第22話「べぇ〜!!。」

今日は学校も部活も休み。例によって美和先輩の家(ジム)に溜まっていた。


「美和先輩!。マシーンを使ったジャンプ力強化のトレーニング方法を教えて下さい。」


僕は、この前の歓迎試合でダンク出来なかった事を思い出していた。


ボールはリングの2/3を超えた所でリングに当たりボードで跳ねた。


(あの時、思ったよりも高く跳べた。あともう少しかもしれない。)


マンガでもNBAでもダンクは珍しくない。だが実際に中学生や高校生の試合でダンクを見る機会はほとんどない。


(一度で良いから試合でダンクを決めてみたい。)


これは幸太郎がオフェンスに対して初めて持った欲だった。


僕の言った事に対して美和先輩は、


「ジャンプ力を上げるには強く地面を蹴るためにふくらはぎとモモの瞬発筋を鍛えないといけないのと、ボディーバランス、それにタイミングを養わないといけないから・・・。」


と言い、考え込んだ。そして


「もしかして、コータロー君、ダンクしたいとか思ってる?。」


僕は頭をかきながら、


「ばれちゃいましたか。リバウンドの強化になればとも思っていますけど、試合でダンクを決めてみたいんです。」


と、答えた。美和先輩は、


「ダンクかぁ〜。」


と言い、再度考え込んだ。


そして、


「ちょっと時間くれるかな?。おねぇ〜ちゃんとパパにアドバイスをもらってくるから。」


と言い、事務所に行った。


美和先輩が戻って来るまで、僕はいつもの様に自主トレをして待った。


そこへ、


「コータロー!!。やってんなぁ〜。」


と、けんちゃんが現れた。


続いて、


「こぉ〜ちゃ〜ん!!。」


と、愛ちゃんが姿を見せた。


(げっ!!。何で愛ちゃんがここに・・・。)


「けんちゃん・・・ちょっとちょっと。」


僕は、けんちゃんを呼び付けて


「何で愛ちゃんが来るんだよ!。」


と、聞いた。


「いやぁ〜。ここに来る前にスポーツ用品店に寄ったらたまたま会っちゃってよ。これから何するんですかって聞いて来たから、コータローと自主トレって言ったらついて来ちまったわけよ。」


けんちゃんはニコニコしながら、そう言った。


「まぁ〜来ちゃったもんは仕方ないけど・・・。」


「コータローもおもしれぇ〜よな。美和先輩に秋山だろ。モテモテじゃんかよ。」


けんちゃんは口に手を当て、ニタニタしながら言った。


「分かってるなら勘弁してよぉ〜。」


「まぁ〜いいや!。さっさとトレーニングしよぉ〜ぜ。」


僕は煩悩を消す様にトレーニングに没頭した。


しばらくして美和先輩と里美先輩、パパさんがジムに戻って来た。


「よぉ〜!。コータローはダンクがしたいんだって?。10年早くない?。」


と、里美先輩が言い


「相変わらずスケールだけはでっけぇ〜な。」


と、パパさんが言った。


「やっぱり中学生でダンクはきびしいですかね?。」


そう言った僕に対して、美和先輩は


「コータロー君ならきっと出来るよ。」


と、笑顔で言った。


(美和先輩は相変わらず可愛くて優しいなぁ〜。高校生になって可愛さに磨きがかかってるし。)


僕は美和先輩と話す時、鼻の下が少し伸びて、デレデレする癖があるらしい。


そんな僕の姿を、ジムの端で見ていた愛ちゃんは、


「こ〜ちゃん。その人誰ぇ〜?。」


と、割って入って来た。


それを見たみんなは、


「おっ!!。コータローが女を連れて来たぞ!。」


と、里美先輩がニタニタしながら言い


「ずいぶん可愛らしい子じゃねぇ〜か!。美和とよりお似合いだぜ。」


と、パパさんが言った。


美和先輩は少し顔をこわばらせて、


「コータロー君。あの子は誰?。」


と、僕に聞いた。


僕は少し慌てて、


「あの子はバスケ部のマネージャーで、僕の家の近所に住んでて昔馴染みなんですよ!。」


と、答えた。


「へぇ〜そうなんだぁ〜。それなら別に良いんだけど。」


美和は目を細めながら、疑いの目で幸太郎を見ながらそう言った。


「さて!。気を取り直してトレーニングメニューを作って来たから見てみて。」


「ありがとうございます。」


僕はトレーニングメニューに目を通した。


「しかしマンガオタクのコータローがダンクに目覚めるとはねぇ〜。」


と、けんちゃんが言った。


「どうせ一生懸命やるなら、とことんやってみたいと言うのはたてまえで・・・。本音を言うと、オフェンスでも相手が驚く様な事がしてみたいんだよね。」


「へぇ〜。まっ、いいんじゃね!。そのトレーニング、俺も一緒にやらせてもらうかな。」


実は、賢も歓迎試合の時、幸太郎が外したダンクシュートをタップした際に自分が思ったより高く跳べていた事に驚いていた。


(まぁ〜コータローと一緒にトレーニングやってりゃ、奇跡の一つや二つはおきるだろ。)


その日は下半身と体幹を鍛えるトレーニングを中心にこなした。


僕達がトレーニングをやっている最中、愛ちゃんは里美先輩とずっと話し込んでいた。


「コータロー!。今日はこの辺にしてかえろぉ〜ぜ。」


「そうだね!。」


僕とけんちゃんは更衣室で着替え外にでた。

いつもなら美和先輩が見送りに来るのだが今日は出てこなかった。


僕達は3人で歩き出した。


「コータロー先輩は美和先輩の事が好きなんですか?。」


愛ちゃんの問いに、


「そうだなぁ〜。」


と、答えた。


「それじゃ〜やっぱり美和さんに余計なこと言っちゃたかも。」


「へっ?!。何言ったんだ?。」


「一緒にお風呂入ったり、同じ布団で寝たりした事とかぁ〜、あいがこうちゃんのこと好きな事とかぁ〜。」


「へぇ〜そうなんだ。」


僕は冷静を装ったが、心の中では


(うぉ〜マジかぁ〜!!。なんて余計なことを!!。それで美和先輩は見送りに出て来なかったのかぁ〜!。)


「怒らないの?。」


と、愛ちゃんが聞いて来た。


「別に昔の話だし、そんな事でいちいち怒ったりしないよ。」


僕はそう返した。


「コータロー!。ずいぶん余裕じゃねぇ〜か。さすがは年上の男って感じだな。」


けんちゃんはニタニタしながらそう言った。


(けんちゃん!。頼むから俺の気持ちを逆撫でする様な事は言わないで。)


そんな僕に対して、愛ちゃんは


「私がこうちゃんを好きなのは現在進行形だからねぇ〜。ベェ〜だ!!。」


と、アッカンベーの仕草で言った。


(まさかとは思うけど、帰ったら美和先輩にLINEをしてみよう。)


その日の夜、幸太郎は携帯を持ったまま美和にLINEを出来ずにいた。


「あぁ〜ダメだぁ〜。」


(何を言っても話がややこしくなるだけな気がする。今日はやめておこう。)


「今日はマンガを読んでねよう。」


その日の夜、幸太郎が手にしたマンガは


I's(アイズ)


だった。


一貴、伊織、いつきの関係を描いた高校生恋愛マンガ。


「マジかぁ〜一貴。羨ましすぎるぜぇ〜。」


「伊織ちゃんと、いつきかぁ〜。どっちも可愛すぎだろ。」


この日の幸太郎の独り言は、いつもより大きく、大泉家に響き渡ったと言う。













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