第27話「2人で一人前。」

第4クオーター開始


八中のオフェンス


けんちゃんはガードがハーフラインを超えたところでマンツーに入った。


僕はというと、


(さぁ〜。どこまでもつか分からないけど我慢くらべだ!!。タケル君も少しは疲れてるはずだ。)


独りオールコートマンツー。1年の時に披露して以来、僕の代名詞となりつつある。


「ほぉ〜。あれが大泉君のオールコートマンツーかぁ〜。さぁ〜タケルにどれだけ通用するか見せてもらおうか!。」


(僕は美和先輩から色々教わってきた。今は基礎が大切だと。タケル君の様な天才とは違うけど、ここで負けたらなんか美和先輩に申し訳ないや。)


「腰を落とす、一歩目の蹴り足は力強く素早く、手を上げる、ボールと相手が見える位置、味方と敵の位置を把握する、相手の目を見る・・・。あれ!。まだ何かあった様な気がする。」


僕が独り言を言いながらディフェンスしていると、


「ブツブツ言ってるけど集中してやってくれよ!。せっかく良い感じなのに。」


と、タケル君が話しかけてきた。


「ご、ごめん!。」


(あっ!!。思い出した!!。全集中だ!!。)


「よしっ!!。」


僕は頬を叩き気合を入れ直した。


キュッキュッ!


タケル君の動きに合わせ、僕は必死にステップを繰り出す。


(よしっ!!。何とかついて行けるぞ。)


そう思った瞬間


「あめぇ〜!。」


と、タケル君は言って急にペースを変えた。


僕が気を緩めた瞬間だった。


あっさりと振り切られ、タケル君にボールが渡ってしまった。


(やられた!。一瞬でもいけるなんて思っちゃいけなかった!。)


「コータロー君!!。自分の良いところを思い出して!。」


と、美和先輩が叫び


「あほぉ〜!!。一番最初を思い出せぇ〜!!。」


と、里美先輩が叫び


「俺たちの時間を無駄にする気かぁ〜!!。」


と、パパさんが叫んだら。


(僕の良いところ・・・。一番最初・・・。俺たちの時間・・・。)


中学に入ってからの事を思い出す。


(確か本当の一番最初は、身体能力テストだっけ?。あの時言われたのは・・・。動体視力、頭が考えた事を瞬時に体が反応する早さが優れてるのと、心肺機能が優れてるのと、視野の広さだったかなぁ〜?。あとは何かあったっけ?。)


「コータロー。多分、お前はディフェンスだけならタケルに勝てるぜ。」


と、けんちゃんが話しかけて来た。


「いやぁ〜。でも今あっさりやられたばっかだし。」


僕がそう言うと


「お前が勝てなきゃ、この試合は負けるぜ。西中の負けだ。」


と、けんちゃんが続けた。


人のスイッチは何で入るか分からない。特に幸太郎の様に自分を過小評価する人間は。


(僕が、タケル君に負けたら西中が負ける?。それはダメだ!。僕は出来の悪いキャプテンだけどそれだけは嫌だ。少しでもみんなの役に立たなきゃ!!。)


僕の全身から湯気の様なものがたちのぼった。


(最初に褒めてもらえた事と、今まで努力してきた事を全て合わせてみよう。体はまだまだ動くし。)


僕は再びタケル君に対してオールコートマンツーを挑んだ。


(相手が嫌がる事も意識しなきゃ!。)


幸太郎は、ここまでタケルの観察を続けたがウイークポイントを見つける事が出来なかった。


ただ自分の方が体力的に少し余裕があると言うことだけは何となく分かった。


(タケル君の様にオールラウンダーな相手に対しては全ての動きに対して一早くベストな体制でディフェンスしなきゃいけない。)


幸太郎はこの2年間、全てのポジションを相手にディフェンスをしてきた。


ここでその全てが生きる!。


(タケル君が外に開いた!!。腰を落として蹴り足が弱くならないギリギリまで脚を開く。相手の腰あたりに左手を当て右手はボールに。)


(なるほど。良いディフェンスをするじゃねぇ〜か!。)


タケル君は次にハイポ付近に移動した。


僕はディナイでついた。


ガードはけんちゃんが抑えている為に、タケル君にボールが入る事は無かった。


(コイツと言うか、コイツらやべーな!。俺がどう動いてもボールが回ってきやしねぇ〜。)


「コータロー君だけでも、池内君だけでもダメだったかもしれないわね。」


と、美和先輩が言い


「まぁ〜勝てると決まったわけじゃないけどね。」


と、里美先輩が言い


「はぁ〜情けねぇ〜。」


と、パパさんが言った。


(今日は一段と調子が良いみたいだな!。これなら逆転までいけそうだ。)


「コータロー!!。このまま行くぞ!!。」


「おうっ!!。」


しかし、その考えは甘かった


「はぁ〜はぁ〜はぁ〜。」


「ちょっとキツイかも。」


「やっぱ、先輩達はスゲェ〜な。」


僕には、まだまだ余裕があったが後輩達の体力が限界に達していた。


それでも僕とけんちゃんは相手のガードとエースを抑え続けた。


別のポジションで得点は量産された。相手のディフェンスに対して、まともに勝負できるのが僕とけんちゃんだけの状況で、けんちゃんにはタケル君がついていた。


(さすがにここまでか。)


ピピィ〜


長い笛のねが鳴り響いた。


「試合終了ぉ〜!!。」


全員がセンターサークルに集まり礼をする。


「あざっしたぁ〜!!。」


二階で観ていた男性は、


「決まりだな。」


と、つぶやいた。


「いやぁ〜オメェらスゲェ〜な!!。最後なにもやらせてもらえなかったよ。今度は大会で会おうな。」


タケル君が寄って来て、そう言った。


「次は負けねぇ〜からな。」


と、けんちゃんが返し、


「大会まで余り時間はないけど、もう少し強くなれる様に努力してみるよ。」


と、僕も返した。


「ちなみに、お前ら2人って、どっちがうめぇ〜んだろうな?。まぁ〜いいや。またな。」


タケル君は最後にそう言い残し去って行った。


(考えた事もなかったけど、けんちゃんに決まってるよ。さぁ〜明日からまた頑張らなきゃ。)


「お疲れ様。なかなか良い試合だったよ。」


と、美和先輩が寄って来た。


「負けちゃってすみません。結構頑張ったんですけど。」


「まぁ〜伊東君相手にあそこまでやれただけでも凄いと思うよ。って言っても、こっちは2人がかりだったけどね。明日からは下級生も含めて個人トレーニングも強化しよっ!。大会までに出来る事はまだまだ沢山あるから。」


「そうですね。引き続き宜しくお願いします。」


美和先輩は、ニコッと微笑んで


「任せなさいっ!。」


と、胸を拳で叩いた。


一連のやりとりを見ていた愛ちゃんが、


「コータローセンパァ〜イ!。お疲れ様でぇ〜す。早く汗をふかないと風邪ひいちゃいますよぉ〜。」


と、割って入って来た。


僕達は苦笑いを浮かべながら、


「それじゃ〜美和先輩。また。」


「うん、」


そう言って別れた。


その後も大会まで西中は走り続けた。













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