第11話「凄いよね。」

中学1年になり、ひょんなことからバスケ部に入部した僕は充実した日々を過ごしていた。


バスケ特有のフットワークには悩まされていたが、


ピッ!!


ピッ!!


「ふぅ〜。もう少し一歩目は早くしないとだけど、ちょっとは良くなってきたのかなぁ〜。」


朝練のおかげで体力的にはだいぶついていける様にもなっていた。


「コータロー君は凄いよね。僕なんてついていくだけで精一杯なのに。」


そう話しかけてきたのは、一年生の長谷川君だった。


「僕は小5からバスケやってるのに全然ついていけないや。」


(そうかぁ〜。この練習はバスケ経験者でも大変なんだなぁ〜。)


「そんな事ないよ、ドリブルもフットワークも長谷川君の方が全然上手いし。」


長谷川君は見るからにパワーがありそうなガタイをしていたが、まだ体力が練習には追いつかない感じだった。


そして今日から新しい練習が始まった。それはパスの練習だった。


最初は胸のあたりに両手でボールを持ち、前に押し出す感じて相手にパスをする。これを何度も何度も繰り返した。


(パスなら、いつもけんちゃん相手にやってたから大丈夫そうだな。)


次にシュート練習も始まった。最初に教わったのが、レイアップシュート。


「カケルぅ〜!!ちょっとお願ぁ〜い!!。」


「へいっ!!。」


里美先輩が呼んだのは、


神宮寺 翔 3年 ポジション PF


「レイアップのお手本を見せてあげて。」


「了解。」


翔先輩はレイアップの手本を見せる前に、


「基本は出来るだけ高く飛んで、ボールはリングに置いてくるだ!。」


(ボールはリングに置いて来る。懐かしいセリフだなぁ〜。でも実際にやるのは初めてだから頑張らなきゃ。)


僕の番がやってきた。


「お願いします!!。」


僕はパスを出し、リングに向かって走り出した。


相手からのリターンパスを受け取って、


タンタン、びょ〜ん


足と手のタイミングが合わず両手で真上に放り投げる様な形になった。


次にの瞬間、


「コータロー!!。アホか!!。アンタは右利きでしょ。いきなり左から始めてどうすんの。やり直し!!。」


と、里美先輩からアドバイスとも罵声とも取れる声が飛んできた。


(そっか。まずは利き手で練習するのか。)


僕はもう一度スタートラインに戻りパスをだした。


(よしっ!。今度こそは。)


パスを受け取り、


タン、タン、びょ〜ん


今度は足のタイミングが取れず左、右と足をついてしまい飛ぶ事が出来なかった。


「はぁ〜やれやれ。」


里美先輩はため息をついた後、


「長谷川君!。ちょっと何本か違うパターンでお手本を見せて、コータローにアドバイスして上げて。」


「分かりました。」



長谷川君は、そう言うと3回お手本を見せてくれた。


そして、僕の所へ来て、


「パスって、毎回同じタイミングで来るとは限らないから、パスを受け取った後に自分でタイミングを合わせ直すんだよ。」


そう説明してくれた。


「1回目はタイミングもゴールとの距離も良かったから、右、左でレイアップに行けた。2回目は左足が前に来る時にパスが来たからワンドリブル入れて飛ぶ時に左足が前に来る様に調整したのさ。3回目はゴールとの距離が微妙な所でパスが来たから、リバースレイアップにしたわけ。」


(そっかぁ〜。レイアップって言っても色々考えてやらなきゃいけないんだな。)


「長谷川君!。ありがとう!。やってみるよ。」


そこへ休憩中のけんちゃんがやって来て、


「パサー交代!!。」


と、言ってパサーの位置に入った。


「よーし!!。コータロー来い!!。」


僕はけんちゃんにパスを出して走り出した。


けんちゃんはタイミングを見計らって僕にパスを返した。


そのボールは僕の両手にすっぽり収まり、右、左のタイミングでジャンプ出来た。


(ボールは置いてくるだけ。)


次の瞬間、ボールはリングを潜った。


(やったぁ〜。入った!。)


「コータローわかったか?パスの大切さが。」


けんちゃんは僕がシュートを決めた事よりもパスがいかに大切かを僕に伝えた。


「わかった!!。ありがとう。」


僕はそう返した。


(コータロー、お前のパスはいつもそんな感じなんだぜ。)


その後もレイアップシュートの練習は続いたが、けんちゃんみたいに完璧なタイミングでパスが来る事は少なく、初心者の僕はたまにしかシュートを決める事が出来なかった。


部活終わりの帰り際、美和先輩が後ろから追いかけて来た。


「ちょっと話さない?。」


僕は、


「もちろんです!。」


と、敬礼のポーズで答えた。


しばらく雑談をしていたが、僕はふとトレーニングメニューの事を思い出した。


「そう言えば、美和先輩に作ってもらったトレーニングメニューを一通りやり終えちゃったんですが、次は何をやれば良いですか?。」


それに対して美和先輩は、


「もぉ〜!!。せっかくバスケ以外の話ししてたにぃ〜。」


と、頬を膨らませて言った。


「可愛いぃ〜!!。」


またもや僕は思った事を速攻口にしてしまった。


美和先輩は少し顔を赤くしながら、


「全く仕方ないわね!!。明日新しいのを作って来てあげるから、明日の朝は今朝と同じメニューで我慢して。」


と、言った。


「ありがとうございます。」


僕がお礼を言うと、美和先輩が続けた。


「でもコータロー君って凄いよね。みんなといる時は献身的に動いて、1人の時に努力してるんだもん。」


僕は少し照れながら、


「そんな風に僕の事を見てくれているのは何か嬉しいです。でも無理してるとか頑張ってるとかじゃないんです。だからあまり気にしないで下さい。」


そう言った。


美和先輩は空を見上げて微笑みながら、


「そっか。」


と、だけ言った。


そこに部活終わりのみんなが通りかかり、


「なんだ!!。コータローと美和がチャラついてるぞぉ〜!!。」


「ヒュ〜ヒュ〜。」


と、からかってきた。


僕は必死に、


「そんなんじゃないですって!!。ただトレーニングメニューのお願いをしてただけで・・・?」


そう言い訳をした。


そんな僕に、美和先輩は、


「男らしくないぞ。」


と告げ、みんなと帰って行った。


僕は独りで歩きながら


「男らしさ。」


の意味を考えていた。












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