第25話 運営が神様です。


「マリモじゃん」


 マリモだった。

 いや、触れてみると僅かな脈動を感じる。

 光っているわけだし、マリモに見えてマリモじゃないのかもしれない。


【草】

【草】

【マリモなだけに草】

【大仰な名前のマリモ】

【これテイムするの?】

【アイ:かわいい】


「テイムするよ、そのためにテイムを習得たんだし」


 藍香が言外にテイムして連れて来てって言ってるしね。僕としても魔力を注ぐとどうなるのか興味がある。


【マジで?】

【ネタに走るの珍しいな】

【わりと効率求めてるとこあるよね】

【アイちゃんに見せる目的で効率捨てたなww】

【尻に敷かれてるよな】

【それは昔からだ】


[龍脈の霊根をテイムしました。名前を設定して下さい]


「マリモに名前を付けろと言われても……」


【アイ:マリモちゃん】

【はい、決定】

【まー、実際はマリモじゃないしな】

【精霊の卵みたいなもんだったな】

【マリモのインパクトデカすぎ】


「マ、リ、モ、っと」


[マリモに魔力を注ぎますか(0/100000)]


 名前を付けた途端におねだりか?

 これがネコ科動物なら可愛げもあるけどマリモだからな……


「マリモに注ぐための魔力が足りてない」


 これは半分嘘だ。このゲームのプレイヤーが持つ体力と魔力はどちらも1秒間に最大値の1%回復する。自然回復量が減少するようなスキルや装備などの影響を考えなければ1分40秒で必ず体力と魔力は最大値まで回復する。僕の最大魔力量から計算すれば30秒も掛からずに10万の魔力を与えることができる。


【マヨイの魔力量で足りない?】

【少なくとも17万近くあるよな?】

【要求値いくつなの?】

【これ俺らが手に入れても無駄なやつか】

【公式ランキング更新されたぞ!】


「1、10、100、1000……10万って書いてある」


【俺、魔術士だけど魔力300ちょいだぞ】

【余裕ある時に注ぐとしたら何日掛かるんだ……】

【理論上、魔力300なら2日】

【机上の空論やめーやw】

【マヨイでも即は無理でしょ】


「魔力弾10000発分だから割と余裕」


【そうだった……】

【ステータスランキング独占じゃん】

【アイちゃんが筋力と耐久、他はマヨイか】

【覚醒するとそんな強くなるの?】


「覚醒すると別のゲームになるのは間違いないね。ただ覚醒すると専用クエストを強制的に受けさせられるんだ。僕もアイもクリアしたから問題は失敗した時にどうなるか分からないんだよね」


【そのクエストの内容は?】

【失敗したら覚醒取り消しとか?】

【あー、ここの運営ならやりそう】

【覚醒するための条件はハッキリしてるの?】


「アイから聞いた話と合わせると強制的にレベル1になる専用フィールドでアイより少し下の戦闘技術を持った人型ボスとタイマンだと思う。ただ、僕らは似たような覚醒先だったので似たクエストを受けただけかもしれません。全く違う覚醒先にたどり着いた人がどうなるかまでは分からないです」


【普通に無理でしょ】

【強制レベル1は酷い】

【いや、ステータスのゴリ押しされないためじゃないか?】

【アイちゃん?の戦闘見たことない】

【VR格闘ゲームの名作、DFSの世界大会入賞者を小6の時にフルボッコ】

【そのアイちゃんがDFSで勝てないのがマヨイ】

【やっぱり人類じゃねぇ】


「はい、他ゲーの話は控えてね。魔力回復したからマリモに魔力注ぐね……え」


 魔力は『マリモを対象に魔力を使用したスキルを使用する』という方法で与えるらしい。そのスキルによって生まれる精霊の性能や性格が変化するとかだったら魔力弾は不適切だ。


