第22話 攻略サイトの評価を鵜呑みにするな


 雑木林の奥から獰猛な鳴き声が聴こえてくる。

 それも1匹や2匹じゃない。

 広域探索で確認すれば少なくとも50匹以上、もしかしたら100匹近いかもしれない。


【いや、多すぎ】

【1◯1匹わんちゃんかな?】

【でもさ、似たような光景を午前中も観たぞ】

【せやな】

【せやな】

【いや、あの時のプレイヤー1匹より犬のが強そう】


「たぶん犬のステータスはレベル17~18のプレイヤーと同じくらいだと思うよ。体感でしかないから分からないけど」


 後日、検証班が調べてくれた。

 筋力と敏捷に特化したレベル15~16のプレイヤーと同程度のステータスだったらしい。


【今の準トッププレイヤー並みが少なくても80匹】

【それ+エリアボスだろ?】

【だいぶキツそうだよな】

【魔改造魔力弾の弾幕でどれくらい削れるか】

【あ、エリアボス出てきた】


 奥から現れたのは他のドーベルマンモドキよりも1回り大きな身体のドーベルマンモドキだった。まるで旧約聖書に出てくるモーセの海割りのようにドーベルマンモドキが道を開ける。

 演出なんだろうけど凄くカッコいい。


「魔力弾× 17243」


 今度は意図的に攻撃威力調整をせずに魔力弾を使う。

 『ムービー中は無敵!』って可能性もあったので使用する魔力は現在の最大値の半分だ。もちろん、エリアボスだけでなく、他のドーベルマンモドキにも攻撃が当たるよう適度に分散させた。

 次の瞬間、僕の視界は灰色に染まっ──


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッッッッッッッンン


 轟音。そうとしか喩えらない連続した爆発音が収まっても土煙りまでは簡単に晴れてはくれなかった。

 まだ耳鳴りがする。耳栓はどこかに売ってないだろうか。


【いちまんななせん……?】

【つまり魔力17万はあるってことやな】

【エリア「魔力弾には勝てなかったよ」】

【エリアボスじゃなくてエリアなの草】

【お、晴れてきた】


[The Mountain Dog Readerを倒した]

[称号:ソプラ山麓の解放者を獲得しました]

[装備:山犬の長なりきりセットを獲得しました]

[素材:山犬仙骨を獲得しました]

[ワールドアナウンス:ソプラ山麓のエリアボスが初めて討伐されました]


「エリアボスに勝ったよ!」


【数撃てば環境も壊せる、だな】

【おめでとう】

【アイ:おめでとう。装備はどんなの?】

【初回だから確定レアドロップか】

【おめでとう】

【おめでとう!】


「ちょっと装備の性能確認するから待ってね」


 やはり初回ドロップが気になる人は多い。

 そしてボスドロップなだけに性能は悪くない。

 問題は見た目だけだ。


「うん、強いね。強いよ、強いんだけどさぁ……」


【何か問題ある装備か】

【あるとしたら名前か見た目】

【犬からのドロップ】

【分かった】

【これは見たい】


 まぁ……別にいいか。

 神器と違って隠す必要はないし、何より強い。


「これでどうだぁぁぁぁ」


名称:山犬の長なりきりセット

分類:装備

部位:頭

効果:筋力+5%

   敏捷+5%

   成長装備

制限:譲渡不可

   売却不可


【これは可愛い】

【犬耳ショタ可愛い】

【尻尾も生えてるじゃん】

【成長装備ってなんぞ】

【ステータス割合強化は今微妙か】



「褒めてくれるのは嬉しいけど僕は高校生だからね。断じてショタではないよ。成長装備は装備している間に獲得した経験値の一部が装備に蓄積されて性能が強化されていくみたいだね」


 ステータスは割合強化の方が嬉しいね。

 筋力は素質や覚醒の補正がないから低いけれど、敏捷は5%上昇するだけで2000以上も上昇するのだ。


「リザルトも終わったし進むね」


【マヨイは汎用スキル取ってるの?】

【スキル構成気になる】

【同じスキル構成にしても同じことはできないぞ】

【同時に魔力弾を別々のターゲットに当てるとか普通は無理】

【それでも気になる】


「汎用スキルは攻撃威力調整と頑健を取ってるよ」


 頑健は森で熊で遊びながら習得した。

 しかし、頑健の習熟度を上げるには、状態異常になるかダメージを受けるかしないとならない。先制ワンパン状態の今の僕では習熟度を上げるのは難しいので少し困っている。


【攻撃威力調整なんてあった?】

【あるぞ、サイトの評価は10点満点で0点だけど】

【ゴミ認定されてますやん】

【頑健は取るよね】

【マヨイは完全に後衛だけど腐らないの?】


「さっきの魔力弾をオープンフィールドで使ったら大惨事間違いなしなんだよね。その調整のために習得しました」


【納得】

【PKするつもりなくても巻き込みそうだもんな】

【なるほど】

【それくらいしか使い道ないスキルだしな】


「習得してから気がついたけど、攻撃威力調整は間違いなく頑健並みのぶっ壊れスキルだよ?」


 これに気づいたのは偶然だったけど、使いこなせたら相当強い仕様だったので、アイたちと情報を共有する前に運営に問い合わせて仕様であることを確認したくらいだ。


【それはないってw】

【さすがに冗談でしょ】

【公開されてる効果読んで来たけど普通にゴミじゃん】

【嘘は良くないぞ】


「攻撃威力調整は発動には再使用時間は設定されてない。もちろん発動コストもない。そして発声しなくても好きなタイミングで発動させることができるんだよ?」


【アイ:私も習得してるわよ】

【アイちゃんまでw】

【あ、分かった。使いこなせたらヤバイ】

【え、分からん】

【理解した。これ0点付けたサイトほんとアホ】

【どういうことなの?】


「攻撃威力調整は通常攻撃の威力も-99%から+100%の範囲で調整できるんだよ。使いこなせたら通常攻撃の威力がデメリットなしで2倍になるスキルのどこがゴミなのって話さ」


 火力不足でボスが倒せずにいるプレイヤーも多いはずだ。この情報が広がれば西の森を突破できるようになるプレイヤーも増えるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る