第17話「おめでとう。」

大会当日


西中バスケ部は試合会場に到着した。


「それじゃ〜試合は2時間後だから1時間前にこの場所に集まる様に。」


と、里美先輩が言った。


いつもの様に、全員一斉に


「はいっ!!。」


と、返事をした。


僕は会場を見てみたくて一人で体育館に入って行った。


体育館の中は熱気に溢れていた。


(ここで試合をするのかぁ〜。まぁ〜僕の場合、試合に出れるか分からないけど。)


僕がそんな事を考えていると、けんちゃんが寄って来て、


「コータロー!。今日、出番あるからちゃんとアップしとけよ。」


と、言った。


僕は、


「うん。」


と、答えたが


(でも昨日、翔先輩が僕の出番がない様に頑張るって言ってたよな。)


僕達の一回戦は松山中学(通称マッチュウ)だった。


試合開始1時間前。


「それじゃ〜、スターティングメンバーを発表するわね!。」


全員一斉に、


「はいっ!。」


と、返事。


里美先輩が発表したスターティングメンバーは、


PG 一色 輝

SG 池内 賢

SF 大泉 幸太郎

PF 神宮寺 翔

C 西村 慎吾


(けんちゃんは凄いな!!。1年でいきなりレギュラーかぁ〜。)


「コータロー!!。返事!!。」


里美先輩が怒鳴った。


「はい?。」


と、僕は疑問形で返した。


「カッカッカァ〜。」


と、翔先輩が笑った。


そして、輝先輩が、


「お前がスターティングだとよ!。聞いてたか?。」


僕は、目を丸くして、


「えぇっ〜!。僕がですか?。今日は出番が無いと翔先輩から聞いていたんですけど!。」


と、言った。


そして翔先輩は、


「努力はすると言ったが、世の中には逆らえない事もあるんだぜ。」


と、言い里美先輩の方を見た。


「初戦の相手はSF瀬高正邦のワンマンチームだから安心しなさい。今年は私達の敵では無いから。」


と、言った。


(里美先輩、恐るべし。)


周りのチームメイトは哀れな目で僕の方を見ていた。


そして、


「頑張れよ!。コータロー!。」


「お前のディフェンスを見せてやれ!。」


「どんまい!。」


と、周りから声が飛んできた。


(みんなが応援してくれてる!!。頑張らなきゃ。でも、どんまいって何だ?。)


続いて、里美先輩が、


「ディフェンスは・・・。コータローは瀬高にオールコートマンツー!。あとは1-2-1のゾーン。」


と、言った。更に


「オフェンスは、輝君がゲームをコントロールしながらコータローのポストプレーを中心に攻めなさい。」


何と、一回戦から登場する事になった幸太郎だったが、思いもよらない展開になった。


試合開始!!


審判が両チームをコール。


「西中!!。松中!!。整列!!。」


幸太郎のバスケ人生において、一度しか経験を出来ない初試合が始まった。


審判がボールをトスした。


パシッ!!


あまりジャンプ力は無いが身長差で慎吾先輩がジャンプボールを制した。


ボールを拾ったのは、けんちゃんだった。


次の瞬間、けんちゃんは僕に


「コータロー!!。行け!!。」


と、ゴール方向へ合図を送った。


僕は、すぐさまゴールへ向かってダッシュをした。


けんちゃんは思い切りボールを投げるフリをして相手が引っ掛かったのを確認してから、輝先輩にボールを出した。


僕はゴールまで一気に駆け抜けたが、振り返った時には翔先輩がレイアップを決めていた。


「ナイスオトリ!!。」


と、笑いながら翔先輩が寄ってきた。


「中々良いダッシュだったぜ!。」


と、けんちゃんが茶化し気味に言った。


「さぁ〜ディフェンスだ!。」


と、輝先輩が言った。


僕は7番の選手を探し、一気に貼っついた。


(ボールと相手が見える場所でと。)


僕は相手がボールを持っていない時でも必死にくっついた。


(腰を落とせ。相手の目を見ろ。スタートダッシュで負けるな。)


僕は練習を忘れない様に頭の中で言葉を唱えた。)


しかし、


「甘い。」


と、瀬高は一言告げ幸太郎を振り切った!。


実はこの瀬高。地域選抜に選ばれる程の選手だった。チーム自体は瀬高に頼ったワンマンチームで、いつも3〜4回戦で姿を消していた。


その瀬高にボールが入る。


幸太郎以外ゾーンで守っていた西中だったが、瀬高の素早いアウトサイドシュートにより得点を与えてしまう。


次の瞬間、


「コータロー!!。何やってんの!!。真剣にやりなさい!!。」


と、里美先輩の怒鳴り声が飛んできた


「はっ、はい!!。」


と、僕は返事をした。


(でも、この人、めちゃくちゃ早いよな?。真剣にやるとかそう言う問題なのかな?。)


そこへ翔先輩が来て、


「だから、どんまいって先にいっといたろ。」


と、笑いながら言った。


(そぇ〜言う事かぁ〜。瀬高さんは凄い選手で僕がやられるのは当たり前と言うかご愁傷様って感じなんだなぁ〜きっと。でも、人生に一回しかない僕のバスケの初試合。頑張らなきゃ。)