「攻撃威力調整+100%からの魔力弾×5000」


 まぁ……テイムモンスターは受け渡し可能なようだし僕の劣化版になったらクレアちゃんに譲るとしよう。


【マリモにヒビ入ってんぞ】

【ダメだ、魔力弾の威力が強すぎたんだ】

【実際にありそう】

【何故威力2倍にしたしw】

【エリア吹っ飛ばす威力の魔力弾を受けても消滅しないマリモ】


 加速度的にマリモの表面にヒビが広がっていく。

 あっという間にマリモの表面をヒビが覆ってしまった。



────────パリンッ



 マリモの表面が弾け飛んだ。

 その中から現れたのは翼の生えた……猫かな?

 毛並みも翼もどちらも蒼みがかった灰色でふわふわしている。


「みゅ♪」


「可愛い」


【アイ:可愛い】

【可愛い】

【可愛い】

【可愛い】

【可愛い】

【可愛い】


「みゅ!」


 マリモは生まれたばかりだというのに俊敏な動きで僕の懐に飛び込んで来た。反射的に抱き留めたマリモはほのまま目を閉じて動こうとしない。今のうちにステータスのテイムの欄からマリモの欄を確認しよう。



◼︎パーソナル

名前:"蒼灰そうかい翼虎よくこ"マリモ

種族:翼虎[亜精霊]

性別:雌

位階:1


◼︎スキル

虎咆こほう

②騎獣の心得[使用不可]

③攻撃威力調整

④ 闥シ轣ー縺ョ逾槫ィ



「あれ、テイムしたモンスターの能力値って確認できないの?」


【名前の前の蒼灰の~は称号?】

【二つ名みたいなのじゃない?】

【テイムの習熟度を上げると見れるようになる】

【文字化けスキルなんて初めて見たぞ】

【攻撃威力調整持ってるの狙った?】


「ありがとう、テイムモンスター枠が増えるだけじゃなかったんだね。あ、スキルの効果に関しては秘匿させてください。コメント欄を見る限りでは①と④は未発見のスキルみたいだけど①は戦略上の理由で④は文字化けしているので説明できません」


 実は④のスキルは効果までは文字化けしていなかった。しかし、僕や藍香の神威スキル並みの性能だ。これを公表するのは僕の大嫌いなチートや改造の疑惑だけでなく、藍香たちのゲーム環境の悪化にも繋がりかねない。


【文字化けは仕方ない】

【対人戦のこともあるしね】

【は?配信者なんだから隠し事すんなよ】

【スキル名晒して良かったの?】

【文字化けとかチートでもしてんだろ】


 アイ&ショウとして活動していた頃のリスナーさんたちは僕らが自分の情報の安売りをしないのを理解してくれている。今日から配信を観てくれているリスナーにも理解してくれている人は少なくないようだ。

 そもそも対人戦のことを考えれば自分の情報を晒す危険性は無視できない。それに僕は配信者である前にゲーマーなのだ。勝つための手札を過剰に晒すような真似はしない。


【は?視聴者は神様だろうが!】

【この後の展開が読めた】

【チート通報余裕だったわ、死ねよクズ配信者】

【あー、これはキレてる】


 それを理解できないで騒ぐ人はいる。

 一番簡単な対処方法はスルーすることだ。騒ぐのが楽しい人は無視され続ければ楽しくないから騒ぐのを止める。正義感など別の理由で騒いでいる人も無視され続ければモチベーションが保てずに騒ぐのを止める。

 しかし、今なら他の方法も取れる。


「もしもし運営さん、ゲーム内で不適切な暴言、誹謗中傷を受けました。どう対応すればいいですか?」


 虎の意を狩る系配信者ですまんな。


「きゅぅ……」


 マリモ、お前のことじゃない。



───────────────

次話は久しぶりの閑話ですが、今回は掲示板回ではありません。さすがに話中の時系列が進んでなさすぎて書けませんでした泣


ここまでワンパターンな展開が続いているので息抜きになればと思います。

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