第21話「コータロー先輩。」

次の日から愛ちゃんは男バスのマネージャーとして部活に参加した。


「こーちゃん部長!!。何かお手伝いする事は、ありますでしょうか?。」


と、愛ちゃんが大声で聞いてきた。


「愛ちゃん!。ちょっとちょっと。」


僕は手招きして愛ちゃんを体育館の端に呼んだ。


「愛ちゃん!。部活中に、こーちゃんはヤメてくれるかな?。俺も一応3年だし。」


「じゃぁ〜なんて呼べばいいの?。」


「普通に、大泉部長とか大泉先輩でいいんじゃない?。」


「今更そんな他人行儀な呼び方なんて嫌ですぅ〜。」


と、愛ちゃんが言った。


(まぁ〜確かに付き合いも長いし、変に気を使わせ過ぎる必要はないかぁ〜。でも、さすがにこうちゃん部長はまずいよなぁ〜?。)


僕が考えていると、愛ちゃんが急に腕を組んで来て下から僕を見上げる様に、


「コータロー先輩。」


と、言った。


(うぉ〜愛ちゃんカワイし柔らかいぜぇ〜。)


僕が鼻の下を伸ばしていると、


「大泉部長!!。早く次の指示をして下さいよ!!。」


と、2年の高橋涼が叫んだ。


高橋 涼 2年 175cm PG


僕は慌てて、


「と、と、とりあえず、コータロー先輩でいいから。よろしくな!。」


と、愛ちゃんに言い練習に戻った。


その日の練習を見て僕は、


「ちょっとみんな集まってぇ〜!!。」


今年の1年にバスケ経験者が3人いて、部活見学期間の前から部活に参加していた。


中学バスケにおいてミニバスの頃からやっている経験者は貴重だった。


倉木 豊 170cm SF


相葉 俊介 165cm PG


西 太一 179cm C


「まだ普通の1年生は部活見学期間だけど既に3名は入部希望者として練習に参加してくれています。今日はちょっと早いけど歓迎試合をしたいと思います。1年生チームには、僕と副部長が入ります。」


「部長ぉ〜!。本気でやっちゃっていいんですよね?。」


と、豊が言い


「腕がなるぜ!。」


と、俊介が言い


「お腹が空いたな。」


と、太一が言った。


(おぉ〜何か懐かしいやり取りだな。)


それを聞いたリョーは、


「俺達もナメられたもんだな。」


と、言った。


「それじゃ〜30分後に始めるから両チームに分かれてアップする様に!。」


この歓迎試合には2つの目的があった。


1.新入生と幸太郎、賢の相性

2.上級生の現段階でのレベル確認


新入生チームは体力にまだ不安はあったがスキル面では上級生よりも上に見えた。


「よぉ〜し!!。そろそろ始めよう!!。」


ピッ!!


審判がボールをトスした。


パシッ!!


ジャンプボールは上級生チームが制した。


太一は巨漢と言う言葉が似合う風貌で、瞬発力はあるがジャンプ力はなかった。


新入生チームのディフェンスはオールコートマンツー。


2年のリョーには俊介がついた。


「高橋先輩。宜しくお願いします!。」


「おうっ!!。」


俊介は全身を使いリョーにプレッシャーを与えた。


次の瞬間、


パシッ!


「??。」


けんちゃんがボールをスティールした。


「甘いぜ!!。リョー!!。」


「クソっ!!。」


けんちゃんはボールを奪った直後、前方にボールを投げた。


このボールが幸太郎に渡り、


「コータロー!!。ダンク行けぇ〜!!。」


と、けんちゃんが叫んだ。


(おいおい。ダンクなんて出来るわけないじゃん!。)


しかし、幸太郎は期待に応えるべく大きく飛んだ。しかも余計な一言を加えて、


「くらえぇ〜!!。スラムダァ〜ンク!!。」


「おっ!!。」


全員が幸太郎に注目した。


ボールはリングを2/3ほど超えたが、


ガンッ!!


