第3話「どんなもんだい!。」

昼休み。幸太郎は教室の自分の席で机にうつ伏せて寝ていた。


昨日の夜更かしが原因である事は明白


そこへ、けんちゃんがやって来た。


パシッ!!


「おい!コータロー起きろ!健全な中学生が昼間っから居眠りとは何事かぁ〜。」


爆睡していた僕は少し不機嫌そうに起きた。


「なんだよぉ〜。」


けんちゃんは続け様に、


「たまには俺に付き合え!。」


と言い、僕を机から無理やり立たせて引っ張りだした。


「なんだよ急に。」


「いいからちょっと付き合えよ。」


けんちゃんはニコッと笑ってそう言った。


僕は良く分からずも引っ張られるがまま、けんちゃんについて行った。


着いた場所は体育館。


嫌ぁ〜な予感しかしなかった。


「あのさぁ〜。体育館で何すんの?。」


僕は分かり切った答えを聞くために質問をした。


「俺と体育館に来たらやる事は一つしかねぇ〜だろ!。」


と、けんちゃんは当たり前の様に言った。


(やっぱりか。そうだよね。当たり前だよね。)


昼休みの体育館には結構沢山の人達がいて、それぞれがやりたい事をしていた。


「へぇ〜昼休みなのにみんな元気だね。」


「まぁ〜みんな体力が有り余ってんだろ。」


そう言うと、けんちゃんは僕の知らない人達に声を掛けた。


「先輩!。友達連れてきたんで3on3やりましょ〜。」


(先輩達ともう仲良くなったのかぁ〜。さすがはけんちゃんだ。)


「オッケェ〜。じゃ〜軽くやるか。」


(ん?ちょっとまてよ。友達連れてきたんでって事は・・・やっぱり僕もやるのかぁ〜。)


しかし僕はある事に気づいた。


「ちょっと。けんちゃん待ってよ!。俺、学ランのままだよ!。」


「大丈夫大丈夫!。汗をかく様な事はしなくて良いから。いつもみたいに俺にパスしてたら良いよ。」


けんちゃんは気楽にそう言ってみせた。


「いつもみたいにって言われても。」


僕は小学生の頃からけんちゃんとは毎日の様に遊んでいた。その中で時折けんちゃんのバスケ練習に付き合う事はあったが、いつもボール拾いとパス出しだけが僕の役目だった。


「そこの丸の中に立って、手を挙げてれば俺がパスするから。」


「じゃ〜シュート練習のときみたいに、けんちゃんにパスを返すだけで良いのか?。」


「そうそう。それだけで良いよ。」


(まぁ〜それだけなら特に動かなくて良いし、この格好でも大丈夫か。)


僕は、バスケなんてまともにやった事なんてなかったが、けんちゃんの頼みを断れなかった。


3on3には細かいルールがあるけど、これは遊びだから相手にボールを取られるかシュートを決められたら攻守交代という簡単なルールになった。


そこで僕はもう一つの問題点に気付く


「けんちゃんけんちゃん!。ディフェンスはどうしたら・・・。」


僕の当たり前の質問に対して、けんちゃんは当たり前の様に


「ゴール下で手を挙げて立ってれば良いよ。パスの時と一緒だ。コータローはバスケの実践は初めてなんだからそれで十分。」


と言ってニコッと笑った。


僕は、


「わかった。」


とだけ返事をしてコートに入った。


コートに入ると思ったよりも狭く感じた。マンガの世界では10秒の出来事を描くために、もの凄い時間とコマ数を使っている。


(たった6人がハーフコートに入っただけでこんなに狭く感じるんだな。)


けんちゃんと先輩がジャンケンをして僕たちが先攻になった。


「いくぞぉ〜!。」


けんちゃんが大きな声で叫んだ。


ダム・ダム・・・


けんちゃんがゆっくりとボールをつき始めた。


(えぇ〜っと。僕はあそこに行って立っていればパスが来るから、そのパスをけんちゃんに返せば良いんだよな。)


僕は指示された通り、いつもの場所に立ち、けんちゃんからのパスを待った。


先輩チームはマンツーマンディフェンス。


けんちゃんはドリブルをつきながら先輩を抜こうとしていた。


僕がいつもの様に手を挙げた瞬間、矢の様なパスが飛んできた。練習の時よりもやや強めのパスだった。


けんちゃんはパスを出した瞬間、先輩の横を走り抜け右サイドに切れ込んできた。


そして僕はいつもの様にダイレクトでけんちゃんにパスを返した。


「ナイスパス!。」


けんちゃんはそう言うと、あっという間にゴール下を駆け抜けリバースレイアップを決めた。


先輩は少し驚いた様に


「一年坊主やるなぁ〜。」


と言った。


(やっぱけんちゃんはバスケ上手いな!)


知っていた事だったが改めてそう思った。


「さぁ〜次はディフェンスだ!。」


けんちゃんが手を叩きながら大声で叫んだ。


僕は今立っている位置から2、3歩後ろに下がるだけで良かった。あとは手を挙げるだけ。


けんちゃんはボールを持っている先輩についてディフェンスをしていた。


先輩はボールをつきながら、けんちゃんを抜こうと揺さぶっていた。


そして、先輩がけんちゃんの右を抜こうとした瞬間。


パシッ!!


けんちゃんの右手が先輩のボールを捉えた。


こぼれたボールはけんちゃんが抑え攻守交代。


あっさりと攻守が入れ替わり僕はまた2、3歩前に出た。


(確かにこれなら汗もかかないし学ランのままで大丈夫かも。)


その後も僕は立っているだけでゲームは進んで行き僕達の圧勝で終わった。


「いやぁ〜。コータローあんがとな!助かったわ!。」


けんちゃんにはそう言ってもらったが実際は立ってただけなので、


「俺は別に何もしてないよ。」


と返した。


「まぁ〜そう言わずにまた宜しくたのむわ!。」


一滴の汗もかいていない僕だったが役に立てたなら良かったと思った。


そして授業も終わり放課後になった。 


僕は美和先輩との約束通りバスケ部見学のため昼休みに行った体育館へ再び行く事にした。


体育館に着くと 


ピッ!


ピッ!


笛の音に合わせてダッシュをしているバスケ部の姿があった。


「あれ?。」


僕は違和感を覚えた。


何と体育館で練習をやっていたのは女バスだけだった。


「あれ?男バスはいないのかなー。」


周りを見渡すも隣の半面はバレー部が練習をしているだけだった。帰ることも一瞬考えたが、


「まあ〜せっかく見に来たんだし少し見学していくか。」


僕は二階の通路に上がり、高い場所から体育館を眺めてた。


当たり前だが女バスの中には美和先輩の姿があった。


その姿を見て僕はかなり驚いた!


ダッシュが超早いのだ。笛の音に合わせた切り返しの速さも他の女子を圧倒していた。


僕は先日見た美和先輩の走る姿が嘘の様に思えた。


そして、


「なぁ〜んだ。俺と同じ匂いなんて全くしないじゃないか。」


僕は少しがっかりした。


女バスのダッシュ練が終わり10分のインターバルに入った。


僕が帰ろうと一階に降りた瞬間、汗だくの美和先輩が駆け寄って来て


「コータロー君、観に来てくれたんだね!。」


と嬉しそうに微笑みなが僕に言った。


「観に来たんですけど、男バスがいないみたいなんで帰ろうかと。」


そう言う僕に対して、


「ごめぇ〜ん!本当は今日合同練習の予定だったんだけど、男バスは来週の試合に向けてのミィーティングになっちゃたんだよ!。」


と、言った。


「そうなんですか?。まぁ〜仕方ないのでまた出直して来ます。」


そう言って僕はその場を立ち去ろうとした。


すると美和先輩は、


「ちょっと待ってよぉ〜。せっかくだから、もう少し見て行きなよぉ〜。」


と、言った。


僕に女バスの何を観ろと言うのか少し理解出来なかった。とは言え、むげにも出来ないから、


「分かりました。じゃ〜、あとちょっとだけ。」


と言い、僕は再び二階へ上がった。


インターバルが終わり個々のポジション練習が始まった。


美和先輩はと言うと、センターサークルの中でドリブルをしながらボールの取り合いをしていた。


「美和先輩のポジションはガードかぁ〜。スラダンならリョーちんのポジションだな。」


そんなくだらない事を口にしている僕の目の前では女子同士の壮絶なボールの取り合いが繰り広げられていた。


「美和先輩ドリブル上手いなぁ〜。」


まさしく電光石火と言う言葉がぴったりな程動きが機敏でドリブルも上手かった。


その後も練習は続きあっと言う間に2時間が経過し、練習は終了した。


僕は大きく背伸びをした。


「ふぅ〜。結局、最後まで観ちゃったな。」


体育館を出た所で、美和先輩が駆け寄ってきた。


「今日は少しくらい良い所みせられたかな?。」


僕はその問いに関して思った事を口にした


「まじでリョーちんみたいでした!。」


次の瞬間、美和先輩は大爆笑しながら


「でしょでしょ!私、チビだからリョーちんみたいになりたくて頑張ってるんだー。」


その何とも不思議な答えに僕もつられて笑ってしまった。


続けて美和先輩は


「私・・・長距離苦手で、この前のロードワークでカッコ悪い姿を見せちゃったから少しでも挽回出来たなら良かった。」


と嬉しそうに微笑んだ。


「いやぁ〜ドリブルも超上手いし、動きも速いし、大したもんですよ!。」


僕が褒めすぎたのか、ちょっと照れ臭くそうに、


「どんなもんだい!。小さくたってバスケは出来るんだぞ。」


と言った。


その後も少し話をしたのは覚えているが内容は全く入ってこず、美和先輩の照れくさそうに笑った可愛らしい姿だけが頭に焼き付いていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る