第18話「ば〜か。」

僕達は大会を順調に勝ち進んでいた。


しかし4回戦、


「一本!!。落ち着いて回して行こう!!。」


と、輝先輩が叫んだ。


第4クウォーター5分、西中は10点のビハインドを負っていた。


相手は、優勝候補の鳩山中学校(略して鳩中)だった。


インサイドには180cm後半のセンターを2枚置きオフェンス、ディフェンスともに軍を抜いた強さを見せた。




僕も第2クウォーターに出場したが、インサイドを中心に攻める鳩中に全く歯が立たず途中で交代した。


ビハインドを負っている理由は、リバウンドを支配されたことによるシュート確率の低下だった。


けんちゃんと翔先輩は果敢にドライブを仕掛けていたが、ゾーンで守る相手に対し攻め切る事が出来なかった。


「くそっ!!。」


普段は思い切りの良いアウトサイドシュートを打つけんちゃんも、リバウンドへの不安からシュート確率が極端に落ちていた。


(くそっ!!。僕がもう少し役に立てれば。)


幸太郎はオールコートマンツーで走り回り貼っついたディフェンスを今まで披露してきたが、センターにエース級がいるチームに関しては対処方法をまだ身につけてはいなかった。


パワーで押し込まれ簡単に得点を許し、リバウンドは全く取れなかった。


ピピィ〜!!


「試合終了!!。」


西中は4回戦で敗退した。


「ありがとうございました!!。」


そして3年生の引退が決まった。


次の日、部活の練習自体は休みだったが、3年生の引退に合わせて部室の大掃除が行われた。


僕達一年は棚、ガラス、床と綺麗に拭き上げる様に言われていた。


3年生は予め荷物を運び出していたので、大掃除に姿を見せる事はなかった。


(3年生は引退かぁ〜。この3〜4ヶ月あっと言う間だったなぁ〜。これからチームはどうなるんだろぉ〜。)


そこへ里美先輩が来た。


「お疲れぇ〜!。さっさと片付けを終わらせて体育館に集合ね。今日は最後に3年生の引退試合をやるから。」


僕達一年は、


「はいっ!。」


と、返事をした。


(先輩達との試合かぁ〜。楽しみだなぁ〜。)


僕達は掃除の手を早めた。


「よぉ〜し!!。終わったぁ〜。コータロー行くぞ!!。」


と、けんちゃんが大きな声で叫んだ。


僕も、


「行こう!。」


と、返した。


体育館に着くと3年生はユニフォーム姿でアップをしていた


僕達はビブスを着てアップを始めた。


(少しは先輩達に良いところを見せれる様に頑張らなきゃ。)


しばらくして男バス、女バス共に全員が集合した。


「さぁ〜今日が本当に最後の試合よ!!。お互い本気でやってね。」


と、里美先輩が言った


「さぁ〜やるかぁ〜。」


と、輝先輩が言い


「フルボッコだな!。」


と、翔先輩が言い


「試合なんか良いから引退パーティーやろうよ。」


と、慎吾先輩が言った。


(何か、このやり取りも最後だと思うと寂しいな。)


「ちなみに私も入るからよろしくね!!。」


と、里美先輩が言った。


第1クウォーターは2年生vs3年生の試合となった。


僕はスコアラーを担当した。


試合の内容は、3年生が圧勝だったが、試合の中でのやりとりはかなり凄まじかった。


「そんな簡単に抜かれるな!。腰を落とせ!。相手の目を見ろ!!。そんなんだからポッとでの1年にユニフォームを取られんだろ!!。」


と、輝先輩が言い


「まぁ〜この程度じゃ〜俺様にはおろか、ポッとでの1年にも勝てやしねぇ〜な。」


と、翔先輩が大笑いしながら良い


「もっと飯を食えぇ〜。そんなんだからポッとでの1年に走り負けすんだよ!。」


と、慎吾先輩が言った。


(先輩方!。もぉ〜その辺にしておいて下さいよ。明日からやりにくいじゃないですか。)