僕は、頬を叩き直して気合いをいれた。


それからも、僕は良い様にやられまくったがチームの総合力で西中がリードして前半を終えた。


ハーフタイム中。


僕は、コートの端をジョギングしながら呼吸を整えていた。


それを見た里美やチームメイトは、


「コータローは相変わらずね。」


「本当に良くやるよ。」


「まぁ〜やられまくってるけど、後半からコータロー効果が出るかもな。」


それを見た松中の瀬高は息を切らしながら、


(マジかアイツ。ハーフタイム中にジョギングだと?。まだまだ余裕だって言うのか?。)


と、思った。


そして、第3クウォーター5分、変化が起き始めた。


「はぁ〜。はぁ〜。」


瀬高が膝に手をついて立ち止まってしまった。


次の瞬間、相手チームがファウルで時間を止めタイムアウトを要求した。


西中もベンチに戻った。


「コータローお疲れぇ〜。」


と、里美先輩が声を掛けてきた。


「あ、あのぉ〜。瀬高さんはどうしたんでしょうか?。」


幸太郎がそう言うと、周りは大爆笑した。


そして、輝先輩が


「お前があまりにウザいから瀬高がへばったんだよ。」


と、言った。


西中は瀬高がいる状態でもリードを保っていたので、その後の結果は明らかだった。


里美は、


「コータローはまだバスケ経験者からみたらただの下手クソなわけよ。だからガンガン抜かれるしシュートも決められちゃう。それで相手がペース配分を間違えて勝手に自滅したの。」


と、言った。


「なるほど!!。自滅してくれたんですか!。ラッキーでした!。」


と、僕も笑った。


「コータローは、この試合まだでたい?。」


と、里美先輩が聞いたので、


「僕はまだ何もしていないので、もう少し出たいです。」


と、懇願した。


「オッケー。じゃぁ〜第3クウォーターの残りのオフェンスは全てコータローのポストプレーからスタートしましょう。みんなそれで良い?。」


それに対してチームメイトは、


「まぁ〜この試合はもう決まったから、

別に良いか。」


と、輝先輩が言い


「カッカッカァ〜。それもまた一興か。」


と、翔先輩が言い


「俺はその方が楽で良いや。」


と、慎吾先輩が言った。


そして、第3クウォーター残りの3分が始まった。


西中の攻撃、


輝先輩はドリブルをしながらボールの出しどころを探していた。


そして、僕がハイポストに入った瞬間山なりのパスを出して来た。


(慎吾先輩はゴール下でフリー。けんちゃんは右サイドの3Pライン、翔先輩は、)


僕がパスを受け取るまでの間に、みんなのポジションを確認している時に、


翔先輩が僕のマークマンにスクリーンをかけて、


「コータロー!。行け!。」


と、叫んだ。


僕はボールを受け取った瞬間、スクリーンを利用してゴールに向かいゴール下のシュートを放った。


そして、


ドン、パス!!


人生初のシュートがリングを潜った。


作戦は、僕のポストプレーから他のメンバーがシュートを決めると言うものだったが翔先輩の思わぬプレーで僕はシュートを決めた。


(あれ?あれ?。シュートしちゃったし、入っちゃだぞ。)


僕は予想外の展開に頭が追いついていなかった。


次の瞬間、翔先輩が僕のケツを叩いて、


「ナイッシュ〜。」


と、言ってくれた。


僕は翔先輩の声に、


「ありがとうございました!。」


と、敬礼で答えた。


翔が何故最初から幸太郎にシュートを打たせたのか、幸太郎は考えもしなかった。


しかしその後、幸太郎がシュートを打つ事はなかった。


理由は、幸太郎のポストプレーが面白い様に決まり周りのメンバーが得点を量産したからだ。


第3クウォーターで幸太郎はベンチに引っ込んだが、チームは圧勝した。


試合終了後、瀬高が幸太郎の元に来た。


「お前にやられちまったな。すっかりペースをみだされちゃったよ。また、やろうな。」


と、言い握手を求めてきたので、幸太郎は


「いえ!!。こちらこそ、お世話になりました。」


と返し、手を出した。


瀬高は大爆笑した。


「お世話になりましたって・・・。あははははぁ〜。」


幸太郎の不慣れな反応にその場は和んだ。


見事、初戦を突破した日の夕方。幸太郎はいつもの公園でトレーニングをしていた。


(今日は運良く勝てたけど、次からはチームの為にもっと頑張らなきゃ。)


そこへ美和がやってきた。


「もぉ〜!!。何回電話しても出ないと思ったら、やっぱりここにいたぁ〜!。」


僕は携帯を確認した。


沢山の着信とLINEが来ていた。


「す、すみません。全く携帯を見てませんでした。」


僕がそう言うと、美和先輩は


「まぁ〜気にしなくて良いよ。それよりおめでとう!!。初出場、初勝利、初得点!!。おねぇ〜ちよんから話は聞いたわ。コータローは良くやった!!って、褒めてたよ。」


と言った。


僕は素直に嬉しいと思った。


(僕なんてまだまだだけど、誰かに褒められるのって初めてだ。何か良いかもこういうの。)


それから美和先輩とベンチに座り話をした。

どうやら女バスも無事に勝ったみたいで良かった。


「次もお互いに頑張ろうね。」


そう言って帰って行った。


こうして、幸太郎のバスケ人生において一度きりの初試合が無事に終わった。


スタッツは、


得点2

リバウンド0

アシスト10

スティール0


と言う、何とも偏った数字になった。
























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