという名の死神の手によって葬られたのだった。
その後、アイ&ショウは対戦した相手と健闘を称えあった。アイは悔しそうにジョージとユウキを見ながら拗ねていたが。
そして最後に「もう一度だけ"DFS"で再戦して欲しい」と頼むつもりでいたジュリアは、
────彼女、アマチュアの人でしたっけ? 最後まで粘ってましたよね。まだ若そうだし頑張ればプロゲーマーとして活躍できると思いますよ。
というショウの言葉によって心が折れたのだった。それから配信終了までの事をジュリアはほとんど覚えていない。
『彼女たちが現れたのは日本時間で2日前に発売されたMMORPGだ。動画が配信されたのは20分前になる。どうやら人気だけが取り柄の女性プロゲーマーとそのの取り巻きをショウが1人で倒すという趣旨だったらしい』
『そのゲームのタイトルは?』
『おいおい、そのゲームは日本でしか遊べないマイナーなゲームだ。わざわざ君が出向く必要はないだろう』
『ジョージ忘れたの?私たちは負けたのよ。今でも偶に夢に見るわ。だから──』
『だから?』
「今度は
『すまない、日本語なのは何となく分かるが僕には何と言っているか分からなかった。何て言ったんだい?』
『っ〜〜!さっさとアイ&ショウのいるゲームのタイトルを教えなさいよ!』
このジュリア・ウォーカーが簡単な勘違いからマヨイの逆鱗に触れてしまうのだが、それはまだ先のお話。
─────────────
ここまでの話を読み返すとワンパターンな戦闘(蹂躙?)とワンパターンなざまぁ(契約or通報)ばかりで読み物として下の下もいいところでは?と思ってしまったので閑話として本話を挟みました。
ジュリア・ウォーカーとジョージ・ベネットの本編への合流はまだ先になりますが、私としては割と気に入ってるキャラたちです。
早めに登場させてやりたい……
ちなみにジュリアはアイ&ショウを同性愛者のカップルだと今も勘違いしている少し残念な子です。本文の彼女の発言はその勘違いから来るものであって誤用ではありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます