第15話「かっこいいよ。」

とりあえずスピードと言う課題が見つかった僕は美和先輩からもらった


[ステップ3]


と、書かれたトレーニングメニューを見ていた。


(なるほどぉ〜。ダッシュのスタート時は前に足を出すんじゃなくて少し足を開いた状態で地面を斜め横に蹴るイメージでやるのか。そう言えば100m走の選手とかはそんな感じだな。そして状態を直ぐに起こさず前のめりにすると。)


美和先輩の新たなトレーニングメニューには体の使い方が主に書かれていた。そしてありがたい事に図解も書かれていて、とても参考になった。


(よしっ!。やってみるか。)


ストップウォッチ、スタート!。


ピッ!


僕は3・4歩走ると前のめりに倒れた。


(これは難しい!!。勢いは確かにつく気がするけど上半身と下半身のポジションをちゃんとしないと全然ダメだ!。)


その後もスタートダッシュの練習は続き、少しずつ手応えを感じ始めた。


(やっぱり腰を落とし、前足に体重を乗せて地面を強く蹴ると勢い良くスタートが切れる気がするな。)


僕は更にバスケの場合をイメージしながら練習に励んだ。


(ディフェンスの時は必ず腰を落として守るけど実際に動き出しやすい腰の高さって、これくらいかなぁ〜。)


何度も何度も繰り返し確認した。


今まではディフェンスの際、ただ腰を落として足を横に広げていただけだったのを片足を10cm前に出してみたり、スタートの際、手を地面についたまま1・2歩走ってみたりもした。


中々完璧な答えにはたどり着けなかったが、データは少しずつ溜まっていった。


3年生最後の大会が来週に差し迫ったある日、僕は5対5の練習に参加する事になった。


AチームとBチームに分かれて、試合形式の練習だった。何故か僕はAチームに入った。


Bチームにはレギュラーで唯一、翔先輩が入る事に。


けんちゃんは、


「コータロー!。いきなりAチームデビューとは大したもんだな!。足を引っ張らない様に頑張れよ。」


と、声を掛けてきた。


僕は少し不安だったが、里見先輩から、


「コータローは試合中、オールコートで翔だけマークし続けて。それ以外の事は何も考えなくていいからか。」


と、指示をもらっていたので、


(やる事が一つしかないなら、それだけの為に全力を出そう。)


と決めていた。


そして試合が始まった。


まずはAチームのボールでスタートした。


次の瞬間、コータローは翔に対してもの凄い勢いで貼っついた。


今Aチームはオフェンスだったが、そんな事はお構いなしに。


(僕がオフェンスに参加したって大した役には立たないんだ。それなら攻守関係なく翔先輩に貼っついてやる。)


そんな状況で翔は、


「こいつ!。おもしれぇ〜じゃねぇ〜か!。」


と、笑った。


Bチームはディフェンスの際、ゾーンを組んでいたので翔先輩が激しく走り回る事はなかったが、その分Aチームは僕と言うオフェンスの駒が一つ少ない状態となった。


(コータロー。思う存分やってみな!。点は俺がとってやるから。)


けんちゃんの思惑通り慎吾先輩のポストプレーから、けんちゃんがミドルシュートを決めた。


Bチームの攻撃。ガードは2年生が務めていた。


翔先輩は僕を振り切ろうと縦横無尽に走り出した。


僕は必死について回った。


(そう言えば里美先輩からもう一つ指示があったっけ?。確かボールを持っている選手と翔先輩の両方が見える位置でディフェンスする事とか言ってたな。)


パワーもスピードもある翔先輩には、瞬間的にマークを外されたりパワーで弾き出される事もあった。


(まだまだ最初のダッシュが身についてないや。実戦で使えないんじゃ意味ないじゃん。)


僕はトレーニングを思い出しながら今出来る最高のスタイルで翔先輩に挑もうと決めた。


「よしっ!。」


僕は出来るだけ腰を落とし片足を必ず半歩前に出した状態を作り出す様に心掛けた。


(ただのダッシュと違って、この体制で相手の動きに合わせてディフェンスし続けるのは正直キツイな!。)


それでも僕は走り続けた。当たり前だが翔先輩にはやられっぱなしだった。


だが8分で2ゴールしか与えていなかった。


ピピィ〜


「1セット終了ぉ〜。」


里美先輩の声とともに10分のインターバルに入った。僕は普段のルーティン通りジョギングをして息を整えた。


そこへ翔先輩が近づいてきて、


「いやぁ〜。お前のディフェンス、思ってたよりウザかったよ!。かなりチームの役に立ってたから次も頑張れよ。」


と、声を掛けてきてくれた。


僕は、


「はっ、はいっ!。ありがとうございます。」


と、返した。


(僕には、やられっぱなしのイメージしか無かったけど翔先輩が褒めてくれたって事は何とかやれてたのかな?。)


そして次の試合は、慎吾先輩にマンツーで着く事になった。そして、この試合に対する里美先輩からの指示は2つあった。


「コータローは、この試合で2つの事を意識してみて。一つ目は、攻撃はセンターとして参加する事。基本的にはポストプレー中心で良いわ。2つ目は、ディフェンスの時は必ずディナイで守る事。分かった?。」


「はいっ!。みなさんの為に頑張ります。」


と、答えた。


けんちゃんは、


「コータロー!。次はタンク先輩かぁ〜。さすがにセンター相手じゃ走り回る必要はないだろうけど、吹っ飛ばされない様に頑張れよ。」


一部の人達は、慎吾先輩の事をその風貌とプレースタイルから、タンク先輩と読んでいた。


ピッ!!