中途半端にリングの淵に当たったボールはボードで跳ねた。


そこへ、


「ナイスパァ〜ス!。」


と、けんちゃんが走り込んで来て、タップシュートを決めた。


周りからは色々な意味でどよめきの声が上がった。


「一瞬行ったかと思ったよ。」


「まぁ〜中学でダンクとかないわな。」


「むしろ、その後の池内先輩のタップシュートが絶妙だったな。」


このプレーを見た新入生チームは、


(やるなぁ〜この2人。)


と、心の中で思った。


「いやぁ〜惜しかったな!。」


と、けんちゃんが寄って来た。


僕は苦笑いしながら、


「余計な事を言っちゃったから恥ずかしいよ。」


と、言った。


新入生チームはこの後とんでもないプレーをやり始める。


上級生チームは冷静にボールを運び、ゴール下へパス、シュートを放った。


そこへ太一が飛んで叫んだ!!。いや、正確には若干飛んでるだけ。


「くらえぇ〜。ハエ叩きぃ〜!!。」


が、


スカッ!!


太一のブロックは高さが足りず、指先だけが辛うじてボールを擦った。


その様子を見て外野はずっこけた。


しかしボールはリングで跳ね、リバウンドは僕が取った。


僕は俊介にボールを手渡した。


上級生チームはゾーンで守っていた。それに対して俊介は、


「行くぞ!!。」


と、叫ぶと強靭な肉体を生かしドライブを仕掛けた!。


リョーはスピードには反応したがパワーで押され侵入を許した。


ディフェンスが俊介を一斉に囲む!。


次の瞬間、俊介はノールックでパスを出した。


パスを受け取ったのは、3Pラインにいたけんちゃんだった。


けんちゃんはスリーを放つ。


パサッ


見事に3Pを決めた。


「ナイスパス!。」


シュートを決めたけんちゃんは俊介とハイタッチをした。


俊介は小声で、


「俺、シュートは全く入らないので助かりました。」


と、言った。


けんちゃんはそれを聞いて苦笑いをした。


続いて上級生チームは冷静にボールを回しミドルシュートを決めた。


僕とけんちゃんはまだ様子見をしようと話をしていて、ディフェンスに関しては力を温存していた。


続く攻撃では、豊にボールが渡った。


豊も果敢にドライブを仕掛け、1人を抜いたところでストップ&ジャンプシュートを放った。


ボールはリングを射抜いた。


「アイツやるなぁ〜。」


と、けんちゃんが言った。


しかし僕はある事に気付いた。


上級生に対しディフェンスのアドバイスをした。


新入生チームの次の攻撃では、


「おいっ!!。豊、何やってんだ!。ガンガン行け!!。」


しかし豊はドライブに行かなかった。


幸太郎のアドバイスが効いていた。


豊は左手でのドリブルが極端に苦手だった。右サイドからのアタックは得意だったが、左サイドからのドライブはあっけなく止められていた。


それぞれが持ち味と弱点をさらけ出した新入生。


「まぁ〜こんなもんだろぉ〜。コータロー!。そろそろ行くぞ。」


と、けんちゃんが言った。


「オッケー!。」


と、僕は返事をしディフェンスのギアを上げた。


僕とけんちゃんのディフェンスに対し上級生チームは、


「マジか!!。」


「無理無理。」


「さすがにキツイ!。」


幸太郎と賢のディフェンスは同年代では群を抜いていた。それを見た新入生は、


「これだよこれ。」


と、俊介が言い


「出来るだけついていってやる。」


と、豊が言い


「痩せちゃうよぉ〜。」


と、太一が言った。


この歓迎試合で課題が見えた西中は夏の大会に向けて各々がレベルアップに励むのであった。


ピピィ〜


「試合終了ぉ〜。」


「ありがとうございました!。」


試合を終えた僕のもとへ愛ちゃんが寄ってきてタオルを手渡し、


「コータロー先輩!。お疲れ様でした!。やっぱりイカしてますね。惚れ直しちゃいました。」


と、言ったので


「まぁ〜これからだよ。みんな、成長してるし、これからが楽しみだ。愛ちゃんもサポート宜しくね。」


と、僕は返した。


それに対して愛ちゃんは、


「私は、コータロー先輩だけのサポーターです。エヘッ。」


と、言った。


どうやら愛香は幸太郎に本気で惚れている様だった。


美和の存在を知らない愛香と、愛香の存在をしらない美和。


2人の間で振り回される幸太郎。


バスケ部の部長、最後の夏の大会。


中学生にしては中々ヘビーな日々が待ち受けている事に幸太郎は気付いていなかった。







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