そしてトドメは里美先輩。


「コータローみたいなマンガオタクにレギュラーを取られても良いの?!。あいつは、ただデカイだけで自分は何の役にも立たないからって、毎日みんなの為に出来ることをやろうって見えない所で努力してんのよ!!。あんたら2年はコータロー以下かぁ〜!!。」


(里美先輩が言うと褒められてるのか、けなされてるのからわからなくなるよ。)


2年vs3年の試合が終わりベンチに戻って来た2年生は、幸太郎に対してメラメラと闘志を燃やしていた。


(はぁ〜。だから言わんこっちゃない。)


続いて、1年生vs3年生の試合が行われた。


僕は、けんちゃんや他の1年生と作戦をたてていた。


まずは、


「翔先輩!!。よろしくお願いします!!。」


と、僕は叫び翔先輩に貼っついた。


「いいぜ!!。相手してやる!!。あの時みたいに甘くないぜ!!。」


と、翔先輩が言い動き出した。


(この人をマンツーでマークし続けるのは正直しんどいけど頑張るしかない。)


しかし一回マークを振り切られると、あっさりパスが通りシュートを決められてしまった。


そうすると、翔先輩が


「もう少し頭を使え!!。相手がされて嫌な事を考えろ!!。」


と、叫んだ。


(相手がやられて嫌な事?。すなわち僕がやられて嫌な事かぁ〜。僕がやられて嫌な事は・・・。)


幸太郎は、とある練習風景を思い出していた。


「カケルぅ〜!!。あんたのドライブは鋭いしテクニックもある。でも、少しで良いから外角のシュートを決めてくれないかしら?。そんなんじゃ〜簡単に抑えられちゃうわよ!!。」


と、言っている風景が浮かんできた。


(よしっ!!。)


僕が相手にされて嫌な事は、苦手な事を押し付けられる事で、逆に好きな事は、相手が苦手な事をサポートする事だった。


僕は翔先輩と少し距離を取りながらのマンツーに変えた。


ただ、これだとガードから翔先輩へのパスが簡単に通ってしまう。


そこで、けんちゃんが動いた。


ガードの輝先輩に対してダブルチームに入りパスコースを消しに行った。


「おっ!!。こりゃ〜キツい。」


と、輝先輩はボールをキープしながら、そう言った。


僕とけんちゃんは付き合いが長いせいもあって、息の合ったディフェンスを見せ3年生要の2人をうまく押さえていた。


そこへ、


「スクリーン!!。」


と、声が飛んで来た。


翔先輩が僕の右側を走りぬけようとした事に対して、僕が反応した瞬間だった。


里美先輩が僕にスクリーンをかけた。


僕は勢いを殺せず里美先輩に激突してしまった。


里美先輩は、


「きゃっ!!」


と言い、派手に倒れた。


ピピィ〜


「ディフェンスファール!。」


(やばい!!。里美先輩に対して何という事を。)


僕は、恐る恐る


「里美先輩大丈夫ですか?。」


と、手を差し伸べた。


里美は幸太郎の手を取って立ち上がろうとした。


次の瞬間、


「おりゃ!!。」


と、里美が幸太郎を内股で投げ飛ばし抑え込みに入った。


「あんたねぇ〜か弱い女の子にあんな当たり方して良いと思ってんの?。」


僕は腕と首を完全に決められていて身動きが出来なかった。


(いててててぇ〜。でも何か里美先輩、柔らかくて良い匂いがするなぁ〜。)


僕は無抵抗のままニヤついていた。


「里美ぃ〜!!。コータローのやつ何かニヤけてるぞぉ〜。」


と、翔先輩がちゃかした。


僕は慌てて、


「すみませんでした!。つい・・・。」


と、誤ったが


「このマンガオタクの変態やろぉ〜。」


と、言いながら里美先輩は更に締め付けをキツくした。


その後しばらくそんなやり取りを繰り返し、試合が再開した。


それを見ていた美和は、


「コータロー君のバ〜カ。」


と、小声でつぶやいた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る