2試合目が始まった。


さっきと同様に僕はAチームに、慎吾先輩はBチームに入った。


Aチームのオフェンス。僕は指示通りハイポに入った。Aチームは何度か外でボールを回した後、翔先輩から僕にボールが入った。


次の瞬間Aチームの選手が一気に動き出した。

僕はその中でディフェンスを振り切り、中に切り込んできた翔先輩に手渡しでパスを渡し、翔先輩をマークして追って来た相手にスクリーンを掛けた。


「上手い!。」


里美は思わず声に出して言った。


(コータローは自ら攻める姿勢がまだ足りないけど、あぁ〜いうプレーをさせるとたまにビックリする様なうまさを見せるのよね。誰かの役に立つプレーとでもいうのかしら。)


続いて、Bチームのオフェンス。


(慎吾先輩はパワーは凄いけどスピードは大した事ないから、里美先輩が言った様にディナイで守ってパスを入れさせなければ何とかなるはずだ。)


僕は、慎吾先輩がポジションを取った時だけディナイに入り長い手足を目一杯使ってパスを入れさせなかった。それでもたまに裏を取られてしまう場面もあった。


フォワードに対するディフェンスの様に走り回る事はあまりなかったが、やはりパワー勝負になる事が多く違った意味で体力がだいぶ削られた。


それでも決められたシュートは2本だけだった。


「コータローはディナイで守るのは良いけど、それだけじゃ試合じゃぁ〜通用しないな。今度のセンター練の時に色々教えてやるよ。」


慎吾先輩はそう言ってくれ、


僕は、


「宜しくお願いします!。」


と、返した。


(でも思ったよりやれてなのは何でだろう?。初めてだから、もっとやられると思ったのに。)


実は里美から3年生に対しても指示が出ていたのである。


「次にやる5対5だけど、Aチームにコータローを入れてみようと思うの。そしてBチームにはレギュラーから1人必ず出てもらって、コータローとマッチアップしてもらいたい。コータローにはオールコートマンツーで相手につく様に言うから宜しくね。」


里美は続けて、


「で、3年生にも制限を付けさせてもらうわ。


まずは


1.完全にフリーな時しかパスをもらえない。


2.パスをもらったら、コータローの守備体制が整うまで待ってから1on1で勝負する事。


良い?。」


そんな指示を出した。


「って事は、パスをもらう為にコータローを振り切って、パスをもらったら絶対に追いつかせてからの1on1になるわけか。なかなか大変そうだな。」


と翔は言った。


「周りもヘルプディフェンスやスクリーンプレーでコータローの邪魔をするのは無しでお願いね。」


里美は実際の試合で幸太郎がどこまで動けるのか見ておきたかった。ただし少しだけ甘い内容にしておいた。


結果は、今現在としては満足がいくものだった。


(要は、何回振り切られ、何回1on1で点を取られるかって言うのが今回欲しかったデータ。

まぁ〜まずますね。)


里美は素人の一年生が3年を相手に、ここまでやれた事に感心すらしていた。


「それじゃ〜次行くわよぉ〜。」


何と次のマッチアップは、けんちゃんになった。


「コータロー!。手加減はナシだぜ!。」


と言った。


「分かった。」


と、僕は答えた。


トスボールでAチームのオフェンスからスタートした。


僕は、けんちゃんに貼っついた。しかし、けんちゃんは今までの様にゾーンディフェンスには入らず僕を無視してボールを持つ輝先輩にダブルチームを仕掛けた。


その動きに一瞬戸惑ったが、けんちゃんがそう来るならとハイポにポジションを取った。


しかしダブルチームで厳しい当たりをされている輝先輩からボールは入って来なかった。


(僕はあくまでもボールを綺麗に入れてもらわないとまだ何も出来よ。)


その時、輝先輩が、


「コータロー!!。池内に貼っつけぇ〜。」


と、僕に叫んだ。


僕は輝先輩に言われた通り、けんちゃんに貼っついた。輝先輩とけんちゃんの間には入れなかったのでけんちゃんのサイドに付いた。


その瞬間、輝先輩が僕がいるサイドを使ってけんちゃんを抜こうとした。


次の瞬間、けんちゃんが僕にぶつかった。


ピピィ〜。


「オフェンスファール。」


と審判が叫んだ。


彰先輩は、僕をスクリーンに使ってディフェンスを抜いた。しかも僕がけんちゃんのディフェンスに付いて動きを止めた瞬間だった。


「輝先輩にやられちまったな。付け焼き刃は通用しないか。」


と、けんちゃんは言った。


けんちゃんは自分のポジションに戻り髪をかき上げた。


その後、僕の癖をよく知っているけんちゃんは、あっさりと僕を振り切り、1on1でもあっさり抜いてゴールを量産した。


そこへ外練を終えた女バスが体育館へ戻って来た。


けんちゃんへのマッチアップで、男子バスの体育館練は終わり女バスと交代した。


しかし、


「コータローはこのまま女バスに合流。同じ事を繰り返すわよ。」


と、里美先輩が僕に言った。


その後、僕は女バスを相手に同様の練習を繰り返した。


男子と女子の差はあれど、幸太郎は真剣にマッチアップした。


そんな幸太郎の姿を見て、美和は


「チームの為にとことん徹しているわね。おねぇ〜ちゃんから話は聞いてたけど、思ったよりかっこ良く見えるわ。」


まだ、オフェンスでの課題はあったが新しいスタイルのバスケを幸太郎は見せていた。









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