第9話「やるじゃん。」

次の日の朝、僕はいつもより30分早く起きた。


「今日から走る距離が200mになるから少し早く起きてみたけど、学校までに終わるかなぁ〜。」


美和先輩からもらったトレーニングメニューもだいぶ進んでいた。


それなりに大変だったけど、最近はこの生活リズムにもだいぶ慣れて来ていた。


「よぉ〜し!。やるか。」


例によって、体操・柔軟・ジョギングをこなし、


ピッ!!


タッタタッタ、


(元々短距離が遅い事はわかっているけど、普通は何秒位で走るんだろう?。)


僕は周りの人がどのくらいのペースで走るのか知らなかったので、出来る限り精一杯手足を動かした。


そして僕なりに時短方法を考えてインターバルのジョギングを2分にした。


(インターバルが短くなった分、時間的にはだいぶ余裕がでて来たぞ。)


その日、朝のトレーニングは7時過ぎには終わった。


「ふぅ〜っ。思ったより早くおわっちゃったな!!。まぁ〜今日から部活も始まるし帰って準備でもするか。」


幸太郎は家に戻り学校へ行く準備を始めた。


(バスケ部ってジャージと体育用のシューズがあれば、とりあえず何とかなるのかなぁ?。まぁ〜桜木花道も最初は体育館シューズだったしな。)


部活初日の朝。幸太郎はワクワクしながら登校した。


授業も一通り終わり、いよいよ部活の時間がやって来た。


教室にけんちゃんがやって来て、


「コータロー!。迎えに来てやったぞ!。本当は里美先輩からの命令で、コータローが逃げない様に連れて来いって言われたんだけどなぁ!。」


と、冗談気に言った。


(里美先輩だけに冗談にも聞こえないよ・・・。)


「わざわざありがとう!。)


今日バスケ部は中連の日で男バス女バス共に体育館に集まっていた。


「みんなぁ〜!!。集合!!。」


今日も里美先輩の号令から始まった。


「改めて紹介する必要はないと思うけど、今日から入った大泉幸太郎君ね。未経験者だからみんな宜しく!。」


僕は出来る限りの声で、


「宜しくお願いしまぁ〜す!。」


と挨拶した。


「それじゃぁ〜、いつも通りアップを始めて!!。」


全員一斉に、


「ハイっ!!。」


と、返事をし準備体操が始まった。次に柔軟、ジョギングと普段僕がやっているトレーニングと同じ流れで進んで行った。


「それじゃ〜初心者チームはこっちに集合!。それ以外のメンバーはいつも通り進めて。」


(僕は初心者だから、こっちだな。)


初心者チームには思ったよりも沢山の一年生がいた。


(やっぱり小学生からバスケをやってる人って少ないんだな。)


「アキラくぅ〜ん!!。ちょっとお願い出来るかな〜!!。」


里美先輩に呼ばれて僕らの前に登場したのは、


一色 輝 3年 ポジション PG


「まず初心者チームには暫くの間ドリブルとフットワーク練習をやってもらから。」


(身長は175cmくらいかなぁ〜。結構大きいPGだ。)


「それじゃ〜アキラ君、軽くドリブルを見せてあげて!!。」


里美先輩にそう言われたアキラさんは、


ダム・ダム・ダム・ダム・・・


数回普通にドリブルをつくと


ダダン、ダン、ダダン、ダン・・・


左右の手を使って小刻みなドリブルをやって見せた。


「はいっ!!。ありがとう。戻って良いわよ。」


里美先輩は僕達に、


「まずは左右の手で今くらいのドリブルが出来る様になってもらうから頑張ってね。」


一人一人がボールを持ち体育館の端でならびドリブルの練習を始めた。その間里美先輩は僕たちに付きっきりで指導してくれた。


正確に言うと、僕以外に・・・。


僕は頭の中でドリブルの上手いキャラや、花道が彩子さんにドリブルを教わっている場面を思い出していた。


(まずは腰を落として顔を上げて。)


僕が自分なりにドリブルの練習をしていると、里美先輩が回って来て、ニタっと笑い、


「コータローは美和に教わるから、別に私が教えなくても良いわよねぇ〜。」


と言った。


(僕にだけ教えてくれない理由はそれだけですかぁ〜。)


後から聞いた話だと、里美先輩が僕にだけ教えない理由は別にあったらしい。


右利きの僕は左手に持ち替えドリブルをすると、どうしても上手く出来なかった。


一色先輩のドリブルは手にボールがくっついているんじゃないかと錯覚するくらい、ボールが上がって来たときに手に収まっていた。


1時間くらいダムダムしていただろうか?


「はいっ!!。じゃ〜次はフットワーク行くわよ!。」


初心者チームは一斉に、


「はいっ!!。」


と、返事をした。


「ゆうじく〜ん!。ちょっとお願〜い!!。」


「うぇい!!。」


里美先輩が呼んだのは、


佐田 祐司 3年 ポジション SF


「ゆうじ君にはサイドステップをお願いするわ。」


「了解。」


里美先輩が一年生に向かって、


「この動きは蹴り足と重心が大切だから良くみておいてね。」


「はいっ!。」


祐司先輩は重心を落とし、


キュッキュッ、キュッキュッ


っと左右共にツーステップずつ交互に続けた。


それを見ながら里美先輩が説明を付け加えた。


「左右それぞれ、一歩目の蹴り足が大切になるからね。正面に相手がいる事をイメージして!!。相手の目を見て動く事を意識するように!。」


「はいっ!!。」


僕たちも見様見真似でやってみると、


「ストォ〜ップ!!。違ぁ〜う!!。あんた達は何を見てたの?。ステップは出来るだけ細かく素早く!。距離を稼いで楽したいからって一歩一歩が大きすぎるのよ。わかったぁ〜?。」


一年は一斉に、


「はいっ!!。」


と、返事をするも、


「返事だけなら誰でも出来るわよ!!。自分の為に一生懸命やりなさい!!。」


(里美先輩は相変わらず怖いけど、言う事はいつも正しいんだよな。)


「よしっ!!一歩はできるだけ小さく。」


(目の前には山王エースの沢北がいるイメージで。)


・・・


・・・


・・・


ピィピィ〜!!


「コータロー!!。なにかまえたまま固まってんの!!。さっさとやりなさい!!。」


と、里美先輩が怒鳴った。


僕は、


「なるべく早く小さく動こうと、目の前にいる相手を山王エースの沢北にしたら一歩も反応出来ずに抜かれるので・・・。」


パシッ!!


久々のケツキック炸裂!!。


「このマンガバカ!!。もう少し手頃な相手を想定しなさい!!。」


「すみませぇ〜ん。」


(そうだよな!。もう少し優し目の人をイメージしよう。)


「よしっ!!。今度こそ!!。」


キュッキュッ、キュッキュッ、


パシッ!!


「あんたは何をニタニタしながらやってんの!!。」


再び里美先輩のケリが炸裂!!


「すみません!!。目の前に美和先輩がいるのをイメージしたら、あまりの可愛さについつい顔がたるんでしまいました・・・。」


(はぁ〜。ダメだこりゃ!!。)

(でもステップ自体は悪くなかったわね。)


その後もフットワーク練は続き、だんだんと体が動く様になっていた。


それを遠くから見た美和は、


(コータロー君なかなかやるじゃない。おねぇ〜ちゃんのキツい練習メニューをあんな楽しそうにやってる。やっぱりコータロー君もバスケが好きなんだね。)


フットワーク練の間、幸太郎は対戦相手をずっと美和に設定していたが故、ニタニタしていたとは知らず、笑顔で頑張る幸太郎の姿勢に感心していた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る