第13話「凄い事をやってる。」

とある放課後、男バス女バスの合同練習がスタートした。


「さぁ〜!!。3年最後の大会は近いわよぉ〜!!。」


里美先輩の大きな声が体育館に響き渡る。


中学3年生にとって最後の試合となるのが、


全国中学バスケットボール大会、


略して全中バスケ


である。


(まだ僕が入部してからそんなに経ってないのに3年生は今度の大会で最後なんだなぁ〜。)


幸太郎は入学してから3ヶ月近くが過ぎていた。体つきは筋肉がついたおかげで以前よりもたくましくなっていた。


(最近結構力がついてきた気がするな。そう言えば来週、体力テストがあるんだっけ。それで平均と比べられるかな?。)


「それじゃ〜ポジション練に入るわよぉ〜。」


男女一斉に、


「はいっ!!。」


と、返事をした。


僕はポジション練になると毎回里美先輩の所へ行き、


「今日はどのポジションで練習すれば良いでしょうか?。」


と、聞いてから練習するポジションに向かっていた。


「とりあえず、センター練に入ってくれる。」


と、里美先輩に指示された。


僕は、


「はいっ!!。」


と、返事をしてゴール下に移動した。


ゴール下ではポストプレーの練習が行われていた。


センターにボールが入るとディフェンダーで一気に囲み、そこから周りにボールを供給し得点につなげると言うものだ。


ポストプレーのパターンは様々でセンターにディフェンスが集中する分、他の選手が空く。


時には外角の選手にパスを回し、時にはローポスへボールをさばく。一瞬一瞬の判断が大事になる。


僕の番。


「へい!!。」


僕はポジションを取り、ボールを要求した。ボールが入った瞬間に周りの状況を把握してローポスにボールを落とした。


「ナイスパス!。」


これを他の選手が決める。


そこへ里美先輩が来て、


「だいぶ様になってきたわね。次はポジションを変わってやってみて。」


僕はローポにポジションを取った。中にボールが入った瞬間、僕は空いたスペースに移動した。


センターからボールが回ってきてゴール下のシュート!!


ガンッ!


リングの淵に当たってシュートは外れた。


「はぁ〜。コータロー!!何やってんの!!しっかり決めなさい。」


里美先輩はため息のまじりに、そう叫んだ。


普段相手がいない状況なら入る様になってきたゴール下だったが、動きながらだったり相手がいる状況になるとまだまだ確率は低かった。


この練習を何本かした後、


「コータロー!!。次はフォワードに合流!!。」


と、言った。


フォワードは1on1をやっていた。


「今度はこっちに来たか!。お前も忙しいな。」


と翔先輩が言った。


僕は、


「宜しくお願いします。」


と返した。


そして僕のオフェンスの番が来ると、


「コータローはディフェンスだけで良いわよ。」


と、里美先輩が言った。


「だってよ!。」


ニカっと笑い、翔先輩が言った。


(まぁ〜そうだよな。僕のスキルじゃ先輩のディフェンスの練習にならないもんな。)


里美の狙いを幸太郎はまだ理解していなかった。


里美は幸太郎の運動量と、誰かの役に立ちたいと思う気持ちを買って全てのポジションを守れる選手に育てようとしていた。


理想は、フルタイム出場中のオールコート・マンツーマンディフェンス可能な選手。それはポジションを問わず、相手チームに優秀な選手がいたら、その相手を試合中ずっとマンツーでディフェンスをし続けると言うものだった。


普通ならあり得ない事だが、高身長で細身、筋力がついてきた事によりスピードとパワーも少しずつ上がって来ている事に里美は期待していた。


(コータローは元々心肺機能が優れている。あの実直な性格も良い。今すぐどうこうと言うのは無理だけど、しっかりと鍛えれば将来面白い選手になるわ。)


そしてもう一つの目論見としては、色々なポジションのレギュラーとコミュニケーションを取らせる事にあった。


そんな事とは知らず僕は日々、色々なポジションでの練習に励んでいた。


ある日の夜、僕はいつもの様にマンガを読んでいた。


読んでいたのは、


黒子のバスケ


チームメイトは奇跡の世代と呼ばれ、それぞれのポジションで天才とうたわれた選手ばかりの集まり。その中にいて黒子はシックスマンとしてチームの歯車となり貢献するストーリー。


「うぉ〜。影が薄いからって、こんなに存在を消せるとかヤバすぎでしょ。」


(ミスディレクションかぁ〜。僕はデカずきて目立つから無理かなぁ〜?。)


「アンクルブレイカーなんてやられたらオレは直ぐコケるな。」


「一回でいいからダンクしてみたいな。」


「俺がゾーンに入ったら、どうなるんだろう?。」


色々なポジションで練習を重ねている幸太郎は、マンガを読みながら今まで以上に妄想が膨らんでいた。


そんな僕の独り言を聞いていた愛は、


「パパァ〜。ママァ〜。お兄ちゃんの独り言、いつもより長いけど大丈夫?。」


と、晩ごはんを終えテレビを見ていた父と母に聞いた。


「バスケ部に入ってからは、毎日運動をしてるみたいだし、前よりはまともになったんじゃないか?。」


と、父が言い


「最近は早寝早起きになったから良いんじゃない。」


と、母が言ったらしい。


僕は黒子のバスケを読む中で、自分が活躍したり目立たなくてもチームの為に出来ることがある事を知った。


今までは、ただマンガを読んで妄想してただけだった僕にしては若干成長していたのかもしれない。


次の日の朝、僕はトレーニングメニューを少し変更してグラウンドに線を引いた。


おおよその大きさであったが、それはバスケのコートをイメージしたものだった。


(今の僕はセンター意外では、ディフェンスをメインで先輩達とやらせてもらってる。もしかしたら僕はディフェンダーとしてならやれるのかもしれない。)


僕はストップウォッチを8分にセットした。


「さぁ〜。まずは誰との対戦をイメージしよっかな?。」


幸太郎は頭の中で対戦相手をイメージした。


「よし。」


ピッ!!


ドテッ!!


幸太郎はいきなり尻餅をついた・・・。


それもそのはず。


対戦相手はアカシ・セイジュウロウ。奇跡の世代キャプテンだった。


その後も、続々と奇跡の世代をイメージした幸太郎は時間のほとんどを無駄にしたらしい。


そんな姿を木陰から見ていた美和は、


(何か凄い事をやってるのかもしれないわ!!。今日は話しかけないでかえろぉ〜。)


と、思った。







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